渋谷の再開発に携わって―東急電鉄が目指す「都市経営会社」とは?
#都市経営 1/8
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「これからの都市デザイン&都市経営」と題して行われたセッション(全8回)の1回目をお届けします。
登壇者情報
- 山口 堪太郎 氏:東急急行電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業統括部
- 小泉 秀樹 氏:渋谷未来デザイン 代表理事, 東京大学 教授
- 石田 遼 氏:MyCity 代表取締役 CEO
- 林 厚見 氏:SPEAC 共同代表, 東京R不動産ディレクター /モデレータ
「歩いて楽しい街」渋谷を支える東急電鉄のビル事業
(【お詫び】機材トラブルにより冒頭部分が収録できておりませんでした。セッション開始数分後、山口氏の渋谷再開発の契機に関するスピーチの途中からの書き起こしです)
山口堪太郎氏(以下、山口) 東横線渋谷駅が地下に潜ったことと緊急整備地域と都市計画的な機会があったことを契機に再開発をする話になっています。
できあがったイメージ図がこんな感じです。都市基盤整備をしっかりやりながら付加価値を高められるビル事業を組み合わせていこうとしています。
その中の一環が(今回の会場である)渋谷ストリームです。
「歩いて楽しい街」という一番難しい課題を背負っている渋谷だからこそ、付加価値の高いビル事業はしっかりやっていきたいところです。
関係している行政の皆さんたちと、現在は東西南北に分断されている街をうまく繋いでいく話をしていました。かつビル事業も駅ビルではなくて、どちらかというと街に出ていくためのゲートウェイという位置付けで。渋谷の街は放射状にいろいろな通りが広がっているので、時計の針のようにさまざまな方向に自分の好きなところに行けるゲートウェイになればいいなとでつくっております。
こういった話が都市基盤整備で一番大事なところです。そして、自分たちの会社で大事にしている線が渋谷の街を縦に引いたようなルートです。
表参道・原宿のほうから、いわゆるキャットストリートと言われている通りがあって、渋谷川が流れていて、どちらかというと恵比寿方面に縦に流れていく感じです。
今アルファベットでABCDEと並べてますけども、できあがった順番になっています。1個だけ黄色いのが、渋谷スクランブルスクエアです。
大事なのは、この中でどんな取り組みができるか。ヒカリエやこのストリームを舞台にいろいろな取り組みを実行しています。ヒカリエで今週(編注:2018年11月21日時点)開催するTokyo Work Design Weekも6年目を迎えます。
都市政策を頑張ってはいるんですけど、産業政策に結び付けていきたいな、と。その鍵の1つとして今回のような知的対流の場を大事にしています。
先週、駅の上のスクランブルスクエアのリリースを打ちました。ここにも交流創発の機能を置こうと考えています。
ぜひそういった機能を皆さんに使い倒していただき、我々はいろいろなものを起こしてきたプラットフォームをつくりたいと思っています。
鉄道会社から都市経営会社へ
都市経営というテーマだったのでこの話を紹介させてください。去年渋谷区さんといろいろ相談させていただきながら、地域の方と一緒に渋谷の街をどうしていこうかを考えていました。「2040年の渋谷を考える」ということでやっています。
そのときに参考にしたのが「イノベーションディストリクト」で、国交省さんも使われているベースのものなんですけど、いわゆる「知的対流拠点をつくっていこう」と。渋谷がその核に渋谷がなるんじゃないかと考えています。
そのときに当然いろんな施策が挙がったんですけど、まず街にはおもしろい人が集まるところから始めていくのがポイントなんじゃないかと話をしました。そのためには渋谷の駅の真ん中だけやっていても駄目だよね、と。広いエリアを考えようという話をしていました。
それを高めていくために、会社の中で今頑張ろうとしているのが広域渋谷圏の話です。
そこでの議論を生かしながら、渋谷で働いていたり、遊んでくれたりする人たちの生産や消費活動を好循環にするために少し広い地域に必要な機能を散りばめていく話をしています。
