みんな持て余している

メレ子
白くてすべすべした石
2 min readApr 6, 2017

最近「持て余しているな」と思うことが多い。

どこかずれたり掛けちがった愛情表現をしている人などを見るごとに「持て余しているな…」と心の中でつぶやいている。たとえば、野良猫に餌をやるおばさん。自分の知っていることの全てを、こちらが全て知らない前提でfacebookのコメント欄で教えようと試みるおじさん。電車で隣りあわせた人に自分語りするのをやめられないおばあさん。

以前はそういう人を見るたび「寂しいのだな」と思っていたが、今受けるイメージはもっと外向きだ。持て余したエネルギーが、なりふり構わず外に向かっているのを感じる。言うなれば「体じゅうから愛がこぼれていた~」(華原朋美『I’m proud』)という状態だ。寂しいは寂しいに違いないのだろうが、きっと「寂しさ」というのは内向きの感情ではなく、誤ってくっつけてしまって一気に臨界したプルトニウムの球体から放たれる中性子線のようなもので、周囲は青い光と熱波といろんな迷惑に包まれる。

わたしもめちゃくちゃ持て余している。この前ツイッターで「いきなり筋トレやそば打ちやマラソンにはまり出す中年のことをミドルエイジ・クライシスという」という投稿を見たが、「俺のことかよ」としか思えない。本を書いたりイベントをしたり、ジムに通ってみたり思い出したように仕事をがんばってみたりマンションを買ったり中国に行ったりするのも、要するに暇で仕方ないからだ。異常に飽きっぽくて実力もないのにいろいろなことに手を出すだから、「毎日が夏休み(最後の日)」になるわけだが、それはもうしょうがない。

そもそも、クライシスしていない中年などいるのだろうか。仕事とか子育てとか趣味とか恋愛とか宗教とか表現活動にでも頭をつっこんで脳みそをふやかしていないと、人生はあまりにも長く耐えがたい。ゴジラみたいに、持て余した熱波であたり一面を焦土にしてみたい。そう思いながら、毎日まじめに働いたり酒を飲んだりしているのだ。

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メレ子
白くてすべすべした石

生きものと旅行が好きな勤労女性。エッセイなどを書きます。近書『ときめき昆虫学』(イースト・プレス)『メメントモリ・ジャーニー』(亜紀書房)以前のブログ:「メレンゲが腐るほど恋したい」http://mereco.hatenadiary.com/