記事は「どこを引用されるか想定しておけ」、特集は「全体と部分を瞬時に見ろ」@若林恵の大独演会「編集の分際」より<2>

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
Published in
5 min readOct 3, 2015

雑誌『WIRED』編集長の若林恵さんが3時間語るトークイベント『若林恵の大独演会』に参加してきました。2015年10月3日(土)、会場は東京・渋谷の「Red Bull Studios Tokyo Hall」。若林さんが参加者からの質問にひとつずつ答えていく形式でした。

SNSはおろか、録音や撮影もOKというゆるさでしたので、お言葉に甘えて、聞き書きメモをまとめてみました。いくつか出たトピックより、個人的に刺さったウェブを含めた「メディア」のこと、「編集」のこと、「WIREDの未来」に絞って、それぞれ別立てにしています。メディアのことに続き、編集のことへ進みます。

質問:若林さんはどんな完成形やゴールを頭に浮かべながら、インタビューしたり記事をつくられたりしますか? 完成した誌面、SNSのシェア、読後感など……。

若林:単体の記事で言うと、だいたい外部的な要件でスタートするんですね。インタビューされる人が新しいプロジェクトを発表したとかがあって。「面白いかもしれないからインタビューしよう」って思うわけじゃないですか。小説家の人に新刊をからめてインタビューしようとした時に、文芸誌や『ダ・ヴィンチ』、読売新聞とか、掲載枠が決まっていれば、そこにまず落ちるように考えるわけじゃないですか。

僕らは文芸には関係ないし、読者リテラシーも文芸については高くはない。だから、「WIREDはアイデアとイノベーションのメディアです」と言っているから、その人の活動の中に、その「アイデアとイノベーション」の種を探すのをやらないといけないわけです。テクノロジーを扱っているメディアという前提で、「テクノロジーはどうですかね」って質問をするわけですよね。お客さんとのブリッジを考えて、面白く届くであろうことを聞くと。そして、「おそらくこう応える」という仮説があって、その答えが読者にとってインスパイアがあると思っているので、それが出るまでは時間のある限り粘るわけです。

読者に伝えたいところは、引用されるように明確に

スタッフによく言うのは、Twitterとかで「どこを引用されるかはあらかじめ想定しておけ」と。そこがちゃんと引用されるように作れとはよく言っていて。僕はキャリアがあるので、「ここを読者に伝えたい」と投げたものは、そこがちゃんと引用される。僕はあんまり外さないです。「誰に、どういう言葉を引用されたいというのを明確にしろ」とは編集部のスタッフにはよく言っています。

特集は「全体と部分」を瞬時に見続けて調整する

特集をつくる時はまた別の考えがあります。トータル40ページあれば、頭に4ページ、次に8ページって構造化していくので、それをつくるときにどう組み立てるかというと、「柱」にな企画を置いて、その周りや上下に配置していくんです。ビジュアルで見せる記事が10ページあるなら、前後には上に4ページのテキスト、下に6ページにグリッドでつくる情報モノならページネーションとして綺麗だねって想定できる。バリエーションはあるけれど、ある種のパズルですね。

それを企画書にするけれど、実際に取材へ行くと変わったりもするので、「全体と部分」を見ながら調整していますね。この調整を僕は面白い作業だなと思っていて。特集の全体みたいなものって、パーツが組み合わされば全体になるかというとそうでもなく、全体と部分を行き来しながら見ないといけないんですね。

それはあらゆるクリエイティブの仕事はそうだろうと思うんですが、あらゆる全体に細部が影響し、ディテールに全体が包括されないといけない。全体と部分を同時に見ていく、同時というより瞬時に見る、みたいなことをしているんだろうと思うし、それがスキルだと思います。

テーマに関する「点」を押さえて、いかに「円」をつくるか

たとえば僕らがやる仕事って、「お金の未来」がテーマなら、それにまつわる話は山ほどあって、どれかを取り出すわけじゃないですか。そのテーマ群に関して、「点」を抑えていくわけです。どこの点を押さえれば「円に見えるか」を考えていくんですね。それを均等に取れないと、円が八角形になっちゃったりする。これにはいろんなやり方があって、細かい点をすごく均等に配置して円にする……たとえば、「なんとかなんとかをめぐる100個のなんとか」とか。

完成形に関して言うと、漠然としたイメージしか最初はなくて、こういう感じで届くといいかも、みたいなことはあって。デザイナーやアートディレクターに言うのは「この特集の表紙は白だよね…」みたいなくらいで。まぁ、デザイナーたちにも考えはあるのでたいていそうはならないんですけど、そうやってパーツを組んでいって、僕は自分に都合のいい性格なんで、出来上がるとイメージに近いものにはなっていて、そのイメージに向かっては進むのかなという気はしているので。

最初に、イメージは割と漠然としていて、誰にテキストを書いてもらうか、カメラマンは誰で写真はどんなものかといったある種の具体性はあって、どういうニュアンスを届けるかの設計はあるんですね。

日本人はいまも、横を見て横並びで安心することはあるけれど、WIREDで大切なのは「いかに横を見ないか」だと思っているんですよ。スタッフなんかは他のメディアをよく見ているみたいだけど、僕は全然見ない。極論を言えば、僕が出版業界を背負う必要はないし、それがなくなってもWIREDが残っていればいいわけだから。それがうまくいってきた、ひとつのポイントなんじゃないか思います。

(この記事は、長谷川賢人のブログ「wlifer」掲載のものを転載しました

--

--

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス