問われる、都市の国際競争力。命運を握るのは、ルールづくりのクリエイティブ?

#SpaceDesign 3/8

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「都市におけるイノベーションのあり方とは?」と題して行われたセッション(全8回)の第3回目をお届けします。都市に求められる役割はどう変わっていくのか?そして、都市におけるルール・制度設計はどうあるべきなのか?

登壇者情報

  • 若林 恵 /WIRED日本版 編集長(当時)
  • 齋藤 精一 /株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director
  • 林 厚見 /SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター
  • 内山 博文 /u.company株式会社 代表取締役, Japan. asset management代表取締役(モデレータ)

都市が国際競争にさらされるとき、東京はどう戦うか

内山: 若林さんどうですか?

若林: 本当にそうで。まず最初に、20年後、30年後の日本は何をやっているんだっけ? という話がないと始まらないといったところはあって。それに対する都市のイメージみたいなことっていうのは、本当に共有できていないと結構つらいというところはある。

たぶん、国という単位はこれから崩壊していって、その代わりに都市がかなり前提に出てくるだろうと。その中で都市って、僕が見ている範囲だけか分からないけど、国際的なコンペティションの中に巻き込まれることがあるはずなんですよ。

要するに、都市としてどんな国際競争力を持てるかが、わりと生命線となってくるような気がしていて。

例えばスタートアップ誘致みたいな話って、みんな言ってはいるけど、じゃあベルリンと何が違うの? どこが強みなの? そもそもシリコンバレーとどうやって戦うんだっけ?テルアビブとはどう戦うんだっけ? というような話はいつも出てこないんですよね。

極東の島国の都市なので、地理的な不利さは当然あって。じゃあそれをどう克服するのかというのは、本当は大きな議題なんだけれども、中の問題として高齢化が進むみたいな話はありつつ、それと同等の話として、他の都市と比較して何が有利なのというのは、いろいろ考えないといけない。

それは単純に、大きい意味での経済の話なんですけれども……

“いま”から積み上げるか、“未来”から逆引きするか

齋藤: ちょっと質問していいですか。さっきの2030年のバックキャストの話で、結局僕は、バックキャストも一つの方法だと思うんですよね。

要は2035年の日本都市開発なのか、もしくはその周り、日本全体を含めて「ここはこうであるべきだ」という一つの表を作ってしまって、それからいくという方法と、もう一つは明日の話なんですけど、今こうだからこういう継続の仕方をするというフロントキャスト的な考え方、これってどっちがいいのでしょうか?

林: いろんな考えがあって、都市とか国のレベルで価値観を揃えていかなければいけないところはある程度あるけど、向かうのはこういう姿だと明言することは当然難しいと思っています。

ポートランドがよく話に出てきますけど、あそこは70年代に向かう「軸」のようなものは設定したけれども、別にゴールの絵を描いていたわけではない。

そういう意味では、絵姿からバックキャストしようと思うと、いま気持ちいい絵を描いても30年後はそれが気持ちよくなくなるに決まっているので、あんまり絵を描くつもりはないんですよ、僕も。

ただどっちのほうに行くかということの価値観・基準みたいなものは、ある程度描きたいし、そこに主観があるべきだと思うし。それで競争していったほうがいいとは思ってます。

若林: 考え方としてはそうだと思うし、普通に考えて2045年の東京はどうなっていますかというと、「地震くるか」みたいな話があるじゃないですか。

それに対するある種のレジリエンスとか言っている、人がそこで大きく死なないために安全基準を強めるという話ではなくて、どういうことができるのかというのは現実的に考えられうる話だろうと思うし。

あとは、価値観みたいなところでいうと、いろんな要件からいっても、「外から人をどんどん増やして、来てもらえるような都市にせざるを得なくないか」というところが喫緊の課題としてすでにある気がしていて。

そうなってくると、どうやって多様性を担保をできるんだっけという、要するに未来の話でもあるんだけど今もできること、そういった方向かなと。

だから、僕も具体的な絵図みたいなものがあるとは思わないんですけど……。別に東京全部だけでなくてもよくて、エリアごとになってくると思うんですけど、何と言うのかな……

ルールメイキングなくして、都市づくりは動き出せない

林: 予測ができないというのは当然そうなんだけど。

都市というレベルだと、それはもう大きな生態系なので、誰かがこの都市をこうしたいとか言ってもまあ及ぼせる影響は知れている。せいぜい新しいプロトタイプを埋め込んでそれが繁殖するかもという期待をしたり、「メディアで仕掛けを作ることで、ちょっとこっちに向かうかも」とか、多少そういうのはあるけれど。

僕が最近感じるのは、東京のような大都市の力学を考えていくと、プレーヤーの行為よりも制度のデザインのほうが生態系に対する影響はやっぱりでかいなと思っていて。オフサイドというルールを入れれば、プレーは変わるし、そもそもボールがあった時にバスケにするかサッカーにするかというのは、要はルールなので。そこの影響ってかなり大きい。

ルールをどうデザインするかということに前向きなクリエイティブの目線やデザイン思考はまだあまり入っていないから、そこの作り方によっては未来は変わりますよね。

その時にある程度、向かう方向が見えていないと、決めきれない。価値観の設定が曖昧すぎると、とにかく安全でリスクが低いことを優先する管理志向が善ということになってしまう。

ビジネスする人も、何かを創り出したい人も、これからは既存の制度をありきに動くのでなくて、提案して仕掛けないといけないんだと思います。「こういうのあったらいいよくないですか?そのためにはルールをこう変えれば、社会的にも問題が解けると思うのです」と。

みんなが前向きなルールメーカーになることで、問題も解けるし新しい機会も生まれる、そんな感じ。

法律だけではない、都市づくりのルールに必要なこと

齋藤: この前バルセロナの建築家何人かと話していて、面白いのが、みんな市役所出身なんですよ。

役人出身。ヨーロッパでは結構当たり前で、一回ルール作りなどを手がけてから、独立して建築家になるのが多い。これはなんでなの? と聞いたら、要は法律がよく分かるから。結局、今の街の課題だとか、もしくはこれから変えていかなくてはならないところを分かった上で、建築家になることが多いんですって。

林さんがおっしゃっていることもまさにその通りだと思っていて、国家戦略だと容積率免除の話でインキュベーションセンターがあるじゃないですか。クリエイティブなんとか、とか。あんなものをいっぱい作ってもどうしようもないと思っていて。いろんなところで言っているんですけれども、言うほどクリエーターはいないよと。

また、とある渋谷のデベロッパーさんは、いっぱいシェアオフィスを作っています。あれも素晴らしいことだと思うんですけど、シェアオフィスを作ってもメンターがいないと育たないんです。カゴに入れられた虫みたいに、餌をなかなかもらえないという状態があって。

そのルールの決め方というのはたぶん、法律的なところと、もう一つは建てた企業さんがちゃんとしたルールなのかビジョンなのかを作ることが大事なのかな、と。

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