スケーラビリティとのトレードオフ
ー『イーサリアムキラー』が未だ登場しない理由ー
本記事は、Scalability Tradeoffs: Why “The Ethereum Killer” Hasn’t Arrived Yet (Georgios Konstantopoulos) の翻訳です。万一誤訳などありましたらPrivate Note機能でお知らせ下さい。
最近私は、RedditとTelegramで多くのクリプト愛好家がこんなコメントをしているのを見た:
“ビットコインは遅いし高い。もっといい新しくて現代的なコインがあるし、そっちは早くて高くない。”
またはCryptoKittiesについての議論で非常に一般的なのが:
“イーサリアムはCryptoKittiesさえ処理できなかった。イーサリアムがWeb3.0になるなんてよく期待できるものだ。
またはBlockchain Xが形勢を逆転している様子について:
“<あるコイン> がキングだ。1秒に6万トランザクション捌けて、手数料がなくてスマートコントラクトも可能だし。
一般的な意見として言われているのは、現在の時価総額のリーダーは十分良いものではなく、新しいプロジェクトはより良い機能や代替アーキテクチャ(Tangle、Hashgraph)を提供し、それらが新しい基準を定めブロックチェーンの能力を新しいレベルに引き上げていく、というものだ。
今後数年でビットコインが廃止される可能性や将来トップ5が急激に変化することを私は否定しないが、プロジェクトがなんでも解決できると宣伝している場合は、急いで結論に至る前に懐疑的になって厳密に調べる必要があると強く思う。
全ての問題を解決する万能なものはない
「等価交換」は日本語のフレーズで、おおよそ“equivalent exchange”と訳されるものだ。ただで済むものはない。トレードオフが常にある。
下記は、ヴィタリック・ブテリンによって述べられた三すくみだ:
スケーラビリティの三すくみのようなものが生じている。この三すくみとは何か、そして我々はそれを打開できるのか?
この三すくみが主張するのは、ブロックチェーン・システムは以下の3要素のうち最大2つを持ちうるということだ:
○分散化 ー 参加者のみがO(c)リソース(下記訳注参照)、つまり通常のラップトップや小規模VPSへのアクセス権をもつシナリオで動作可能なシステムとして定義される。
○スケーラビリティ ー O(n) > O(c)でトランザクションを処理可能と定義される。
○セキュリティ ー 攻撃者に対してO(c)リソースまで安全であると定義される。
訳注: n はエコシステムのサイズ、 c は単一ノード。特定アルゴリズムでの計算処理時間を表すO記法を使用。
この三すくみを解決したと主張するブロックチェーンは、物理法則を歪めたか(かなりありえない)、過去10年間でトップの数学者やコンピュータ科学者を悩ませた主要なブロックチェーンのスケーラビリティ問題を打開する方法を発見したかのどちらかだ。
これは不可能ではないが、ブロックチェーンは分散化とセキュリティ、またはその両方を犠牲にしていると説明するのがより適切だ。
ブロックチェーンや暗号通貨の特徴とは?
初めての記事A rant about Blockchainsの中で、私はブロックチェーンを次のように定義している:
ブロックチェーンは、信頼していない個人のグループ間で共有できるデータベースであり、中央パーティーがデータベースの状態を維持する必要がない。
そして暗号通貨はGoogle dictionaryによると次のように定義される:
通貨単位の生成を規制し、資金の移転を確認するために暗号化技術を使用したデジタル通貨で、中央銀行から独立して運営される。
両定義(ブロックチェーンと暗号通貨)は、中央パーティーとは独立して運営することの必要性を強調していることに注目したい。
(半)中央集権的通貨のケース
リップル
XRP は、「世界で最も速くてスケーラブルなデジタル資産であり、世界中どこでもリアルタイムにグローバル決済を可能にする」と主張している。「XRPは一貫して毎秒1,500トランザクションを24時間×週7日処理し、Visaと同じスループットを処理するようスケールできる」と彼らは誇る。
しかしながら、XRPのノード数をEthereumやBitcoinと比較してみると:
加えてリップルはユーザーの資産をいつでも凍結可能だ。[1][2].
