都市のこれからを考える―R不動産 林氏、ライゾマティクス 齋藤氏、WIRED 若林氏

#SpaceDesign 1/8

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「都市におけるイノベーションのあり方とは? 」と題して行われたセッションの模様を、全8回に渡ってお届けしていきます。u.companyの内山氏をモデレーター、WIRED日本版 元・編集長の若林氏、ライゾマティクスの齋藤氏、SPEACの林氏をパネラーに迎え語られた、「都市のあり方」を考えるセッション。

登壇者情報

  • 若林 恵 /WIRED日本版 編集長(当時)
  • 齋藤 精一 /株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director
  • 林 厚見 /SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター
  • 内山 博文 /u.company株式会社 代表取締役, Japan. asset management代表取締役(モデレータ)

都市イノベーションの観点で日本を見つめ直そう

内山博文氏(以下内山): それでは早速始めたいと思います。最初にちょっとお詫びを。

今回のタイトルは「人々の価値観を変える場の作り方(仮)」とあるのですが、モデレーターの僕がタイトル提出をサボっていまして「仮」と書いたままになっています。

今日はこのメンバーを見ていただいてお分かりの通り、空間の話をしても少し収まらない方々ばかりですので、もうちょっと大きい視点で「都市のあり方」みたいなことを。

まさに「都市イノベーション」なんて言葉がありますが、そういった視点で、今の日本、東京を見つめ直していただいて、どうあるべきかみたいな話ができたらと思っています。

もちろんその中に、「LivingTech」というお題にもあるように、テクノロジーの話も必然的に出てくると思うんですね。

ただテクノロジーに寄った話だけだと面白みもないかなと。いろんなグローバルな経験をされている方々ですので、その良さをうまく引き出したいと考えています。

まずは冒頭に自己紹介を、簡単で結構ですので、皆さんにお願いしたいと思います。まず林さんからお願いします。

東京R不動産、林厚見

林厚見 Atsumi Hayashi / SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター。 1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科、同大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて大企業の経営戦略コンサルティングに従事した後、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。国内の不動産ディベロッパー、スペースデザインにて財務担当取締役として経営企画や資金調達、プロジェクト管理等に従事。2004年に株式会社スピークを共同設立。不動産物件のセレクトサイト、リノベーション・内装のECプラットフォーム等の運営、不動産再生プロジェクトや新規事業のプロデュース、カフェ・宿の運営などを行う。

林厚見氏(以下林): 林と申します。よろしくお願いいたします。

「東京R不動産」という物件サイトや「toolbox」という内装リノベーションのためのマテリアル・パーツを販売するECサイト、それから不動産再生のプロジェクトの企画プロデュースなどをやっています。最近は公共施設や地域戦略に関わりつつあります。

僕はこの中では一番デジタルではないタイプだと思います。よろしくお願いします。

内山: ありがとうございます。次、齋藤さんお願いします。

ライゾマティクス、齋藤精一

齋藤精一 Seiichi Saito / 株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director. 1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。2009年より国内外の広告賞にて多数受賞。京都精華大学デザイン学科非常勤講師。2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015–2016審査員。

齋藤精一氏(以下齋藤): こんにちは。ライゾマティクスの齋藤です。ライゾマという会社をご存知ない方がたくさんいらっしゃると思います。主にやってきたのは、テクノロジーを使った表現。

舞台とか……インスタレーションやライブ公演のテクノロジー・サポートなど、いろんなことをやってきたんですが、実は僕自身は元々出身がコロンビア大学の建築で、林さんと一緒なんです。一緒の卒業ですよね?

