創刊1年で1600万UVのBuzzFeed Japan、古田編集長が語る「急成長の3つの要点」と「シェアされる記事の作り方」

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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16 min readJan 21, 2017

2017年1月19日、BuzzFeed Japanの1周年を記念したパーティが都内の某ホテルで行われ、幸いにも参加者からご招待をいただきました。

当日は「えらい人からのご挨拶」だけでなく、さまざまな講演コンテンツが用意され、メディア業界の人なら思わず聞き入る内容。

「これは聞きたい人も多いだろうなぁ」と思っていたら、その模様がFacebook Liveで中継され、アーカイブも残っていました。

そこで、個人的にコンテンツやメディア作りのヒントがいっぱいだなぁ、と感じた、古田編集長の『創刊1周年と今後の展望』と題した講演を聞き書きして、まとめました。

省略した部分もありますので、全貌は上記の動画をどうぞ。

BuzzFeed Japan、急成長を叶えた3つの要因

BuzzFeed Japanは2016年1月19日に創刊し、8月には月間UV1000万、12月には月間UV1,600万人を突破。また、後発でスタートした主に料理動画を扱うTasty japanも、2017年1月にフォロワー360万人突破と急成長。

古田編集長は、その要因を3点挙げます。

1.ソーシャル+プラットフォーム戦略
Facebook、Twitter、Instagramでシェアしてもらい、拡散してもらう。もともとBuzzFeedが強い戦略。さらに日本独自の強力なプラットフォームであるYahoo!、SmartNews、LINEといった「すでにユーザーがいる部分」でオーディエンスリーチを取る。

2.データ分析に基づいたオーディエンス理解
BuzzFeedのテクノロジーと、優れた分析手法で、日本のオーディエンスはどういうコンテンツを望んでいて、どういうふうに書くとより多くシェアされるか、深く読んでくれるかを理解する。

3.30人を超える編集部員
オーディエンス理解をもとに、新聞や雑誌、ウェブなど出身バックグラウンドが異なる編集部員でブレストを数多く行い、お互いを鍛え合う。

では、どんなコンテンツがヒットしたのか?

【10万シェア級のバズを得たもの】

それぞれテーマ設定もスタイルも異なるが、この裏側にはBFが分析した一貫したオーディエンス理解がある。

画像にスライダーを付けて、視力のちがいを擬似的に表現。

「視力1.5と視力0.01の世界」は、人のアイデンティティを刺激する記事。資料0.01の人は目の前に指を出されて「これ見える?」と言われたことが一度はある。

彼らは自分の見ている世界を人に説明できないというフラストレーションを常に抱えている。その人たちがこの画像スライダーを見たら「これが俺の見ている世界だよ」とシェアできる。

「昭和の死語クイズ」は、すべて正解することで「俺は昭和だ」と自己紹介をするようなコミュニケーションができる。「当たらなかったー……私はやっぱり平成ね」といったように。

「クリントンのメッセージ」は、まさかの敗北に、涙をこらえながら若い人たちを勇気づけるメッセージをまとめた。

その姿はエモーショナルで感動的。ある人は、このコンテンツを自分の妻にシェアして「子どもに読み聞かせたい」とFacebookに書いていた。クリントン→BuzzFeed→読者と、メッセージをシェアし合えるところにバズを生む要素がある。

【生活の役に立つもの】

人が積極的にシェアしたいと思えるコンテンツであり、BuzzFeedでは「ライフコンテンツ」と呼ばれるものたち。

毎年買うのに「どのサイズを買っていい?ぴったりしたほうがいい?」と、わからない。ユニクロのスポンサードではない。みんなが思っている疑問をユニクロ広報に聞いて解決。だから、みんながシェアしてくれる。

これを書いたライターは元ケーキ屋さん。食べてみると、ほんとうにおいしい。「そんな裏技があったんだ」と思わずシェアしてしまう。BuzzFeedでは「ナレッジ」と読んでいる、他人と分け合いたい知識を披露する。

編集部員の半数が女性。女性に役立つコンテンツも発信している。

【ソーシャルメディアで話題のニュース】

BuzzFeedで最も読まれているカテゴリ。ソーシャルメディア上で人々が話題にしているニュースをいち早く見つけて、取材して記事にする。

「ソーシャルメディア上で話題になっている=人々の関心がある」

だからこそ読まれるという法則。

ソーシャルメディアで話題になっていると各社が記事にするが、BuzzFeedが考えるのは「ちがう切り口」や「ちがうニュースの伝え方」。

Welq問題でMERYが停止した際、そのときのニュースはDeNA批判一色だった。しかし、ソーシャルを見てみると「MERYがなくなって寂しい」という声もあった。そこでMERYが好きな人々を招いて座談会をした。欲しい情報が探せばいつもある、という“MERY愛”を探った。

