【UX Vol.1】〜BlockchainにおけるUXの課題と対策:第一回〜

Hiroyuki Narita
Metaps Blockchain JP
17 min readJan 21, 2019

プラットフォームとしてのBlockchain活用が進む中、CryptoKittiesといったBlockchainゲームやDecentralandのようなVRをターゲットとしたアプリケーションなど、様々なアプリケーションがBlockchain上で構築されはじめています。しかしながら、Blockchainを活用したアプリケーションでは、UXを損ねる要因が多く存在し、Blockchainの活用が普及するにあたって、多くの課題が残っています。昨年のDevcon4でもUXに関するWorkshopとして「Designing for Humans」が開かれ、業界内でも注目のテーマとされています。

本シリーズでは、ブロックチェーンを活用したアプリケーションにおけるUXの課題と現状取られている対策について、数回に渡り見ていきたいと思います。

目次

  • 本シリーズで対象とするUXの範囲
  • BlockchainにおけるUXの課題と対策

本シリーズで対象とするUXの範囲

本稿では「ブロックチェーンのプロトコルの改善以外で対策可能なもの」を対象としてUXの課題を整理していきたいと思います。

また、UXとは、アプリケーションのインタラクションやビジュアルデザインによってもたらされる体験だけでなく、サービスを通じてユーザーが感じるあらゆる体験のことを示します。本稿でも、ユーザーが感じるあらゆる体験を対象として、UXの課題を整理します。

BlockchainにおけるUXの課題と対策

本稿でBlockchainにおけるUXの課題を整理する上で、現状最も実需が見込め、且つ最もUXがシビアであると考えられるゲーム領域に絞って整理していきたいと思います。

今回、ゲームユーザーがゲームを通じて起こす行動を洗い出し、その行動においてUXを損ねる要因を課題として整理しました。また、その課題がどの領域(ウォレットやオフチェーン、サイドチェーンなど)で対策され得るものかも整理しました。整理した結果が、下記の図になります。

上記の図に記載された課題に関して、各領域ごとに課題の詳細と対策を見ていきます。なお、本稿では「アプリケーション」「ウォレット」の2つの領域を取り上げます。

アプリケーション

ゲームユーザーが一番初めに感じるハードルとして「ゲームへのアクセス方法が限定的」という点が挙げられます。具体的には、ブラウザアプリとして提供されているBlockchainゲームでは、「Dappsブラウザ経由のアクセス(スマホの場合)」または「MetaMaskの利用(PCの場合)」が必要となります。普通のブラウザアプリであれば、普段利用しているブラウザからアクセスすれば良いだけです。しかし、Blockchainを使ったアプリケーションでは、DappsブラウザのインストールやMetaMaskのインストールという余計な手間が発生します。Blockchainに慣れていないユーザーにとっては、なぜ必要なのかよく分からないので、なおのことインストールの負担は大きいです。これは、ゲームを始める上で、大きなハードルになりえます。

また、SNSやブログでBlockchainゲームを認知して、そのままBlockchainゲームのブラウザアプリにアクセスした場合、SNSアプリのWebViewや普段利用しているブラウザで表示することになります。スマホの場合、そこからDappsブラウザに切り替えてアクセスし直す必要があるため、ゲーム開始までの手順が通常のブラウザアプリよりも多くなります。こういった点でも、ゲームを始めるハードルは高いと言えます。

なお、iOSアプリでは、Blockchainを使ったアプリの審査が降りないケースが多く、多くのBlockchainゲームがブラウザアプリでリリースしています。そのため、Blockchainゲームにおいては、前述の課題が当てはまるケースが多いと考えられます。

こうした課題に対し、各Blockchainゲームで下記のようなアプローチが行われています。

My Crypto Heroes

My Crypto Heroesは、元々ブラウザアプリのみを提供していましたが、正式リリースから1ヶ月ほどして、Dappsブラウザを提供するTokenPocketが、My Crypto Heroesの専用アプリをiOS/Androidでリリースしました。専用アプリ自体は、Dappsブラウザと同様に、ブラウザアプリをWebViewで表示する仕様になっています。専用アプリのWebViewで、My Crypto Heroesのブラウザアプリのみが表示される仕様にすることで、My Crypto Heroes専用のアプリとして使えるようにされています。そのたっめ、ゲームのアプリ自体は、専用アプリの本体に組み込まれていないため、iOSの審査を通過可能にしているのだと考えられます。

このようにすることで、ゲーム専用のアプリを提供可能とし、従来のスマホゲームと同じような感覚で、ゲームを始められるようにしています。そのため、ゲームを始めるハードルを下げる対策になっていると考えられます。

