大手×スタートアップのアライアンスを成功させるカギとは?三井不動産の視点。 #TeamBuilding 2/9
2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「事業開発のための組織・人材開発 〜いかに社内の壁を乗り越えるか〜 」と題して行われたセッション(全9回)の2回目をお届けします。いよいよトークセッションがスタート。数々の協業・提携に関わってきた三井不動産 光村氏が考えるアライアンス成功のカギとは。
登壇者情報
- 羽田 幸広 氏 /株式会社LIFULL 執行役員 人事本部長
- 光村 圭一郎 氏 /三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事
- 曽山 晢人 氏 /株式会社サイバーエージェント 取締役 人事管轄
- 山下 智弘 氏 /リノベる株式会社 代表取締役(モデレータ)
まずは、アライアンスの種類を見極めよ
山下: ここにいる方々の中でも僕が一番悩み深いと思うのですが、個、組織、アライアンスの全部に悩んでいるのですね(笑)。
もともと15年前に「こんな世界あればいいな」と起業したものの、だんだん人が増えてくると……よく“何人の壁”という話があると思いますが、その全ての壁にぶつかって。いろいろな問題が起こってきました。
その次は、例えば東急電鉄さんとTAP(編集部注:東急アクセラレートプログラム。東急電鉄が主催するベンチャー企業を対象とした事業共創プログラム)というプログラムで、アライアンスをやっていこうという話になったのですが、なかなか簡単にはいかず、いろいろな問題があります。
まず光村さんのお話を聞きたいなと思っています。アライアンスでもいくつか種類があったり、モチベーションにも種類があるんじゃないかという話がありましたので、どんな苦労があるかみたいなところをお聞かせいただけますか?
光村: まず、この場におけるアライアンスの定義を僕流にさせていただきますね。大手企業の立場でアライアンスやオープンイノベーションを狙っていくときに、いくつか目指すべき方向性があると理解しています。
冒頭に少し申し上げましたが、一番やりたいのは「大手企業が苦手なゼロから市場を生む」、「新しいニーズを開拓していく」というところです。これはもう絶対的に大手企業にはできない、それができるのがスタートアップだと、僕は思っています。だから、スタートアップと組むということが、一番理想的なパターンですね。
それ以外だと、例えば日々のさまざまな業務がありますよね。生産行為にしても、営業行為にしても、そういうものの中に非常に大きな“負”があります。これを新しいテクノロジーを導入し、改善していくことも立派なイノベーション革命、アライアンス革命だと思います。
あとは、我々が既に持っている市場も大きく変容していきます。コアなニーズには応えられても、その周辺ニーズは僕らでは満たしきれていない。そこをパッケージで提供すれば、もっとお客さんが来てくれて大きな売り上げになるよね、と。そういうときに、外の方と組んで一緒に売っていくことも1つのパターンだと思っています。
山下: なるほど。僕もたくさん大企業とベンチャーの協業を見てきて、そのなかでも三井不動産はうまく仕事されているイメージを持っています。アライアンスの種類分けをし、それが社内に行き渡っている、という感じですか?
光村: こういう整理がちゃんとできていないと、アライアンスを求める人がどのような理屈で、どのようなスタートアップで、その人たちがどのような軸で評価するか、が全部曖昧になっちゃうんですね。「今、何が足りなくて、何を欲しているのか」「誰に会って、どのような軸でその人を見ていくのか」をまず決めましょうという話です。
先ほど申し上げた一つひとつのイノベーションの方向性というのは、それぞれやり方や方法論が違うんですね。それを一緒くたにして、アクセラレーションプログラムで全部解決しましょう、みたいな話になると「なんかそれ違うんじゃないの?」という話が出ると思います。そのあたりを社内で共有して、「今やらなきゃいけないのはこれだよね」ということを絞り込むことはすごく大切です。
大手×スタートアップのアライアンスは、なぜ失敗しがちなのか
曽山: 一つ質問してもいいですか? 実際にアライアンスを組んでいる中で、うまくいっている例とうまくいかない例を……具体的な社名はあげてもあげなくてもいいのですが、アライアンスのあるあるな失敗パターンをお聞きしたいです。
光村: あるあるの失敗パターンで一番大きいのは、僕みたいな新規事業系の人とスタートアップの方が話しているときはめちゃくちゃノリノリなわけです。「いいよね」「それやりましょう」と。
現実的には、そういったことをやるときに大手企業はリソースを提供します。スタートアップはマーケット開拓の方法論を提供しますので、それをがっちゃんこしようとするわけです。
ところが、リソースは必ず大手企業の本業の部門が持っているんです。ということで、バトンタッチすると一気にトーンダウンしますよね。
曽山: それ典型的ですよね(笑)。
光村: 典型的なあるあるパターンですね。
曽山: 現場への渡し方で決まる?
光村: そこで渡しきっちゃうと無理だよねと。教科書通りに言えば「伴走しながら〜」「リードしながら〜」みたいなことになるんだろうけど、そこには現実的な大人の事情というか、政治みたいな世界があります。「そこの部長さんとうちの部長さんが仲良かった」とか、「年次が何年と何年でこっちのほうが力関係が上だった」とか、すごく大変な仕事があるんです。
これを1個1個を解きほぐしながら個別最適解を探していかないと、汎用化できないと思います。
山下: 控え室で曽山さんとモチベーションの違いの話をしていて、大企業において世代間のモチベーションに違いがあるということを初めて知りました。
光村: そうですね。やはり各本業をやっている人たちは、当然自部門としての達成すべき目標や数字を持っている。必ずしも新規事業をやるためにいるわけではないんです。新規事業をやる僕らにリソースを貸してもらうにも、「本業じゃない」というのは前提とすべきところ。たまたま協力してくれる人がいたら当たり、みたいな感覚でやるわけです。
その中で、個人的に動いてくれそうな朋友を探す。そして「こういう手練手管で回したら、この部長が”うん”と言わざるを得ないだろうな」という設計図を書くなど、1個ずつクリアしていかなければいけません。
この泥臭さを受け入れる覚悟があるかどうか、そういう新規事業の人が大企業側にいるかどうかによって会社としての動きが変わってくるのではないかと思います。
アライアンスを頓挫させないためにやるべきこと
曽山: 泥臭いキーマン同士の関係がないと。
光村: そうだと思いますね。表面的なプログラムがあって、そこで「意見交換しました」、「リソースの見せ合いをしました」という関係では、とても進まないという感じはしますね。
山下: 光村さんが実際に渡すこともあるんですか?
光村: 渡さざるを得ないこともあります。
山下: そういうときの渡し方として、立ち消えにならないようにどのようにやられているんですか?
光村: 渡すことをゴールにしないということですね。相手方の個人的なキャラクターや組織の意思決定のフローなどをふまえ「これだったら変にねじれることなく進むだろうな」など考慮して渡しています。
逆に、ある部門とスタートアップの方が直接やり取りするうえで「スタートアップがちゃんとフィードバックをもらってくる信頼関係があるのか」という条件がそろったら渡すということも気をつけますね。
曽山: 進みそうかどうかで判断する、と。
光村: そうですね。「進まなくなったら、フィードバックが回ってくる」というルートがあると思えば渡せます。 ルートがない場合は「最近どう?ちゃんと動いている?」といった細かなチェックが必要になってくると思います。
羽田: うまくいくまでずっと伴走するという感じ?
光村: そうですね。しようと思いますね。ただ、抱える件数はどうしても多くなるので、ジレンマはあります。
山下: 渡しきらないって難しいですね。最終的に渡すとしても、そのタイミングをどうするのか。ありがとうございます。まさにこのテーマなので、続いて話を聞きたいと思います。