VRが視覚をこえ、聴覚・触覚に迫るとき、現実の体験に価値はあるのか。

#VirtualReality 6/9

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2017年9月に開催された第1回「LivingTech カンファレンス」。全9セッションの中から、「空間の作り手とユーザーのギャップを埋めるVRの可能性」と題して行われたセッション(全9回)の6回目をお届けします。VRが視覚領域にイノベーションを起こしたいま、その他の感覚にまで足を踏み入れるのか。VRの可能性はリアルを超えていくのでしょうか。ツクルバの中村氏がモデレーター、InstaVRの芳賀氏とDVERSEの沼倉氏をパネラーに迎えて語られた、VRの現在地と未来。

登壇者情報

  • 芳賀洋行 氏 /InstaVR株式会社 代表取締役社長
  • 沼倉正吾 氏 /DVERSE Inc. CEO Founder
  • 中村真広 氏 /株式会社ツクルバ 代表取締役 CCO(モデレータ)

VRツールは、働き方・業務フローに革新をもたらす

中村: なるほど…。沼倉さんちょうどマイク構えてましたけど、横パスも全然オッケーなので(笑)。

沼倉: いや、芳賀さんがおっしゃられたように……先ほどお話したネット上で同じ空間に入るみたいなところで、従来だと建築やデザインされている方って、やはり地域に縛られたクライアントしかなかなか相手にできなかったんですよね。東京の方だったら、千葉、埼玉、神奈川。やはり膝を突き合わせて打合せするというところが、どうしても必要でした。

しかしこういったところも、ハードが進化したり、ネットがどんどん速くなったりすることによって、例えば東京の建築家の方が沖縄とか、あるいは国を越えて、しかも今までよりももっとさらに最終に近いデザインを、相手と一緒に見ながら打合せをしたりすることができる。

そういう意味で、おそらく働き方であったりとか、業務フローが結構大きく変わるのではないかなと思っています。

中村: あと芳賀さんのお話で、先ほど常識がライバルと仰ってましたけど、まさにそうだなと思っていて。InstaVRさんのサービスって、いろいろなジャンルで使えるじゃないですか。今回、作り手側、仕掛ける側、空間をつくる側の方の目線でセッションをしていますが、まさに問われているなと思ってます。「どうやって、どう活用しますか、あなた方々は」というのが。

芳賀: 問われてますね。

中村: 問われますよね。

さじ加減を間違うと、自らの首を締める?

芳賀: 問われますし、つくってるほうも心配になっちゃうんですね。例えば、観光であまりつくっちゃうと「これ、もう来なくていい」となっちゃうんですね。

中村: 確かにそうですね(笑)。

芳賀: これ、来なくていいってことは、結局……なんだろう。自分の家にお金を使うことになっちゃうんですよ。それはある意味、リビングテック的にはいいのかもしれないですし、観光の側からすると、程よく活用しなければいけないというか。さじ加減が大変ですよね、という気持ちもあります。

中村: そうですね。実はこの会場の中で東急電鉄の方もいらっしゃって。街・沿線のエリア開発をやっていく中で、街のことをどう伝えればいいかといったことを仰っていたんですけど、まさにそういうのって先ほどのドバイ空港の事例だったりとかもありますし。

あとは、伝えすぎてしまうと、「この街には降りなくてもいいな」となってしまうと、厳しいということもありますよね。さじ加減。

芳賀: そうですね。そういう意味で、「誰にライバルと言われましたか」って言われると、日本交通さん。友達なのですが、ライバルだと思ってますよ(笑)。

中村: なるほど(笑)。

芳賀: そのぐらい、なんでもできてしまう。おそらく、家にいながら家を買うみたいな。家にいながら投資用の家を買って、それでお金を手に入れて。どうしても行きたいところにだけ行くみたいなのが、おそらく10年後ぐらいには、来てしまっているかもしれないですね。

現地に足を運ぶことが、特別で高級な体験に変わる

中村: そうなるとcowcamo的にはうれしいですけどね。家を買うというところでいくと。ただそれも投資用なのか、賃貸にするのか、本当に自分が住むための家を買うのかで結構ハードルが違いますよね。投資用だったら、たしかにVRで確認してあとは条件だけ決めてしまうというのもあるかもしれないですね。

沼倉: 買うといったところだと、時間がかからず、コストがかからず、手間がかからず、そういったより便利なツールを皆さんどんどん使うようにはなってくると思うんですが、一方でVRをつくっているうちみたいな会社からすると、逆に実際にその場所に行ったり、その場に行くこと自体が、むしろ今よりも高品質な、高級な体験というような文化に変わると思っています。

安い方法がこういったVRになって、気軽に見られるようになり、実際にその場所に行くのは、むしろ国と国の代表同士が話すときに会いに行くとか。そういった文化は、もしかしたら変わるかもしれないですね。

