「MERY」が雑誌化した今、ライターと編集者に求められることは?@ DeNA Palette~Writer Nite~トークセッションより

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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11 min readJun 2, 2016

2016年6月2日(木)、渋谷ヒカリエのSakura cafeにて、「NYLON JAPAN編集長&ノオト編集者・朽木氏が語る、メディアと編集の未来 by Palette Party vol.3 ~Writer Nite~」と銘打たれたトークイベントが行われました。登壇者は下記2名。

・NYLON JAPAN編集長 戸川貴詞さん
・ノオト編集者 朽木誠一郎さん

司会はDeNAに所属し、学生時代はファッション誌でもライターを務めた石原龍太郎さん。戸川さんは雑誌版『MERY』のクリエイティブディレクターとして創刊号に携わりました。

ファッション誌業界の一線に立ち、ウェブと雑誌を横断して活躍する戸川さん。ウェブメディア編集長を経て編集プロダクションに入社し、着実に仕事を積み重ねる朽木さん。両者の考えが現れたひと時となりました。

聞き書きを、面白かった部分だけダイジェストでお届けします。

(左)朽木誠一郎さん (右)戸川貴詞さん

ライターに必要なのは文系×理系のスキル

石原:編集者・ライターって文系?理系?これ僕の中でブームなんです。ぼくも文系出身でライターを志したんですが、ライターって自分の中にある漠然としたイメージを落としこむ意味で文系スキルかなと。

朽木:僕は大学が理系なんです。たとえば記事を書くときにターゲットがいて、別軸でメディアがあり、時にクライアントがあってという構造のとき、読者に何を訴求するのかを考えるには論理力が必要です。そのスキルが文系なのか理系なのかは一概に言えませんが、数学の照明問題として捉え、ロジックで考えれば理系の力が生きているのかなと思います。

戸川:僕は学校は文系でしが、ほんとうに文系の勉強が大嫌いで理数系の勉強が好きでした。暗記が勉強と思えず、社会は特に出席日数が足りないくらいで、物理が大好きだった。でも、理数系の大学はモテなさそうだったから(笑)、女の子も少ないだろうと思い、文系のミッションがいいな、みたいな感じで進みました。

スキル的なところでいうと、ものを書くにあたって、今はデザインがDTPになったけれど、デザインを先に割って文章の見栄えの綺麗さを求めるといった、当時あった割り付けを決める作業は大好きでした。10ワード×2行にいかにおさめるか、みたいな。それがおさまると快感で。

石原:それはウェブの快感ではないですね。

朽木:デバイスで変わりますもんね。それも変化のひとつかなと思いますね。

作家はライターを超越した存在

石原:次の質問。編集者とライターに必要な素質とは?

朽木:素質……僕は3年目なのでわかっているわけではないですが、最近良く思うのは、言葉が適切かどうかはわからないけど「美学の問題」だなって。理想とする文章が自分の中にあるかが軸になるのかなと思います。でないと、AよりもBがいい、という判断ができない。

最近、僕は紙の仕事も経験してみると、紙が理想としてきた文体や表現方法がある。それに沿ってなかったらクオリティが低い、というのがわかりやすい。一方でウェブでやってきた人は、ウェブなりの美学やヒットは醸造されてきている。だからこそ「これがいい」と思える美学が必要かなと。じゃないと議論が成り立たない。ただ、高度であるからこそ、現状で僕ができるのは「ライターさんを発掘すること」かなと思っています。

戸川:発掘に関して言うと、いろんな媒体も含めて、面白いなと感じてクレジットをチェックして連絡して合うってのはよくやります。雑誌版『MERY』のライターは、内製の部分も多いです。うちはライティングまで編集部がやっているパターンがほとんどなので、両方できる。やることとパッケージが決まっていて、はまるような方を何人かピックアップして会って、という感じですね。ナイロンジャパンは編集者とライターを明確に区別してないですね。音楽とかの専門分野に関しては立てています。これも雑誌別とか、種類別とかで、ぜんぜんちがうと思いますが。

両方やるかどうかというより、理解していなければ相手の技術に触れられないですよね。そこがさっき朽木さんがおっしゃったように、作家とライターの違いはそこにあるのではないでしょうか。

そこを超越するのが作家。責任もすべて追える仕事ですね。作家は極論好き勝手書く。でも編集者やライターはそうはいかない。そこはロジカルで捉えないと成立しない。

朽木:戸川さんがおっしゃった編集視点はライターさんにもお願いしたいところですね。僕の言った「美学」は媒体にもよりかかるので、実用的な場所ではポエムは合わないというのを理解してもらえるかがあると、やりやすいのかなと。

仕事したいライターはエクセル使える人

石原:次の質問、一緒にしたい仕事をしたい人って?

戸川:ちゃんとエクセル使える人っていうかな(笑)。書くのとは別で、プロとして仕事をする以上、お金や時間の要素も必要になってくる。でないと、一緒にものが作れない。性格がよくて、それができて、広く理解できる人が理想的でしょうね。

もちろん言葉の使い方にはオリジナリティがあってほしいとは当たり前に思いますが、ひとりの編集者としてお願いした時に、そのライターさんがすべての責任を追っているわけではなく、一緒にひとつのものをつくっていこうとするので、自分を含めてどういうリスクを取ろうとするかだと思います。

文章にオリジナリティがある人で納期守らない人と、オリジナリティは多少足りずとも納期を守る人なら、後者を100%選びますね。これは僕の性格とか考え方で、こっちのがいいものができると確信しているので。

みんなで作っていく感覚になってほしいなと思います。みんなでやっている、足並み揃える、でないとひとつのものがいいものにならない。意味的にはそういう感覚です。

朽木:そこの責任感はライターさんとも共有したいですね。

雑誌は価値ある商品であるのが大前提

石原:次の質問。雑誌とウェブメディアに何が起きている?MERYの雑誌化はどういうプロセスを踏んだのでしょう?

戸川:作り方としては、ウェブから雑誌になったとか、作ったとか、PR上はそういってますが、感覚的には全く無くて。MERYというプラットフォームがあって、そこのユーザーの体験をいかにリッチにするかの選択、コミュニティのひとつなので。ウェブがあるから雑誌を作ったっていう発想でもないんですよね。

ただ、創刊号ではやりきれなかったことがどんどん見えてきて、これを100というなら500くらいにできたねと。次の8月1日号、それ以降もアップデートしてユーザーに提供するものは増えていくと思うので。

やりきれなかったことしては、たとえば動画やイベント、中身の作り方にしても、もっと切り取れ、落とし込める、ウェブとつなげることってあって。撮影現場ひとつとってもできることがもっとあったので、もっと欲張りに。

アンコウって、すべて食べられて捨てるところがないっていいますよね。でも、1号目は結構内蔵とかも残っているよね、という感じです。この感覚は、ナイロンを12年やってイベントなんかも打ってきた経験からも思うことです。

石原:ウェブと雑誌の関わりについては。

戸川:雑誌が社会構造上減っていくのは当たり前だし、だから雑誌がダメっていうのは安直。コンテンツの質……というか、MERYでいったら1つの記事は基本切り売りで、それを電車の中で見ているのが2000万人ユーザーいるわけですね。

でも雑誌は一冊の商品なので、そう考えると、同じ対称を捉えても全然ちがう体験になる。サイズ感もちがう、紙の特性も活かせる。MERYは500円でしたが、スタバのラテと同じくらいなので、そこには負けられないという発想で考える。

読まなくなったから売れないというわけではなくて、買いたいものを作ればいい。売れたから偉そうなことをいってますが(笑)、雑誌に限らずすべてのビジネスがそう。価値のないものは必要とされないし、価値があれば必要とされる。

ウェブのニーズが増えて雑誌が減って、なんていうところから脱却しないと。それは10年前から言ってるから。だから僕はぜんぜん雑誌でこれからも稼げると思いますよ。みんなやめていっているので。

石原:雑誌vsウェブっていけてない発想なんですね。

戸川:ぜんぜん違うものだと思うので、どう使うかの話だと思いますね。買われない雑誌はスタバでそのラテを買って、友達と一緒におしゃべりするより価値が無いということだろうと。そこをガマンして、欲しいと思えるかどうか。それしかいらない、ということだと思う。

朽木:可処分時間、ということにつながりますね。

スペシャリスト×ロジカルの必要性

石原:最後の質問です。編集者・ライターのキャリアはこれからどうなる?

朽木:なんでもできないといけないのは前提なんだろうなと。求められることは多いし、いまは少なくともウェブ中心ならいい写真も撮れる、文章も書ける、動画も撮れますとか、1つの記事をいろんな要素から立体的にできますといったほうが仕事は振りやすい。

スキルを縦に広げるか、横に広げるかのなんだろうなと思っています。僕はいまインフォグラフィックのメディアも担当していますが、僕は作れないんです。そうなったときにできたらすごいし、いまはウェブ漫画もひとつのわかりやすさとして受け入れられてシフトしていくのはそうではないかと思うと、横に広げ続けていくのもしんどそうだなと感じています。

そこで、最初から一通りはできる、でもすべての要素で飛び抜けてはいないけど、その前提で何か1つの飛び抜けて勝負するのが現実的なのかなって思っています!

戸川:ある程度のゼネラリストであることは、そうであったほうがやりやすくはあるかなと思いますが、そうでなくてはならないとは思っていないです。紙の雑誌でいうと、日本のファッション誌って、日本の出版社はゼネラリストを育てる、ファッションもビューティーもカルチャーもローテーションでできるような人を育てるのがあった。

でも、海外はスペシャルを育てて、それをトップがまとめるという図式。極端なスペシャリスト制度がほとんどなんです。さらに海外ではクリエイティブな人が話すのは、数字やビジネスの話ばかりで、さらに作っているものが数段上のもの。こういう世界があるならまだまだやっていけることがたくさんあるなって思って、いろんな確信が持てた事例でした。

最初に話したように、きちっと物事をロジカルに考えるのは大事なんじゃないかと。個性を伸ばして代わりはない人間になっていけば仕事はたくさんあるとは思うけれど、ベースにはロジカルなものがあるってことに尽きちゃっていますね。僕の中では。

受託でうける仕事、やりだす仕事、どちらもできるようになる、その人にしかない個性って必ずあると思いますから。僕にはなくて、みなさんにある強みを活かすには、ロジカルなものがあり、それを実行することだと思います。

質疑応答:MERYモデルが成功するウェブメディアはある?

Q:戸川さんに。MERYが雑誌として商業的に成功したと思いますが、どういうウェブメディアならこのモデルが成功すると思いますか?もう1点、ピントの甘い写真が多かった意図はなんでしょうか?

戸川:まずは、どれだったらというより、たぶんどれでも可能性はあると思っていて、一番重要なのは取り組み方かと思っています。何をもって紙媒体を作るのかの意図が、極論言えば全社的に同じ方向を向かないと成功しないと思うので。

それがさっき言ったロジカルがベースにあるというのを含めて言っていますが、何度も話し合って、その上にどんなクリエイティブをもっていくるかだと思うから、そこが大事なんだと思います。

上海にある海外のECサイト「(筆者注:聞き取れず。すみません)」では、ウェブメディアで大成功して、雑誌でも成功してという媒体もあります。自社の中でやっている筋ですけど、別物と捉えていないというか、パッケージで1つのプロジェクトと捉えて考えているので、同じ会社で出せるスキルがあるならいいと思います。MERYのように、別会社で補いながらやっていってもいいんだろうなと。

写真については、MERYのプラットフォームで人気のものを精査していく中で、女の子が響いているのはガーリーなテイストに引きがあったので、トンマナ揃えていくようにしました。ひとつのもの、本としての商品価値を、写真の可愛さであったりとかを強めにした方がいいなというが、データ上も含めて考えた結果です。

以上、トークセッション終了後まもなく30分。懇親会で盛り上がる現場よりお届けしました。

(長谷川賢人)

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Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス