今のルールの延長線に“突破”はあるか? 求められているのは、“前提”を変える発明。

#SpaceDesign 5/8

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「都市におけるイノベーションのあり方とは?」と題して行われたセッション(全8回)の5回目をお届けします。20世紀から当たり前のように存在する価値基準・ルールの何が問題なのか? 今を生きる我々が起こすべきアクションとは。

登壇者情報

  • 若林 恵 /WIRED日本版 編集長(当時)
  • 齋藤 精一 /株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director
  • 林 厚見 /SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター
  • 内山 博文 /u.company株式会社 代表取締役, Japan. asset management代表取締役(モデレータ)

21世紀は“キリギリス型”の時代である

齋藤: 僕最近、「アリとキリギリス」の話をよくしているんですけど、アリは20世紀型。バリバリ働いて規律に厳しくて、スペシャリストが疑わず、ロボットが人間の能力を最大化する、みたいな。「アリとキリギリスの働き方」みたいなワードで検索するといろいろ出てくると思うんですが、キリギリスはそもそも規律を破るとか、規律を自分で作っちゃうとか、一回作ったものは全部忘れるとか、そういう特性があると。

21世紀は多分キリギリス型。要は好き勝手に自分で。

結局日本の企業を見ても、この前とある企業のトップの方とこのディスカッションをしたんですけど。「あの時やっておいてよかった」という製品とかサービスは、だいたいキリギリス型から出ているんですね。要は社会からつまはじきになっているような、「最適化、超つまんねえ」ということで、そこから出ていくような人。

僕がすごく思っているのは、アリとキリギリスだったら、アリは出きれていない人。もっとやるべきことがあったんだけど、結局住んでる巣が違うから、横に横断することがなかった人たちだと。

今の政治の、もしくは政治家のやるべきことというのは、縦割りの組織から出て「とりあえずこれでやってみよう」もしくは、「これで一回、最適化を試みてみよう」「一個の壁を取ることから」だと思っていて。

まずそれで始めてみて、失敗だったらやめればいいと思うんですけど。何故に日本人は、何もしないままに失敗するのを恐れるんですかね。

行政の資料とか見ても、文字パンパンのPowerPointを100枚くらい見せられて、それを半年くらいやって、このワーキンググループの結果でした、と。

それをやるよりは「一回実験してダメだったらやめよう」、もしくは「ダメだったらもう一回最適化してみよう」というアジャイルの考え方みたいなものをどんどんやっていかないと、何も変わっていかないのかなと僕は思う。

内山: さっきの不動産会社の話も、そんな話もありつつも、でもみんな失敗しないと思ってやってるんですよね。

林: 失敗していると思っている人もいますけどね、中には。

不動産デベロッパーは、とにかく一番高い家賃で貸して早く売る方が、株主に貢献して褒められるというゲームのルールになっている。要はその前提がちょっとまずいねということになっちゃうんだけど……ある意味デベロッパーの方が真面目だと思います、ミッションに忠実というか(笑)。

ただそうやって開発するにしても、足元はなんとかしないといけないと思いますね。東京に関してはタワマンや高層オフィスがたくさん建つというのは一定の合理性はあるとは思うんですけど、ただ足元周りがこうつまらない環境ばかりになるとちょっと単純に自分も辛いし、たぶん経済的にも、競争力という観点で結構まずいと思っていて。

そこの発明をしたい、という気持ちは強くあります。

企業と個、グローバルとローカルのバランス

若林: 結局ここですよね。

個人事業者の台頭みたいな話とか、例えばNYとかってフリーランサーが労働人口のかなりの部分を占めていて、これからもかなり増えると言われている(編集部注:2027年にはフリーランス人口がノンフリーランス人口を上回る調査結果/FREELANCING IN AMERICA:2017より)。それを受けてWeWorkみたいなものが広がったというのはあるんだと思うんですよ。

これからの未来を考えていった時に、ある種の産業人口みたいな話でいっても、会社ってどんどん効率化できちゃうはずなんです。特にIT企業とかって、これからITを中心とした産業がどうなるのか知らないですけど、一生懸命やったところで雇用を生まないという問題があるじゃないですか。

Facebookがいくらでかくなっても、かつてGEみたいな会社が30万人雇用してたような規模の雇用は出ないじゃないですか。むしろそういうのを削っていくと、例えばロボティクスやAIが入っていくと、労働者はもう要らなくなってくるわけでしょう。

そうなってくる中で、じゃあ人は何をして生きていくことになるのかといったら、スモールビジネスとか、マイクロビジネスみたいなものをとにかく増やしていくというのは、僕は重要な話だと思っていて。それは去年のアメリカ大統領選で、実はヒラリーの政策の中に入っていた話なんですよ。

彼女が言っていたのは、ITを産業のど真ん中に置くと。イノベーションみたいな話を真ん中に置くとは言っているんだけども、それだけでは中西部のトランプに入れた人たちに対する雇用の問題が解決しないので、スモールビジネスの促進をセットでしていく、と。

アメリカだと、新規雇用の3分の1とか、もうちょっとだったかもしれないけど、それをスモールビジネスが生んでいるという数字が出ているんですよね。なので、それはすごく理にかなっているんだろうなというふうに思ってて。

スターバックスのチェーンみたいなものが、アメリカ全土に広がっていっても、法律ができちゃうわけよ。エスプレッソを入れるロボットを入れたら雇用を生まないので。だったら同じ数だけのローカルのコーヒー屋を作ったほうがよくない?というイメージを僕は持っている。

なので、マクドナルドみたいなのはあれば便利なんだけど、それも労働力を必要としなくなるように効率化をどんどんしていくわけなので、だったらもっとうまい、地元の店を増やした方が面白くないかという話にシフトしていくと。

それらは実はセットになっている話で、個人事業主がなぜ増えていくことが可能かというと、そこにはデジタルの恩恵が当然あって。それがプラットフォームになって、いろんなビジネスが立っていける、ということかなという気はしているんです。

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