難民はカバンに何を持って逃れるのか?

難民たちが命を賭けた旅に持ってきたもの

Erika Ito
9 min readSep 13, 2015

今年に入り100,000人近くの男性、女性や子供が戦争で悲惨な状況に陥っている中東、北アフリカや南アジアからゴムボートでエーゲ海を渡りギリシャのレスボス島へ逃げてきました。

難民たちは、この厳しく危険な旅に軽装で臨みます。彼らは待たされ、狙われ、お腹をすかせています。密航業者はお金で安全を売ると謳っていながらイワシを小さなボートに詰め込むように難民たちを運び、日常的に彼らを搾取しています。難民たちには、なんとか確保した荷物以外を運ぶという選択肢がないのです。多めに荷物を持つことを許された人たちも、ボートが漏れ、沈み始めると夢中で荷物を投げ捨てます。

そして必要最低限の荷物だけで目的地にたどり着きます。インターナショナル・レスキュー・コミッティーは母親、子供、10代の若者、薬剤師、芸術家と31人家族になんとか故郷から持ってきたカバンの中身を見せてもらいました。その持ち物から、彼らの過去とこれからの未来に抱く希望を知ることができます。

「あなたも人間だということを感じることができるでしょう。ただの番号ではないということを」

お母さん

名前:Aboessa *
年齢:20歳
出身:ダマスカス、シリア

シリアの首都のすぐ南、パレスチナ人の非公式難民キャンプがあるヤルムークで激しい戦闘が始まったとき、Aboessaはどうにか夫と10ヶ月になる娘Douaちゃんと一緒に逃げることに成功しました。トルコの国境を越えたあと1週間、同じようにさびれた難民キャンプで過ごしてから、安全なヨーロッパを目指すゴムボートに乗り込みました。

トルコの沿岸では、彼らを引き返させようとしたパトロール中の警察にゴムボートのエンジンを取り外されてしまいました。それでも難民たちは荒れた海の中、間に合わせのパドルを漕いで進み続けました。

・赤ちゃんの帽子
・薬、無菌水のボトル、離乳食の瓶
・おむつ変えのためのナプキン少し
・赤ちゃんの靴下
・鎮痛剤、日焼け止めと日焼け用の軟膏、歯磨き粉
・個人の書類(赤ちゃんの予防接種歴を含む)
・財布(写真IDとお金)
・携帯電話の充電器
・黄色のヘアバンド

「すべては娘を病気から守るためのものです。ギリシャについたとき、優しい人が瓶の食料を2つくれました。また別の人は赤ちゃんを見てビスケットと水もくれました。」

子供

名前:Omran*
年齢:6歳
出身:ダマスカス、シリア

ちいさなOmranは、かわいい青のシャツを着て5人の親戚と一緒にドイツに住む親戚のもとに向かう途中です。彼の両親は検問を避けるために森の中を旅することになると知っていたので、切り傷やすり傷に使う絆創膏を持たせました。

・ズボン1枚、シャツ1枚
・緊急用の注射器
・マシュマロ、甘いクリーム(Omranお気に入りのお菓子)
・石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉
・絆創膏

10代の若者

名前:Iqbal*
年齢:17歳
出身:クンドゥズ、アフガニスタン

Iqbalは疲れ切った体とたったひとつのリュックを引きずってなんとかボートから降りました。この若者は何百キロ、いくつもの銃弾をくぐり抜けて戦時下にあるアフガニスタンのクンドゥーズ州から東のイランに抜け、歩いてトルコへ逃げてきました。レスボス島についた今、次にどこへ向かえばいいのかは分かっていません。既にドイツにたどり着いている友達との連絡は続けています。フロリダに留学している兄もいます。

・ズボン1枚、シャツ1枚、靴一足と靴下1つ
・シャンプー、ヘアジェル、歯ブラシ、歯磨き粉、顔用美白クリーム
・くし、爪切り
・絆創膏
・100米ドル
・130トルコリラ
・スマートフォンと予備の携帯電話
・アフガニスタン、イラン、トルコのSIMカード

「肌は白く、髪はツンツンに保っていたいんだ。人には難民だということは知られたくないからね。もし誰かにバレたら、違法滞在だということを警察に通報されてしまうだろう。」

