プロカメラマンの価値について。「レタッチ前の写真も全て頂けますか?」に対する答え。

Erika Ito
11 min readJun 10, 2016

by caleb kerr

カメラマンとして、レタッチ過程の大切さについて思うこと。

どんなカメラマンも、撮影の後に、こんな質問をされた経験があるのではないでしょうか。「いい写真が撮れましたねー。万が一あとで必要になったときのために、レタッチ前の写真も全て頂けますか?」

結論だけ言うと、答えは「いいえ」です。でも、私にとってはその理由を理解してもらうことが重要です。この記事では、レタッチ後の完成写真とレタッチ前の写真を比較してお見せします。高度な心理的テクニックを利用して(笑)、レタッチ前の写真を受け取ることに、どれだけ意味がないかをお伝えしましょう。

全ての写真を渡すことを断るのは、単に「いいえ」と言いたいからとか、面倒くさいから、という訳ではありません。よりによって、最高の写真1枚を出し惜しみしている、ということでもありません。

「でも、減るもんじゃないでしょう?」

…その答えが単純ではない理由を、できるだけ簡単に説明してみます。

写真は、レタッチを前提に撮影されています。全ての写真が、です。

「RAW」や「JPEG」といった言葉を聞いたり、見たことがあるかと思います。どちらも、画像ファイルの種類です。私はこの記事を、できるだけ技術的にならないように注意して書いています。ここでは、RAW画像の特性と利点についてはあえて深くは触れません。それはまた別の機会に紹介することにします。

簡単に言うと、JPEGファイルはFacebookやInstagramにアップロードしたり、プリントするときに使われる形式です。 RAWファイル(私のカメラが使う形式)は、JPEGと比べるとかなり多くの情報が含まれています。JPEGでは無くなってしまうような、明るい部分や影の部分にも、多くの色と質感が残されていて、ファイルを開くだけでもPhotoshop、LightroomやiPhotoのように、容量の大きなソフトウェアが必要です。もし、わたしがカメラから吐き出されたRAWデータをそのままお渡ししたとしても、特別なソフトウェアを使わなければ、ファイルを開くことさえできません。

プロのカメラマンは皆、RAW形式で写真を撮影します。なぜなら、JPEGのように限られた情報よりは、多くの情報があったほうがいいからです。ここで大切なことは、カメラから吐き出されたRAW写真は、平べったく見えることです。ほとんどの場合、コントラストのバランスは悪く、色も濁っています。レタッチが終わるまで、その写真は完成とは言えません。建築に例えて言えば、RAW写真は、大工が全ての道具や木材を並べて、これから作業を始める作業場のようなものです。反対にJPEGは、お店でテーブルを購入し、気に入っても、気に入らない部分があっても、手を加えられない状態に似ています。

レタッチも含めてわたしの作品、そしてスタイルです。その行程も含めて、私が提供するサービスです。

私のレタッチ技術は、私の写真の重要な一部です。構図決め、シャッターのタイミング、それ以外にもたくさんの技術がわたしのカメラマンとしてのスキルやスタイルを形作っていますが、レタッチが終わるまでは、自信を持って「自分の作品です」とクレジットを付ける気にはなりません。料理を作振舞うとき、生焼けのチキンをオーブンから取り出したりはしないですよね!

ここでお見せするレタッチ後の写真は、わたしが自分の作品として発表したいと思うものです。ウェブサイトにも掲載してあり、わたしのスキルを判断するときの材料にしてほしい作品です。以下、全く手つかずのRAW写真とレタッチ後の写真を横に並べて比較できるようにしました。

Lindsey, For A2 Swimwear
Jess, personal work
Tatiana, for A2 Swimwear
Jeff, personal work
Sea Dart, for No. 4 St. James
Megan, for The Fittest Games
On the Road to Hana — Maui, Hawaii
For A2 Swimwear
Echo, personal work

初めてカメラを買ってから、何度も何度も繰り返してるから、写真を選ぶスキルには自信を持っています。

(2016/5/9 2:42追記)この段落について、多くの人が誤解をしているようなので追記します。この紹介するような仕事内容は、撮影によって様々です(結婚式の撮影は、オグルビー・アンド・メイザーのために広告写真を撮影する仕事とは全く別物です)。社内にクリエイティブチームがあるクライアントは、デザインの際にRAWファイルが必要なことがあります。私もこのことは重々承知していて、クライアントと信頼関係があれば、必要に応じて気軽に調整しています。写真を選ぶ工程で、全く意見を聞くな、と言いたいのではありません。私のゴールは、クライアントが必要としている写真を選定することです。クライアントが求めてもいないのに、無駄にスタイリッシュにしたいとは思っていません。クライアントの許可、または要求がないのに厳しいアーティスティック・ライセンスを取得することもありません。これは、撮影前のミーティングで合意を得るものです。エディトリアルな軽い雰囲気がいいのか、エッジの効いた暗めの写真がいいのかも、その時点で決められます。このように、写真の雰囲気は、私個人の趣味ではなく、クライアントのニーズに沿って決めています。私のスタイルを気に入って雇ってくれてはいますが、その上で、彼らのブランドイメージやビジネスの内容に合わせています。期待されているものとは違う写真を納品するのでは、とてもプロとは言えませんよね。ここで紹介している作品は、なんの説明もなく、「文句をつけるな」と私が押し付けたものではありません。では、このあたりで本題に戻します。。

日の目を見ることのない写真は、余計なカット、ピンボケ、重複(本当に多くの重複)している写真です。私が納品する写真1枚に付き、10枚、多ければ100枚のビミョ〜に違う、クオリティが少しだけ劣る写真があります。モデルが目を閉じていたり、髪が顔にかかっていたり、犬がカメラの前を走り抜けていったり。。(実際に何度もありました。)1枚の最高の写真を選び出すために、何度も何度も写真を見比べます。

全く違う構図で、同じくらいよく撮れた写真が2枚あるのに、どちらか1枚しか納品しない、ということはありません。この「写真を選ぶ」プロセスは、余分なものを捨て、クライアントが必要としているクオリティの高い「プロ」の写真を納品するための作業です。

要するに、私の仕事はプロクオリティの写真を提供することです。「プロフェッショナル」とは、クライアントが求めるトーンや目的を的確に捉えることです。必要であれば、「無駄」に思えるような、ポーズとポーズの合間の笑顔やゆるい雰囲気、間抜けなポーズを撮ることもあります。「プロの写真」とは面白味がなく、つまらないという意味ではありません。

本当に、これを5,000枚分も確認したいですか?

では、どうやったら私が本当に1番良い写真を選んでいると、信じられるようになりますか?私は今まで、「何が写真の良し悪しを決めるのだろう?」と、常に考えて研究してきました。その時間を合計したら、何千時間にもなるでしょう。あるテーマに対して、1番相応しい写真を選ぶスキルは、私がその仕事に雇われた理由の一つです。10,000枚もの「まあまあ」な出来の写真を渡すことは、それを受け取る人の時間を尊重していないことと同じではないでしょうか。写真を振り分ける作業は、私がやるべき仕事なのですから。

もちろん、その1枚を選ぶ際、クライアントの意見を聞くことも必要です。私が言いたいのは、一度写真が承認されたら、「念のため」に残りの写真全てを送ることは不必要だということです。

撮影の前には、契約が成立しています。

撮影の前には、撮影のゴールや必要な写真の枚数について必ず取り決めを行います。(プロジェクトによって、厳密に納品枚数が決まっている時もあれば、大体の数だけが決まっている時もあります。)これは、プロのカメラマンである以上、事前にしっかりと内容を詰める責任があります。事実、カメラマンの報酬というのは、最終的に納品する写真の数にプラスして、ライセンスや利用規約からレタッチ時間まで含めた費用なのです。写真を納品するには時間がかかりますから、取り決めた枚数以上をお渡しすることは、契約以上の仕事をすることになります。

もちろん、仕事をしていれば、予想外のことも起こりますよね。場合によっては契約よりも多く写真が必要になることも、あると思います。ただ、追加の写真を選別し、レタッチする場合には、追加の費用がかかることもあると、理解してください。全てのプロセスにおいて密にコミュニケーションをとれるようにしていれば、大方うまくいくでしょう。

この内容から学べること。

この記事が、カメラマンの仕事について考えたことのない人に届き、将来役に立つといいなと思います。また、私と同じようなカメラマンには、今後、クライアントとコミュニケーションをとる際の参考になれば嬉しいです。この質問は、本当に返事が難しいんですよね!特に、お金を貰っている場合、わざとガッカリさせたいと思う人なんていませんから。

そして、もっとコミュニケーションを取りましょう!事前の打ち合わせで内容を密に擦り合わせたり、撮影の詳細が決まってきた段階で説明すれば、同じような質問をされたときにも、それほど大きな問題にはならないでしょう。もちろん!絶対にRAW画像を渡すな、ということではありません。全体のトーンに合わせるために、撮影後の工程は全て社内で行うという会社があれば、それに合わせた作業の振り分けを考えます。これを読んでいる人の中に、近々カメラマンを雇おうと考えている人がいたら、私たちの考え方とその理由を理解して欲しいと思います。ただの意地悪で「いいえ」と断っているわけではないことを。

写真の雰囲気はもちろん、信頼できる人柄、信頼できるプロセスで仕事を進めるカメラマンを見つけることが大切です。

ケイラブ・カーは、テキサス州オースティンに拠点を置く商業カメラマンです。 Instagramアカウントはこちら。ポートフォリオサイトはこちら

--

--

Erika Ito

Product Designer at VMware Tanzu Labs (former Pivotal Labs) in Tokyo. Ex Medium Japan translator. | デザインに関すること、祖父の戦争体験記、個人的なことなど幅広く書いています😊