【ハイパーリンクチャレンジ2015】増えすぎたメディアの中で「記事の価値」を見つめる/長谷川賢人 #HyperlinkChallenge2015 #孫まで届け

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
Published in
14 min readDec 13, 2015

サイボウズ式」の藤村能光さん、「隠居系男子」の鳥井弘文さん、「メディアの輪郭」の佐藤慶一さんとの居酒屋対談から生まれた企画「ハイパーリンクチャレンジ2015」を開催しています。概要は下記をご覧ください。

現在80名を超えるほどにご参加をいただいています。ありがとうございます。「これで正月に暇をもてあますことはない」という声は大いに賛同です。

企画者4人のFacebookメッセンジャーには日々「こんな人が参加してくれた!」「ここまで広がってる!」と、さながら実況スレかのごとく情報が舞い込み、その都度に盛り上がっています。

応募締め切りは12月20日まで。指名が回ってきた方も、そうでない自発的なご参加も、まだまだ大歓迎です!

ハイパーリンクチャレンジの3つの良さ

自分で記事を書き、みなさんの記事を読んで、実感できた良さをまとめてみます。

1.自分は「どんなコンテンツが好きか」を見つめ直せる

脳に、はてぶに、Twitterに、Evernoteに……何かしらでストックしたコンテンツを「あとで読む」以外に振り返る機会はこれまでにあったでしょうか?

日々ストックしていたコンテンツを棚卸し、1本を選び抜く作業は単に読むだけでは得られない体験となります。「自分はなぜこれが好きか」を言葉にする格好の機会となって、あなたの審美眼であったり、感性であったりを磨いてくれもするでしょう。

そして、誰かのオススメする記事を読み、その記事も自分の「好き」につながった時には、さらなる自分の発見にもつながるのです。言い換えれば、膨大にあるメディアとブログの記事から、自分が読みたいものに求める価値を見つけ出すきっかけになる。

ブログにしろ、メディアにしろ、「自分の好きを発見して、気持ちを込める」は今後のコンテンツを作る上で良い熱量と指針にもなってくれます。

2.チャレンジを通して誰かにエールを贈れる

面白かった記事をツイートすることはあっても、その記事が「自分にとってなぜ良いのか」「ここが他と違って面白い」などをまとめて伝えることは、そのコンテンツを作った人にとっても嬉しいエールとなるはずです。

記事への評価は、SNSのシェア数やコメント数がよく用いられますが、熱のあるメッセージは数字で得られる価値とはまた異なり、書き手の気持ちを鼓舞し、メディアをつくる人々の勇気になると感じます。

誰か一人に深く届いたコンテンツは、きっと多くの「個」に届く。

これは僕がいま仕事をしているメディアの方針ですが、ぴったりかと思って引用しました。コンテンツの魅力は誰かの人生や感情を、プラスやマイナスに揺り動かせるパワーにあります。その受け取ったパワーを誰かへ伝えてみませんか。

3.ぜったいに触れなかった記事との出会いがある

Twitterで「ハイパーリンクチャレンジ」や「#HyperlinkChallenge2015」を検索するか、togetterのまとめを見てみてください。これまでに参加してくださった方の記事が並んでいます。どれをクリックしても新鮮な体験が得られるはずです。

1年で1本だけと紹介されているからこそ、その記事には間違いなく面白い要素があります。自分の読んでこなかったジャンル、あるいは知らないメディアやブログであればあるほど、そこには良い出会いと発見が待っています。僕も「この視点はなかった!」と膝を打つことばかりです。

そして、これは記事を書く側、チャレンジに参加する側にとっても同じことがいえます。自分の文章やブログを読んだことのない人が目にするきっかけにもなるのです。

……ということで、堅苦しく書いてしまいましたが、お祭りに乗っかるくらいの気軽な気持ちで、ぜひチャレンジに参加してもらえたら嬉しいです!

みんな次点を選んでいて羨ましいから紹介します

ここからは蛇足です。参加者の中には「選びきれなかったから何本かを……」とか「この他にこれも迷いました!」とか、記事をいくつか紹介している方がいました。それはそれで構わないのですが、「僕もすごい悩んだし、それもいい記事だからぜひ紹介したい!」と欲が高まってしまったのです。

そこで僕も次点たちを紹介します。意外とこっちのが良いなんてことがあるかも。

沖縄のB級情報を発信し続けるDee okinawaより。地元ならおなじみの会社がひっそりと幕を下ろす直前に、会長や社長へのインタビューを通じて社史を振り返っている記事です。沖縄に根を下ろすDee okinawaにしか発信できない/発見できない観点から生まれた記事で良いなと感じました。

何より資料的な価値がとてもある。誰かが沖縄バヤリースを調べたくなった時、必ず参照するはずです。残り続けるというインターネットの良さが生きますね。

この記事は届く範囲は狭いかもしれないけれど、刺さる距離が深い。そして「Dee okinawaだからこそやる価値がある」というのを感じさせるのも、ウェブメディア運営者として見習いたいポイントでした。この「だからこそ」を増やせば増やすほど、そのメディアには価値が生まれていくのだと僕は思っています。

最近だと「ありがとうさようなら琉球新報社泉崎ビル」も良かった。沖縄行きたい。

WIRED.jpが、IBMとコラボレーションして作るメディア「INNOVATION INSIGHTS」より。メディアという言葉で浮かべるイメージを軽やかに打ち砕いて、壁をなくしてくれます。「未来は常に自分のまわりに偏在している」という視点も、日々への向き合い方を変えてくれると感じます。

何より、これがIBMとのタイアップであるのがまた素晴らしいなと思います。企業とコラボしてメディアをつくるという方向性をひとつ見せてくれたWIRED.jpの構成力とブッキング力は、並大抵のメディアが真似できるものではないと改めて教えてくれました。スポンサードコンテンツの面白みを教えてくれる試みです。

2015年はネイティブアドのステマ問題がクローズアップされ、広告主体のメディアは歯がゆい思いをすることも多々ありました。その中で、どうか広告代理店その他メディア諸氏は、こういう試みに水を差さないでくれと願うばかりです。

もうひとつWIRED.jpから。僕がMediumを使っているのはこの記事の影響が大きいのです。それくらい「Mediumに良い印象を抱いた」わけです。

「新しいことを成し遂げようとする男がいる。その男の話は魅力的である」というのも十分に記事になると思うのですが、それを「7つの教訓」にパッケージングして、なおかつ7つの見出しそれぞれだけでも示唆に富む流通しやすい言葉になっている。これはネットに配信する記事における編集の妙だと僕は感じます。

WIRED.jpは文体にしろ、試みにしろ、あらゆることに意識が行き届いてチャレンジングで見逃せません。

そうそう、タイアップで「すごい!」と思ったのが、ポップポータルメディアことKAI-YOU.netのこちら。AV撮影現場への潜入レポートなのですが、どこも記事化しにくいであろうアダルトネタであっても「ここにポップがあればOK」とあっさり切れちゃうのは、KAI-YOU.netの強みであって面白さでもあると思います。

石川五右衛門の斬鉄剣ばりになんでも切れちゃう刀、つまり「応用範囲の広いキーワード」を持っていて、それが認められるとメディアは記事をずっと作りやすくなります。

以前の職場で「ギズモード・ジャパンがガジェットだと思えば、それはガジェットなんだ」といった言葉を耳にして、僕は心底驚きましたが、でもそれが許せちゃう状況になったらやれることの幅はずっと大きくなりますよね。

ライフハッカー[日本版]も「ライフハック」なる妖刀を持っていました。上手に使えば扱うジャンルやインタビュー人選の幅を広げられます。

バズるべくしてバズる記事。パイが広いグルメ系記事で、面白くて、役に立つ。さらに筆者は「3年間スーパーの精肉部に務めていた元肉屋のぼく」というのも、なかなか真似できない強みになっています。

これを読むためだけにcakesに課金してもいい、というくらいに秀逸な言葉が乱れ打ちの対談です。

柴那典さんの「ポップスの歌詞は、一瞬をどれだけ鮮烈に射抜けるかっていうのが大きなポイントだと思うんです」や、大谷ノブ彦さんの「リズムに対して自覚的でなければエモーショナルにはならない。お笑いもリズムが重要だし。あとは立ち位置もそう」は、素晴らしい観察眼と言語化だと白旗を挙げずにいられません。

はてな匿名ダイアリーより。こういうドギツイクオリティでエモ満載の超名文が生まれちゃうのがすごいところ。現代版インターネット落語だ!なんて言いたくなるほど鮮やかな語り口で、文章なのに誰かの声で「聞こえる」のですよ。すごすぎる。

僕はギリギリこのあたりの話を知っている世代です。Yahoo!チャットはそこそこに、当時はいかがわしい2ショットチャットに入り浸っていたな、ドリームキャストで。

こちらも現代版インターネット落語的なコンテンツ。声に出せばさらに面白い。

私の下半身のウォール・マリアが、全然突破されない。
傷一つない。
安保もなければチンポもない。待てど暮らせど脅威がない。

本題のよもぎ蒸しパートも最高です。笑い死ぬかと思った。

僕の古巣であるライフハッカー[日本版]よりインタビュー記事を一本。

聞き手で筆者の大嶋拓人さんはアメリカ留学経験があり、もともとライフハッカーに翻訳者として関わってくれていたほど英語が堪能なのですが、こういう大物インタビューを通訳なしでやってしまう、しかも小さくディスカッションもした上でまとめてしまうのは、率直に「やるな!」と感じ入りました。

ディーナー博士の「ネガティブな感情への欧米人とアジア人の比較」や「心を強くするには旅行が効く理由」も納得できる話です。

僕にとってCNET Japanはネット界隈におけるニュースを浅く把握するのと、佐藤記者の記事を読むために存在しています。佐藤記者はCNETで「独自の視点で紹介していく」という言葉を素敵に解釈して、自分の好きなアニメやゲーム関連の情報を、力の入れ具合をツッコミたくなるほどの情熱を込めて展開してくれています。

この記事は社会現象化しつつある『ラブライブ!』のスマホゲームを紹介する記事のかたちを取りながら、サムネイルから参照画像までがすべて自分の推しキャラである星空凛ちゃんで埋められており、なおかつゲームとは関係のない凛ちゃんへの愛も語られ、とにかく記事全部から「星空凛が好き!」の気持ちがだだ漏れている。

でも、そこがいい。すごくいい。僕もラブライブ!は好きでわかるのですが、何かあるごとに「佐藤記者の凛ちゃん記事はまだかな」と期待する自分がいました。

これまでのメディアにとって「コンセプトに沿って書くべき情報を発見する」のが大事だったすれば、次は「誰が書いているか」がより重視されるようになると僕は考えています。この「属人性」は2016年以降のメディアにとって重視すべきファクターになる。以下のポストでこの考えはもう少し書いていますので、よろしければ。

他にもありそうですが、こんなところで。みなさんからのハイパーリンクチャレンジへのご参加、お待ちしています!

--

--

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス