人間の知能と人工知能(AI)のコストパフォーマンスを比較する

Kai
LSC PSD
Published in
5 min readAug 27, 2020

人工知能の定義は色々ありますが、最終的な目標は「人間のような知能を作る≒汎用人工知能を作る」という事だと思います。今回は最新AIが人間の知能にどれだけ近づいたかをエネルギー効率の側面から考えてみたいと思います。

これを作るのがAIのゴール

1. AIの必要エネルギー

最近のAIはどんどん大型化しており、その開発には大量のエネルギーを必要としています。例えばGPT-3(最新の文章生成AI)を例にとると、このモデルを1つを作る際には

という莫大なエネルギーを消費しました。

この仮定は一発でハイパーパラメータやデータの前処理が決まった場合です。実際にGPT-3を作り上げるまでには、試行錯誤の中でこの何倍ものエネルギーを消費しています。

さて、最新AIはこれだけのエネルギーを消費してまるで人のような文章生成を行うわけですが、このエネルギーは人間に例えるとどれくらいなのでしょうか。

2. 人間との比較

1.1 人体の消費エネルギーと比較

kWhのままだと想像しずらいので、エネルギーをkcalの単位に直します。調べたところ、1kWh≒860kcalと変換できるそうです。つまり上記の432,000kWhは371,520,000kcalに相当します。私(成人男性)が1日に必要なカロリーは2,500kcalなので、GPT-3は

  • ヒトが148,608日(407年)活動出来る

だけのエネルギーを使って作ったことになります。私はまだ50年も生きていませんが、GPT-3に負けず劣らずの文章生成能力を持っていると思っています。実際はちょっと負けてるんでしょうけども。

1.2 脳の消費エネルギーと比較

人工知能はあくまで知能なので、脳の消費エネルギーだけに着目して比較してみます。正直脳については現在の脳科学でも分からない事だらけなのですが、2020年時点においては脳の消費カロリーは全体の15~20%ほどと言われています。1日あたり400kcalです。つまり脳だけに着目すると

  • 大人の脳が2545年活動出来る

だけのエネルギーということになります。

1.3 人間への供給エネルギー全体との比較

日本では、1人につき120,000kcal/日ほどエネルギーが供給されているようです。これは140kWhに相当するため、GPT-3を1つ作るのに必要なエネルギーは、

  • 日本で3085日(約8.5年)暮らす

だけのエネルギーという考え方もできます。子供が8歳になるまでと同じだけのエネルギーを使って、すごい文章生成が出来る…そう考えると意外と悪くないような気もします。しかしGPT-3は文章生成しか出来ません。8歳児は知らない人の家の冷蔵庫から飲み物を取り出してコップに注ぐことが出来ます。GPT-3には勿論出来ません。8歳児は靴紐も結べますし、横断歩道を見たら白い線だけを踏む遊びを勝手に思いつけます。

1.4 お金の面から考える

上記のエネルギーを電気代に直すと1166万円 (日本の電気代=27円/kWhで計算)です。言い換えると月額971万円です。電気代としては高すぎますが、たった1000万円ぽっちでGPT-3が作れると思うと安い気がします。

まとめ

冒頭の「人間のような知能をつくる」という目標が正しいとすると、今のAIの進化の方向性は確実におかしいです。なぜなら人間の脳は1日400kcalでアレコレ出来るにも関わらず、現在のAIは432,000kWh使ってやっと文章生成が出来るだけ(「だけ」と書きつつ文章生成に関わることなら色々応用できる)の状態だからです。このまま大規模化していけばいくほど、脳からは遠ざかっていくことになります。

確かにニューロンとパーセプトロンは似ています。しかしそれを組み合わせ、出来上がったものが脳とGPT-3ではあまりに差があります。何か根本的にアプローチが間違っているのだと思います。

ビジネスでAIを作っている人たちからすると、最終的にビジネスモデルが成り立てば作るまでの途中経過や、モデルの運用が人間に似ていようが似ていまいが知ったこっちゃないと思いますので、まあ仕方ない気もします。

脳のコスパは現在のAIと比べると異常と言えるほどに優れています。もしくは現在のAIのコスパは相対的に最悪です。現在のAIは大量のエネルギーに任せた力押しに過ぎません。

ちなみに冒頭のドラえもん、動力は原子力です。つまり大量のエネルギーを使って動いていることが予想されます。藤子・F・不二雄先生はこうなることを想定していたのかもしれません笑

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