リップルは高速かもしれないが、ほぼ中央集権と同じだ。
マスターノード通貨
マスターノードは、ブロックチェーンネットワークで以下のような特別な機能を実行できる完全な暗号通貨ノードだ:
- 統治と投票への参加
- 即時的なトランザクション
- プライベートなトランザクション
これはDASHやPIVXのような暗号通貨で使われている。
マスターノードを運営できるようにするには、悪意のある行為を防ぐために、ある量の暗号通貨をPoSのステークのように担保とする必要がある。その見返りとして、定期的なインターバルで暗号通貨で報酬が支払われる。
前述したような機能は素晴らしいが:
- DASHのマスターノードには1,000 DASH必要($1,000,000)
- PIVXのマスターノードには10,000 PIVX必要 (~$110,000)
財政的な参入障壁の高さは、以前議論したように、分散性の要件を破り、ある程度の集中化へと繋がる。
分散性を維持するためには、個人がネットワークに参加し貢献するための参入障壁が低くなければならない。これはブロックサイズ増加に対するビットコインの市民戦争と直接的に関係する。
許可型またはプライベートなブロックチェーン
これは定義上中央集権的であるため、このカテゴリについては完全に飛ばしていく。 こちらにあるパブリック対プライベートのブロックチェーンの比較を強く勧めておきたい。
また、あるブロックチェーンがテストネットで多数のトランザクションを実現すると主張していても、もしそれがパブリックなブロックチェーンとして展開される場合にパフォーマンスがそのまま変換されるという意味ではないことを強調しておきたい。
ゼロまたは超低額の取引手数料
取引手数料ゼロと主張する通貨はどうなのか?
ネットワークの安全性を保つために、新しいブロックを作成しネットワークを維持するエンティティを検証する必要がある。
なぜこれらのエンティティはネットワークをサポートし、攻撃しようとしないのか?
ネットワークで企みごとを起こすことなく、忠実にこのタスクを行うインセンティブとなる方法が必要だ。そのインセンティブとなる方法は、取引手数料とブロック報酬である。ブロック報酬はゆっくりと減少しているため(例えば、ビットコインではブロック報酬は半減)、マイナーのインセンティブは取引手数料に直結している。
手数料0で本当に分散されたネットワークを持つことは不可能だ、なぜならそれを維持していくインセンティブがない。
取引手数料が超低額の通貨に関してはどうか?
私はイーサリアムを例としてこれに反論したい:
1Etherの送金には21,000ガスが必要だ。例えばトランザクションを早く承認させたければ、ethgasstation.infoを参照してガス・プライスを50Gwei/gasに設定、その結果取引手数料は0.00105 Etherとなる。
2018年1月13日(1Ether= 1,400ドル)に取引をしたとすると、取引手数料は1.47ドルだ。
2017年1月15日(1Ether= $ 10)に行った取引だと、取引手数料は 0.01ドルとなる。
元の通貨(常に1Ether=1Ether)で見ると、取引手数料は一定だ(計算方法が同じであると仮定した場合)。コイン価格の大幅な上昇は、法定通貨換算で取引する際の取引手数料の多額の増加を意味する。
コインXが1枚$ Zで評価され、取引手数料が$ Yとなる場合、Zが100(枚) ×$Zになると手数料Yはどうなるか考えて欲しい。
結論:ビットコインやイーサリアムより低コストだと主張するほとんどのコインは、非常に少ない取引量なのでそれが可能なだけである。
コイン価格と取引量の上昇は、その硬貨の取引手数料の増加と正の相関関係がある。
コンセンサス・アルゴリズム
ビットコインとイーサリアムは両方、暗号通貨が始まって以来以来最も広く使われているコンセンサス・アルゴリズムであるProof of Workを用いている。 もしあなたがProof of Workとコンセンサスアルゴリズムについてよく知らなければ、私の以前の記事を参照して欲しい。 [1][2]
PoWの欠点に取り組むために、代替となるProofs of 〜の試みがたくさんなされてきた。もっとも目立っているのはProof of Stakeだ。
BitsharesやSteemを例にすると、彼らはコンセンサス・アルゴリズムとしてDelegated Proof of Stake(DPoS)を使用している(CardanoのDPoSアルゴリズムと混同しないように)。
DPoSを間接民主主義として考えよう。議題に(ブロックに)直接投票する代わりに、その投票権を信頼する「代議員」に委任し、彼はその権限を行使して集団のための決定(ブロックの採掘)を行う。これにより今度はオーバーヘッドが少なくなり、より高いトランザクションのスループットが可能になる。しかしほんの一握りの代表者が決定力の大部分を占めてその決定力も腐敗しかねないため、あまり分散化されてはいないのだ。
DPoSの有効なユースケースがある。例として、Steemitは独自のブロックチェーン上で動いているにもかかわらず、従来のウェブサーバーに匹敵するパフォーマンスを持つことに成功したプラットフォームだ。その価値移転のほとんどはマイクロトランザクションであるため、かなりハイレベルなスケーラビリティとパフォーマンスを実現するためには、分散性とセキュリティを犠牲にするのが妥当なトレードオフである。
しかし、大きな価値を持つ暗号化通貨、またはサードパーティによって信頼されるべきスマート・コントラクトを扱うプラットフォームにとっては、完全に分散化されたPoWチェーンを使用する方がはるかに安全だ。
Loom Networkでは、我々はこのようなブロックチェーンはアプリケーションに特化したサイドチェーンとして実装するのが最適だと考えている。そのサイドチェーンのセキュリティは、メインチェーンによって維持されている。
TangleやHashgraphとは?
Tangle
IOTAは、Tangleと呼ばれる有向非巡回グラフ(DAG)に基づいた、ブロックチェーンとは全く異なるシステムを使用している。
基本的にTangleのトランザクションにはタイムスタンプがなく(これはY以前のXの発生に依存する複雑なスマート・コントラクトが行えないことを意味する)、2つの前の承認済みトランザクションを参照することで二重支払い問題に取り組んでいる。
これは、MITの研究者たちがIOTAが作成したハッシュ関数curlに重大な脆弱性を発見するまでは非常に有望とされていた。しかもリップルのように、IOTA財団も過去にユーザーの資金を凍結している。
またこれは手数料のないシステムであるため、すでに議論したように完全なノードを運営するインセンティブがない。
Hashgraph
Hashgraphも相対的に新しいコンセプトである。以下にて深く説明されている:
しかしHashgraphチームがTelegramチャンネルで述べたように、現在許可型ネットワークでのみの展開だ。これはプライベートであるため、分散性の要件を再び破ってしまうが、ただし企業環境で有効なユースケースを持つかもしれない。パブリックなネットワークでの活路が見えてくるかを知るにはおそらくあまりに早すぎるだろう。
結論
これまでの議論は、コミュニティ・ドリブンなブロックチェーンの運営と適切なデザインを狙いとしている。
私は、XRPやマスターノード通貨、プライベートブロックチェーンが呪われていて避けるべきだなんて思ってはいない。それぞれのユースケースがあるのだ。
しかし、本質的にそれらはより中央集権化されており、検閲不可能かつ止まることのない暗号通貨を持つ真の分散性と誤解すべきではない。
新たな実験アルゴリズムやネットワーク・トポロジーに関しては、最終的に分散性やセキュリティを犠牲にすることなく、実現できると主張されているスケーラビリティの維持が可能であることを私は本当に望んでいる。
これらのプラットフォームが大きな規模で実証されるまで、それらについて過度に感情を高めたり「イーサリアム・キラー」と宣言したりするのは早すぎるのだ。
さらに読んでみましょう!(英文記事):
[1] The Meaning of Decentralization.
[2] Blockchains don’t scale. Not today, at least. But there’s hope
Loom Network は、イーサリアムのハイスケーラブルなDPoSサイドチェーン構築のためのプラットフォームで、大規模ゲームやソーシャルアプリにフォーカスしています。
さらなる情報は こちらから.
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