書くことについて

Haruo Nakayama
5 min readSep 19, 2015

「作家には2種類の人間がいます。考えるきっかけを与える人と、夢を見るきっかけを与える人。」 ブライアン・オールディスはこう言いました。実際、彼が書いた SF 小説のおかげで、ずいぶんと長いあいだ夢を見てこれたと思います。そして、人というものは大抵誰でもひとつくらい近くの人に語れるストーリーというものがあるはずです。そこで、文章を書くときに大切にすべきことについて、自分なりの考えをにまとめることにしました。

まずなにより、 作家というものは優れた読者であるべきです。学術分野の文章だけを読み、他の人たちが何を書こうとも見向きもしない(本に限らず、ブログ記事や新聞コラムなども含む。)人たちがいますが、そういった人たちが自分の文章の欠点に気づくことは決してないはずです。

だから、自分の経験を発信するために文章を書こうと考えている人たちをまずは探してください。何かに手を付けるのは、このあとでかまいません。また、なにも、「他の作家を探せ」と言いたいわけではありません。秀でた部分が異なる人たちを何人も見つけてほしいのです。というのも、書くことも「人々が情熱を持って取り組むことの1つ」に変わりないのですから。

同じこころざしを持つ仲間となるのが、誰もが賞賛するような人物だとは限りません。「ベストな人が見つかったんでしょ?」とみんなに言われるようなタイプとは正反対の人たち。失敗を恐れることなく物事に取り組み、そしてときには失敗もしてしまうような、そんな人たちこそを仲間にしてください。とはいえ、彼らの作品はそれゆえに世間から認知されないことがままあるでしょう。ですが、そういった人たちこそが世界を変えていくのです。いくつもの失敗を重ねてようやく何かを成し遂げたとき、その功績は周囲に大きな変化をもたらすことになります。

彼らは、なにをどう語れば一番伝わるか、じっくり時間をかけて結論を出すようなことはしません。常に行動しながらその場その場で結論を出していきます。それがときには危険であることを承知のうえで。

そういった人たちのそばに身を置くことが作家にとって大切だと思います。というのも、想像のおもむくままに物語の形を変えていいんだということを、何かを書き始める前に認識しておくべきだからです。文を1つ書き終えるたび、作家たるもの自分にこう言い聞かせましょう。「長い思慮を経て、この1文を書き終えた。いまならはっきりとこう言える。『自分は、危険をいとわず最善を尽くした』と」。

味方につけるべきは、独特の考え方をする人たちなのです。仲間を探すときには直感を信じるべきで、周りの意見に惑わされてはいけません。人はとかく、己が持つ「型」にはめて相手を見てしまうものです。その結果、社会の意見が偏見や恐れにまみれてしまうことにつながることもあるというのに。

「これで完成。もう手はつけない」なんて一度も言ったことがない人たちの列に加わりましょう。冬のあとには必ず春がくるように、物事に「完成」などありはしません。当初の目的を達成できたら、また 1 からやりなおせばいいのです。その際は、目的達成の過程で身につけたことを最大限に活用してください。

「物語を発信している」「瞳が幸せで満ちている」「人生を謳歌している」。そんな人たちの列に加わりましょう。幸せは人とわかちあえるからです。しかも、そうすれば絶望や孤独に陥らずにもすみます。

たとえ聞いてくれるのが家族だけでもかまいません。物語をどんどん発信しましょう。

文章を書くためのヒント

自信について 出版したばかりの本を過小評価してしまっては次の本が売れなくなります。自分の才能に自信を持ってください。

信頼について 読者を信じましょう。描写しすぎは禁物です。きっかけさえ与えられれば、読者はそれをもとに想像の翼を広げてくれます。

知識について 無からなにかを生み出すのは困難を極めるものです。本を書くときは、これまでの経験を活かしましょう。

批評について 作家のなかには、同業者から好かれたいと望む人もいます。「承認されたい」ということのようです。 作家自身の不安の現れ以外の何物でもありませんので、その気持ちは横に置いておきましょう。目指すべきは思いを読者と共有することであって、同業者に好かれることではないはずです。

メモについて 思いついたことを書き留めようとするとすぐに忘れてしまいます。うごめく感情から切り離され、歩むべき道を外れてしまうからです。そうすると、傍観者になってしまい、自身の人生を送っているとはいえなくなります。メモをとることをやめてみましょう。本当に大切なことは忘れませんし、そうでないことは自然と忘れられるものです。

調査について 調査した内容で本を埋め尽くしてしまうと、書いていてつまらないですし、読者は読んでいて退屈になってしまうでしょう。本を出すのは「自分が如何に聡明であるか」を示すためではありません。自分の思いを示すために、本を出すのです。

書くことについて 私自身は、「書いてくれ!」と自ら訴えてくるような本を書くようにしています。序文から伸びている糸をたどっていけば、結びの文までたどり着けるはずです。

文体について 物語の語り方を新たに生み出す必要はありません。よいストーリーであれば、魔法のように伝わるからです。見ためにこだわって新たな語り口を生み出そうとして、結局同じことしか伝えられない人が多くいます。ファッションのようなものです。ドレスは見ためがすべてですが、内に秘めたものがドレスに左右されることはないはずです。

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Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。