地方は絶望的だからこそ面白い:仲俣暁生×都築響一×ミネシンゴ 文禄堂高円寺店トークイベントより

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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8 min readOct 31, 2016

2016年10月29日(土)、書店の「文禄堂」高円寺店にて、『本屋<で売ってない本>大賞 ♯本屋とデモクラシー』が開催されました。

登壇者は、電子書籍やウェブで変わる雑誌/メディアの動向を追う「マガジン航」の編集発行人・仲俣暁生さん、編集者・写真家で有料メルマガ「ROADSIDERS」を毎週発行する都築響一さん、美容文藝誌と銘打つ雑誌『髪とアタシ』編集長で出版社「アタシ社」代表のミネシンゴさんです。

トークタイトルは文禄堂スタッフが付けたそうで、本人たちはあんまり「大賞」感を意識せずに、東京⇔地方、紙書籍⇔電子書籍など、本やメディアにまつわることで場は盛り上がりました。

今回のトークイベントより、「地方に面白いものが出来始めている理由」の一端を見ることができた部分について、聞き書きをまとめてみました。

ZINEは増えたが、面白くないものも増えた

仲俣暁生(以下、中俣): 都築さんって、最近は本屋に行きますか?

都築響一(以下、都築): 最近はあんまり。東京ではめったに行かない……あぁ、地方では行きますね。ネットからこぼれた地方出版物を探しに。いまは毎月の半分は地方にいるのですが、地方出版物を探すのはやっぱりネットでは無理なので、地方にある大きめの本屋やブックカフェ、あとは図書館に。雑誌はあんまり探していないですね。単行本ばかり。

中俣:『髪とアタシ』は知っていました?

都築:いや、贈ってもらって始めて知りましたね。

ミネシンゴ(以下、ミネ):『圏外編集者』を読んで、そろそろ送りどきかな、と満を持して贈りました。

都築:そうなんだ。『髪とアタシ』は面白くて、それはふつうだから。小さなZINEから何から今はあるけど、だいたい「ひらがなタイトル」のに面白いやつはないね(笑)。だいたい「無添加のパン」とか「手織り」がどうとか……なんか、ぜんぶジジ・ババくさいし、ああいう風潮が僕は個人的に嫌いで。だから、そうでないものを探し当てると楽しいですね。田舎のスケートボードショップで売っている、そいつらのZINEとかね。

仲俣:ミネさんの拠点は逗子で、鎌倉でしょう?「鎌倉のタウン誌」というか地方の雑誌も同時につくっているというけれど、そういう意味で東京でない場所に拠点があるっていう意識は?

ミネ: あります。東京と遮断できるギリギリの場所を考えると、「半径50km圏内くらいがちょうどいいくらい」という意識は持っています。今はローカルや移住とかの話が注目されていますけど、たとえば「和歌山県へ行ってみて!」と、いきなり言われても難しい。たしかに情報もあるし、ネットがあれば生活できるけれど、とはいえ「ド」がつくほどのローカルへ行くのはイメージできない。それで、どうやって東京とうまく付き合うかを考えました。週2〜3で東京には来るし、(逗子は)絶妙なポジションかなと。

現在では『TOKYO STYLE』が作れない理由

仲俣:都築さんは拠点、いかがですか?以前は京都にも拠点があって、バンコクにもあって、それらをまわっていると聞いたので。

都築:基本は東京ですけど、今は地方のビジネスホテルで暮らしている感覚ですね。「アンチ東京」という背を向けているシーンが着実が生まれているので、僕にとってはそちらが興味深いですね。東京の人はそのシーンをわかっていないけど、それがいろんな街で切実に感じられますね。

仲俣:たしかに、東京は出版においても最大の生産地かつ消費地なので、東京にいるとわからないことが多いんですよ。東京でメディアを作って消費しているだけだと、大事なものに気づけないなぁって。知らないことはもっと起きているはずだ、という思いがある。

都築: 東京なんてマイナーですよね。本当に東京出身の人なんて、東京にいたって10人中1人くらいしかいないわけですから。

仲俣: 戦略的に離れたミネさんにとって、アンチ東京の部分はあります?

