なぜアメリカでは中古住宅が普及しているのか?日本の空き家問題から考える

# GlobalTrend 2/6

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『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「アメリカVCから学ぶ、世界の不動産テックトレンド」と題して行われたセッション(全6回)の2回目をお届けします。

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登壇者情報

  • Brendan Wallace:Fifth Wall Co-Founder & Managing Partner
  • 斉藤 晴久:リノベる 執行役員
  • 杉谷 武広:リノベる 執行役員 /モデレータ

中古住宅の活用を妨げる、日本の「新築神話」とは?

杉谷 空き家問題は日本が先進的ですが、Brendanさんに聞いてみたいのは、アメリカだったらどうかという点です。

Brendan 日本同様、アメリカでも新築着工数が需要をはるかに上回りました。そのため、一時的に住宅価格が下がりましたが、空き家になるほどではありません。

2012年から2017年にかけてアメリカで起こったことは、戸建住宅の多くが賃貸住宅として使われていたことです。Fifth Wall共同創業者のBrad Greiweも、その期間にアメリカで所有している戸建住宅の大部分を賃貸に転換しました。

戸建住宅の多くが賃貸だった理由は、その期間中、アメリカの賃貸利回りが世界でもっとも高かったからです。加えて、アメリカでは賃貸用の集合住宅が不足していたからです。

杉谷 Brendanさん、どうもありがとうございます。新築着工の供給が需要を超えている点は、日本でも同じ課題があるので、かなり興味深いですね。かつその中で行っていた用途転換など、日本に対しても学びがありました。

では、斉藤さん、次のスライドのご説明をお願いします。

斉藤 こちらが、中古流通の比率の国別のグラフです。

左から日本、アメリカ、イギリス、フランスです。

さきほど空き家が増えている現状がありましたが、黄色のグラフが新築の着工件数、その上の水色のグラフが既存住宅の取引戸数です。

ご覧いただいておわかりの通り、空き家、中古のストックがどんどん増えていますが、日本には「新築神話」が残っており、高度経済成長に伴って家を建てようという機運が継続しています。そのため、日本は新築数が多く、中古住宅の流通は15%程度です。

一方でアメリカを見ていただくと、新築は建っていますがその上の中古の取引数もかなりあります。割合は80%を超えており、中古が非常によく活用されています。イギリスもフランスも同様。イギリスの場合は、8割をさらに超えて87%です。日本はもっと中古の住宅を活用すべきということを表すグラフです。

アメリカで中古住宅が普及している理由

杉谷 自明すぎて回答が難しい可能性もありますが、ここで再びBrendanさんに聞いてみましょう。何故アメリカでは中古流通がかなり普及しているのでしょうか?

Brendan 理由はいくつかありますが、1つは明らかな文化の違いです。

アメリカでは、「家を持つこと」が良い文化だと長い間考えられていましたし、政府が大きく助成し奨励していました。

ご存じのように、アメリカにはFannie MaeやFreddie Macのような代理店(編注:日本で言うところの住宅金融公庫)があり、アメリカの消費者に対して住宅を購入するための補助金を提供しています。だから、戦後アメリカ政府から多くの補助金を受けて戸建住宅が建設され、販売されました。

金利が非常に魅力的になった2000年代初期の金融ブーム時に住宅購入の流れが特に加速し、多くの新築住宅が建設され販売されたというわけです。

杉谷 ありがとうございます。このあたりの不動産流通は、Fifth Wall社とOpendoorの議論で取り上げられると思うので、後ほど深掘っていきます。

メルカリやAmazonがもたらした?中古住宅への意識の変化

斉藤 では話を戻しますと、中古住宅を活用しなければならないため、2016年4月国交省を中心に自由生活基本計画が出されました。

こちらの計画は、2013年から2025年に向けて、リフォームの市場規模を7兆円から12兆円に、既存住宅流通の市場規模を4兆円から8兆円に倍増していこうという内容です。

計画自体はあるものの、野村総研の中古住宅の市場規模推移の予測を見てみると、2025年段階で約43万戸なければならないのに、実際には約30万戸になる予測となっています。

つまり、約13万戸足りないため、何かやらなければならない状況です。

とは言っても、日本人の中古に対する考え方も変わってきています。メルカリやAmazonでの出品サービスは、みなさんが今お持ちの物が資産となって他の人たちに活用されるというダイナミック、かつエコの仕組みです。

そういったプレイヤーが出ることによって(世間一般の)中古に対する意識や考え方が変わってきています。

首都圏の中古と新築の実際の流通のトレンドを見てみると、直近の2年で新築よりも中古の取引が上回ってきています。

ただ、これは首都圏だけの状況であって、他の地域ではまだ新築が上回っています。(とはいえ、)中古に対する概念が変わってきているのは、我々の事業にとっても非常に良い流れだといえます。

中古住宅における3つの流通方法

斉藤 続きまして、中古の住宅の流通方法である3つをご説明します。

1つ目は、仲介、売買のことです。場合によっては売主がリノベーションされることもあります。

2番目・3番目はリフォーム・リノベーションを伴うものです。2番目の買取再販は、売買に伴い、事業者がリフォーム・リノベーションを施します。

3番目がワンストップ。我々リノベるも手掛けているのですが、物件の売買に伴い、買主側がリフォーム・リノベーションをするモデルです。

ワンストップと買取再販の2つの事業体を簡単に図式化したものをご紹介します。左側が売主(Seller)、右側が買主(Buyer)です。

2つの事業体を真ん中にプロットしていますが、下が買取再販、つまり、Resellerで、売主さんから事業者が物件を買い取った後、事業者側でリノベーションして買主に販売するモデルです。こちら、まさにOpendoorなど、アメリカでも出てきているモデルです。

一方、ワンストップですが、今までワンストップのサービスがない中で実際の売買やリノベーションは各事業者がバラバラに行っていました。

具体的には、売主と買主が直接つながり、買主が金融機関やリフォーム・リノベーションの業者などと、それぞれ手を組んでいろいろなやりとりをやらなければいけない状況でした。

このような中、ワンストップは、各事業者とのやりとりを一手に引き受けてコーディネーションをし、買主さんに寄り添って素敵な家を建てられます。

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