30年後の当たり前を作る3つのテクノロジー:ケヴィン・ケリーの「不可避な未来」

Kento Hasegawa
MEDIA BREAD
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16 min readJul 23, 2016

2016年7月23日(土)、東京都内某所にて、「WIRED.jp」が主催するトークイベント『ケヴィン・ケリーが教えてくれる『本質的に”不可避”な未来』が開催されました。

本イベントは著述家、編集者で、『ホール・アース・カタログ』や雑誌『WIRED』を創刊し、サイバーカルチャーの論客として知られるケヴィン・ケリー氏による最新著書『〈インターネット〉の次に来るもの』(NHK出版)の刊行を記念した講演とトークセッションで構成。

http://wired.jp/event/kevin-kelly-2016/

僕らが歩んでいく薄ぼんやりとした未来を、ケヴィン・ケリー氏がテクノロジーやデジタルカルチャーという灯りで照らします。

この記事ではAIやVRをはじめ、今後のインターネットがどう進化していくかにまで触れた、およそ1時間弱の講演を聞き書きしてまとめてみました。

なお、ケヴィン・ケリー氏は英語で講演なさったため、同時通訳の日本語音声を聞き書きしています。また編集にてカットしたエピソードや言い回しも多数あります。今回のトークに興味が惹かれたら、ぜひ完全版といえる『〈インターネット〉の次に来るもの』を手にとってみてください。

講演を聴き終えた時、PlayStation®VRに驚き、Pokémon GOに沸く日々で、それらのテクノロジーをガジェット的な捉え方しかできなくなっていた自分に気づきました。大切なことは、もっと先に、もっと深くにある。手にしたスマートフォンとアプリを眺めながら、あらためて奇跡的な現代に、世代格差のある今に、生きていることを実感します。

それでは、以下より。講演は『WIRED』編集長の若林恵さんの挨拶からはじまりました。

「10年は本を読まなくていい」ほどの濃さ

若林 こんにちは。WIREDの若林と申します。今日は夏のいい天気の、土曜日に、昼下がりに、お集まりいただいてありがとうございます。

〈インターネット〉の次に来るもの』を買った人はいますか……(会場から挙手)あぁ、いますね。私はまだななめ読みですが、向こう10年は本を読まなくていいんじゃないかというくらいの本になっていますね。

読み応えのある本でございまして、売れ行きも好調なんですよね。発売日で重版かかったとか。おそらく皆さんは、今日はこの本の厚さを見て「読めないなぁ」と感じたでしょうから、この2時間でイベントを聞いてわかった気になって帰ろうという魂胆だと思うので、耳をかっぽじって聞いていただければ。

それでは紹介します。ケヴィン・ケリーさん、拍手でお迎えください。

テクノロジーの将来を占う、長期トレンド

ケヴィン・ケリー こんにちは。WIREDの、それも日本に来られたことを嬉しく思います。通訳者、著書の翻訳者にも御礼申し上げたいです。NHK出版にも深く御礼申し上げます。

今日はテクノロジーの将来について話したいと思います。テクノロジーにはいくつかの側面がありますが、テクノロジーはシステムなんです。みんながつながっていて単一ではない、靴とかイスとかリモコンとか、そういったものがお互いに接続していて、それによって存在している。

そして傾き、バイアスがあるのです。さらに繰り返しのパターンがあり、いつ作られ、どの文明で、どの惑星かに拘らず繰り返される。この繰り返しと、一定方向に傾いているということが「長期トレンド」を形成するのです。

ただし、iPhoneやTwitterの登場は予見できない

たとえば、渓谷に降る雨を想像してください。水の流れる経路は予測できませんが、流れる方向が下向きであることは不可避です。その「方向がわかっていること」は、私がデジタルの世界で求めていることです。

「長期トレンド」はテクノロジーの「カタチ」に適用されます。特定の製品や企業を作るのではありません。ある意味では、4つ足の動物、そして4輪車は、物理学的にいって安定しているから「繰り返されたカタチ」で進化するのです。4つ足のカタチは不可避ですが、「種」は予見可能ではありません。

電話は不可避的でした。しかし、iPhoneは「特定の種」ですから不可避的ではない。インターネットは不可避的だが、Twitterは不可避的ではなかった。商業や非商業、国際的なのか国内的なのかも選択肢になえります。

向こう30年を見つめる「12のトレンド」

ではここから、インターネット的で、不可避的で、長期トレンドについてのことをお話したいと思います。

私は12のトレンドがあり、それぞれが支えあっているのを発見しました(※筆者注:12のトレンドは『〈インターネット〉の次に来るもの』で語られている)。他者は別のものを特定するかもしれませんが。今日は3つのヒントを共有したいと思います。

1.Cognifying:AIと人間は「異なる知能」

最初は、Cognifying(コグニファイング)。プロセスである、認知化するということです。何かをより賢くするという意味もあります。

AIは認知化が不可避です。なぜなら、私たちはもうSiriに話した経験を持っているでしょう。AIはすでに見えないところで動いています。

たとえば、病院ではAIを使って診断をしたり、X線スキャンを人間よりうまくやったりします。法律事務所ではたくさんの証拠資料を見てくれます。航空機も初動からしばらくは人間が操縦しますが、航行中には自動運転に切り替わります。自動車のブレーキにAIチップが入っていて、人よりうまいブレーキが踏めるというのもありますね。

この3年ほどでニューラルネットによるディープラーニング、アルゴリズム、ビッグデータといった技術で、AIは拡張しました。ハードウェアでは並列処理ができる、ヴィデオゲームで使われるGPUsが安価になったことが大きい。それから、GoogleやAmazon、バイドゥといった企業が集めてきたデータをニューロンネットに投下して学習させてきた。

この3つがそろったことで強力なAIができて、活用できるようになりました。AlphaGoの勝利もそうですね。

AIは狭い領域の「スマートさ」を上げる

AIは「狭い領域」に長けている存在です。だからこそ、インテリジェンスよりもスマートといったほうが似合う。計算や記憶のそれぞれで人間の能力を凌駕しているわけです。

AIと人間は、全く異なる種類の知能を持っているということです。ここで頭脳や知能に関して、コペルニクス的な転回が起きています。人間の思考は普遍的であると思いがちですが、人類よりすぐれた知能を作った場合、人間と似たような存在にはなりません。「何千何万の思考がある」というようになるわけです。

AIで問題解決するための2段階プロセス

200年前に初めての機械を作った人は、現在は機械の種類が多くて驚くはずです。同様に、いろいろな種類の知能が作られるのです。我々はその片鱗にいます。人間は世界の中心、いわゆる太陽系の真ん中ではなく、宇宙の端っこにいるのです。規定の能力が惑星的に特化しているのが人間の頭脳なのです。

人間とはちがう思考を持つのがAIのメリットです。人間の知能だけでは解決できない、ビジネスやサイエンスの課題においては、2段階のプロセスが取れるでしょう。

まずは「ちがう思考」を開発する。次に、それを協力させて問題を解決する。人間の知能で十分だという示唆はないです。いろんな種類の知能が必要なんです。それがエンジニアリング、富の創出、ニューエコノミーにもつながっていく。

AIで第二次産業革命が起きる

AIで2つ目に申し上げたいのは、第二次産業革命を起こしてくれるはずです。

人間は馬や家畜の力を借りていたところに、人口動力を使うことでエネルギーを生み、250馬力のエンジンを作った。人口エネルギーを使える、分配できる、配線を通してすべての工場や人々に届けられるようになって、イノベーションが起こせるようになったわけです。機械的な井戸やポンプに「電気」を組み合わせれば、電気式のモーターポンプができる。これが連なって産業革命になったんです。

同じことが起こります。電気式ポンプにAIをつけることで、水量の自動調節などが可能になるスマートなポンプができる。別次元に行くんです。それを何万倍とやると第二次産業革命になるでしょう。

ロボットと人間が一緒に働くようになる

AIはクラウドを通してみんなに配られ、好きなところに利用でき、すべてに応用できるのです。これをカラダに搭載するとロボットというものになります。現在のロボットは進化し、目で人を認知し、試行錯誤し、学習もできる。その訓練はまったくの素人でも可能です。今後はロボットと隣合わせで仕事をするようになるでしょう。

たしかにロボットは私たちの仕事の一部を奪うかもしれない。その代わりに新しい職を作り出します。その雇用の方が多いわけです。たとえば、あなたのおじいさまが若い頃には、きっと今あるウェブデザイナーなどの職は理解できないはずです。つまり、次に生まれるのは前世代が理解できない、想像できないような仕事なんです。必要性もわからない。テクノロジーによって発明された職です。

AIには効率を、人間には非効率を

AIに与えるのは「効率性」で定義できる、または「生産性」で特定できる仕事です。何度も繰り返せば効率性を得られるような仕事は向いています。代わりに、人間は効率性が重要でない仕事をするようになる。たとえば、イノベーションとか。

イノベーションは本質的に効率が悪いものです。トライもする、失敗もすることで成し遂げられる。ミステイクがあってこそで、効率的にはできない。化学もそうです。化学も失敗の連続です。アートや歌、人間関係も非効率。効率が測定しない仕事が、人間の仕事になるわけです。

世界的なチェスのプレイヤー、ガルリ・カスパロフもコンピューターに負けてしまいました。彼は「ビックデータに自分もアクセスできれば」と言いました。その後、彼は人間とAIが協力してチェスをするゲーム(アドバンスド・チェス)を考案しました。

IBMのワトソンと医師が協力するのも同じです。ワトソンが診断をするのではない。医師とAIが補完的になりながら一緒にやるのがベストなのです。これが1つのトレンドです。

2.Interacting:VRは世界を1つにする

2つ目のトレンドはInteracting(インタラクティング)、相互作用です。これはもう到来していて、ますます増え、ストップはかけられないでしょう。映画の『マイノリティ・リポート』は私も協力しましたが、体全体をつかってAIとインタラクションしています。これを現実化する作業が行われています。

VRは、コンピューターの中に体を入れてしまうような行為です。私は1989年にVRを体感し、5年ほどで普及するかと思ったが、予想は外れました。当時から質はオキュラスリフトと差はないが価格が高かった。やはり100万ドルかかるようでは膨大すぎました。

テクノロジーがコモディティ化したのはスマートフォンがあるからです。加速度計、スクリーン、ビデオプロセッサ。VRはこれらの技術を借りたわけです。そして安価なVRが実現し、次のスマホに変わるプラットフォームにもなるかもしれません。

全く異なる2つの世界をテクノロジーで1つにする

VRには2つのタイプがあります。オキュラスリフトのようなImmersion、VR。あたかも違うところにいる感覚を得られることで、脳の後頭葉が「感じる」のが大切です。

もうひとつはPresence、MRです。複合現実。バイザーやゴーグルをつけて、オフィスや屋外で、バーチャルなものが表れるわけです。あたかも「いる」ように感じるわけです。本当のように感じるので、学習に向いているんです。たとえば、心臓の解剖をするバーチャル体験を、身体とつながった状態で行える。

この会場にいる半分くらいの人も始めているだろう『Pokemon GO』も、そのひとつですね。ゴーグルがなくても可能だというのはわかりますよね。全く異なる2つの世界をテクノロジーで1つにする、ということです。5年から10年先だと思いますが、もっと普及するはずです。

The Internet of Experiences.

インターネットは進化します。情報のインターネットから、経験のインターネットへ進化するのです。VRは全くちがう脳の部位に働きかけ、情報や知識ではない経験が通貨になると思います。経験をダウンロードしたり共有したりするようになる。誰かが隣にいてくれる、というだけの経験もそうです。それが新しい種類のインターネットです。

経験の半分は視覚だけではなく触覚からも得ているからこそ、トータルな相互作用が必要なんです。触覚、リアルさには全身感覚が必要なので、その接点を増やせば強力になっていくわけです。体も没入できれば体験度は上がっていく。

いわゆる「アバター」というキャラクターのように、レンダリングが正確でなくてもいいのです。重要なのは体の動き、細かい表情、声といったところ。指や目の動きを捉え、アイコンタクトを保ってくれると、声、アイコンタクト、ボディランゲージがそろうと「納得感」が高まります。そこにいる、とわかる。

VRの世界がデフォルトな場所になると思います。ソーシャルメディアにおいてVRはもっと社会的な場所になるでしょう。ひとりでどっぷり使うわけではなく。

3.Tracking:不可避ながら形は変わる

3つ目のトレンドは、Tracking(トラッキング)。追跡する。より増えていくでしょうし、不可避です。我々の生活は追跡される。インターネットで追跡できるものはすべて追跡されると思っていい。

VRは理論的にはすべて追跡の対象です。カメラや動きで全員の振る舞いが捉えられ、アバターに反映されるわけですから。感情や動き、何を見つめているかなどを予測し、投影するわけです。それが最大のデータになるでしょう。「VRの世界に入る」というのは「追跡される」と同じことです。この考えはネットを使う前提に置くべきでしょう。

医療向けトラッキングは生涯をかけたカルテ作り

Apple Watchのトラッキングでは、血糖値や心拍数、気分、知能も測定できるのです。そう、すべて重要なことはトラッキングできるようになったんです。何ヶ月かに一度の健康診断ではなく、毎日のトラッキングは生涯をかけてカルテを作るようなものです

それでわかるのは「正常値」です。医学的、生物学的なパラメータとして「絶対的な正常」は存在しませんが、個別の「平均的な正常」はあります。これを常に記録すれば、それぞれのベースラインができるわけです。このトラッキングは個別化することが目的で、それを医療に役立てるのです。たとえば、症状に合わせて薬を自動生成するシステムができるかもしれません。

ただし、トラッキングには選択肢を用意すべき

実は、友人ですら私たちをトラッキングしているのです。これは不可避です。どうすれば我々の生活に馴染むトラッキングができるかは考えなくてはなりません。私の考えは“Co-veillance”、相互監視が私の考えです。警察官が自分を録画しているとしたら、我々も警察官を録画できれば対称性があるわけです。

そして、テクノロジーはトラッキングに対して選択肢を与えるべきです。データの開示なのか、透明性を高めるのか。この2つは連動しているか、組み合わさっています。どのようなトラッキングならば許すのかを、スライダーを移動するように調整しないといけない。

特に若い世代はソーシャルメディア上に自らを載せることを厭わない、つまり虚栄心がプライバシーに打ち勝つ状態にいるということです。

今、僕らは「30年のスタート地点」にいる

さて、未来について話しましょう。

将来は非常に信じがたいものがあります。タイムトラベルで30年前、だいたい1980年に戻ったとします。そして、今の状況をその人々に説明するとします。「ポケットに小型のパソコンがあり、株価がすぐにわかり、常に更新される百科事典をいつでも見られる」と説明したら、「本当に?信じられない」と言われると思います。

「コンピューターをドアや靴に入れるなんてクレイジーだ」と言われるでしょう。でも、今のホテルにはカードキーがあります。コンピューターは安価になり、AIにドアが入るようになったんです。

教訓としては、不可能だと思っていることをより信じなくてはならない、ということです。柔軟に。

そして、いま現在が、世界の歴史、人類の歴史において、あらゆるものをつくるツールが安くなってきて、みんながアクセスできるようになっているからこそ、ベストな時期なんです。今以上に良い時期はないのです。先を見てもそう。

いま私どもがいるのは、より大きな30年においての初めの初めなんです。これから先にある経験をするための最初の日なのです。たくさんのことを発見しなくてはならない。圧倒的な数のオポチュニティ(好機)がある。

30年先をタイムマシンでいったと考えてみてください。そこから振り返って今を見たら、30年後に当たり前に使っているものほど、今日にはないのですから。

ご清聴、ありがとうございました。

〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則
ケヴィン・ケリー(著)、 服部桂(著・翻訳)

内容紹介
AI(人工知能)は電気のように日常を流れ、VR(ヴァーチャルリアリティ)は現在のスマートフォンのような存在となる──ベストセラー『テクニウム』でテクノロジー進化の普遍的原理を鮮やかに描き出した著者が、今後30年間の間にわれわれの未来が不可避的に向かう先を、12のキーワードから読み解く待望の書!

人工知能、 仮想現実、 拡張現実、 ロボット、ブロックチェーン、 IoT、 シンギュラリティ──これから30年の間に 私たちの生活に破壊的変化をもたらすテクノロジーはすべて、12の不可避な潮流から読み解ける。

前作『テクニウム』でテクノロジ一進化の原理を鮮やかに描き出した著者の待望の最新刊。

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Kento Hasegawa
MEDIA BREAD

長谷川賢人/86世代の編集者・ライター/日本大学芸術学部文芸学科卒/フリーランス