広告換算はもう無意味?大事にすべき数字と価値:「LINE×メルカリがほしい“新しい広報像”とは」トークイベントより

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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11 min readSep 28, 2016

2016年9月28日(水)、渋谷のイベント&コミュニティスペース「dots.」にて、トークセッション『LINE×メルカリがほしい”新しい広報像”とは』が開催されました。

ともにC向けのサービスを提供し、グローバル展開も盛んなこの2社が共同で広報・PR担当者向けmeetupを開催します。ユーザー拡大のためのサービス広報や、採用・企業広報、急成長過程における広報戦略などなど、中々語られない内容(──イベントページの概要より

セッションに登壇したのは、LINEでマーケティングコミュニケーション室長を務める矢嶋聡(やじま・さとし)さん、メルカリ取締役の小泉文明(こいずみ・ふみあき)さん。モデレーターは『日経FinTech』編集長の原隆(はら・たかし)さんです。

名実共に拡大を続ける2社ですが、広報やPRに携わる人数は「LINEは国内8名、海外4名」で「メルカリは3名」と意外に少人数のよう。以下、組織図です。

LINEの広報系組織図
メルカリの組織図

現場で共通しているのは「コアバリューを伝え続けること」。そして、露出による広告価値や小手先の戦略だけに頼らず、「広報という仕事」の根幹を大切にする姿勢に思います。

さらに、広報に求められるスキルに、小泉さんは「デザイン力」を挙げますが、言い換えれば「編集力」といえるなと僕は感じました。

さてさて、なんでもメディア取材は6社ほど来ていたそうなので、面白い考察や鋭い指摘はみなさまに期待するとして……およそ1時間20分にわたるトークセッションと質疑応答より、聞き書きメモをまとめます。

「中庸の人」にこそ価値を伝え続ける

原隆さん(以下、原):
LINEも最初はSNSを使って地道にやり、その後はCMでガッと伸びました。ただ、当時は反韓ブームで、「韓国の会社が日本で開発して」という感情にはCMで対応しきれないものがあったと思います。どういう心がけで対応していましたか?

矢嶋聡さん(以下、矢嶋):
文句を言う人は言うのでしょうがない。どちらかというと中庸の人、どちらともいえない人に色が変につくのはよくないから、大事なことはコアバリューや価値の提供をちゃんと伝え続けること。僕らはオープンコミュニケーションのFacebookやTwitterではなく、クローズドに大切な人とのコミュニケーションに役立つことを伝えました。

あとは誹謗中傷やノイズに対してSNSの活用でいうと、個別で直接的に対応していった。SNS担当も実際、中庸で揺れてる人も個別に対応すると話をわかってくれたそうなので地道にやったと。極右の人は価値観ですから仕方ないし、そこはケアをしない。僕らがバリューを適切に人へ伝えるのが大事かなと。

原:
メルカリも取り扱い品目うんぬんで似たような話がありそうですね。

小泉文明さん(以下、小泉):
違法かどうかという話が前提にあります。違法はまずい。でも、メディアが突っかかるのはモラル的なこと。だから、違法でない限りは利用規約の中での透明性を大切にしました。そこで議論が分かれる以上はメディアと会話しても答えが出ないので、(透明性を)言い続けるしかないと思います。

矢嶋:
各論になると収集がつかないですから、言い続けるしかありませんね。

小泉:
利用規約だけでは伝わらないこともあるので、噛み砕いたガイドを用意するのも大事かなと。

原:
規模が大きくなって社会性を帯びてくる面もあると思うのですが、LINEなら犯罪で使われた、なんて言われ方もしますね。嫌だったでしょう?

矢嶋:
それは嫌といえば嫌です(笑)。でも、新しい価値やサービスができるときって、一般の理解が追いつかないこともあるので過渡期は仕方ない。割り切りは必要で、会社としてやるべきことをやる。

殺人やいじめという問題は、全国の学校をまわって、アプリの使い方よりも「人と人とのコミュニケーションの問題である」ことを大切に、デジタル上でも相手りきのコミュニケーションのとり方に関するセミナーを年間1000回くらいやっていて、CSRチームが担っています。

直接的な効果よりも、やり続けることに意味があるかなと思います。自動車がでてきたときもきっと同じような議論があったと思うので、LINEが普及するにつれて、一般やメディアの理解が追いついてくるときに納得できるはず。

小泉:
mixiでの経験から、メルカリにも必ず同じ問題が起きると思い、僕らは2つのことをやりました。

まずは、数値でエビデンスを持つためにカスタマーサポートに力を入れた。問い合わせ件数や警察事案の件数など、材料になりそうなデータで取れるものは取るようにして、その数字をもって自分たちから警察や主婦団体に話に行く。相手によって出す数字は決めています。数字がないと感覚で議論してしまいますからね。

「知らない会社が知らないことをやり、野放しになっている」のが彼らがいちばん嫌がることなので、数字をもって話に行くと急に態度が変わったりする。そういう人にはメディアも取材しにいくので、全体として仲間になっていくと。ネガティブにメルカリがなりにくいのは、細かい数字を出し続けて、地道に話し続けていることも大きいですね。

広告換算よりも大事にしたい数字

小泉:
広報のKPIで、露出の広告金額を換算するのは本当に意味が無いと思っていて、僕らはDL数や採用数といったユーザーが動くのにダイレクトに結びつく数字に、いちばんテンション上がりますね。

あとは「外の意見」を中にどうフィードバックするかも大事だと思っています。ネガティブな意見に一理あると思えば、プロダクト側にきちんと伝える、勉強会を開くなど、外からの声に嫌な思いもするけれど、そこからの学びをちゃんとフィードバックしないと、いつまでも逃げて終わり。広報の悪いところは「嵐が過ぎ去るものだ」という感覚があるところもあるが、それで結果的なラッキーもあるけど、課題に向き合っていけるが会社が筋肉質になれるかの分かれ道かなと。

矢嶋:
うちもKPIはないです。広告換算は無意味だと思いますし、どうしても手段が目的化するというか。金額換算だとメディア露出を重視しすぎて本質的でない。

僕らは出したいタイミングに出したいメッセージを仕掛け、それが狙った通りにまわるかどうか。世の中全体の影響量を考えたときに、どのメディアに出るとどう広がるか、どれが狙い通りか、それが大きいかなと思います。いまは8人の広報チームで全体が見えているのもあるので、人数が増えたところで個々人の目標設定をしていくようなところもあるので、そのフェーズで(他のKPIも)見ていこうかなと思います。

『テラスハウス』狙い撃ちCMの裏側

原:
テレビCMで伸びた意識はあるはずですが、メルカリはPRや広報に何を求めていましたか?

小泉:
僕はPRと広報をどっちもみていますが、メルカリに関して言うと、ずっとオンラインの整備や仙台にカスタマーサービスを準備をするなどしてから、資金調達をしてテレビCMに打って出た。PRでは、3億円をかけるバジェットがあれば、つい全体を狙いたくなるけれど、当時は『フリル』に負けていたから、コアなところだけ狙いに行ったんです。僕らは20代の女性が最初に欲しかったので、『テラスハウス』を観ている人だけを狙った。ふつうと真逆のことをしたわけです。そうすればフリルにも圧倒的に勝てると思った。CMは読みが当たったと感じています。

そのときに、広報には採用コンテンツだけに注力させました。山田(進太郎CEO)には中長期的なことをメディアでもたくさん語らせて、資金調達のニュースと共に流れることで、優秀な社員を多く採るようにした。人数が少なく手が回らなかったというのはありますが、そういう極端なことをやった。

効果的な広報とPRは「上流」に絡むことから

原:
PRと経営陣の距離感が両社とも近い感じがします。でも通常は難しい会社も多い。なぜ経営陣のコミュニケーションが近いのでしょう。

矢嶋:
事業戦略と広報とマーケティングはセットである考えを持っています。いかに自分たちの価値観を伝えるかは、プロモーションも大事だし、広報も大事という理解が前提にあるのが大きい。どういうプロダクトなら取り上げてもらえるかを、上流のところから言ってきているのでやりやすい。取材対応でも、我々が言う方向性に(経営陣が)理解を示してくれるのは大きいのでやりやすいかなと思う。

小泉:
人事と広報を僕と一緒の丸テーブルに集めている。僕はこの2つって、人件費と広告宣伝費で、会社の2つの大きな予算だと思う。ここは極めてブランディングに関わるが、すごくファジーに腹を決めないといけない部分なので、経営陣がみないといけない。責任をとらせるにしたってテレビCMなんて金額が大きすぎる話もありますから、僕の感覚的なところもあるけれど、経営陣が見ないとかわいそうなくらいだと思う。それから、広報は会社の代弁をする立場として難しいところもありますが、僕らの考えを聞きたがるので、ささいなことでも伝えるようにしていますね。

原:
経営陣の理解がない場合はどうすればよいでしょう。

小泉:
スマホアプリは差別化が難しいので、プロモーション勝負が結構あると思っています。ファンクションとプロモーションの2つをどう設計するか。いいものを作ったら絶対に(当たる)っていうのは、僕はもうその時代は終わったなと感じています。特にUSでは、毎日量産されるアプリが半端ない数あって、セレブが投資すれば伸びるなんてこともある。だから、そこをわかっていない経営陣は勝つ気がないんだなと思う。勝ち方の手段をひとつをなくしている。自分たちがどれだけユニークで、どれだけメッセージがあるのかを伝えないといけないと思いますし。

矢嶋:
ROIに厳しい経営者ほど広告換算は見るでしょうし、効果的な露出をいかに重ねていけるかでしょう。露出を積んで理解を深めていくしかないのかなと。地道に結果を出して示していくしかない。

広報は「自分でデザインできる」仕事

原:
どういう人に入社してほしいと思いますか?

小泉・矢嶋:
待ちの姿勢でない人。

小泉:
広報は自分でデザインできるじゃないですか。そういうフリーハンドにできる仕事なのに(その仕事を)放棄している人が多い。情報のデザイン力は大事だなと思いますね。そこの設計をどうできるかで、プロダクトへのフィードバックもできる。そういう力を問われる時代で、人脈で記事を書かれる時代は終わりつつあるのかなと思います。

矢嶋:
マスメディアが大きかった時代から、ソーシャルメディアも出て、直接コミュニケーションできるし、「広報命!」というのではなく、広報ができる限界を知った上で、上流から考えられる人はほしいですね。

間接的な接触が社員のモチベーションを高める

質問:
「この企業のPRはすごいと注目しているところ」

小泉:
企業ではないのですが、昔は社員に経営者がメッセージを伝えれば、みんなで「えいえいおー!」とモチベーションが上げられていた。でも、今は「自分の会社がSNSでどう言われているか」でモチベが上がっているのもあるので、(ソフトバンクの)孫さんはわざとメディアに言わせて、それで社員や選手をモチベートしているように思う。社員も間接的に言われることで響くようになっているのではないか。それで「うちの会社ってこうなんだ」と理解するというコミュニケーション設計をしています。

原:
外部メディアを使って社内報をしているような。

小泉:
「TechCrunch」の記事をみんながシェアして、それで自分の会社を知るような。そこも含めて広報がデザインする時代になっているんだと思います。

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Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス