駆け出し編集者が押さえたい本、そして「これからの編集」を考える:佐藤慶一×小川未来×前島恵@下北沢・B&Bイベントより

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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13 min readJun 2, 2015

2015年3月25日、下北沢の「B&B」にて行われた若手編集者のトークイベントを聞いてきました。テーマは「ウェブ生まれの編集者が本屋で語る、これからの編集・メディア論」。登壇者のうち、2名は大学を卒業したばかりでこれから新卒入社と、若い世代です。登壇者は下記3名。

・佐藤慶一さん(フリー編集者。講談社のウェブメディア「現代ビジネス」の企画編集/ライティングなど。ブログ「メディアの輪郭」でも知られる)
・小川未来さん(アシスタントエディターとして、菅付事務所でアートブックや新書の編集に携わる。「livedoor」ポータル上のタイアップ記事制作をサポート)
・前島恵さん(株式会社kairo代表取締役。ウェブメディア「credo」編集長を務める)

モデレーターを務める前島さんはイベントを始める際、「今回は書籍をベースにした話にしようと思います。なんでかというと、対談は身のあるものになりにくいのがあって、いつもブログなんかで言っていることの上塗りになったり、議論が咬み合わなかったり、お客さんに予備知識がないものを聞かせてしまったりするから」と言いました。B&Bという「本屋」でやる意味を考えても、良いテーマ設定だと感じました。

選ばれた本は、佐藤さんと小川さんが「駆け出しの編集者として、実際に役立っているものを選んできたら10冊ほどかぶっていて、そのうち5冊ほどをピックアップした」そうです。以下、印象に残った聞き書きメモを、ざっくりまとめてみました。

「ポパイはこう思う」と、なぜウェブメディアは言えないのか

まず取り上げた本は『編集者の時代 雑誌作りはスポーツだ』 (マガジンハウス文庫)。当時、雑誌『ポパイ』の編集長だった木滑良久さんが書いた編集後記をまとめた一冊。

小川:この本からは編集者の「姿勢」や「志」にインスピレーションを受けます。いまのウェブメディアや紙雑誌にはないテンション。イデオロギーといってもいい。主張したい文化が込められた「偏ったもの」で、それで一冊を成している稀有な本。ウェブには「アフター」という概念がないのもあって、編集後記もない。いま、この本を読むことでニュートラルに「編集者」を考えられると思いました。

前島:象徴するような文を1つあげると「ポパイはこう思う」。媒体に人格を持たせる、これがポパイに許されていた。いまのウェブメディアにはあまり許されていない。万人向けのコンテンツを打ち出してPVを稼ぐということになっていて、僕らはそれに危機感を抱いてもいる。でも、なぜウェブだとイデオロギーが打ち出せないんでしょう?

佐藤:僕はウェブの経験しかありませんが、1つはキュレーションメディアやバイラルメディアというSNS上で拡散されるコンテンツ、コピーして安いコンテンツを見ていて思うのは、ウェブは「トレンドにのる」「時代に合わせる」人や媒体が多いのですが、紙の雑誌は「時代をたぐりよせる」感があって、編集者としてパッケージとして、手に取れるものとして打ち出している。特集系のウェブメディアをやることは、ひとつの解決策ではあるけど、広告がそこでネックになるのかなと。

小川:僕も仕事で、A/Bテスト的なものでコンテンツの味付けをすることがあるんですが、そこで自分が「ぜったい正しい言葉」だと思っても、「同じ意味で別の言葉に変えたらPVがあがったから言葉を変えよう」という積み重ねが行われているのがウェブメディア。単語や切り口において数字的な観点が左右するのだけど、それはPVや広告的なところでの「正義」だからですね。でも、それは編集者がやるべき仕事なのか、どうか。たとえば、この本だと、「ポパイは思う。アイスホッケーこそ最もエキサイティングなスポーツである」。今の時代だとできない打ち出し方で、ノリで言っているところもある。テンションみたいなところが許されないのが、ウェブメディアの世界だと思ってもらえたらと。

佐藤:ウェブだと読者目線になっちゃうので、1つずつ読者の求めるものを積み重ねるしかないのだけど、ポパイは上から、天井を決めて、逆算して作っていっているのが違いですね。(関わっている「現代ビジネス」の場合)ビジネスメディアは限られていて、強みはそれぞれですが、現代ビジネスは深い解釈や読み物で、コラム寄り。ただ、現状はアンバンドル(ばらばら、記事の単体流通)で、パッケージができないところで、どうやってソリューションがあるかなと。要するに、僕がやっていることって、1本の記事というのは、雑誌の1ページの途中を拡散するようなジレンマがあるんですね。本当は紙と一緒でトップから入って欲しいけれど。

小川:ウェブメディアの対局は個人ブログですね。ニュースも出しながら、主観もだしていく。

佐藤:Wiredという雑誌は、編集長の若林恵さんが、毎回、「特集に寄せて」という紙と同じものをウェブにも載せていて、読ませるのが面白い。

小川:最初のページに、必ず若林さんのある種の「ポエム」があって、今回の特集を読むべき理由や面白みがほのめかされている。若林さんの場合はそれが単体で成り立っていて、クオリティが高いとわかる。糸井重里さんの「今日のダーリン」的なものも同じですね。

メディアの稼ぎ方では、読み放題サービスに注目

次に引き合いにだしたのは、『ブランド「メディア」のつくり方―人が動く ものが売れる編集術』。

佐藤:繰り返し読んでいる本です。結構、紙とかウェブ、フリーペーパーの責任者や編集長が書かれているものを集めた本。ウェブは1ページごとに読まれたりすることもあって、そのウェブメディアの「ブランドづくり」が難しい。でも人が動く、ものが売れる、という点をこの本は「ブランドメディア」と捉えて、紹介しています。たくさんの人がいるので、サンプルとしてよい本だと思います。5年前の本だけど、今にもつながるところがあります。

ここでは、国内外のウェブメディアを「メディアの輪郭」でみている佐藤さんから、海外事例を含めた現在のマネタイズをレポート。中でも、サロン型ウェブメディア、コミュニティビジネスについては面白い言葉があったなと思います。

小川:梅木雄平さんのサロンに入ってみたのですが、あれはFacebookのクローズドグループでやっているんですけど、いろんな話題が出ていて、中には社長さんがいたり、学生もいたりして、数百人いる。梅木さんの役割は「梅木教祖」ではなく、「ひな壇芸人」の役割で、ツッコミをもらう。投稿もツイートに近いもので、「これってどう思う?」などと問いかけたりもする。いままでのメディアは一方通行だったのに、クエスチョンを投げることで、アンサーや別の質問を引き出していく。潜在層を含めるとわからないけど、コメントを多くしている人は数十人。漫画とかにある、地下闘技場のイメージ。あとはアプリの「755」に近いイメージはある。僕は突っ込まれビリティという言葉が好きで、これはある種の才能であって、梅木さんはこれを持っている。ウェブにおいて炎上体質というのはいい。紙に突っ込んでも返事来ないですしね。

佐藤:ウェブは読者がリアクションすることで記事が完成することもあるので、突っ込まれビリティや隙は大事ですね。僕はすごい音楽フェスに行ったりするんですけど、1日券を買っても全部見ずにつまみ食いしたりする。権利を行使してもいいし、しなくてもいいという自由は大事なのかなと。

あとは「読み放題系サービス」も注目しています。雑誌ならdマガジン、音楽ならSportify。なんでかというと、僕はウェブメディア化をしぶっていた出版社にとって、「雑誌のウェブ化は何の解決にもなっていなかった説」というのを個人的に思っているんです。やっぱり読み放題にすると、大手キャリアがやっていることもあってユーザーもいるから、お金も帰ってくる。雑誌からコンテンツ化したりページ単位で売ったりするようなのではなく、記事単体ではなく、束の方に参加したほうが読まれる。だから、いきなり紙からアプリが正解だったのかもしれない、というのを、読み放題サービスが体現していると思う。

小川:権利購入式と近くて、いつでもアクセスできること、検索できることが大事。大宅壮一文庫は見出しが電子化されているので、欲しいキーワードを検索すると調べられる。大宅壮一文庫と国会図書館くらしいしか今はできないけど、dマガジンでもできるようになると、ウェブで雑誌を展開する意味が変わってくる。「浜崎あゆみ」の情報が欲しければ、検索したら、10年前のインタビューでもすぐに遡れるようになるから。いま、本当に編集をやりたい人はどの会社入っていいかわからないよね。個々人で問われているのだなと思う。

佐藤:キャリアを、立ち位置を選ぶ、というのをしないといけないよね。キャリアも選び放題ということです。

編集の「定義」からキュレーションメディアやバイラルメディアは外れている

菅付雅信さんの『はじめての編集』も挙げられました。

小川:僕は菅付雅信のアシスタントを1年やっていたのですが、紙やウェブやテクノロジーなど多様化してわかりにくくなっているところで、おのおのちがっていいんですが、編集者の定義や歴史はさらうほうがいいだろうという時に、読むべき本としておすすめしたい。編集者になっていいかと迷う人にも。僕が編集者に憧れるきっかけになった本。

