【EIP/ERC Vol.4】〜EthereumにおけるSubscriotion規格について〜

Hiroyuki Narita
Metaps Blockchain JP
13 min readDec 26, 2018

Consensysの記事(McKinsey & Company, Inc.調べ)によると、Netflix、SpotifyをはじめとするSubscriptionモデルのサービスは2008年以降急増し、2017年にはBtoC向けで2,000社以上のSubscription会社、1100万人以上のユーザー数が存在すると言われています。これらのサービスをBlockchain上に置き換えて展開した場合、現在のTokenモデルでは著しくユーザー体験を損ね、今の市場と同様のユーザー数を取り込むことは困難であると言えます。これまでのSubscriptionモデルは定期支払い時に自身の銀行口座(あるいはクレジットカード)から自動で支払いが完了され、支払いの度にユーザーの同意は必要ありませんでした。しかし、これをTokenで行う場合、定期支払いの度に秘密鍵の署名が必要となり、支払いの度にユーザーの意思確認が必要となり、ユーザー体験を著しく棄損する結果となります。

−現在のERC20では定期支払い時に「継続する」と意思表明が必要−

メール送信 → メール受信 → メールを開封 → TXに署名 → TXを送信

そこで現在、Tokenでの支払いにおいてユーザー体験を棄損しない形で繰り返し定期支払いが実現できる規格の議論がなされています。

目次

  • Subscriptionモデルの現状
  • BlockchainにおけるSubscriptionモデル
  • EIP/ERCの主要規格
    ERC948/ERC1337

Subscriotionモデルの現状

Subscriptionモデルを理解する上で「オプトイン」「オプトアウト」の2つのモデルを理解する必要があります。「オプトイン」はユーザーがサービスに”継続する”と意思表示をするモデルであるのに対し、「オプトアウト」はユーザーがサービスを”退会する”と意思表示をするモデルになります。「オプトアプト」モデルを採用することで、ユーザー体験が良くなり継続率向上に寄与します。加えて、サービスプロバイダーにとって再帰的な毎月の収入が確保されキャッシュフローの安定を実現させます。そして、AmazonやNetflixといったSubscriptionサービスの多くがこの「オプトアウト」を採用しています。

BlockchainにおけるSubscriotionsモデル

BlockchainでこのSubscriptionモデルのサービスを展開する場合、上記で挙げた「オプトイン」を採用する形となります。これは、月額費の支払い毎に秘密鍵の署名が必要となとなる為、サービスに”加入する”ことを意思表示するモデルとなるからです。もしこうした「オプトイン」のサービスを複数(例えば10個)契約していた場合、毎月末にこの10個のサービスに対して秘密鍵を用いて支払いを行わなければならなく、AmazonやNetflixのような「オプトアウト」のサービスに慣れているユーザーにとってはユーザー体験を損ねる結果となります。そこで現在、Blockchain上でこの「オプトアウト」のSubscriptionを実現させる規格について活発な議論がなされています。

【主なプロジェクト】

【主なディスカッションスペース】

EIP/ERCの主要規格

ERC948/ERC1337
2018年3月、Everett Muzzy(ConsenSys)とKevin Owocki(Gitcoin Founder)によってSubscription規格の議論の場としてERC948が提案されました。当初、Piper Merriam(Ethereum Foundation engineer)によるERC-20での設計提案や、GitcoinによるERC984の設計提案など様々な提案が行われました。しかしながら、いずれもユーザー体験を損ねる設計となることや、その他様々な課題が残ることから、より深くSubscription規格を検証する目的でGitcoinメンバーを中心に1337Alliancが立ち上げられました。これにより現在、議論の場はERC948からERC1337へと移り、現在加盟プロジェクトを中心にSubscription規格の検証が行われています。

-1337Alliance-

https://1337alliance.org/

※ERC948:https://github.com/ethereum/EIPs/issues/948
※ERC1337:https://github.com/ethereum/EIPs/pull/1337

【Subscriptionにおける課題】

  • ユーザーが複数サービスを利用する際、サービスの数だけコントラクトが必要
  • ETHなどのTokenでは価格変動が大きく、支払いTokenに向いていない
  • 会員からの支払いを受ける際、ユーザーの数だけコントラクトが必要
  • 支払いの度にGas代が発生、且つGas代は変動する為、隠れた料金負担となる

Subscriptionモデル導入プロジェクト紹介

Gitcoin Grantsは助成金を扱うプラットフォームになります。ConsenSys配下でバグバウンティプラットフォームを運営するGitcoinチームの1つのプロジェクトとして運営されています。Gitcoin Founder であるKevin OwockiによってEIP948/ERC1337が提案されたこともあり、彼らのプロジェクトであるGitcoin Grantsで実際にERC1337が導入されています。

Gitcoinはプロジェクトが完了したら報酬を支払うタイプの単発な開発依頼(スマートコントラクトのバグ検証)であるのに対し、Gitcoin Grantsは毎月報酬を支払うタイプの継続的な開発依頼(定期メンテナンスが発生)を扱います。ERC1337によってこうした繰り返しの支払いの際にも簡単で安全に実行できるようにしています。また、支払いにはDAIやUSDが採用され報酬額の変動リスクにも対応した設計にしています。

https://gitcoin.co/grants/20/burner-wallet/fund

GroundhogはGroundhog WalletとGroundhog Payの2つのプロジェクトの提供を目指しています。Groundhog WalletはユーザーがSubscription支払いのDappsをまとめて管理できるウォレットであり、Groundhog PayはサービスプロバイダーにSubscription支払いが可能となるSDK、API、プラグインです。現在、まだ触れるものはなくテストユーザを募集中ではありますが、開発以外にも先日MakerDAOとのパートナーシップを発表したりと、周辺環境の整備も着々と進めています。

ERC1337のフレームワーク「EIP 1337 POC — Token Subscriptions on EthereumGriffith」を公開したAustin Griffithによって進められているプロジェクトです。ここで扱われているプロジェクトは、Gitcoin Grantsと同様に助成金を求めるプロジェクトとなっています。支援者は各プロジェクトの詳細をクリックして「プロジェクト内容」「支払いサイクル」「支払い期間」「連絡先」を確認した上で「支払いToken」「量」「ガス代」「メール」を入力して定期支援を実行します。また、支払いTokenには、stablecoinのDAIは勿論、ZRXやBATといった様々なTokenが採用されています。

https://ethgrants.com/view/5

前身となるTokenSubscriptionsのフォークとなり、使い方は似ている為こちらの動画を見ていただくと分かりやすいです。

8x protocolを用いることでサービスにSubscription支払いの導入を実現します。これはGitcoin GrantsやETH Grantsと異なり、NetflixやSpotifyといったサービスに対してSubscriptionの支払いを提供してくれるサービスとなります。

とてもシンプルなUIとなっていて、ここでも支払いTokenにDAIが選択できます。

https://8xprotocol.com/

下記手順でベータ版を試すことができます。

Blockchainプロジェクトに特化した財務管理プラットフォームとしてSaaSでの提供を予定しています。このサービス利用料金の支払い部分にERC1337を採用する予定です。Token saleを行うBlockchainプロジェクト向けのサービスとして、Token sale参加者のトランザクション追跡やトランザクション分類、データエクスポートなどが可能となりBalance Sheet(Fiat、Token)、Income Statement(GasFee、Gain)の管理を容易にします。Blanc3はConsenSys配下のチームとして運営され、既にGnosis、Aragon、Digixがプラットフォームのテストに参加しています。開発段階ですが申込みとデモが触れます。

https://media.consensys.net/balanc3-unveils-financial-statements-for-gnosis-aragon-and-digix-e57888add4ee

以上がプロダクトの紹介になります。またこうした活動以外にも、DevCon4Council of Prague(Ethereumの標準規格について議論と検証を行うイベント)といったカンファレンスやハッカソンでSubscriptionのタイムテーブルが組まれ、オンラインだけでなくリアルイベントでも議論と検証が活発に行われています。

-ハッカソンイベントStatus Hackathonで組まれたタイムスケジュール-

https://hackmd.io/DaJhrasLQteUk3IwX5bQAg

ここまでがSubscriptionに関する主要規格と代表的なプロジェクトの概要でした。次回は、Security Token の分野で議論されるComplianceについて主要規格と代表的なプロジェクトを見ていきたいと思います。

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