アメリカのフィットネスジムCrossFitの汚らわしき秘密
みんなには誰にも合わせたくないおじさんがいる。
申し訳ないがRhabdoおじさんを紹介させてほしい — CrossFitの非公式マスコットだ。RhabdoおじさんはCrossFitに関する記事によく登場するアニメキャラクターで、CrossFit利用者の間で起こっている、あるトラブルが元ネタになっている。
彼は文字通りのピエロである。
Rhabdoおじさんは疲れきったムキムキのピエロで、トレーニング器具の横で解析用機械に繋がれている。賢臓と腸が足元に転がっているのが痛々しい。血が彼の足元一面に広がっているが、それが賢臓からの動脈出血なのか、筋膜切開時の出血なのかはわからない。そして彼はもちろん、Rhabdomyolysis(横紋筋融解症、筋肉の酷使に伴う壊死)を患っている。
横紋筋融解症は — そのメロディックな言葉の響きとは裏腹に — 筋肉細胞の崩壊に伴う非常に危険な症状であり、死に至る場合もある。その症状については後で詳しく語るとして、まずはあるストーリーについて話しておきたい。
横紋筋融解症に関する実話
ある日、私の同僚である若くて健康な理学療法士がCrossFitへ行った。彼女は以前に何度もCrossFitを利用していた。テキサスの暖かな午後、彼女はpartner workout(パートナーをつけて行うトレーニング)を選んだ — 各エクササイズを10セットずつパートナーと交互に行っていくトレーニングだ。そのトレーニングの中にはすごい数の腕立て伏せが含まれている。さらに重量挙げもたっぷりと含まれている。
彼女はそのメニューを何百回と繰り返した。ものすごい女性だった!
「私はパートナーと一緒にやりたくはなかったの。いつもは少し休んだりしていたんだけど、その時は休憩無しでトレーニングがどんどん続いていったわ。」


腕立て伏せと重量挙げは両方とも三角筋を使うエクササイズだ。だからCrossFitからの帰りに、その美しい彫刻のような両腕がJELL-O®(Kraft Foods社のゼリーのお菓子)のように感じたとしても、彼女は別に驚かなかった。きっと腕が熱を持っているだけだろう — ものすごい数のエクササイズをこなしたから。しかし彼女の筋肉はとても危険な状態にあった。帰宅後彼女はすぐにアイスで冷やし、十分に水分を補給した — 経験者がそうするように — しかしダメージはすでに蓄積されていた。
私たち理学療法士は、エクササイズをとおして人間の体の異常な部分を探し出す精巧な検査機器のようなものである。一週間に何百回も患者から「これって普通痛いんですか?」と質問を受ける。ある時はその答えはYESであり、その人に運動を続けるように促す。そうでないときはその人を休ませ回復させてあげる。このシグナルを検知することが理学療法士として大事な要素である。シグナルを検知せずに無理な運動を続けていると、何か異常を感じた場合には時すでに遅し、ということになりかねない。そして彼女が翌朝起きた時、彼女の両腕からアラームが鳴り響いた。肘を曲げることができないのだ!歯を磨くことすらできなかった。
彼女は自分を落ち着かせ、ストイックに仕事へ向かった。肘を曲げ伸ばしだけでなく、腕に力を入れることすらできないと気づくのに時間はかからなかった。その日の午後までに彼女の両腕はまるで痛みと後悔でパンパンに膨れ上がったホットドッグのようになった。そして彼女は気づいた — 朝の出来事は何か重大な異変を教えるアラームだったのだと。
信じられないことに彼女のような理学療法のプロフェッショナルでも、CrossFitのカルチャーの危険性に気づき医療機関に向かうまでにさらに24時間もかかった。結局彼女は重度の横紋筋融解症と診断され、一週間以上入院することになった。緊急外来でCPKレベルを測定した結果、通常は100あたりであるところ、彼女のCPKレベルは45,000を超えていた — この数字は賢臓へのダメージを示すものだ。
入院中、彼女はCrossFitのメンバーシップからの退会を申し出た。CrossFitでは利用者が退会する際にはCrossFitのインストラクターが退会の理由を尋ねることになっている。彼女はこう答えた。「入院しているのよ。」インストラクターはすぐさまこう聞き返した。「もしや横紋筋融解症ですか?」
これがCrossFitの汚らわしき秘密である。彼女のインストラクターはプロとしては信じられないほど肉体の異常とはどういうものかわかっていなかった。横紋筋融解症の年間発生件数は0.06%、つまり数千人の患者の中でたった数人であると報告されており、非常に稀である。だから私には不思議で仕方がない — 専門知識を持たない利用者のためにCrossFitにはインストラクターがいるのに、非常に深刻でしかも稀な症状を利用者が発症するなんてありえるのだろうか?CrossFitのやり方と関係があるのか? — その通りである。
横紋筋融解症:CrossFitの言った通りにしたのに?
インターネットで少し検索するだけで、おびただしい数のCrossFitと横紋筋融解症に関する検索結果がヒットする — しかもその情報源は他でもないCrossFitのトレーナーだ(1、2、3、4、5)。しかし主流な医療専門誌の科学文献を調べてみると数件しか見当たらない。その科学論文によると、肉体の酷使による横紋筋融解症は日常で起こり得るものではなく、エリート軍隊の訓練や、信じられない程の耐久力を持つ怪物、または精神病を患ったサッカー監督によるトレーニングの被害などで見受けられることがあるという。横紋筋融解症は一般的な肉体疲労ではない、しかしCrossFitではよく見れらる光景であり、そのアニメキャラクターがユーモアを交えてそのことを教えてくれている。
では横紋筋融解症とは具体的にどのような症状なのであろうか。極限の状況下であなたの筋肉細胞は爆発し、死滅する。それによりミオグロビンを含む様々なたんぱく質が血流に流れ出す。この時賢臓が、ミオグロビンなどの危険なたんぱく質を血流から取り除こうと働く、それが賢臓の機能だからだ。残念ながらミオグロビンたんぱく質は血液中で存在できず、また賢臓に過剰な負荷をかける。この負荷が痛みを発生させ、時には短い時間で賢臓の一部または全てを死に至らしめることもある — 患者自身が死に至ることもある。そして局所的に筋肉は壊死する。筋肉の腫れがすぐに起こり、周りの筋肉から圧力がかかるため腫れた部分が弱くなる。あなたのからだの防衛システムは通常であればダメージを負った部分を助けるために痛みを感じさせるが、このような状況下ではあなたを死から守るために痛覚を遮断する。この段階に到達してしまうと非常に危険である。
場合によっては隔壁腔症候群が併発することもある — 人体にとって非常に危険な状態であり、筋膜切開で腫れを取る必要がある(この写真のように)、そうしないと手足を失うことにもなりかねない。軽率に考えてはいけないのである。
2005年に、New York Timesが“Getting Fit, Even If It Kills You.”というタイトルのCrossFitの文化と横紋筋融解症についての記事を発表した。その記事にはこんな一節があった:
6ヶ月しか経っていないにもかかわらず、元アーミーレンジャーのAndersonさんは激しいトレーニングのし過ぎで命を落としかけた場所 — CrossFitのジムに戻ってきた。「あの時は体を壊してしまったけど、あそこまで自分の体を追い詰めることができるっていうのがCrossFitに通う利点だと思っている。」と彼は言った。
CrossFitの創始者であるGreg Glassmanはこのことについてどう考えているのだろうか?
「死に至ることもあり得る。」彼は言った。「そのことについては正直でありたいんだ。」
2013年になってCrossFitのカルチャーに少しではあるが変化があった — さら加速しているのだ。同僚のMediumライターであるJason Kessierが“Why I Quit CrossFit”で指摘している通り、エリート主義の、限界まで自身を追いつめさせるCrossFitのカルチャーは商業的に定着しており、どんどんエスカレートしている。
CrossFitのコーチに尋ねてみても、怪我は自身の責任だと言われるだけだ。自分を限界まで追い込むようにけしかけるカルチャーが誇大広告無しで顧客を獲得するなんて無理なんだ。CrossFitでは君は限界を超えることを要求される、でももし限界を超えたとして、その上治療代まで払ったとしたら、君はただの馬鹿だ。
CrossFit全体を覆い尽くすカルチャーがいかにプロ意識の低い環境であるか、その例を紹介しよう — CrossFitに関するあるビデオで、CrossFitを利用する婦人科医はこんなことを言っている:
女性の皆様。プロとしての私の意見としては、二重跳びの最中におしっこをすることは問題ありません。
もちろんトレーニングの最中におしっこをするなんてダメに決まっている。
前述の点をもう少し詳しく説明するために、MoveForwardPT.comという米国理学療法協会(APTA)の公式Webサイトについて触れておきたい。MoveForwardPT.comはインターネットのラジオ番組を放送しているWebサイトだ — 特にCrossFit利用者がストレス過多に伴い失禁をしてしまうことについて取り上げている。
横紋筋融解症のインパクト
横紋筋融解症が治療により回復に向かうケースもある。一向に良くならないケースもある。賢臓が二度と再生しないケースもある。ある掲示板Webサイトにこんなコメントがあった:
激しいトレーニングの後ってなんだか燃え上がるような感じになるよね。以前はとにかくトレーニングしまくってて、すごく体が引き締まっていたんだ。横紋筋融解症を患ってからはトレーニングしなくなって体重も増えたし、腕は未だにパンパンだよ。ウエイトトレーニングしないと、まるで日を増すごとに筋肉組織の質が下がっていって、体が崩壊していくような感覚になるんだ。


私の友人も同じような症状を経験したが、ありがたいことに長期的な悪影響というものはなかった。治るまでに数カ月かかり、また彼女の三角筋は元の強度を取り戻すことはなかった。彫刻のようだった彼女の両腕は腫れ上がり、小刻みに震えるようになった。一度筋肉が裂け、ダメージを負ってしまうと、その部分は傷の付いた脂肪組織に変わる。結果として筋肉に永久に傷跡が残り、以前と同様の負担のかかるトレーニングはできなくなる。皮肉なことに腕立て伏せをしたことで腕がたるんでしまった、 — なんでもやりすぎは良くないのだ。
利用者の大半は横紋筋融解症のリスクに気づいていない。そして彼らはさらに自分を追い込み、消耗し、疲れ果てていくだろう。私の意見はこうだ:数年のうちに、CrossFitと横紋筋融解症に関する学術論文が発表されるだろう。そして健康関連の企業や団体は少しずつその情報を取り上げていくだろう。しかしリスクにさらされているCrossFit利用者たちを守ろうとする者は現れるのだろうか?
エクササイズは自身の健康のためにできる最良の行為の一つである。しかしこのCrossFitのケースに関しては、あまりに多くの疑問が残ったままだ — リスクを冒す価値がCrossFitのトレーニングにはあるのか?このカルチャーはいつか安全なトレーニング理論を推奨する方向へと変化していくのだろうか?コーチたちは本当に、どの程度の負荷がトレーニングを行っている人にとって最適か判断できているのか?時が経てばわかるだろう、そしてCrossFitの未来もその答えにかかっている。