内閣にまでAIが? 最適化された社会にこそ生まれる可能性とは。

#SpaceDesign 4/8

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「都市におけるイノベーションのあり方とは?」と題して行われたセッション(全8回)の4回目をお届けします。徹底した自動化による最適化の道をたどらんとする、これからの社会。その先に、どんな可能性があるのか?

登壇者情報

  • 若林 恵 /WIRED日本版 編集長(当時)
  • 齋藤 精一 /株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director
  • 林 厚見 /SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター
  • 内山 博文 /u.company株式会社 代表取締役, Japan. asset management代表取締役(モデレータ)

技術革新=イノベーションではない

林: よく言う「イノベーション」というのは微妙な……言葉としては難しい言葉です。すごいテクノロジーがイノベーションだと言うのはそうなのかもしれないんですけど、どちらかというと自分の好みの捉え方は、新しい状況とか新しい指向性が生まれたりする「世界観」のほうなんですね。技術の話と言うよりは。

その時にもちろん、テクノロジーが出てきたりはするんだけど、ファンタジーというか欲求を描いて、テクノロジーと組み合わせて、そこに新しいルールの枠組みをくっつけて、「こういう世界ができるよね、素晴らしくないですか?」みたいなものを出したい。そういうイノベーション欲求が、あるんですよね。

内山: あえて反骨的な、反テクノロジーという若林さんの自己紹介もありましたが。Googleが2015年に都市イノベーションを起こすと言って「Sidewalk Labs」(参考記事:https://wired.jp/2016/03/05/sidewalk-labs/)を作って。いろんなところでビッグデータを活用して、という話かもしれませんが、やろうとしているじゃないですか。

その辺の動きについては、 皆さんどう考えていらっしゃいますか?

Google「Sidewalk Labs」の実像

齋藤: WIREDさんの建築特集の時にNYに行かせてもらって、あのあと会ったんですよ。Sidewalk Labsって、すごいハッキングしてるの知ってます? すごいことやっているんですが、僕はまだ結構「はてな?」で。

アメリカの国交省的なところとつながって、がんがんデータをもらって……というようなことをやっているものの、データをいっぱいもらっても言うほどアウトプットがないなと気づき始めたのではないかと。

僕は比較的、「この人たちがこういう動向をするのか」と思っていて。結構な投資をして、相当なチームになったんですよ。リサーチ・インスティチューションを巻き込んでやっていて。

最初はNYのたしか7thアベニューで、AT&Tがもともと公衆電話を持っていたところを全部引っこ抜いて、デジタルサイネージに変えたんですね。でも、デジタルサイネージに変えただけじゃん、と。

そこにカメラとかセンサーが付いているのかと言えば、付いていなくて。アンドロイド一台が付いていて、要は電話がタダでできるとか、充電ができるとか。それで問題になったのが、そこのフリーWi-Fiで動画を見る人が多すぎて、結局パンクしたっていう(笑)。

他には、そこのチャージの電源を独り占めして、それ自体が問題になったと。その問題に関して、僕は面白いなと思っていて。それが現象じゃないですか。要はポジだけではなく、ネガも出るものが、一つのあるべき姿というか。

ただ、Sidewalk Labsというのは今、米国運輸省のってありますけど、言うほど現実に使える物にはなっていないと思うんです。

どうですか?

徹底した自動化に向かう社会

若林: そんな気はするけどなあ。たぶん僕の感じだと、あんまり分からないんだけど、ブロックチェーンとかこういうものが入ってくると、何となく変わるかなというふうな気が微妙にしていて。

最近は、スマートコントラクトみたいなことというのが、いたるところに実装されてきて。いま普通に自律走行車とか、そういうものに入ってきたりするので。具体的にそれが都市をどう変えるかという点は、まだちょっと予測ができないですけど……。

そうそう。一つの話でいうと、スマートコントラクトをすごくがんばって勉強している友達がいて。彼が言っていたのは、いわゆる法律の概念でいう自由意志というものがあって、法による規制というものがあって、あとアーキテクチャによる規制というものがあると。

法律による規制というのは、シートベルトをしていないから罰金を払ってくださいということなんだけれども。一方でアーキテクチャによる規制というのは、シートベルトをしないとエンジンがかからないようにしてあるというようなこと。