あと1個だけ、会社の自己紹介と沿線の話を入れさせていただきます。
2018年で東急電鉄はちょうど100周年なんですけれども、田園都市株式会社という会社がエベネザー・ハワードの『明日の田園都市』という著書に基づき建設されたロンドン・レッチワースをモデルに、阪急さん(編注:関西の私鉄。日本で先行して沿線の宅地開発や住宅ローンの開発を進めた)を参考にさせていただいて田園調布の街をつくったのが最初です。
欧州の土地開発と異なり、ベッドタウンをつくって、電車を引いて都心に人を運んで生活サービスを足してくれる都市構造を施行してきました。経済成長期や人口が増えているときにはすごくはまったモデルだったんですけれど、今見直そうという話をしています。
今から7、8年前。リーマンショックのあとに、改めて我々は何のために仕事をしているのかを考えました。機関投資家に出した資料には、沿線がサステイナブルな街になって、街の価値と一体的な視点で開発していこう、とあります。ポイントは街全体の価値が上がることを一番大事にして、できれば外からの資本が入ってくること。その街の価値が上がれば、自分たちの事業ポートフォリオにとってはプラスになることをしています。
全然まだレベルとしては達していませんが、先人たちも都市経営会社を目指していたはずなんです。今一度、自分たちの中で個々の事業にとらわれず、そういった街をつくっていく会社に脱皮していこうという話をしています。
東急電鉄が実践する、都市生活を考える3つの観点
そんな観点で沿線の街をつくっているんですけれども、私がいつもチームのメンバーと話しているのは「街に来る価値は?」「オフィスを構える価値は?」「都市生活の姿は?」の3つです。
今から20年前、スマホがなかった時代を考えると、20年後はもっともっとテクノロジーが入って変わるので、今挙げた3点は恐らく違うかたちになっているだろうと。
そうすると、不動産事業よりは、どちらかというと都市生活の舞台としての都市との関わり方を考えることが仕事になるのではないかという話をしています。
そんな中でやっているのが今日小泉先生がご一緒でサポートいただいてますけれども、「次世代郊外まちづくり」をたまプラーザでやっていてます。リビングラボ(WISE Living Lab)ですね。
それに加えて先月発表しましたが、MaaS(Mobility as a Service)の実験をこの街でやっていこうという話をしています。モビリティも非常に重要なんですが、都市生活自体をサービスの組み合わせにできないかと考えています。
もう1つの例ですと、ちょうど渋谷とたまプラーザの中間にある二子玉川です。
開発自体は終わっていますが、ここにいろいろな機能を散りばめてみて「機能を組み合わせていくことで多様な人が多様な使い方ができるようになった」とすごく実感しています。
それを支えるためにCreative City Consortiumという団体を今担当しているんですが、交流創発の場をもったりセグウェイの実験をやったりしています。
その延長線上で今チャレンジしているのが多摩川流域です。ものすごく自然豊かな環境なんですが、そこに拠点形成ができないか、と。いわゆるハード的な拠点ではなく、そこから産業を生み出せないかと、ここに記載されている自治体や企業の皆さんとやっています。
今ちょうどチャレンジしているのが、テクノロジーの観点で言えばドローンやブロックチェーンが試せる社会実験特区です。なかなか都心ではドローンはハードルがありますが、「河原だったら結構いけるかも」という話を関係者の方々としております。
宣伝ですが、TAMA X(タマクロス)というティザーサイトを今立ち上げています。ご興味ある方はぜひご覧ください。
最後1点だけ。これからリニアが動いてスーパー・メガリージョンが形成され、東京の城西南地区は非常にいろいろな関わりを持つ拠点になるのではないかと思います。
道路も整備されてきますし、リニアの駅が2つできます。その間に挟まれる地域だったり、新幹線もリニアが走るとある意味各駅停車がメインに変わってきますので、浜松や三島などそれぞれ今頑張っている街ともっとこの辺に暮らしている人たちが近くなるのではないか。
二地域居住どころか二地域就業ができるのではないか、ということを考え出そうとしています。駆け足ですがご紹介は以上です。