この本では、編集の定義を「企画を立て、人を集め、ものを作る」と書いています。これは過不足ないと思います。現状で思うのは「人を集める」の部分。キュレーションやバイラルの記事は人を集めていない記事が多い。そもそも無から有を生み出す、人を動かしたり、社会問題で解決したいものを実現したりするのが企画なので、いまあるものの「包装」を変えるだけというのは、「まとめ」は「ものを作っている」かもしれないけど、ここを満たしていないから、「編集」を満たしていない。いまは自信をもって「編集」じゃないんだと言えますね。

それから、夜の2時に菅付に原稿を渡すと、すぐにメールが返ってくる。編集者の仕事は「すぐ返事すること」と菅付も言ってますけど、じゃないと人が集まらないから。

佐藤:編集本がかっこいいことにフォーカスされがちなのだけど、人を集める、企画を立てることに、編集本に重きが置かれているのかなと思いますね。この本はベーシックだけど、本質を付いているので、僕もよく読み返しますね。

編集という言葉は拡張し、変容し、拡大しています。ウェブメディアの方面から見ると、Facebookのアルゴリズムもそうですけど、人工知能で記事が届くかどうかがわからなくなると、アルゴリズム設計の人、テクノロジー寄りにいた人が、編集のコアな部分にもなる「流通」を握っていくのかなと思いますね。スマートニュースもWBSに出た時に「人工知能が編集長」と言っていて、逆に人が何をしなくてはいけないかが浮き彫りになっていく。

小川:編集者はサービス業だと思っていて、さっきのメールを2時に打ったら返してくれるのもそうだし、リアルの取材でおいしいケータリングを頼むのもそう。おいしいもの食べればイベントもスタッフのテンションも変わりますもの。そういった見えないこと、泥臭いことは、編集の徒弟制度が変容しつつも受け継がれることだと思いました。暗黙知的に受け継がれるもの。このあたりは編集本には書けないし、書かないところ。

佐藤:ウェブメディアの編集をやっていると、キュレーションやバイラルだと「どうやって稼げるか」という道がなんとなく見えているじゃないですか。そこは効率化や機械化の文脈になっていて、そこが見えているからこそ、そこから外れることにバリューを出しやすい。みんなが同じ道を行っているからこそ、外れて、ヤブの中に入っていくようなことを僕はやりたい。あとはコンテンツづくりも無駄を省きがちになっていくので、紙メディアのように「誰かにとってのノイズ」かもしれないけど、「誰かにとってのはキレイに受け入れられること」になるようなことも大事かもしれない。

小川:僕の尊敬する編集者数人が言っているのは「インタビューが編集者の基本」だと。人にアポをとって、コンテンツを引き出し、というのはサービス業としてのスキルが問われる。インタビューって1対1で人を集めていることなので、尊敬する編集者はたくさんのインタビューをやっていると思います。この人とこの人は組み合わせるとだめ、とかも編集。

3人にとって、これからの「編集」とは

前島:編集は「創造性の創造」。人や物の創造性を引き出すのが編集なのかなと。ウェブは都市工学と対比で語られることがあって、都市は人が暮らしていて、プラットフォームだとすると、日本でも1960年代に語られていたことに近い。型が決まってしまうと、人間の振る舞いがつまんくなっちゃうんじゃんという流れがあって、もっと人間らしさを追求していこうよということがあった。ひとつは建築で荒川修作など。コンテンツの側は、つくられたプラットフォームを読み替える、寺山修司などがいた。僕は建築側なのかなと思っていて、アーキテクチャともいいますが、「自然に振舞っているのにいい感じになっている」のを目指そうかなと。

佐藤:編集は「新しい関係性を見つけて、提案すること」かなと思っています。コンテンツをつくるときに新しい文脈を出してしまうとついていけなくなるので、一歩先ではなく「半歩先」をいく、新しい懐かしさを作りたいなと。三谷幸喜さんの言葉にある“期待に答えて、予想を裏切る”というのをやりたいです。そして、「時代を引き寄せる」というのを頑張りたいなと思います。

小川:編集は「まだ社会に居場所がないヒト・モノ・コトを企画とサービスで価値にしていくこと」。僕はいまはやっているものに興味はなくて、まだないものを予想もしなかった切り口、企画、気遣いで社会に提案していく価値にしていきたいとおもっています。システマティックに硬直化する社会に非現実的を押し込んで、未来をつくっていきたい。

(長谷川賢人のブログ「wlifer」より全文転載)

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Kento Hasegawa
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長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス