メレ子
白くてすべすべした石
4 min readSep 2, 2017

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上海日記170902

7月末に正式に上海に赴任してからひと月が過ぎた。わりと無我夢中で過ごしている。

仕事は順調に忙しくなってきている、というか海外駐在までして忙しくなかったらやばい境遇なので、緊張感をもって取り組んでおります。とにかく、現地の社員たちに信用されないと話がはじまらない。いろいろ首を突っこんではできることがないか探している状態。幸い、首を突っこみがいのある沼があちこちに存在している……。

日本では同じ部署で長年過ごしてきたので何をしても新鮮だし、仕事の体感速度も5倍くらいなので、目が回るがうまくいったときは爽快感がある。一方で、前にやっていた仕事が役に立っているのも実感できていて幸運だと思う。振られた仕事について、社内で詳しい人をいちいち探してまわるのもRPG感があって面白い。

現地社員とは日本語または英語でやりとりするのだが、特に近年採用されている人たちは日本語が話せる率が高い。お昼休みに会社の女子たちが日・英・中のちゃんぽんで冗談を言って笑いあっているのを見ると、その有能さに震撼する。中国語しゃべれないとか言ってる場合じゃないので、がんばる所存……。

休みの日には豫園(イーユェン)や万商花鳥虫魚市場といった観光地にも行ってみたりしたのだが、それをお昼ごはんのときに話したら「ひとりで観光してるなんてかわいそう……」という流れでドライブに連れていってもらえることになった。女ひとりで出向しているので、何かと気を遣ってもらえている。

「古鎮(中国の古い街並みが残っている場所)に興味がある」と図々しくリクエストし、朱家角(ジウジァジャオ)という上海から西に1時間ほどの古鎮に連れていってもらった。細く枝分かれした運河にかかる小さなアーチ橋、狭い石畳の道に立ち並ぶ明・清時代の建物にわたしは大興奮したが、連れて行ってくれた中国人女子は「ここはみやげ物屋ばかりで、実際に人が住んでいる街という感じが少ないので百点満点でいうと六点くらいの古鎮ですね」と暴言を吐いた。人々の生活がそのまま残されている古鎮では、宿泊して朝晩に静かな街を散策するのがめっちゃ最高なのだそうだ。はやく中国のいろんな場所に旅行してみたいなあ。

今暮らしている部屋は、日本人家族ばかりが暮らす複数のタワーマンションコミュニティの一室だ。フロントにいるスタッフも完全に日本語が通じるし、生活面のサポートは超充実している。共有部分を日本語で行き交う家族たちを見ていると、異国の中にある小さな日本っぷりに、ラーメンどんぶりのれんげの中に作った小さなラーメンを連想する。

完全に日本人向けのマンションということで、大浴場まである。慣れない仕事でとっちらかった頭を整理するため、大浴場の中の小さなサウナに入るようになった……というか、サウナを開拓せざるを得ないくらい湯船のお湯がぬるいことがしばしばある。やはり、基本は湯船につかる習慣がない国だ。サウナと水風呂を三往復くらいして、時計がない水風呂ではひたすら数を数える。中国語の練習のため、あえて中国語で数を数えることにした。イーバイサンシースー、イーバイサンシーウー。

こちらに来たばかりのころは、夜は近所の川からカエルの鳴き声が響きわたっていた。その後、セミの大合唱を経て今は植え込みから虫の声が聞こえてくる。夜がずいぶん涼しくなってきても、川では毎朝おっさんが数人泳いでいる。めちゃくちゃ街中の茶色い川なのに、ガッツがある。聞くところによれば、つかまえたスッポンを川沿いに並ぶカフェの横で売るおっさんもいるという。どこもかしこも都市化された上海の街ではなかなか生きものに会えなくて、個人的にはさびしい。それでも、ぜんぜん気配を感じられないわけではない。虫もカエルもおっさんもわたしも、この街でたくましく生きていきたいものである。

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メレ子
白くてすべすべした石

生きものと旅行が好きな勤労女性。エッセイなどを書きます。近書『ときめき昆虫学』(イースト・プレス)『メメントモリ・ジャーニー』(亜紀書房)以前のブログ:「メレンゲが腐るほど恋したい」http://mereco.hatenadiary.com/