林: 同じ時に。

齋藤: そうですよね。僕は卒業して全然建築をやっていなかったのですけど、最近実は、仕事の半分以上が都市開発や街づくりによったものが多く、デベロッパーさん、不動産屋さん、地方自治体さんなどとご一緒しています。

僕自身もまだテクノロジーと街づくり・都市開発をどうやって結びつけようかと……もう当たり前に結びついているので、あまり突飛なことをやらずに、実質的に必要なものを入れていこうと考えています。

今日は、公開質問をいろいろしたいので、皆さんといろんな議論ができればと思っています。よろしくお願いします。

WIRED日本版 編集長、若林恵

若林恵 Kei Wakabayashi / WIRED日本版 編集長(当時)。 1971年生まれ。フリーエディター/ライター。平凡社「月刊太陽」編集部を経て2000年に独立。カルチャー雑誌で記事の編集、執筆に携わるほか、書籍・展覧会カタログの企画・編集も数多く手がける。音楽ジャーナリストとして音楽誌に寄稿するほか、ライナーノーツの執筆、音楽レーベルのコンサルティングなども行う。2011年より現職。趣味はBOOKOFFでCDを買うこと。

若林恵氏(以下若林): こんにちは、若林です。「WIRED」というメディアの編集長(編集部注:2017年9月時点)をやらせてもらってます。

一応テクノロジー誌をやっているのでテクノロジーに詳しいと思われていますが、テック業界において最もテック嫌いとして知られている、普通の編集者でございます(笑)。

今日なぜここに呼ばれているのかあまりよく分からないですが、二人には大変お世話になっていまして、「〜の未来」というテーマで特集をやったり記事を出すことが多いので。

世の中には迂闊な人がたくさんいてですね、「〜の未来」とかっていう雑誌を作ってるんだから、未来とか分かるだろって思う人がいっぱいいるんですよ。聞きにくるんです。銀行の人が、銀行の未来はどうなんですか?と。お前らが分からないのに、なんで俺が知ってるんだよ。

というのが普段の仕事です。よろしくお願いします。

内山: ありがとうございました。

日本の都市を取り巻く、不両立な建設ラッシュ

内山博文 Hirofumi Uchiyama / u.company株式会社 代表取締役、Japan. asset management株式会社 代表取締役。 愛知県出身。リクルートコスモス(現(株)コスモスイニシア)、都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年にリノベーション事業を展開する(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。一棟分譲事業からシェア型賃貸住宅、ホテル事業など多数のリノベーションのビジネスモデルを構築。2009年に(一社)リノベーション住宅推進協議会副会長、2013年に同協議会会長に就任し業界を牽引。既存住宅市場の拡大に向けた仕組みづくりを推進。2016年に企業やリノベーションのコンサルティング事業を主に手掛けるu.company(株)を設立し独立。同年、開発型アセットマネジメント事業を手掛けるJapan. asset management(株)の代表取締役へ就任。

まず冒頭に、今日は住宅や不動産・建築に何らかの形で関わられていて、かつそこでテクノロジーみたいなものをどう考えていくかということでお越しなられている方もいらっしゃると思うので、ちょっと前提条件の整理として、私からプロローグをお話しさせていただきます。

僕の自己紹介はあまりしません。

こんなことをやってきまして、昨年独立してと、そのくらいで。

まさに、日本の都市を取り巻く状況にはいい話がありません。

一個一個説明はしませんが、データだけ見ると、どれ一つとってもポジティブなデータがないんですね。下の定性的な話を見ても、労働力人口の全体縮小、建設業の人材不足、さあどうする、と。不動産人材が、もっとハイスペック化していかなければならないという状況もあります。

住宅価格。

これは尊敬している清水先生(編集部注:清水千弘 日本大学教授、不動産経済学者)のマクロ分析によると、2040年には、46%の住宅価格が下落するだろうというようなデータが出ていたり、当然、統計的に新築着工も減っていきますね。

そんな中、築30年以上のマンションは450万戸に増えます。そして空き家が増えると。このように非常に矛盾した状況を抱えながら、この業界はさまよっているというのが現状です。

そんな中、少子高齢化で生産年齢人口が激減していくという状況で、あまり楽しい話がないですね。

日本の人口を、未来予測も含めてグラフで出すと、これまで急カーブで上昇してきたのが、これからは急降下で下がっていく。これだけ見ると、我々は「どうしていったらいいのだろう」というくらいの状況。誰も予想したことがない状況です。

昨今、都市部を見たとしても、百貨店の売り上げが36年ぶりに6兆円を割ったり、これがなぜなのだろうということに気づいているようないないような。そんなことがあったり。

にも関わらず、オフィス供給は、都市部では建設ラッシュがあって、平均18万坪くらいが年間で新規供給されていて、来年、再来年以降は20万坪近くまでいくんですね。そしてこれが東京オリンピックまで続く。

はたまた、我々の都市はどうなるのか?

このようなオフィスビルの建設ラッシュというものがあるのですが、面白いことに「再開発」という言葉でGoogle検索すると、当たり前のことかもしれませんが、こんな絵しか出てこない。

どれも金太郎飴を切ったような開発で、どこにどんな違いがあるのか分からない、というような現象が次々と起きているという状況です。

僕らの未来都市は、どこへ向かうのか

そんな中、東京都内で見ると、中小ビルが大規模ビルの10倍くらい棟数があるんですね。築20年以上のものが、非常に多い状況。こういったものを、どうしていったらいいのか。とにかく、あまりポジティブな話がない。

私は「ネガティブワード」と言っていますが、この業界を取り巻く環境としてはネガティブワードしかないのですが、それをどうポジティブに転換していくかというのが、今日ここにいる我々の意義なのかなと感じています。

右側に「ポジティブワード」とあえて書いてみたのですが、そんなことを実現するためにどうしたらいいかを考えるのが、このLivingTechの一つの課題かなと。

Googleさんに「未来都市」と聞くと、未だにこんな絵しか出てこないんですね。果たしてこれがいいのかどうなのか。実は冒頭の写真は、上段の真ん中にありますけれども、香港のクーロン(編集部注:1950年代から1990年代半ばにかけて、現在の香港・九龍の九龍城地区に造られた巨大なスラム街を指す呼称)の写真です。

下から撮った写真です。もう無くなってしまいましたけれども。そんなのが未来都市に出てきている。今後、我々の未来に何が必要なのか、考えていかなければならない。

としたときに、実はこれ、僕らが子どもの頃に21世紀の東京についての絵を描かされたと思うんですね。「21世紀とはどんなものだろう」と妄想したときに、こういう絵をよく目にしていた。

結構リアルに、今の東京とか大都市と言われるところに近いんですよね。こういう妄想をしてきたからこそ、今の都市はこうなっているわけで。

私が何を申し上げたいかというと、これから20年、30年、40年後を、僕らは違う観点で妄想して都市を作っていかなければいけないなということに、僕は関心を持っている。それが何なのかというところを、今日お話しできればと。

これは当時コルビュジェが提案したパリの模型です。妄想通りにパリがもしこうなっていたら、 フランスは世界一の観光都市にはなっていなかったかもしれない。

というくらい、こういう都市思想に基づいて日本も都市計画を進めてきたわけですけれども、そんなことも含めて今後の未来はどうあるべきか、ということを考えていく会にしたいなと。

これは隈研吾さんも言っていますが、魅力ある都市とはどんなものなのかということを、今日いらっしゃる皆さんから一言ずつもらいながら、議論を深めていければと思います。

隈さんが何を言っているかというと、境界の弱さ、境界の曖昧さみたいなものも、今後の都市には必要ではないか

まず住宅地。

働くところと住むところが分かれてきたのを、もうちょっと混じり合わせていこうみたいなことも、隈さんが仰っています。まあこれは、一つのヒントでしかないと思っていて。

私のプロローグは一旦これで終わりますが、こういう背景をもとに、皆さんが感じている問題意識があるところ、問題提起のところから、少し皆さんにお話をお伺いしたいです。まず林さん、いかがでしょうか。

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