【調査報道】

昨年は、Welqの記事大量生産のマニュアルを入手し、独自に裏とり+取材をして、明らかにした。

従来の新聞社が担当していた調査報道、独自に調べ、情報を得て、記事を書く、そして世の中にインパクトを与える。

【独自の視点からのニュース】

他のニュースサイトが取り上げない「実は、あまり知られていないこと」を独自の視点でじっくり読む記事。これもたくさん読まれる。

東京都議会で門前払いされた話は、新聞や雑誌には載らないし、ネットメディアは東京都議会にそもそも行かないので、なかなか出てこない話。

子育ての問題も編集部員の半分は女性だからこそ、いろんな人に話を聞いて追っていくテーマ。

【グローバルネットワークを活用したもの】

BuzzFeedは世界11カ国で展開し、ネットワークを持って活動している。

「オバマ大統領に何を伝えたいですか?」と人々に聞いてボードに書いてもらった記事を英訳してアメリカ版に掲載した。広島の人のメッセージを英語で伝えたことには、大きな反響があった。

ボードの内容の大半が「一緒に平和を作ろう」といった希望のメッセージだった。アメリカ人は、広島の人のそういう感情を知らなかった。「彼らは怒っている」と思われていたからだ。

フェイクニュースは「マケドニアの若者が小遣い稼ぎにやっていた」と突き止め、波紋を読んだ記事を翻訳。

BuzzFeed Indiaの女性編集長が書いた記事を翻訳、掲載した。

しばらくして彼女から連絡があり、「この記事を読んだ日本のお母さんから『勇気づけられた。自分の息子には女性を尊敬する人に育ってほしい』」というメールをもらい、すごく感動したそう。インドの女性編集長の思いが日本の母親を勇気づけた。

Tasty Japanの採用で気付かされた「愛」について

料理動画をアップするTastyJapanは、いまも日々数万ずつフォロワーが増えるほどの伸び率。今後は動画広告にも進出する。

TastyJapanを立ち上げる際の採用で、すごくいい男性がいた。動画のセンスもあり、英語も流暢で問題なかった。

ただ、ロサンゼルスの担当者に紹介したら速攻で落とされた。理由は「彼は本当の意味で料理を愛していない、だからだめだ」。

そのときに、本当にその対象を愛している人を雇い、その人たちが集まってコンテンツをつくる、だからこそ伸びる、ということに気付かされた。

インターネットは「もはや仮想空間ではない」

BuzzFeedのグローバルでは「人々の実生活にポジティブな影響を与える」というメッセージを持っている。

そして、BuzzFeed Japanが特に大切にしているのは「理念」。グローバルのメッセージを踏まえて「楽しくて、信頼され、シェアされるもの」を作ろうと掲げる。

2017年には多用な分野で多用なコンテンツを出していく。ファッション、カルチャー、ビデオ……BuzzFeedはグローバルでは20代女性から愛されているが、まだ日本では取れていない層。今後はより力を入れる。

2017年は「Post Truth」の時代。日本のインターネット普及率は80%、1億人が使っている国。すでにネット上で、私たちは友達や家族とつながり、新しい人と出会い、情報を取得し、物の売り買いをしている。

もはやインターネットは仮想空間ではない。だからこそ信頼性が必要。

* * *

BuzzFeed Japanは編集部の規模も桁違いで(ウェブメディアで考えれば50名の人員はとても多いだろう)、インターナショナルからの知見や情報もどんどん流れ込む。メディア運営に必要な「物量」の豊かさが圧倒的で、働いてるプレイヤーの基礎体力も強い。今年はさらに伸びそうです。

古田編集長の講演を聞いていて、先日ローンチしたBUSINESS INSIDER JAPANは、まさに競合になるんじゃないかと感じました。BIJの谷古宇編集長はプレス会見で「競合は東洋経済オンライン」と口にしていたけれど、いやいや、むしろBuzzFeed Japanなんじゃないかなーと。

プレス会見後に、BIJの展望を発行人を務める小林弘人さんに伺い、それをWIRED.jpに書かせていただいたのですが、通ずるところもありそう。

今後も、下記のようにBuzzFeedがシェアしてくれる知見から、もっと学びを得ていかなければと感じたのでした。

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Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス