一人旅を楽しむ方法(あるいは、なぜ一人旅がオススメなのか)

Haruo Nakayama
16 min readJul 13, 2015

結論:自撮りの練習はお早めに。

今年の前半、ヨーロッパ全土を巡る一人旅をしました。訪れた街によっては、学生のころの友達がいたり、友達の友達がいたりすることもありました。とはいえ、ほとんどは「いかにも一人旅」といった具合で、計画も立てずに自分ひとりで1ヶ月ほどあちこち出歩いていました。仲のいい友達によると、私自身は「知り合いのなかでも一番社交的な人物」だそうですが、そんな自分にとってもこの1ヶ月は人生で最高のひと月になりました。

一方、長期にわたって一人旅をするという発想は、周りの人たちや渡航先で知り合った人たち、どちらにとってもなじみの薄いものだったようです。計画を知った人たちのリアクションといえば、

「いやー、それはいいね。きっと君のためになるよ」

さびしくなったりしない?」

「それ全部、1人でやるの?本気?」

などなど。実際に終えてみて思うのですが、これまでに自分がしてきたことのなかで一番刺激的で、何よりも自分をリフレッシュさせ、「充電」してくれたのは一人旅でした。これから、そんな一人旅を楽しむ方法を紹介しようと思います。同伴者がいる旅行よりも一人旅のほうがずっと心に残る理由も、一緒に説明できればと思っています。親しい人たちとの旅行よりも、きっとインパクトが強くなるはずですよ。

旅行のアルバム、「Schiff のヨーロッパ自撮りツアー」ってタイトルにしたほうがよかったかも。

Whatever The Fuck、なんでもあり時間

一人旅を通じてしか経験できないものがあると思っていて、私はそれを「Whatever the fuck」(WTF、なんでもあり)時間と呼んでいます。

学校・職場・家庭……とにかく、いたるところで誰もが義務と向き合っています。そうすることによって、最悪の事態が現実にならずに済んでいるわけです。ただ、義務と向き合う=つらい、というわけでは必ずしもなく、楽しい場合もあります。うんざりする悪夢のような状況から抜け出せなくなっている、というわけでは決してありません。自分の生活はまわりの人と結びつくことでなりたっていて、すべては自らの行動の結果だ、というだけのことです。とはいえ、そういった義務を避けることで人は落ち着きを取り戻せるのもまた事実なわけで、ときどき1人になることは誰にとっても必要不可欠なことだ、というのはみなが認めるところだと思います。

もちろん、友達や家族と一緒に過ごす時間もとても楽しいのですが、こと旅行に関しては、一緒に行動することでむだにややこしくなったり、妥協を強いられることになりがちです。例えば、好みが食い違ったり旅行の仕方が合わなかったりするとそれはもうイライラしてしまうわけですが、それ以外にも見過ごせない点があります。旅行中なにかを決めるたびに、「計画を相手に合わせなきゃ」という意識が知らぬ間に働いてしまう、という点です。仮にそうならずとも、「次にどうするかを相手に伝えなきゃ」というプレッシャーが旅行中はきっとあるでしょう。旅行の最中は気づいていないかもしれませんが、些細ではあるけど無視はできないような犠牲や妥協を重ねていくことで、なんとか旅程を合わせて一緒に行動しているはずなのです。

とはいえ、なにも一緒に旅行することが間違いだと言いたいのではありません。実際、友達との遠出や家族旅行のおかげで、大切な思い出がいくつもできました。ただ、どうしても、「やりたいこと、なんでもあり」というわけにはいかなくなってしまいます。ここで一旦、言葉の定義をしておきましょう。

WTF タイム(whatever the fuck time の略。なんでもあり時間):現時点での自分自身の個人的な幸せだけを気にしていればいい、ある程度まとまった時間のこと

WTF タイムの間は、疲れたときに寝て、お腹が空いたら食べればいいのです。飲み過ぎたかどうかを気にする必要もありません。翌日の計画はないので、翌朝二日酔いになっても何一つ影響はないからです。もしそれがお望みであれば、一日中美術館巡りをして、気になる展示の説明文をじっくり読んでみてもかまいません。「向こうに見えるあの建物、なんか気になるなぁ」そんな理由で何時間も散歩したっていいでしょう。今いるのとは違う国で、一度も行ったことのない街を訪れる理由が、「事前に見た天気予報が快晴だったから」なんて場合もあるでしょう。気の向くままに、思いついたことをどんどん実行しても、グループから外れたような気分になることもありません。やりたいことをやりたいように、やりたいタイミングでやればいいですし、(一番大事な点ですが)事前に誰かに確認しなくてもいいんです。

