LivingTech2018を振り返る―未だ閉じたままの不動産業界と、境界を溶かすLivingTech
#ClosingSession 1/3
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「LivingTechの価値と未来」と題して行われたクロージングセッション(全3回)の1回目をお届けします。
登壇者情報
- 上野 純平氏:リノベる リビングテック事業本部(当時),LivingTechカンファレンス発起人
- 内山 博文氏:u.company 代表取締役, Japan.asset management 代表取締役
- 山下 智弘氏:リノベる 代表取締役
- 重松 大輔氏:スペースマーケット 代表取締役
- 武井 浩三氏:ダイヤモンドメディア 代表取締役 /モデレータ
「POST2020」というテーマに込められた思い
武井 浩三氏(以下、武井) 早速クロージングセッションに入っていきたいと思います。私を含めてこの5名。
リノべる、LivingTechカンファレンス発起人でもある上野さん、それからu.company代表の内山さん、リノベる代表の山下さん、スペースマーケット代表の重松さん。それぞれセッションお疲れさまでした。
今回は、ちょっと格好つけて英語で書いてみたんですが、4つの質問を彼ら4名に投げかけて、それぞれの思うところをお話しいただきたいと思っております。
まずこの「LivingTechカンファレンス」は今年で2回目です。なぜ立ち上がって、去年からどんな流れがあって今回に至ったのか。立ち上げと今回のカンファレンスのコンセプトである「ポスト2020」。2020年以降の世界について、今回すべてのセッションが行われたわけですが、このコンセプトにどのような思いが込められていたのか。そのところをお話しいただきたいと思います。
まずは発起人である上野さん、いかがでしょうか。
上野 純平氏(以下、上野) 上野です。よろしくお願いします。すごく貴重な1日をいただいてありがとうございます。
LivingTechカンファレンスをやろうと思ったきっかけは、2016年秋頃です。私が建築×ITでどんどん建築業界を良くしたいと思い、リノベるで活動していました。
ですが、なかなか1社で進んでいない状況があり、そのゴールに対して手段としてカンファレンスを使うことで、個社ではなくいろんな会社さん、リビング領域でテクノロジーを入れたい会社さんや、テクノロジー軸でどんどんリビング領域に入りたい会社さんが一同に介して。しかも密度の高い、誰でも来ていいというわけではなくて、敷居を立てた上で意思決定できる方だけ来ていただいて。事業提携などの加速度をもっと促進したいなと思ってやりました。
それが去年でどうにか(1回目のカンファレンスが)開催できて。今年この実行委員会メンバーで話していたときに、暮らしをテクノロジーで変えるのは手段であって、「何のためにやるべきか」とか「今年やるからこその意味は何だろう」という話をしてました。
ちょうど重松さんが、「経営者としては、2020年まで(の状況)はある程度時間的にも見えてきている」と。「もう何をやるかは分かっているけれど、今どんどんこの渋谷でも、まさにストリームもそうでどんどん建ってきているけれど、(竣工時だけ目立って)2020年以降もちゃんと使われるのか不透明なので、それを皆さんで議論しましょう」ということで、「ポスト2020」を設定させていただきました。
武井 ありがとうございます。このお話、リノべるの代表である山下さんは、上野さんからアイデアが挙がったときに、どんな印象を受けましたか。
山下 智弘氏(以下、山下) 上野が他のカンファレンスにボランティアでよくスタッフ参加していて、私もそこにパネルゲストとして出させていただいたりしている中で、よくその活動を見ていたんです。どんなカンファレンスをしたいかのイメージはなんとなくついていたので、想像しやすかったんですよね。
もう一つ思ったのが、内山さんたちが立ち上げられたリノベーション住宅推進協議会。(2018年9月から)リノベーション協議会に名前が変わったんですが、すごく大きな意味を持つ団体になってきてはいるものの、わりと閉じているという印象を私は持っています。
不動産会社たちの団体からもう1歩、いま本当に必要なものはそこだけに答えがないような気がしていて、「じゃあ、そこのつながりってなんなのかな」という答えになるのではと思い、「やろうぜ」ということになりました。
LivingTechが掲げた理想と、現実との乖離
武井 内山さん、いかがですか。
内山 博文氏(以下、内山) このLivingTechを立ち上げたときに、まさに上野くんが相談に来て、「さあ、どうしよう」と、(初めは)かなり漠然としていたのから2年くらい経つのかな。
先ほどご紹介いただいたリノベーション協議会という社団法人が10年目を迎えていて、今ちょうど1,000社を越えようとしています。初期は不動産業者が多かったですが、今は不動産業者よりも工務店さんが半分以上います。おかげさまで今年も秋に、リノベーションEXPOという、リノベーションを一般の方に、より多く知ってもらうためのお祭りを全国各地で今年も十何ヶ所で開催しています。
それで僕は全国を回る機会があり、プレイヤーの方々と接点を設けるのですが、なんとなくITとかテクノロジーという言葉にみんなアレルギーがあって、先ほどPOST2020のセッションでも「ゆでガエル」というキーワードが出てきましたが、このままだと業界全体が沈没してしまうなという危機感をちょっともっていました。
リノベーションというキーワードでまずガッと集まって、不動産というか住宅の、中古住宅を積極的に活用しようという流れはつかめたと思いますが、産業そのものとしてはまだまだお恥ずかしい話で、リフォーム産業としては7兆円をいったりきたりで、皆さんの実感として伸びていないんですよね。そんな中で、人口はどんどん減っていきますので、これはマズイぞと。 まさに中小企業含めて、生産性をもっと上げることを考えていかないと、本当に業界が淘汰されかねない時代が来るなと思ったので、是非こういうことは始めてもらいたいなという思いが強くありました。
自分自身、事業会社の問題意識もあり、とても危機感がある中で、僕は全国を回っている中で、リノべるの山下さんは、わりと早い段階からそういうことをうち立てて、企業の一つの柱にしていこうと動きもされていました。
そのアレルギーをなんとか払拭したいなというのがありますが、今日、不動産会社は何社くらい残っていらっしゃいますか。リピーターを除いて考えると少ないですよね。これが実情なんですよね。
僕らのPRが不足しているのかもしれないですが、なんとなくまだ既存の業態とか既存のマーケットを守るんだという意識の中で動いているので、まさに今年POST2020というコンセプトを立ち上げたにも関わらず、まだその先を見ようという会社が少ないというのが現状ですね。なので、もうちょっと僕らも頑張らなきゃいけないなというのが、今日終わってみて僕の一番の感想ですね。
武井 重松さん、いかがですか。
重松 大輔氏(以下、重松) 先ほど上野さんからもありましたが、割と2020までは出たなりで読めるというか、こういうふうに成長していくよね、薔薇色だよね、みたいなのがあると思うんですけれど、ニトリの似鳥会長が景気を読むスペシャリストみたいな「ニトリ会長、景気を読む」で検索すると、出てくるんですけど。2020年を待たずして結構やばいよね、みたいな。今、景気もずっとこう来てて、明らかにそろそろ谷に入るなというか。そろそろ兵糧固めじゃないですが、冬の時代に備えなきゃいけないみたいな論調が投資家とかいろんなところから出てきています。
そうなった時にやっぱり投資する先も厳選していかなければいけないですし、本当の成長分野は何なのかを、経営者や幹部が見極めてやっていかなければいけないところが、まずはあるかなと思っています。そういった意味合いもあって、こういったカンファレンスはやっぱり3年後5年後を作るものだと思うんですね。
明日のすぐの売上にはなかなか直結しないものかもしれないですが、3年後5年後の売上や、そこに視野を置くというところで必ずつながるものだと思っています。本当に届いて欲しい人になかなか届いていないというのは、今回の課題かもしれないですね。
さまざまな領域の境界線を溶かすためのLivingTech
武井 ありがとうございます。僕自身の話も少しだけさせていただきます。
僕は不動産テック協会という協会を2018年9月に立ち上げました。不動産とテクノロジーに関係する一般社団法人の業界団体です。
先ほど山下さんがおっしゃっていましたが、特化しているのでそれが良い面ももちろんあります。業界に深く関われるとか、僕らでいうと国土交通省と業法改正はどういうことをしていくかとか、かなり具体的な巡り巡って自分たちの事業に返ってくるような取り組みを、業界を挙げて取り組めるのはすごく良いところです。
ただ、やはり不動産とは結局はそこに住んでいる人たちがいて、その生活があって、コミュニティがあって、そことは切っても切り離せません。そうすると広くなりすぎて、どこまで扱ったらいいのかが分からないというのも課題としてはあって。よく「不動産テックってどこまでが不動産テックなの」と言われるんですよね。難しくて。
でもそんな時に上野君が、LivingTechカンファレンスを立ち上げて。まさにこのカンファレンスはそこを横断的に網羅して接点をつくる場であって、こういうものが生まれるのもまた一つ時代の流れなのかなというのを僕はすごく感じましたね。
上野 LivingTechは不動産テック以上に幅が広くて、話していると「すべてだよね」と言われることもあります。Borderlessセッションで光村さんもおっしゃっていましたが、「暮らしすべてじゃないか」というところもあるんですよ。
そう言われることは分かっていながら、敢えて領域を曖昧にしていて。金融領域とか住宅領域だけですとなっちゃうと、どうしても縦の線になってしまって、隣の領域であたり前にやっていることが自分たちの領域だと全然やっていなくて困っている、といったことが往々にして起きます。その境界線を溶かして、どんどん当たり前をやっていける世界を作りたいなと思っています。すごく曖昧です、領域自体は。
武井 でも溶かすというのがすごく重要ですよね。テクノロジーがその媒介になるとも思いますし。
僕は国土交通省さんのアドバイザーもやらせていただいていて、いろんな問題を扱っています。例えば棚田をどうするかという検討会をやっていたり。て、棚田って面白くて、生産する緑地なので農林水産省の管轄なんですけれども、個人の私有物なので国土交通省の管轄にもなってくるんですね。都市計画どうするかとか、農地法がああだこうだとか。じゃあそれがなぜ問題になるかというと、引き継ぐ人がいない。少子化の問題。少子化の問題は総務省なんですよね。
それぞれの省庁にいる人たちは専門家なんですけれども、(関係省庁が横断することで)その問題を解決できなくなっちゃってるんです。専門家が問題解決できない時代になってきたのをすごく感じていて、今その人たちが集まって「どうする、どうする」とひたすらブレストしているという。
まだそこから何も生まれていないですが、
まさにこのLivingTechカンファレスもそうですが、何が生まれるか分からないからこそ集まって議論する価値があると僕はすごく感じているので、ぜひ来年はさらにもっと大きな規模でいろんな方々が参加してくれたらいいなと思っています。