

未来はデザインできる : レイ・イナモトが考えるA.I.とテクノロジーの近未来
SENSORS IGNITION 2016 キーノート
いつの時代も変化は常に生じ続けるものだが、ここ数年はAirbnbやUberを筆頭とするシェアリング・サービスの台頭やディープラーニングへの注目、A.I.が可能にしうる未来への予測といった変化の大波が次々と到来し、私たちが当たり前に思っていた従来の価値観が大きく変わろうとしている(数年前には、1度も会ったことがない外国の旅行者を我が家に泊めるなど考えたことがあるだろうか?)。
研究者やアントレプレナーたちがこれらの話題について語る機会は増えてきた。しかし、アイデアやデザインの世界に生きる「クリエイティヴ」と呼ばれる人々には未来はどのように見えているのか?R/GAやAKQAといった世界を代表するクリエイティヴ・エージェンシーで長年活躍し、Forbesで「世界の広告業界で最もクリエイティヴな25人」に選出された レイ・イナモト(rei inamoto)氏は、SENSORS IGNITION 2016のキーノートでその答えの手がかりを語った。
1、理念を持つ。そしてそれを曲げない
「Webでは紹介されていない個人的な話を語りたい」と前置きして、イナモトは若き日の父親の姿について次のように語り始めた。「父はアインシュタインに憧れて物理学を専攻しました。しかしある時1つの事実に気づいたのです。それは、
人間がどんなに努力しても1枚の葉っぱに勝るものを作ることはできない
ということでした。そこから父は木工に目覚めて家具を作り始めたのです」。
1つの道をいったんは進みながらも悩んだ末にそれを諦め、自分の本当の道を見つけた父の姿。
失敗なんかしちゃいない。うまくいかない方法を10,000通り見つけただけだ。
このトーマス・エジソンの名言を引用しつつ、「失敗」が自分の「理念」を見つけるための必要な過程なのだと家族の逸話を通して伝えるイナモト。その父は飛騨高山で日本の木の文化の素晴らしさを広める「オークヴィレッジ」の会長として、人と環境の共生を唱えた積極的な活動をされている。
2、矛盾の融合
アート、文学、科学、ジャンルを問わず様々な本に囲まれて育った幼少期を振り返りつつ、イナモトは大学に入学したての頃を振り返る。「私はアートをやりたくて大学に行きました。コンピューターを使ってアートをやりたいと思ったものの、
当時は原始的なコンピューターしかなかった。だからコンピューターを使ったアートやデザインはすごくダサかったんです。
それでコンピューターサイエンスを勉強すれば表現の幅が広がるんじゃないか?と思いました。私はアートとコンピューターサイエンスの2つの学部に籍を置きました。当時はアートの学生がコンピューターサイエンスに入っていくというのが殆どなかったので友達が2タイプ出来たんです」。


アートとコンピューターサイエンス、宗教とテクノロジー、幾つかの例を引き合いに出しながら、イナモトは一見背反するように見えるものどうしであっても、その壁を乗り越え結びつくことによって新たな表現の可能性が生まれることについて指摘した。
3、弱みを強みに
自分で起業を考えたり、アスリートを目指したり、様々な局面で人は自分の才能を信じてチャレンジする。そういう時は常に不安なものだ。「自分の力が業界で通用するのか?」「〜が苦手だからダメだ」と悩むことも多いだろう。
大学を卒業してからタナカノリユキ氏の事務所でアシスタントの過酷な仕事(週3徹夜と云うこともあったらしい)をこなした後、渡米してデジタルエージェンシー「R/GA」でデザイナーとして働いていたイナモトの場合、それは上司が辞めてしまったため自分の作品をクライアントに英語で説明しなければならなくなった20代前半の頃に訪れた。この「英語の壁」の経験とそこから学んだ「弱み」への向き合い方について聴衆に向けて次のように説明した。
当時の私は(ネイティヴの)10歳程度の英語力しかありませんでした。それでもクライアントに説明しなければならない。どうしようか考えた時に「説明するというのは難しいことを分かりやすく簡単に解きほぐすことだ」と気付きました。「子供でも分かる英語で説明すればクライアントもちゃんと分かってくれるだろう」、こう考えると、言葉がどんどんシンプルになっていったのです。
誰しもが持つ「弱み」。私たちの多くが、それに劣等感を覚えて隠そうとしたり無理して克服しようとする。しかし、自分の「弱み」の本質を見つめ、それを受け入れた上で視点を変えるとその「弱み」は「強み」へと転化する。自分の視点をデザインし直すことの大切さだ。
4、楽観主義
さらに話は続く。少年時代は『キャプテン翼』に憧れ、サッカーが好きだというイナモトを悲劇が襲ったのは2000年頃。N.Y.で友人とサッカーをしている最中にボールが目に当たり網膜剥離の手術をしなければならなくなった。そして、そのリハビリは相当辛かったようだ。網膜を固着させるため「2週間、24時間顔を下に向け続ける」という過酷なリハビリを医師に課され、「頭が狂いそうに」なりながらもそれを乗り越えて以降というもの「仕事でどんなに辛いことがあってもその経験を思い出せば苦しくなくなった」そうだ。現在の悩みや苦しさもきっと乗り越えられるとポジティヴに捉えること、その積極性が不確実な未来に向けて自分が拠って立つ基盤となるのだろう。
5、0−1と9−10
最後は人工知能と人間の未来について。ゼロからブロック崩しのルールを素早く学び、人間よりハイスコアを獲得するまで成長するGoogleの人工知能「DQN」や、人間では思いつかないような食材の組み合わせで全く新しいメニューを生み出すIBMの「シェフワトソン」の例を引き合いに出して人工知能の進化の目覚ましさを認めつつ、「人工知能にはすごく優れているところと優れていないところがある」とイナモトは続ける。


物事には0から10あるとします。人工知能が人間より優れているのは1から9のところ。何回か繰り返し物を作ったり、行動を繰り返すのは人工知能の方がいずれは人間よりも優れてくるでしょう。でも最初の0から1、そして9から10の最後に持っていく部分、そこはまだまだ人間の方が優れていると感じています。海外で生活をしていると日本の9から10への完成度を高める力が秀でているのは実感するので、今後日本の未来はそこに集中していけば希望は十分あるでしょう。
効率化できる部分ではなく作品や商品が直に人々にふれるフィニッシュの部分、そこに「使いやすさ」や「美しさ」といった人工知能ではまだ及ばない人間の感性や美意識が必要となる要素がまだまだ多くあるということだ。
終わりに
キーノートも終盤に差し掛かり、イナモトはテクノロジーと人間の関係について
テクノロジーは「人の心に触れるようなもの」でなければ人間の未来は良くならない。
と聴衆に向けて語りかけた。そして「余興として」と付け加えて聴衆一人一人にスマホを頭上に掲げるよう頼んだ。
こうして見ると、皆さんのスマホのディスプレイの輝きがロウソクの光のようにも見えるのです。誕生日を迎えた父のために写真を撮らせてください。
父への少し遅れたハッピー・バースデイ。スマホを即興でバースデー・キャンドルに変えたクリエイティヴには、テクノロジーの未来は「優しさ」と「創造性」が輝くヒューマニティーに満ちた世界に映るのかもしれない。
2013.7.15 MON TEXT BY REI INAMOTO @ AKQA Fast Company『Co.Create』 "クリエイティヴ"・アイデアと"プロダクト"・アイデアを一緒に審査していいものか? レイ・イナモト| REI…wired.jp