つまり、ただただ無頓着でいてかまわない、ということなのです。一人旅だからこそ、無頓着でいられるのです。ただし、WTF タイムはあまりに長い時間過ごすと寂しくなって人生の意義を追い求めるようになってしまう諸刃の剣です。気をつけてくださいね。正しい用量であれば、信じられないくらい効果的にあなた自身の「バッテリー」をリフレッシュし充電してくれるはずです。

それに、ヒゲを剃る必要もないですし。

髭もじゃは自由の象徴だ!なんて。

お断り:WTF の用量には、どれだけのストレスにさらされてきたかによって個人差があります。私の場合は自分で立ち上げたスタートアップを4年ほど経営していましたので、長い時間をかければなんとか完全にリフレッシュできるような状態でした。

セレンディピティさんこんにちは、見知らぬみなさんもこんにちは

WTF タイムについて考えるのなら、セレンディピティの存在は無視できません。一人旅をしていると、思いがけなかったような嬉しい機会にしょっちゅう出くわすことになるでしょう。もちろん、誰とも一緒に行動しておらず WTF モードなのでそうなるわけですが、一方でそれは蓋然性の産物でもあります。

1つ実例を挙げましょう。ロンドンを旅行中に Souk というアフリカ料理のレストランにぶらっと入ったときの話です。店の人が私のテーブルにカゴいっぱいのパンを置いていったので、「あ、このパンは自分のなんだな」と思って、それを食べ始めました。ですが、そのパンは実は私のものではなく、隣の席の御夫婦のものだったのです!2人が注文したパンを私がもぐもぐと食べている最中に目線が合って気まずい雰囲気……そこではじめて気がつきました。ヨーロッパ旅行2日めにして、「これだからアメリカ人は!」案件をやってしまったわけです。

で、その8時間後、私は どういうわけか Alt-J というロックバンドのコンサートを VIP 席で見ていました。ヨーロッパにおける両親的な存在になってくれたばかりの Andy と Anita と一緒に。

alt-J のコンサート(ロンドンにて)

「なにそれっ!?」って感じですよね。そう、おかしな話なのですが、2人のパンを食べてしまったことをきっかけに始まった会話がすごく盛りあがったのです。食事のあいだは、互いの生い立ちについてずっと話していました。そして、食事が終わったとき、「このあと予定はあるの?」と尋ねられたのです。話を聞いてみると、なんとそのあとに予定されていた Alt-J のコンサートチケットが1枚余っているというのです。どうしても行きたかったのに、販売期間中に買えなかったあのコンサートのチケットが!「いやいや、冗談やめてくださいよ」思わず声が大きくなります。2人の返事はこうでした。「遠慮せずもらってよ。これなくても気にしなくていいからさ。VIP 席が問題じゃなきゃいいんだけど」

こんなこと、誰かと旅行していたらありえないことです。まずもって、一緒に旅行している相手をさしおいて赤の他人と食事の最中ずっと話し込むなんて想像できません。同伴者がいれば、そこまでして人とのやり取りを追い求めることがないからです。さらに、どうしても行きたかったコンサートのチケットをその赤の他人が1枚余分に持っている可能性はといえば、もう奇跡といっても大げさではないでしょう。2枚以上余っている可能性なんて、ほぼゼロなわけです。

ただし、1人で旅行したほうがラッキーになれるよ、と言いたいわけではありません。そうではなくて、ラッキーなことが手の届くところに転がり込んできて、かつ実際に恩恵にあずかれる可能性は一人旅のほうがずっと高い、ということです。しかも、誰かと話したくなったときに便利な「話し相手がいないときのあの人」が一人旅ではいないので、見知らぬ人にもどんどん話しかけ、会話を続けることになります(セレンディピティの前触れ、ともいえますね)。

滞在場所が母国であれ外国であれ、周りの人に話しかけてみてください。思いもつかなかった方向に会話が発展するかもしれませんよ。

考える時間

少なくともアメリカにおいては、誰かと一緒にいるのに会話もせず静かな状態を保つのは好ましいとは受け止められません。赤の他人と乗り合わせることになる地下鉄がしーんとしていても一切気にならないのですが、知り合いと一緒にいるときに沈黙が続くと、落ちつかずそわそわしてしまいます。

複数人で旅行していると、当然のこととして同伴者とはたくさん話すことになります。それを悪くいうつもりはありません。コミュニケーションをとることで相手と親しくなれますし、参加する人が増えれば会話は多様性が増しておもしろくなるからです。一方、考えをまとめて声にしなきゃ、というプレッシャーがかかると、自分1人でじっくり考えているひまはなくなってしまいます。行ったことがない場所を訪れるとき、触れたことのない文化を体験するとき、知らなかった歴史を学ぶとき……いずれも、1人でじっくり考える絶好の機会ではあるのですが。

長期にわたって1人で旅行するということは、1人であれこれ考えながら過ごす時間が多くなる、ということでもあります。あちこちの街を行き来している間、あなたの考えもあちこちへ広がっていくのです。そのときどきで興味がわいたことについて、考えて、振り返って、調べて、観察して、比較しているのです。では誰かと一緒にいるときには何も考えていないのか、というとそういうことではありません。そういったときは、会話の進む方向にそって考えが広がっているのです。一人旅をしていて、いく先々で刺激の洪水に飲み込まれるような状況になってはじめて、訪れた場所・そこにいる人たち・目に止まったものの結びつきや関係性に気づけるのです。

例を挙げましょう。フランスの街を歩いていて、子供を学校まで送り届ける親御さんたちを見かけたときの話です。「先生のいうことを聞いていい子にするのよ!」「一日頑張ってね!」とフランス語で声をかけ、教室へと向かう子供たちを見つめる親御さんたちの視線は、誇らしくもありつつどこかさびしげでした。そして、そういった光景を見つめる私も、同じように誇らしくかつさびしげな視線で、この光景を見つめていたのです。その日は続いてルーブル美術館にいきました。お目当ては、当時の人々の挑戦を称えるファラオの墓石です。そこに刻まれた、「自分は来世に行くのに相応しい人物である」と無名の人たちが古代エジプトの神々を説得しようとする姿をとらえた文章を読んできました。

こんなこともありました。南ロンドンにあるパブで、初対面の男女の初デートの現場にいあわせたのです。2人は3杯ほどお酒を飲んだ後、手に手を取り合ってパブを出ていきました。続いて、その週の後半は、ローマにあるコロセアム(戦士同士の命がけの決闘をスポーツとして何千もの人が観戦した場所)の階段をいったりきたりして過ごしました。

イタリア南部にありヨーロッパで一番盛んな活火山であるエトナ火山の洞窟を火曜日に散策し、金曜日にはオーストリアの首都ウィーンでスロヴェニア出身のジャズバンドの演奏に耳を傾ける。そんな風にしてすごした週もありました。

別の日に、ラグビーの試合を見にいったときのことです。見知らぬ人たちと抱き合って喜んでいたら、後ろの席にいた高齢のアイルランド人たちが「フランス人の血筋なんて根絶やしにしてしまえ!!」と叫んでいました。

ラグビーの大会シックス・ネイションズ。ダブリンでおこなわれたアイルランド対フランス戦

実は、その前の週には、ポーランドにある古い建物に足を踏み入れてひどく気がめいる体験をしていました。

この写真に写っている焼却炉で、何十万人分もの死体が燃やされたそうです。そう、ここアウシュビッツで、想像もつかないような数の血筋が、実際に根絶やしにされたのでした。

それから数日後、片方がもう一方の上にくっつけられたような形で展示されていた2種類の壁(訳注:トポグラフィ・オブ・テラー)を30分ほど腰をすえて眺めてきました。下の方の壁は、1930年代に多くの残虐行為が計画されたナチス親衛隊本部、その基礎部分でした。そして、上の方の壁は、そのわずか30年後に建造されたベルリンの壁でした。20世紀における人種差別のもっとも象徴的な一例ともいえる建造物です。

人類が置かれている状況についてこういった形で時間をかけて考えてみることは、気弱な人にはおすすめできません。ですが、試してみる価値はあるはずです。なぜなら、そうすることは、本当に大切なことについて思いを巡らせることにつながるからです。具体的には、死、自分自身の存在の無意味さ、暴力のばかばかしさ、人々の間を壁で区切ってもなにひとついいことはないということなどが挙げられます。それに、地球上にはおよそ思いもつかないような状況にある地域があることにも気づかされますし、なにより、みんなの悩みがいかに取るに足らないかがわかり、驚かされるはずです。何十億年も前、いくつかの有機物質がどういうわけか混ざり合ってできた原核生物がきっかけで今日の人類があり、そのおかげで数々の建造物や言語、音楽や政治といったものが生まれました。人類がこれまでに築き上げたそれらがいかに遠大で見事であるか、考えさせられることになるでしょう。

一番重要なのは、自分の人生を有意義に過ごしているかどうか、じっくりと考えることになる、ということです。思うにまかせて考えを広げていけば、それはとても自然なことなのです。

一人旅のヒントあれこれ

一人旅に出てみるべきだと気持ちが固まった?やりましたね。では、一人旅を楽しむためのヒントをいくつかお教えしましょう。

1) バーがあるユースホステルに泊まりましょう。都市部で一番安くお酒が飲める場所ですし、みんなが夜に出かける場所でもあるので、誰かと知り合うのにはうってつけです。世界中の魅力的な人たちと知り合えるはずですよ。特にブラジルの人たちと。世界中どこへいってもなぜか会えるんですよ、ブラジルの方々とは。

「いやいや、ユースホステルはあぶないよ。」 そう言いたくなる気持ちもわかります。「赤の他人だらけの大部屋に止まるんでしょ。ベッドにはダニがわいてそうだし。」そういった声も聞こえてきそうです。

もちろん、トラブルは起こります。だからこそ、Hostelworld のレビューをよく読んでください。危ない場所は避けられるはずです。そうしたって、電気周りが貧相だったり、うさんくさい表札があるところに泊まることにはなるでしょうが、実際に私自身は一度も危険だと感じませんでした。仮にそうすることが不安なら、そもそもあなたは一人旅には向いていないのかもしれません。

2) ユースホステルを予約するには Hostelworld を使うのがオススメです。大都市では、TripAdvisor を使えばアトラクション探しが捗るでしょう。また、食事に関しては Yelp を使うようにしましょう。ただし、イタリアのカタニアのような小さな街に限っては、信ずるに足るほどの評価が集まっていないので Yelp は使わないほうが無難です。「都市名 一番美味しいレストラン」でググッてみてください。

3) 時間に限りがあったとしても、同じ街に3日は滞在するようにしましょう。少なくとも自分の場合は、まる2日もあれば街の雰囲気を味わい、観光っぽいことも一通りできたと思います。

4) 決して浮かれてはいけません。世の中には一人旅には向かない危険な場所があります。女性の場合はなおさらです。

5) おおまかで構いませんので、どこにいきたいかは検討をつけておきましょう。ただし、具体的な計画を立てるのは数日分にとどめてください。そうしておけば、一箇所にずっといつづけるはめにもならず、かつ選択肢をたくさん残しておけます。旅の途中でなにか面白そうなものをみつけたときに悩まずに済むはずです。

6) 滞在している国のニュースを食事中に読んでみてください。現地語が少しでもわかるのなら、実際に新聞を読んでみるのがオススメです(私はパリで Le Monde 紙を読んでみました)。現地語に馴染みがないのなら、無線LAN が使える場所を見つけて、現地ニュースの英語記事をいくつかスマホで読んでみましょう。現地の人たちが気になっていることはなんなのか、よくわかるはずです。

7) 可能であれば、一緒に遊んでくれそうな知り合いがいる場所にも立ち寄ってみてください。何十年も会ってないって?気にすることはありません。よっぽど嫌われている場合は話が別ですが、そうでなければ、わざわざ海外から来てくれたあなたをきっと大喜びで歓迎してくれるはずです。

8) イタリアではお財布の許す限り食べ歩きをしましょう。もー、最高っ!!

ローマにあるレストラン Osteria Del Cavaliere で撮影。あまりにおいしすぎて、ウェイトレスに告白しかけた。

質問があれば、いつでも連絡くださいね

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Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。