そういった考え方が、どんどん法による規制のところに入ってくるんだよね、と。そんなことを言っていて、ちょっと面白い話だなと思ったんです。

僕も何度か行っていますけど、エストニアの行政のIT化の話も、徹底した自動化ということなんですよ。収入が入った瞬間に税金が引かれるみたいなことを、いかにリアルタイムでやれるかというところにいってて。

そこはもはや、法による措置が入ってくる余地がなくなる。

そのことによって、エストニアのエトスとしては、人間がそこに介在しないことによって……、要するに「人間はcorruptするものである」という考え方によると思うんです。

エストニアに見る、行政自動化の先進実例

内山: エストニアの話を知らない方もいらっしゃるかと思うので、ちょっと若林さんのほうで補足を。

若林: エストニアというのは、基本的に行政システムを、かなり早い段階からITのプラットフォーム上に載せちゃったんです。

なので、みんな背番号制みたいなもので番号を持っていて、それに紐づいたカードを持っていて、パソコンにつなげるアタッチメントをもらってそれをガチャっとやると、車両登録から税金周り、企業データみたいなものが一個の画面上で全部見られる。

データはもちろん、土地の取引とかも含んでいて。そのやりとりがすべて自分のものとして見られる。これはまあ、データが不一致したりとかいろいろ問題はあって、セキュリティ面とかどうするかって頑張っているんだけど、その裏にはブロックチェーンが仕組みとしては走っている。

これを進めていった上に何があるかというと、官僚機構みたいなものがなくなったらいいんじゃないかと、彼らは思っているということなんですよ。要するに、行政をやる人間。

なぜそう思っているかというと、ソ連時代の官僚機構があまりにクソすぎて本当にイヤだったという話なんですよ。なので、そこを全部透明化して、あらゆるものが自動決済されるというふうな仕組みに、どんどん走っていっている。

それが都市みたいなことで考えた時に、モビリティにドローンがどこかで給油して、それが自動決済されるというようなことがどんどん起きていくというふうなイメージが、僕は面白いなという気がして。

あとは都市の具体的レベルじゃなくても、それを中古車市場に使う。しかも、そういうのって履歴がバンと残る。ブロックチェーンなので。あと、保険とか。こういうことは大きく変えられる余地があるかなと。そういう観点から、不動産みたいなところとか、都市の生命システムというのは、結構変わってくるのかなと。

さっき言っていたゲームのルールみたいなものも、行政レベルじゃないところで。例えばビジネススクールがあって、そこで変えていったりとか。そうするとまた効率の話に戻ってきて、線引きができないなあと。漠然となんですけど思っています。

意思決定もAIに?最適化の先に生まれるチャンス

林:行政サービスの仕事って、要は資源配分の最適化みたいなことじゃないですか。資源配分の最適化という領域は、たぶんブロックチェーンやAI世界にかなりシフトするんだろうなと。自動化していくし、最適化もされますよね。

意思決定も、代議制っていうのがいろいろ難しいわけじゃないですか。いろいろ変なことになるじゃないですか、どうしても。だから、社会の意思決定も、ITで良くなるだろうなという期待はすごくあります。

要するに、住民投票というと今は堅いアナログな感じだけど、自然にそういうことが行われて、かなりスムーズに最適化されていってしまうというふうに、どうせなるだろうと。2040年ぐらいでだいぶなっているんじゃないかと。日本はおそらくフォロワーでしょうけど。

そうなっていくと、パブリックサービスというのは全然姿が変わるし、民間からすれば、そこにはいろんなチャンスがあるよなという、まずそこには期待が。

若林: 補足的に説明するけど、エストニアの政府筋の割と上のほうの人に聞くと、最終的には国家元首がAIでいいっていう話。国家元首でなくても大統領でなくてもいいけど、内閣にAIは入れるべきだという言い方をされて。へえって思った。なるほどね、って。

まあそれも役に立つのかということ。さっきの分配の最適化という話でいうと、おそらくは役に立つ。

林: ただね、そういいながら僕は、さっさと最適化しちゃってくれよ、みたいなところもあるんです。つまりどういうことかというと、最適化が嫌いというか。

若林: 分かる、分かる。

林: さっさとやることが進んでしまって、最適化は大切だねというのが社会常識になってもらって。そうすると予定調和じゃなくて、最適ではないダメ人間側の幸せみたいなところに価値が宿る。なので、早く進んでもらったほうが……

若林: そこにいきたがるよね(笑)。

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