Lego Google logo, Google, NYC, NY | Cory Doctorow, Flickr | CC BY-SA 2.0

Google が Alphabet になる意味

検索最大手Googleが、Alphabetという名のコングロマリットに姿を変えた。複合企業を構成することになる各社は、一社体制のときのように成功できるのだろうか。

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「Google は型破りな企業である」ことは、もう誰もが知っている。2004年の株式公開時に株主宛に発した最初のメッセージで、ラリー・ペイジ氏がすでにそう宣言していた。だけど、それを知らない・忘れて人もいるかと思ったのだろう。今日、ペイジ氏は改めて[この発言を繰り返した](https://abc.xyz/)。「2015年8月10日以前に Google と名乗っていた企業が、今後は Alphabet を名乗ることになる」、という発表の場でだ。Google のサービスとして我々が使っているサービスの大半(検索・広告・YouTube・Gmail・Android)が、今後は Alphabet 傘下の1社から提供されることになる。どうやら、誰もが知っているあの社名は、今後もその1社が使えることになりそうだ。

それ以外、Google X・Fiber・Calico・Nest・Sidewalk・Google Venturesなどの各社については、Alphabet 100%出資の独立企業として、それぞれに CEO がついて、財務を管理していくようだ。そういった意味では、Google はウォーレン・バフェット氏が経営する世界的優良企業、バークシャー・ハサウェイのような形態をとろうとしているといえるだろう。所有権のみによってまとめられた企業集合体、という形態だ。

だが、Alphabet の経営方針が非干渉になるとは誰も思っていない。バフェット氏の経営手法は模倣されないようだ。これらすべてを統括する CEO となるペイジ氏は、配下の重役たちが彼の哲学に背けるほどの権限を持たぬよう、細心の注意を払うだろう。野心的であれ、大規模テクノロジーを活用しろ、慣習なんて無視しろ、という哲学は、ここでは絶対となる。

そこで気になるのが、これらの企業にどれほどの独立性があるのか、ということだ。個人的には、新しくできた組織形態は昨年10月からの流れの最終形にすぎないと思っている。具体的には、ペイジ氏が Google の日常業務から離れ、後任者である [サンダー・ピチャイ](http://www.wired.com/2014/06/sundar-pichai/) 氏にプロダクトの大半を引き継いでからの流れだ(ピチャイ氏は Alphabet の子会社となった Google の CEO に就任する予定)。けれど Google、ではなく Alphabet は、バークシャー・ハサウェイ型の「事業部門の分社化」に打って出た。一線を超えるような動きといっていいだろう。そして、現時点では、独立性を保つ境界線がどれほど分厚いかを、ペイジ氏含め誰一人示していない。

今後は、その境界線の厚さこそが鍵となるだろう。Google が事業部門を脈略なく、しかも果敢に作り続けてきたことは、何年ものあいだ、Google ウォッチャーを悩ませてきた。「自動運転車と検索、どうつながるんだ?」「スマート温度計で広告が売れるの?」だが、実際に少し調べてみれば、そういった取り組みが Google のコアビジネスをいかに促進してきたか理解できたはずなのだ。自動運転車の例でいえば、このテクノロジー自体が Google Map を最大限活用しているし、もし人間が運転する必要がなくなれば、検索の機会がもっとたくさん生まれることにもなる。

もちろん、こういった理解し難いムーンショット(訳注:とてつもなく野心的な取り組みのこと。アポロ計画の月面着陸が語源。)を「コアビジネスに注入される野心的な血」と捉えることもできる。企業性貧血に対して常におこなわれる対策というわけだ。どういうことかというと、これまでは上述の各部門もまた Google の一部であったわけで、そこから何か新しいものが生まれれば、ユーザーに近いプロダクトを扱う部門と成果を簡単に共有できたのだ。Google X のとあるチームが一部では Google Brain と呼ばれているディープラーニングシステムを作り上げたときは、ほどなくしてそのテクノロジーが Google Knowledge 部門に共有され、検索エンジンが強化された。同じことが、Google X が個別の会社であってもそんな風に簡単におこなえるだろうか。あるいは、チーム自体を Microsoft や Yahoo に売却したほうが会社のためだ、と R&D 部門の CEO が決定できるようになるのだろうか(この質問を旧 Google に投げかけたことがあるが、回答は得られなかった。内部で結論が出ているかどうかすら疑問ではある)。

トニー・ファデル氏についてはどうだろうか。2014年1月に Google が32億ドルで買収した Nest の元 CEO で、同社の次期 CEO になる予定の人物だ。Nest は晴れて Google グループ企業の1社として独立できたわけだが、それ自体にあまり意味はないかもしれない。これまでの Google においても、ファデル半独立国のような状態で Nest を運営してこれたからだ。とはいえ、Nest もまた巨大企業の一部であったことにかわりはなく、ファデル氏は Nest 以外の Google の仕事を依頼されるようになっていた。Google Glass の見直しもその1つだ。Nest をいち組織としてもう一度運営するために、彼はそういった役割を断念するだろうか(Nest からは、「ペイジ氏の発表以上の詳細は明らかにしない」とのコメントを受け取った)。

Fiber のことも気になる。高速インターネットの構築・運営を専属で担当する Google の部門のことだ。私の知る限りでは、Fiber の使命は加入者から売上をあげることだけではなく、高速インターネットを普及させ、Google の主力プロダクトをより魅力的・高利益体質に変える、というものであったはずだ。新会社の CEO は、これまでの方針を転向させられるになろうとも、自社の利益追求を重視するのだろうか(実際のところ、それはそれで興味深い話ではある。急成長分野の実験であった Fiber が規模を拡大して大手 ISP の1社になったとしたら、既存の ISP にとっては相当の衝撃となるだろう)。

このように、Alphabet がバークシャー・ハサウェイ型を完全に模倣しようとしてはいないのは明白だ。バフェット流であれば、下着メーカーである Fruit of the Loom のイノベーションが、ハンバーガーチェーンの Dairy Queen や 自動車保険 の Geico へ波及するには時間がかかる。一方、Alphabet においては、ペイジ氏は各部門にある程度の自律性を認めている。全体最適ではなく、各社単位での部分最適を追求することも推奨されていくようだ。氏の発表にもあるように、「Alphabet の本質は、いくつもの企業が優れたリーダーたちと独立性を活かして成長していくこと」にあるからだ。この思惑がどう結実するか、いまから楽しみだ。

誰か一緒にスクラブル(訳注:アルファベットで単語を作って得点を競うゲーム)しない?

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Haruo Nakayama
Haruo Nakayama

Written by Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。