“職住近接”は是なのか―都市の価値は、多様な選択を許容できる包容力にこそある?

#SpaceDesign 7/8

--

2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「都市におけるイノベーションのあり方とは?」と題して行われたセッション(全8回)の7回目をお届けします。引き続き繰り広げられる“都市の価値”を探る議論。キーワードは“多様性”――。

登壇者情報

  • 若林 恵 /WIRED日本版 編集長(当時)
  • 齋藤 精一 /株式会社ライゾマティクス Creative Director / Technical Director
  • 林 厚見 /SPEAC共同代表, 東京R不動産ディレクター
  • 内山 博文 /u.company株式会社 代表取締役, Japan. asset management代表取締役(モデレータ)

都市の中あるいは都市までの移動も、人間は楽しみとして欲する

齋藤:さっき林さんがおっしゃっていたような、好きなところでビューワーか何かをつけて……日本だとテレワークとかいうんですけど。内閣も推奨していろんなところで実証実験がされているし、インフラも整っていて。日本はめちゃめちゃ回線速度が速いので、もっと速いところもありますけど、全国的にこれだけ速いとなると、実現は可能だと思うんです。

けど、住むところと働くところが同じであるべきだとか別であるべきだとか……日本人的感覚からすると、別であるべきな気がするんですね。

おっしゃる通り、僕は超都心に住もうというのはどちらかというと、1マイルの中で全て済ませるという森ビルさん的発想だと思います。でも『住める』『食える』『買える』『遊べる』という全てのものが揃っていたとしても、“移動”というものがないと、人間はそもそも満足しないのではないかと。

それってもしかしたら、私鉄が伸びる的な発想でもあるんですけど。

特に自動運転ができた時に、家でタバコ吸って15分過ごすのか、同じ15分、車の中で吸って、着いてみたら六本木ヒルズの前だったのとでは、違いがあるじゃないですか。

林: 移動が必要というよりは、趣味というか……。

僕もいろんなところに2年毎に引っ越ししてもう20何ヶ所目なんですけど、いろんなモードに切り替えたいし、何か別のことをするか、楽しむかっていう軸によっていくと思っていて。

だから、どこでもドア化した社会においては、道というものはいらないんですけど、でも「散歩したいよね」ということで、散歩するための道というのは残るみたいな。

そんな感覚で言うと、おっしゃるように移動することは気持ちいいし、ただ一緒に地面を分かちあっているネイバーフッドがあるということも、薄まるのかもしれないけど、消えないよねという。

そういう全部がミックスされて残っていくんだろうとは思ってます。

ただ、死ぬ街は死ぬというのが事実だろうし、みんなの格好良さとかうらやましがられる世界観とか価値観が、都会的じゃないもののほうにフォーカスがいくというのは自然に起こると僕は思っているので。

そうなると、憧れのあり方のシフトによって、面白い都市が地方に生まれていって、そこにすごくコンフォータブルなゾーンができるという。

秩序なき都市の拡大がはらむ危険性

若林: もう一個は物理っぽい問題がちょうどいいかなという気がしていて。

こういう言い方は失礼ですけど、経済がシュリンクしていく方向に向かうんだとすると、物流の問題で行くと、物流が割を食うみたいなことが、それこそアマゾンとヤマト運輸との間で実際にあって。あれをどう解決するかというのは結構大きな問題だと思っています。ロジスティクスのところって、今イノベーションがある意味では必要なところだと。

そのときに、現状の物流の考え方でいくと、物を運ぶエリアとか、生産地から消費するエリアに持ってくるのって、できるだけコンパクトにしておかないといけない。あるいはエネルギーも。

つまり、福島からエネルギーを引っ張ってくるという話って、要するにリスクが高いわけです。これは福島にとっても高いし、東京にとっても高い。都市になるべく近いところにエネルギーの供給だったり、物流圏だったりをなるべくコンパクトにしておくのは、今の考え方としてはあるような気がしていて。

何年か前にシカゴができるだけ商圏を小さくしていくみたいな。シカゴのブリュワリーが、テキサスのトゥーソンにある瓶のメーカーからボトルを買ってるような話で、「無駄じゃん」みたいな話になって。

そういうのをちゃんと繋げていくことによって商圏をコンパクト化していくのは、環境の話も含めて重視されてくる。そういうことでいうと、無駄なスプロール化というのは、実は危険かなと思っていて。

だから逆に言うと、「そっちは歩く道でいいし」という開発の仕方をどのように作っていけるかということによって……だからそこに家を持ってもいいんですけども、それって単純な多拠点という話な気がする。で、仕事と生活を分けるみたいな話って、齋藤さんみたいに幸せな家庭を持っていらっしゃる方もいますけど。

俺みたいにぐっちゃぐちゃになっている人は、仕事しかしてたくないんですよ。とにかく、そういう感じです(笑)。

要するに、どれだけいろんな人に対して自由を確保できるかということと、そのレイヤーみたいな、レベルみたいな。本当に家にこもってやらなければいけない人、例えば村上春樹が大磯に住んでいるみたいな話って、それはそうだという話じゃないですか。それはそれでたぶん全然良くて。

齋藤さんは東京と行ったり来たりで。たまにいるじゃないですか、そっちのほうに家は持っているけど、平日は東京でマンション借りてそこで泊まるって。たぶんいろんなオプションがあって良くて、そのグラデーションの多様さみたいなところをどう担保するかというのを分かっていると良い思うんだけどね。

--

--