can I get a hell yeah?

あなたはスティーブ・ジョブスとは違う

Erika Ito
5 min readAug 16, 2015

小さなゴジラが小さな張りぼての街を潰していくように、若いCEOが社員の心をどんどんへし折っていく。おでこに手を当てながら、どうしてみんな自分のように頭がよくないのかと会議でグチグチ文句を言う。彼以外の誰かが考えたアイディアは、商品会議で議題にされることもない。そんな風にして彼は、先に旅立ったあのヒーローになろうと必死になっている。そう、スティーブ・ジョブスに。

わたしはここで、アップルに戻る可能性をすべて捨て去って告白します。といってもスティーブ・ジョブスと直接関わる機会があったのは2回だけですが:

  1. アップルで働き始めて2週間が経った頃のことです。同僚と並んでいた食堂の寿司コーナーで、目の前にスティーブが割り込んできました。当時アップルのKeynoteを見たことがなかったわたしは、同僚に「なにこの人?すごく感じ悪いね。」と言いました。それを聞いた同僚は、ひそひそ声で「彼がスティーブだよ!」と教えてくれました。そのときにわたしは、スティーブはちょっと嫌なやつだと学びました。
  2. 当時わたしはモバイルミー(今のiCloud)の開発チームでエンジニアリングプロジェクトマネージャーとして働いていました。この、Macから派生した素晴らしいプロダクトの再ブランディングは歴史に残るほど最悪なローンチを迎えました。(運よく)わたしとスティーブの間には3〜4階層の役員がいましたが、開発スケジュールがタイトすぎて不安だということは何度も繰り返し伝えていましたし、数えきれないほどの妥協案も提案しました。予定されているほど大それた 機能はついていなくとも、高いクオリティで作り上げられる案です。しかし社内の伝言ゲームのどこかで「1000個の花火が仕込まれていないプロダクトはアップルっぽくない」ということで、わたしたちの提案は却下されました。わたしたちは「でもこれはウェブじゃないか!」と、聞き入れられない叫び声を上げながら、一歩一歩(1ファイル1ファイル)運命の日へのデスマーチを歩み始めました。そしていよいよローンチの夜がきました。がんばり屋の騎兵たち(本当にアップルの社員はみんな努力家で、仕事には持つ力を全て出し切ります)は昼夜を問わず働いていました。デスクの下で眠り、近くのホテルから通い、バックアップが終わるまで自分のシフト以上の時間残っていたり。サービスがアップされると、チーム(少なくとも100人)はスティーブ・ジョブスとのミーティングに呼ばれました。わたしたちはギロチンに向かうような気持ちで列になって会議室へ向かいました。スティーブはわたしたちの前に立ち、怒鳴りました。わたしたちはお互いに対して怒っていなければおかしいと、人々をあっと言わせるようなプロダクトが作れたはずだと、少しも努力をしていなかったのではないかと(実際に現場で手を動かしていたわたしたちは何度も交渉していたのにも関わらず)。これは世界で最もモチベーションの下るスピーチでした。問題は、現場とスティーブの間に立っていた神聖なる家臣たちがわたしたちの要望を伝えてくれていなかったことかもしれないし、伝言ゲームのどこかにいる決定者が「アップルっぽくない」ことをスティーブに提案する勇気を持ちあわせていなかったことかもしれません。どちらにせよそんなシステムを作ったのはスティーブでした。スティーブは威圧感のある最低な態度で、技術ある素晴らしい社員たちに向かって見当違いに怒鳴り散らしました。

スティーブ・ジョブスも最初からスティーブ・ジョブスだったわけではありません。アップルが再び彼を迎えたとき、彼は大きな自尊心を抱えた最低な奴となっていました。彼は自分に従い、なにをしても自分を英雄として崇めるミニオンを引き連れていました。会社にとって彼は暴力をふるう夫のような存在でした。ただ最低限、彼はいくつもの成功を収めていました。もし彼のような実績がないのなら、あなたは社員に優しく接することを検討するべきでしょう。もしも彼のように実績があったとしても、この話を教訓としてもう一度よく考えてみてください。プロダクトを成功させる最善の策は、社員が本音で話しをすることができて、それを聞き入れるような環境を作ることではないでしょうか。ゴジラCEOでもたった一人でプロダクトを完成させることはできません。きっとあなた自身が、有能で賢いと判断したからこそ雇った社員に任せるでしょう。もしあなたが社員を尊敬し、彼らの素晴らしいアイディアを取り入れるならば、恐怖政治を行わなくても、彼らは自然と人々がスティーブに抱いたようなあこがれを持ってあなたに接するようになるでしょう。だからいい人として、あなたのために働く才能ある社員と一緒に素晴らしいプロダクトを作りましょう。これはあなた自身だけでなく、プロダクトや社員も豊かにするでしょう。

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Erika Ito

Product Designer at VMware Tanzu Labs (former Pivotal Labs) in Tokyo. Ex Medium Japan translator. | デザインに関すること、祖父の戦争体験記、個人的なことなど幅広く書いています😊