芳賀: ものすごく同意します。おそらく観光とか旅行というものが、ほんの一部の限られたお金持ちだけが行く、超高級体験に軸が変わってしまうのかもしれないというのは。

特に、うちだと東南アジアのお客様などもいらっしゃるのですが、彼らって雪を見るためにVRを使ったりしてるんですね。その人から見たら、雪山には高級リゾートのイメージがあるんですよ。そういったものって本当にお金をかけて一緒に行くみたいな、より体験価値が上がっていく。

そうすると、スイスのスキー場などにも、VRの体験があっても問題ないわけじゃないですか。いつか行ってやろうということで。それは、確かに体験が少し変わるのではないかと思います。

中村: 逆に、そのリアルな、今ここでしかできない、時間と空間の制約がある体験にプレミア感があるというのは確かにありますね。

視覚・聴覚を越え、触覚を再現する時代に?

中村: 暖まってきたなと思うので、ぜひ皆さんからも質問もらいたいんですけどいかがですか。

いきなり2人、手が挙がりましたね、では、手前の方いいですか。

質問者1: オープンハウスの河村と申します。先ほどまでお話を伺っていて、場所とか空間を越えるとなると、いまVRという言葉からおそらく皆さんがイメージされるのは全て視覚とか聴覚、見るのと音だけのイメージだと思います。

ですが、いろいろな研究がされていて、さらにいろいろな感覚を再現できるようになるともっと変わるんじゃないかというのは言われていることだと思うんですが。もっとほかの感覚に対する思い入れというか、どういうふうに考えられているのかというところを、もしお考えがあったらお聞かせいただければ。

芳賀: そうですね。弊社で見ていると「メラビアンの法則」というか、人って見た目にすごく頼る生き物で、9割ぐらいの情報を視覚情報から取っています。例えば、暑い部屋を見せたり、火がついている部屋を見せるだけで、体感してなくても汗をかいてしまう。

おそらく、視界で9割がた体験をカバーできてしまうんです。聴覚まで入れてしまうと、ほぼほぼ全部95%ぐらいまでいくかなというイメージです。

どうしても匂いですとか、温度ということになると、アトラクションのようなものすごくお金をかけるところはそうですが、一般的な使い方だと視覚だけでかなりのところまでいくかなというのは感じています。

中村: 実は控え室でもお話がありましたけど、もう1個、あの触覚の件とか、お話いただけることありますか。

沼倉: はい、まさに今の話で、我々は最終に近い形を共有して意思決定をしていただくという部分で、3DCADをベースにVRの中で大きさなどを見るというのは視覚の部分なんですが、いま社内で行っているもうひとつの検証が聴覚、音ですね。うちは今「アンビソニックス」という立体音響の方法を使っています。

例えばコンサートホールをデザインする際に、この位置にいたらどういう音が聞こえるのか。それは実際にその場所にいるような立体音響だったり、あとは高層マンションで、外にこれぐらいの風が吹いていたとき、中ではどれぐらいの騒音がするのかというのが、立体音響による場所の再現シミュレーションというのはもうすでに検証を行っています。

もう1つが、大学さんと一緒にやっているものになりますが、触覚の部分です。例えば、建材とか壁紙を触ってどういう感じがするのか。このインテリアってどんな感じがするのか。これって、どちらかと言うと男性よりも女性のほうが非常に重要視します。

最近だとよくVRでECを、という話もあったりするのですが、女性の方にいろいろインタビューすると、女性の方は皆さんあまり使わないと言うんですね。なぜかと言うと、やはり生地が触れない。肌触りとか、そういった視覚だけじゃなくて触覚からの情報というのを非常に重視されています。

木の温もりやガラスの冷たさを触れる時代へ

沼倉: ですので、こういった打合せの中でも、そういう情報というのは非常に大切だということで、触覚の再現を行っています。技術的な話になりますけど、触覚は、基本的には振動と温度で再現できるんですよね。

例えば、机であったら、ある程度あたたかいんです。あたたかくて、少しざらざらしている感じで。ガラスだと冷たくて、つるつるしている。こういうのは金属であったり、ガラスとかなのですけど。こういったところで、100%にはまだいってないんですが、大体60%くらいは触覚に関しては再現できるようになっています。

将来的には3D CADのデータの中に、BIM(編集部注:ビルディング インフォメーション モデリング)の情報と同じように、触覚情報みたいなものを入れて。それを中に取り込んでしまうと、ここはこんな感じというのが触って分かるようなものを今、実験を進めています。

全ての感覚を中で再現する必要というのは、ビジネス上あまり必要とは思っていないのですが、やはり最低限はあったほうがいい。または、あると意思決定が進みやすいことに関しては、今後VRの中で、うちもそうだし、おそらく他社さんも取り入れていくのではないかなと思っています。

中村: ありがとうございます。勉強になります。面白いですね。

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