薬剤師

名:匿名
年齢:34歳
出身:シリア

シリアで戦争が勃発したとき、薬剤師の父は薬学の勉強のために8年間住んだドイツでの生活を懐かしんで思い出していました。その話を聞いていた薬剤師本人も、同じように平和で希望にあふれた生活をしたいと思うようになりました。家族と一緒にトルコへ逃げ、そこでヨーロッパ行きの旅を手配した密航業者と出会いました。

斜めがけのカバンを胸に下げ、薬剤師はたくさんの子供を含む53人と一緒に定員オーバーのゴムボートに乗り込みました。奇跡のように、このゴムボートはなんとか無事に海を渡っていましたが、ギリシャの海岸へ近づいたところで沿岸警備隊がボートにむかって止まれと叫びました。

・現金(ラップで巻いて水から保護している)
・古い携帯電話(濡れてしまって使えない)と新しい​​スマートフォン
・電話の充電器とヘッドフォン(それから予備の充電器)
・16ギガバイトのフラッシュドライブ(家族の写真が入っている)

「我々は、それが警察だと気がついていませんでした。友人はトルコに連れ戻されてしまうから止まるなと言いました。だれもギリシャ語がわからなかったのです。彼らがなにを言っているかわかりませんでした。わたしたちは子供を抱きかかえました。そして心の中で、「なんとか海岸にたどり着かせてくれ。そうすればなんでもいう事を聞くから。」と言いました。」

そのゴムボートはパンクし、全員が海に投げ出されました。薬剤師は救出されるまで45分間も水の中にいました。

薬剤師のアレッポからドイツへの旅路をすべて見る(英語)

「わたしは両親と姉をトルコに残してこなければいけなかった。最悪、このボートで死ぬことがあっても家族の写真と一緒なんだと思っていた。」

芸術家

名称:Nour*
年齢:20歳
出身:シリア

Nourは、音楽や芸術へ情熱的です。シリアで7年間ギターを演奏し、絵を描いてきました。爆弾や銃声のエコーが遠くから聞こえ出したとき、Nourは彼のなくてはならないもの — 今になると故郷のほろ苦い思い出を感じさせるもの — だけを手にトルコへ向かいました。

・小さな袋に入った書類
・ロザリオ(彼の友人からの贈り物。絶対床には触れないように気をつけています)
・時計(それは旅行中に壊れてしまった彼女からの贈り物)
・シリア旗、パレスチナのチャーム、銀と木製のブレスレット(友人からの贈り物)
・ギターピック(1つは友人からの贈り物)
・携帯電話とシリアのSIMカード
・ID
・シャツ1枚

「シリアを離れた時にはカバンを2つ持っていたけど、密航業者に1つしか持っていけないと言われてしまった。もうひとつのカバンには服がいっぱい入っていたけど今はこれが全財産なんだ。」

家族

出身:アレッポ、シリア

この家族はすべてを失いました。シリアを離れたとき、それぞれ1〜2つのカバンを持っていました。トルコを経由してギリシャへ向かうとき、彼らを乗せたボートが沈みはじめました。7人の女性、4人の男性、それから20人の子供が乗っていました。なんとかカバンひとつだけを回収しました。

・シャツ1枚、ジーンズ1枚
・靴一足
・洗剤類
・オムツ1つ、ちいさなミルクパック2つ、ビスケット少し
・書類とお金
・生理用ナプキン
・くし

「わたしたちみんな死ねればいいと思っています。この生活を生きる価値はもうないでしょう。みんなわたしたちの目の前で、扉を閉ざしてしまいました。もう未来はありません。

名前:Hassan*
年齢:25歳
出身:シリア

「これが全財産です。密航業者は予備のシャツとズボンの2つだけしか持っていってはいけないと言いました。」

カラ・テペの難民キャンプや島の別の場所にいる難民たちに飲み水、衛生用品、ゴミ掃除、保護や情報提供を行っているインターナショナル・レスキュー・コミッティーの活動を詳しく見る。(英語)

*苗字はプライバシーを保護するために省略しています

Photos by Tyler Jump

インターナショナル・レスキュー・コミッティーは、戦闘や自然災害で命や生活が危険にさらされている人々へ未来へ進む力を再び得られるように支援しています。40近い国とアメリカ国内の25都市で、IRCは傷付いた家族へ安全、尊厳と希望を取り戻す活動を続けています。

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Erika Ito

Product Designer at VMware Tanzu Labs (former Pivotal Labs) in Tokyo. Ex Medium Japan translator. | デザインに関すること、祖父の戦争体験記、個人的なことなど幅広く書いています😊