強いチームをつくるために、企業は何に投資すべきか?サイバーエージェント、LIFULLの結論。

#TeamBuilding 6/9

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「事業開発のための組織・人材開発 〜いかに社内の壁を乗り越えるか〜 」と題して行われたセッション(全9回)の6回目をお届けします。話題は、各社のリテンション施策とチームビルディングのメソッドへ。”飲み会”に投資して離職率改善を実現した事例とは。

登壇者情報

  • 羽田 幸広 氏 /株式会社LIFULL 執行役員 人事本部長
  • 光村 圭一郎 氏 /三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事
  • 曽山 晢人 氏 /株式会社サイバーエージェント 取締役 人事管轄
  • 山下 智弘 氏 /リノベる株式会社 代表取締役(モデレータ)

サイバーエージェントの離職率改善メソッド

山下: 前半はアライアンス中心だったので、後半から“個人”の話をしていきたいと思います。

これはたぶん曽山さんが一番お得意かなと思っているんですけど、個人のところと、チームビルディング、チーム力みたいな話ですね。

ベンチャー業界の話で、たとえばヘッドハンティング会社に「どこどこの会社のこんな人を引っ張ってきてくれませんか?」と聞くと、サイバーエージェントさんだけは絶対にムリと言われます。それはすごいことだと思っていて、背景に何があるのかを聞きたいです。

曽山: もともとサイバーエージェントは、15年前ぐらいまで退職率30パーセント以上でした。それが3年続いたので、30パーセント、30パーセント、30パーセントで数字上では3年後全員入れ替わりという状態でした。

何を打開して改善に向かっているかというと、社員同士が仲良くしているんです。具体的に言うと、仲良くすることに投資をした。これが明確に大きいです。具体的には「部署で飲み会に行くなら月に1人5,000円出すよ」とかですね。

当時はみんな飲みに行かない、飲みに行っても愚痴しか言わない会社だったので、本当に大変でした。持ち越しができないので月末最終日だけ渋谷の道玄坂にサイバー社員が6,000人ぐらい行くんですよ。

(会場笑)

『サイバー割り』をしてくれるお店もありました(笑)。

(会場どよめき)

部署で行くとなると上司も行くので、そうすると仕事の話はもちろんですけど、それ以外も話します。何がいいかというと、共通項が増えるというのが組織マネジメントの超重要なポイントなんですよ。

結局、仕事だけの関係はすごくドライなわけです。だけど、例えば趣味が一緒とか地元が一緒とか、共通項が多ければ多いほど相手に対する親近感が高まるんですね。

親近感が高まると、感情がポジティブになります。感情がポジティブな関係性をより多くつくっておけば、そこから離れること、つまり転職することに対してスイッチングコストが上がるんです。この仲間とやっているほうが楽しいという状態を、会社から言っても仕方がないわけで、“本人が”そう自覚してもらえるような場づくりをしています。そういうところは、うまくいったなという感じですね。

光村: 今みたいな話って、恐らく日本の大手企業はみんなそうですよね。家族主義的で、お互いの元カレ・元カノの関係も知っていて……という関係があるじゃないですか。三井不動産もそういう感じで、社内飲み会も多く、情報がたくさん行き来しています。

だけど「なんかいまいちなんですよね」という話になって。確かにいい会社で、社員も辞めない。だけど三井不動産とサイバーエージェントさんの大きな違いがあるんです。それは、内向き志向で変革を恐れ、保守的な体質になってしまうこと。“攻め”の部分を、内部の文化にどんどん反映させていくところに違いがあるように感じます。そうした仲間意識を、どうやって内向き志向にならずキープできるのかにものすごく興味があります。

曽山: おっしゃる通りですね。僕らは成長分野のインターネット業界にいるというところは、ある意味非常にラッキーなんですね。そのなかで、主役感というキーワードを大事にしています。自分が自分の進む道を決められるかどうかというのは、1年目の営業でも提案資料を考えられるとか、事業部長でも将来の道を考えられる、ということですね。

大企業にいる僕の友だちでも、主役感が高まってめちゃくちゃ楽しそうな人もいれば、ずっと受け身で主役になれず、一貫してつまらなそうな人もいます。同じ大企業であっても、差を感じますね。主役感の持たせ方は、会社によって仕組みが違うでしょうが、1つポイントになっている気はしますね。

山下: 主役感がない、ということもあるんですかね?

光村: たくさんありますよ。

曽山: 光村さんとかめっちゃ主役感ありそうじゃないですか。

光村: 一応そういうつもりでは生きていますけれど(笑)。会社を見渡して、みんなそうかというと厳しいものもあります。うちでも1つ問題意識としてありますね。

チームづくりの際に埋めるべき、3つのギャップ

山下: 羽田さんはどうですか?

羽田: うちも全く一緒です。一番初めにやらなきゃいけないのは、関係をよくする、仲良くなることですね。

チームをつくるときには、3つのギャップを埋めましょうと話しています。1つ目が感情のギャップ、2つ目がビジョンのギャップ、3つ目が戦略のギャップです。

まずは仲良くなって、何でも言い合える環境をつくったうえでビジョンの話をしていかないと、戦略の難しい話をするときに「これはどういう意味なんですか?」という質問もしづらい。日本人は遺伝子的に不安を感じやすい民族らしいので、質疑応答などもそうですが手を挙げづらいんです。

その状況をなるべく減らすために、心理的安全性を高めることが重要だということで、チームでサバイバルゲームやボルダリングに行ったりすることに対して、1人1万5,000円ぐらい予算をつけるようにしています。料理対決するチームもあれば、遊びに行くチームもあります。自分たちで考えて何をやってもいいんです。組織変更が多いので、期初のタイミングで、それぞれのチームでしっかり仲良くなったうえで、ビジョンや戦略の話もしていきましょう、と。曽山さんのおっしゃる通り、事業部長から新卒までが意見を言い合える環境がすごく大事ですね。

山下: サイバーエージェントさんの場合、先ほどお話になった飲み会などは部署単位で?

曽山: 僕らの場合は、お金が出るのは部署です。部署で、上司も一緒に行くことが条件です。「2人だけで行きます」だと、下手すると愚痴になる可能性もあるので「交流のための投資なのでちゃんとチームで行って」ということは明言しています。そうすると勝手に行くようになります。

山下: 報告義務があるわけでは?

曽山: ないです。どうぞ勝手に使ってください、ということです。これ、報告とかをやるとまた面倒くさいんですよ(笑)。「じゃあ行くのやめよう」と、本来の目的が果たせなくなってしまいます。目的は「しゃべってもらうこと」。これがあればいいという感じです。

若手の心理的安定性を高める「ナナメン」とは?

山下: 以前、別の場でお話しされていたのですが、ナナメのメンター(編集部注:ナナメ上のメンター制度)についても教えてください。

曽山: 部署によってですが、新卒社員が配属されるとトレーナー以外に「ナナメン」というナナメのメンターをつけています。「ナナメン」という片仮名だけが社内の共通語として流通していて、部署によって、細かいやり方はおまかせしています。

ある部署だと、入社してちょうど半年経ったので、ここからまた「ナナメン」を始めようということで取り組んでいる部署もあって。この「ナナメン」は指名制になっています。「相談に乗ってもらいたい」とか、「隣の部署のあの先輩と1回ランチに行きたい」というのを若手が出すという逆指名のメンター制度です。

山下: 指名されたらうれしいですよね。

曽山: そうなんです。たまに指名されない先輩がいるので、うまく割り振るらしいですが(笑)。それでも逆指名の仕組みは勝手に事業部でやってくれて、結構いいなと思っています。

あと内定者のフォローに「ナナメン」の仕組みを入れています。もともと「ナナメン」は、新卒採用チームの内定者フォローのためにつくった仕組みなんです。配属される前に「今まで面接したことがない人がメンターとしてつく」ということでナナメのメンターをつけてみたら、いろんな事業部の話や、自分が興味のなかった部署の先輩の話も聞けるということで、結構うまくいって。

メンターも、報告義務が発生することもあるのですが「基本的には1回ランチ行ってくれればいいよ」と、ライトな形式にして、あとは勝手につながっていくという感じです。

山下: 「ナナメン」の人は、直属の上司に細かく報告するよりも「まずは吸い上げて」ということですね。

曽山: そうです。1回話して、若い人の心理的安定性が高まればそれでヨシです。僕らの場合、報告はほとんどないですね。

山下: その制度はありますか?

光村: いや、社内で飲みに行くこと自体は多いはずですが、制度化はされていないです。ビジョン共有のようなところで弱みが出るという感じはしますね。

山下: リンクアンドモチベーションさんがよく仰っていて僕らも参考にしているんですけど、「語り部」を社内でつくりなさいと。昔こんなことがあったよということを語る人が、企業が大きくなってくると必要になる、と。

LIFULLさんなんかは、この場がまさにそうですよね。外との交流もそうですし、社内での交流ももっと活発にしていくために、こうやって1階、2階を使われている(編集部注:LIFULL社のオフィスでは1階をカフェ、2階をシェアオフィスとして開放し、コミュニケーションの場として活用している)わけですよね。

羽田: おっしゃる通りですね。

ちなみにさっきの話ですが、うちも「ナナメン」同様の取り組みをやっています。うちの場合は、ほかの事業部の同じ職種の人をナナメでつないでいます。そうすると、仕事の悩みの相談ができるだけではなく、他の事業部のことがわかるようになります。

あとは、管理職に裁量予算をつけています。裁量予算に関しては、誰かと飲みに行ってもいいし、研修に使ってもいい、と。チームで行くのとは別に、「この人と話したい」「この人を育てたい」「この人との関係を築きたい」という人に、自由に投資できるようにしています。

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