ミネ: そうですねー……サラリーマンをやめたせいもあって、余計な飲み会は減りました。人間関係のあれこれも。あとは地方出張も増えてきている中で、東京でストライクに面白い物があるかと言われると、意外とないかもしれないと思います。先日、広島へ行ったら街中が(東洋)カープであふれて真っ赤になっていて、それは羨ましいと感じました。逗子も横須賀が圧倒的に面白くて、ジャズもバスケも不良文化も残っている、「若い人の街」を感じる。そのあたりは東京を離れて見えてきたことですね。

都築:僕も昔は茅ヶ崎に家を借りていたけど、逗子は夏になると「モリは裸で持たないように」なんてバスに張り紙がされていて、頭がおかしいんじゃないかと思った。うん、夏を除けば逗子は好きかな(笑)。

中俣:東京で思い出すのは、都築さんといえば『TOKYO STYLE』ですね。

都築:『TOKYO STYLE』は、今では作れないと思う。昔は東京に出てこないと何もできなかったんだよね。音楽やるにしたってなんだって、万難を排して上京するしか手段がなかったけど、いまは(インターネットで発信もできるようになって)出て来る必要がない。バンドも宅録でいいし、小説を書くのだってそう。

だから東京に無理やり出てくるモチベーションがないし、若い子が苦労して住む必要もない。こういう(『TOKYO STYLE』に出てくるような)狭い家だけど頑張って暮らそう、みたいな熱気はないよね。

地方ラッパーの取材をしているとさ、「バビロン(※権力者を指すスラング。政府や警察などを指す)が〜」とか言ってるけど、そいつも意外と実家暮らしだったりするしさ(笑)。そいつは「昔は悪さをしたから、これからは親孝行したい」なんて言うけど、それでいいわけ。

絶望的な状況だからこそ、面白いものがうまれる

都築:地方にはブックカフェも増えていて、高円寺なら1億円くらいかかっちゃうのだって、地方なら100万円で済む。「やりやすい」ということは「無理せずにできる」ということ。だから、可能性は地方のほうが100倍あるわけですよ。それは東京にいるとわからないことですね。

なにより「周辺部」って、ネタの宝庫ですから。いまは福岡で展覧会をしていて、九州のあらゆるものをぶちこんでいるけど、そこで唯一扱っていないのが福岡市。福岡がいちばんつまらない。東京しか見てないから。福岡は佐賀のことなんて「属国だ」くらいに思っていますから(笑)。

そういうふうに地方を見ると面白くもあるけど、ただそれをもって「地方文化が花盛り」というのはちがう。シャッター商店街はどうしようもない。若い子の雇用がない。20歳の子の働き口がケータイショップかコンビニしかない。女の子ならあとはデリヘル行くのか?みたいな。

仲俣:高円寺も「素人の乱」みたいなお店もあって、奥のほうまで行けば地方都市みたいですけどね(笑)。ただ、何もしないほうが結果的にその地区内でのお金のめぐりがいいので、何もしないで死んでいくみたいな状況はありますよね。

都築:でも、そういう絶望的な状況だから面白いものが生まれるんですよ。生活が豊かだから面白い表現が生まれるわけではない。ひどいから歌にする、ひどいから書かざるを得ないということがあるんですよね。それからミネさんみたいな人に「鳥取に行けば家賃5万で広い家に住めるよ」って話があって行ったとしても、シャッター商店街なんてだいたい貸してくれない。しまっているけど奥には人が住んでいるから借りられない。それに、外部から来た人にはそうそう貸してくれない。結局さ、「町おこし」なんて言ったって、お前ら自分で殺してるんだろうと。街は起きたり寝たりはしないんだから。その閉鎖感、閉塞感はすごいですよ。

仲俣:その感じ、鎌倉にもあります?都市だからないのかな。

ミネ:それはないですねぇ。排他性のなさが売りだと鎌倉は言っているので。逗子のほうがよりローカル感は強いので、マクドナルドの前でうんこ座りしているヤンキーなんかはまだいますけど。

都築:そうだ、あと、「地方の本屋には面白いのがある」っていうのは僕もそう思うけど、それは面白くないと生き残っていけないからだよね。みんなイオンに行くわけで……。だから東京の本屋はそこまで追い詰められていないんですよ、たぶんね。それでも客がいるってわけだから。地方の商店街で本屋をやろうとしたら、生き残っていけないもの。やっぱりそういう「ひどい状況」が面白いものを生むって思いますね。

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※今回のトークイベントは、鷹野凌さん @ryou_takano さんが #本屋とデモクラシー のハッシュタグで実況ツイートしてくれてますので、もっと知りたい!という方はそちらをどうぞ。

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Kento Hasegawa
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長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス