自律分散型社会の究極の形―テクノロジーそのものと創造物は、誰もが無意識に扱う?
#LivingAnywhere 5/6
2018年11月に開催された第2回「LivingTech カンファレンス」。『POST2020』をテーマに掲げ、2020年から5年後の社会を考えるトークセッションが展開されました。人口減少、少子高齢化、過剰供給……。社会課題について交わされた13セッションの中から、「Living Anywhere」と題して行われたセッション(全6回)の5回目をお届けします。
登壇者情報
- 林 篤志 氏:COMMONS Co-Founder, Next Commons Lab Founder
- 秋吉 浩気 氏:VUILD 代表取締役CEO
- 北川 力 氏:WOTA CEO/Co-Founder
- 井上 高志 氏:LIFULL 代表取締役社長 /モデレータ
自分らしく自由な社会のために、あらゆる制約から解放する
井上 という感じでお三方の自己紹介で、「45分までにこのディスカッションを終わらせて、その後Q&Aに入ってください」というお題をいただいてますんで、残り12分です。
お三方に投げかけたいのは、「いろいろ活動してるけど、一言でいうと何なの?」と。
いろいろ言うと帰り道の途中で忘れちゃうので、「そうか、これか」というキーワードを会場の皆さんにメッセージとして伝えて欲しいんですね。
それが一個で、あとは3人でお互い「突っ込みたい、質問したい」ってあればそれもOKですし、「さっき言い忘れたけど、これPRしておきたいな」というのがあればそれでも良いです。
まず僕からのオーダーは「一言でいうとあなたの活動って何?」。
Living Anywhereは制約からの解放。「自分らしく自由に生きられる社会を作るんだ」、これがLiving Anywhereです。
水を自由化した先に目論む、仕組みそのものがオープン化される未来
井上 WOTAは何ですか?
北川 水の自由化ですね。
自由化のレベルもありますけど、通信で言えばNTTというか日本電電、そのもっと前からやってたものからiPhoneぐらいまでになったイメージに水も自由になるというところですかね。
井上 良いですね。将来的にはこれって限界費用ゼロになるイメージですかね?
北川 そうですね。あと実はVUILDと考えてることが似ていて、この仕組み自体を作るための方法とかAIを将来的には解放していって、「みんな勝手に作ってください」みたいな、「水なんだからみんな勝手にやってください」ぐらいまで自由にしたいなと。
井上 オープンにしちゃうわけですね。良いですね。水の自由化でした。
テクノロジーの存在感ゼロで、建築と創造をすべての人に
井上 じゃあ秋吉さん、どうでしょう?
秋吉 (笑) いやぁ、さっき答えられなかったからなぁ……。
井上 控え室で同じ質問をしたらグダグダ説明し始めたんで、「グダグダだったら本番で突っ込むからね」って。たぶんこの間ずっと考えてたはずです。
秋吉 でもいろいろあるんですよね。建築の民主化みたいな分かりやすい話もありますし、創造力と実装力の一致みたいな話を一番やりたくて。
テクノロジーによって実現できることの制限がなくなるんで、そうすると「こんな暮らしができる、あんな暮らしができる」ってどんどん膨らませていったものをその場で作れる。そんな創造力と実装力を拡張していって、それが同時に動いてる状況が作れる。
井上 要は人間一人ひとりのクリエイティビティ・創造力があるとすると、「こういうのを作りたい」というのが今まではいろんな制限があってできなかったものを実現しちゃうツールを授けるという感じなのかな?
秋吉 そうですね。それによって今までにない新しい暮らしというか、ある意味パンドラの箱が開いた話だと思うんで。
井上 良いですよね。
新築マンションって今はすごく個性的になってますけど、昔はみんな同じような間取りで同じ内装で、それを買ってもせっかく買った家だから釘とかも壁に刺さないって感じだった。
けれども、もっと自分らしく自由に自分のライフスタイルに合わせて、というのがセルフでできるようになってくる、そんな感じなんですかね。
秋吉 さっきの水の話もそうですけど、例えば古代人が魚釣りをしたくて、「こういうふうになってる槍が欲しいんだ」みたいなときにシコシコ削ってないでピンッて出てズバッといくみたいな(笑)、そういう感じですよ。
井上 それの現代版をここでやってる感じなんだ。
秋吉 ピカッと閃いてズバッといくみたいな感じですよ。
井上 建築の民主化と創造力の実現をするツールを提供だと。しかもツールだと気にさせないぐらいが良いんですよね。
秋吉 そうです。テクノロジーが存在感を消さないといけないと思っていて。
井上 あまりテックが表に出てるんじゃなくて、自然に使ってたら裏にすごい緻密な物が動いてたという。
秋吉 それが文化とか歴史の定石なんで。
井上 よくできました。分かりやすかった。
複雑なものは複雑なままでも、自由を感じられる社会はつくれる
井上 じゃあ林さんは?
林 掲げてるスローガンとしては「社会を変えるのではなく社会を作るんだ」と言ってます。もうひとつキーワードを挙げるとすれば、「複雑なものを複雑なままに」だと僕たちは思ってるんです。
要は世界も人ももっと複雑なんだけど、今までのテクノロジーはどちらかというと均一化するというか、凄く一面的に判断してシンプルにして、それで効率良く回すみたいな、中国のセサミクレジットみたいな、監視カメラでバッと見ると皆さんのスコアが500点・700点みたいな感じで出て、全部スコアリングするのはある基準で全部判断します。
だけど、人って「昔はすごい嫌なやつだったけど久しぶりに会ったら良いやつじゃん」とか、「普段は取っ付きにくいけど、実は家に帰ったら子煩悩な良いお父さん」とか、分かんないんですよね。
だから世界は多面的なので、その複雑な状態を複雑なままに残していけるというか、尊重していける世界をテクノロジーを使ってできないか、というのが僕たちの考えてることですね。
井上 最近だと「多様性」とかよく使われるじゃないですか、ダイバーシティとかインクルーシブネスみたいな。包摂とか寛容とか言いますけど。
あえてそう言わないで、「複雑なもの」って言ってるのは何か意味があるんですか?
林 多様性とかインクルーシブはひとつの枠の中で多様性を担保しようという……
井上 それすらが多様性という枠組みを作ってる感じがする?
林 合わない人は合わないじゃないですか。それぞれ信じたいものを信じれば良いと思ってるんですよね。だから分散すれば良いと思ってるんです。
ただ、肯定はできないかもしれないけど、攻撃したり否定をすることがない社会の在り方をどうやったら作っていけるか。そういう自治のモデルであったり、それに経済圏を実装するのをやっていこうと思ってます。
場所・食料・教育・エネルギー・医療・通信を、中央集権から解放せよ
井上 こうして3人の話を聞いてみると、共通しているキーワードは、中央集権的な20世紀型の社会構造システムを分解して分散させていくのをやってる感じがしますよね。
水にしても建築にしてもそうだし、「社会を新しく作っちゃう」って言ってることもそうですし。
ちなみにどこか分からない瀬戸内海の島はいつ頃からプロジェクトスタートするんですか?
林 年明けにはリリースしたいと思ってます。
井上 「企業連合で皆さん一緒にやりましょう」とか声掛けなくていいんですか?
林 いや、もちろん。
井上 ぜひアピールしてください。一般社団法人Living Anywhereと株式会社LIFULLは全面的にそこに協力して入っていきたいと思ってますので。
林 未来のモデルがひとつのワンパッケージでできると、それを丸ごと他の地域とか世界にそのまま横展開していくことが可能だと思います。
そこで産業化するよりはその中で半永久的に循環するモデルを作っていきたいと思っていて、その未来のひとつのワンパッケージを一緒に作っていける技術をお持ちの方とか、ビジョンを持ってる企業さんにはぜひ入っていただきたいと思います。
井上 それに乗っかると我々もLiving Anywhereとして、いろんなスポット……廃校を使ったり、古い公共不動産を使ってやろうとしてますけど、その辺もぜひコラボしていきたいんです。
僕らもぜひオープンイノベーションに参加する企業を募りたいと思っていて、テーマとしてはいろんな制約から解放するためにまず水がすごく重要です。これは北川君なんかとやっています。
次に、食料ですね。食料に関しても中央集権的な食料流通より分散化したりセルフ化したりということについても興味・関心ある会社と一緒にやっていきたいです。
あと僕らは家を買って35年ローン払って一箇所に住み続けることから解放していきたいと思ってるので、その辺の建築の民主化もVUILDがやってたりします。
他に、教育、エネルギー、働き方。あと医療、通信ですね。
医療にしても働くにしても教育にしても、「この辺は全部遠隔でできるでしょ。しかも限界費用ゼロにできるでしょ」と思ってるので、そんなことに取り組みたい会社さんともやりたいし、その辺は林さんが考えてるのとほとんど一緒ですよね。
林 はい。
井上 モビリティに関しても単純に車ということじゃなく、住む場所だったり学ぶ場所だったり楽しむ場所だったり、それがついでに移動しちゃうことだと思うので、家と車の垣根がどんどんなくなっていくような、そんなふうに思います。
水とかは将来的に枯渇しないけど、こういうのができた時は(日本国内よりも)諸外国のほうが飛びつくよね? いろいろ世界中を周っていてどうですか?
北川 そうですね。
今年テレ東さん(の「ガイアの夜明け」)に結構取り上げてもらう機会があってそこから流れが変わったんですけど、それまでは日本って「ん?」みたいなところが多くて、中東やアフリカ、もっと言えば、東南アジアの方が正直引きは強いです。
井上 秋吉君は何かありますか?
秋吉 何かっていっても、急に僕だけ雑じゃないですか(笑)。
井上 これからマテリアルがどうなっていくのか知りたいと思って。「木材以外やらないの?」と言ったら、布石で「金属とか」って言ってたんで。金属以外この先ってどんな物があるんですか?
秋吉 例えばコンクリートも地域に分散化してできるプラントがあるので全然できます。
木であれば硬くして何らかのモジュールにしてできるというのがありますし、使ってる技術は3Dプリンティングと同じなんで、それ自体をそのまま造形するのもできます。
つまり生産技術自体は80年代から全然変わってないんですけど、今僕らが開発してるのってそこを垂直統合する、ツールをツールとして感じさせないツール……何を言ってるか分かんないんですけど……だと思っていて、それがない限りデジタルとかいくらいっても分からない、そこと繋がらないから駄目で。
80年代の機械って実は全国に眠っていて、それを使う人がいないとかライセンシーが閉じられてるので、ShopBotという海外の(機械)をわざわざ入れてます。
けれども、100から1,000にスケールしていく時にはそれを掘り起こすとか、データをそこに直で繋げるようにするとか、もしくは海外だと同じ機械が世界に何千~何万台とかあるんで、このプラットフォームをそのまま人類共通のツールとして使えるようになると嬉しいなって思ってます。
まず小さなマーケットとして、この森林面積が膨大にある日本でトライアルしています。とはいえ現地の材料って木が多いんですけど、砂漠だったら砂とか、そういう現地で調達できる物であれば何でも次の段階は統合していきたいんです。
けれども、まずはツールをツールとして感じさせないツールをどれだけ作るかを……
井上 例えば砂漠で何かやるって言ったら砂をマテリアルとして……
秋吉 というプリンティングの方法自体はあるんで。
井上 ドバイが確か、火星移住計画という国家プロジェクトでやってますよね。つまり火星にあるマテリアルで家を作ったり、食べ物として栄養を取り出したり、そんなのをやってますよね。
秋吉 そういう発想に限りなく近いです。
宇宙で使う技術自体も新しくないんですけど、まずは身近なものに最先端のテクノロジーを使って暮らしを豊かにしたいというのを個人的には感じてます。
住まい×人工知能で実現する、最適化し続ける生きた住宅
井上 あれもぜひやっていきましょう。「家族になる家」ってコンセプトがあって、LIFULLも家族になる家を秋吉君とか東大の教授とかとやろうとしてるんですけど。
秋吉 何言ってるか分からなくなると思うんですけど、人工生命的に物質が知能を持って、環境の気温とか風に対して出力された物がどうやって空間を作っていくのかというプランニングまで自律的に決定される。
要はパーツがそういうふうに出力されるようになってきた時にみんなどうやって住むべきか、最適な住み方はどうなのかを人工生命が教えてくれるという。
その教え方と作り方が一緒になってるという、かなりよく分からないものを提示したんですけど、それを実装していくが次のフェーズですかね。
井上 皆さん、人工知能がどういうものかってだいたい概念的にご理解されてると思うんですけど、その次に来ると言われてるのが人工生命で、物理の世界と生命学の境目をなくそうとしてる、そういう学術研究です。
そうすると例えば建築物ひとつ取っても、一回作ったらそれで固定化されて終わりだったものがずっと生命体のように進化してタッチアップし続けていって、シーズンだったり時間帯だったり、そこに住む人のキャラクターによってどんどん変化していく生命体のようなものを作っていくってことを我々で研究して作ろうかと考えてたりします。
じゃあ時間になりました。