また、My Crypto Heroesでは、Googleアカウントを使うことで、秘密鍵を保持せずにお試しプレーができるようになっています。つまり、プレーに秘密鍵が必要ないため、通常のブラウザでお試しプレーが可能になっています。①DappsブラウザやMetaMask、専用アプリをインストールをせずにまずはお試しプレー、②面白かったらDappsブラウザやMetamask、専用アプリをインストールして本格プレー、という導線を用意することで、ゲームに少しだけ興味を持ったユーザーでも、ゲームを初めやすくしています。こういった方法でも、ゲームを始めるハードルを下げる対策がされていると考えられます。

https://マイクリ.app/

くりぷ豚

くりぷ豚は、ブラウザアプリとAndroidアプリの2種類をリリースしています。比較的ストアの審査が通りやすいAndroidアプリだけでも提供することで、Androidユーザーが従来のスマホゲームと同じような感覚でゲームを始められるようにしているものと考えられます。Androidユーザーだけが対象になりますが、限定的にゲームを始めるハードルを下げる対策になっていると考えられます。

国内では他のBlockchainゲームと比較して、早い段階でこの専用アプリをAndroidでリリースし、モバイルからのアクセスを容易にしました。

https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.gl3inc.Crypton

次に、ゲームアクセス後に生じるハードルとして、トークンの購入が挙げられます。多くのBlockchainゲームがゲームをスタートする上でキャラクターの購入が必要となっています。キャラクターは、ETHなどの暗号通貨やトークンで販売されているものが多く、事前にETHなどの「暗号通貨/トークンの取得が必要」となります。(ゲームによっては暗号通貨/トークンでゲーム内通貨を購入する必要があるものもあります。)

基本的には、暗号通貨/トークンは取引所で購入する必要があり、購入するためには、①取引所口座への法定通貨の入金、②暗号通貨/トークンの購入、③ゲームで使うアドレスへの暗号通貨/トークン送金、といった手順が必要になります。

取引所の口座を持っていないユーザーであれば、さらに取引所の口座開設手続きも必要となり、1週間〜数週間程度のリードタイムが発生します。ゲームを始めるために取引所の口座を開設するというのはかなりのハードルですし、口座開設手続きをしたとしても、口座開設の完了を待っている間に、ゲームを始めたいという気持ちが薄れてしまう可能性もあります。

こうしてみると、ゲームをスタートするまでに超えなければならないハードルがいくつも存在することがわかります。

このような課題に対し、クレジット決済で暗号通貨/トークンの購入を簡略化したり、下記のようなフリープレイを導入するなど、様々なアプローチでゲーム開始のハードルを下げる対策が行われています。

My Crypto Heroes

My Crypto Heroesは、3体のキャラクターでチームを組み、ダンジョンで敵と戦ったり、デュエルで他プレイヤーと対戦するゲームであり、ゲームをプレイするためには、3体のキャラクターが必要になります。(今後、他の遊び方も増えていく予定になっています。)

現在は、ゲームアセットとしてトークン化されたキャラクターが、ゲーム内通貨(GUM)で販売されていますが、無料のキャラクター(3体)が無料で配布されるようになっているため、フリープレイも可能になっています。

なお、無料のキャラクターは、他のユーザーとの交換ができない設計になっており、有料のキャラクターとの差別化が図られています。

Gods Unchained

Gods Unchainedはトレーディングカードゲームであり、ゲームをプレイするためには、30枚のカードが必要となります。カードは、ゲームアセットとしてトークン化されたものが、ETHで販売されていますが、無料のカード(30枚)が無料で配布されるようになっているため、フリープレイも可能になっています。My Crypto Heroesと同様の対策が取られていると言えます。

なお、Gods Unchainedでも、無料のカードはノートレーダブル(交換不可能)であるため、トレーディング可能な有料のカードと差別化が図られています。

https://godsunchained.com/tutorial/basics

その他にも「アセットの流動性が低く、アセット売却時に売買が成立しにくい」という点もBlockchainゲームのUXを損ねる要因になっていると考えられます。Blockchainゲームでは、「ゲームのキャラクターやアイテムをアセットとして売却することができる」ということが、BlockchainゲームならではのUXとして売りにされていることがほとんどです。そのため、アセットの売買が成立しにくければ、BlockchainゲームのUXを大きく損ねることになりえます。

売りに出したアセットの売買を成立しやすくなるためには、アセットへの需要を高める必要があります。Blockchainゲームの提供会社は、アセットの需要を高めるために、様々な方法でアセットの保有メリットを増やしています。現在、アセットの保有メリットを増やすために行われている施策を、下記にて紹介していきます。

Gods Unchained

トレーディングカードゲームのGods Unchainedでは、2019年上旬に「ワールド・チャンピオンシップ」と台して、賞金総額およそ1億7000万円を掛けた大掛かりなトーナメントを開催予定となっています。

強力なカードや自分のデッキに合ったカードを揃えれば、ゲームを有利に進められるため、トーナメントの高額な賞金をインセンティブに、カードの需要を高めるといった施策になっていると考えられます。

https://godsunchained.com/

Etheremon

キャラクター(モンスター)を捕獲/育成/進化して遊ぶゲームであるEtheremonでは、他のユーザーに保有キャラクターをレンタルできる機能を提供しています。レンタル機能により、キャラクターを保有しているだけでETHを収入として得られるようになっています。そのため、ゲームプレーでキャラクターを使わなくても、キャラクターを保有するメリットがあるという点で、保有メリットの多様化を図った施策になっていると考えられます。

また、レンタル機能はキャラクターによる資産運用を可能にしているという見方もでき、ゲームプレーではなく資産運用を目的とするユーザー層をキャラクター需要に取り込む施策にもなりえると考えられます。

https://www.etheremon.com/market?tab=rent

以上で紹介した事例では、既に具体的な対策を試みられていますが、「ブラウザアプリで提供する場合のインタラクティブ性」や「サイドチェーンとメインチェーンの間でのシームレスな体験」に関する課題に対しては、まだ具体的な対策が出て来ていません。

Blockchainを使ったアプリケーションが普及していくためには、これらの課題への対策も今後求められると考えられます。

ウォレット

Blockchainゲームを含め、Blockchainを使ったアプリケーションを使うためには、秘密鍵を保有している必要がありますが、紛失した場合は復旧することができません。秘密鍵を紛失した場合は、その秘密鍵で保有されていたアセットの利用や移転が不可能になり、アセットが永遠に凍結されてしまいます。そのため、端末の紛失や切り替えなどに備えて、リカバリーフレーズや秘密鍵の情報が必要であり、紙や電子機器に文字列(リカバリーフレーズまたは秘密鍵)を記録して、バックアップしておく必要があります。

これらの文字列(リカバリーフレーズや秘密鍵の情報)は、非常に冗長であり、特に紙に記録する場合は、書き留めるのが大変であるため、バックアップを取る行為そのものがユーザーにとって大きな負担となっています。

また、バックアップした情報が第三者の手に渡ってしまうと、その第三者によって暗号通貨/トークンの送金が可能となってしまうため、バックアップ情報の保管には細心の注意が必要になります。こういった点では、精神的な負担が大きく、Blockchainを使ったアプリケーションを使う上で、心理的なハードルになりえます。

ウォレットプロバイダーが管理するサーバーで秘密鍵を保管すれば、ユーザーは秘密鍵を自己で管理する精神的な負担からは解放されますが、Blockchainでは第三者への信頼を不要にする事を設計思想としており、多くのウォレットでは、Blockchainの設計思想に従って、秘密鍵の保管をユーザーに委ねております。

上記の課題に対して、ウォレットプロバイダー側で対策されている事例としては以下のものがあります。

Cobo Wallet

Cobo Walletでは、アプリのインストール後に、サーバーに秘密鍵を保管するか、自分の端末に秘密鍵を保管するかを選ぶことができます。

  • 秘密鍵を自己管理する負担をおって、第三者への信頼を排除する(Blockchainの設計思想を優先する)
  • 第三者への信頼を許容して、秘密鍵を自己管理する負担をなくす

つまり、上記2つの選択肢をユーザーに与えることで、Blockchainの設計思想は残しつつも、秘密鍵を自己管理したくないユーザーのニーズに答えられるようにしています。

https://cobo.com/

また、スマートコントラクトを活用することで、秘密鍵を紛失してもアセットがなくならないような仕組みも検討されています。こちらは、ウォレットプロバイダー以外で検討されている対策であるため、次回以降の記事で紹介したいと思います。

その他、ウォレットに関連する課題としては、下記のものがあげられます。

  • 複雑で冗長なアドレスの利用しにくさ
  • 暗号通貨/トークンの誤送信リスク
  • 暗号通貨/トークン送信時の承認待ち時間(タイムラグ)

これらの課題も、Blockchainを使ったアプリケーションを利用する上で、心理的なハードルやユーザビリティ低下につながるため、UXを損なう要因になりえます。

これらの課題への対策としては、それぞれ下記のものがあげられます。

複雑で冗長なアドレスの利用しにくさ

Ethereumでは、ENS(Ethereum Name Service)というインターネットのDNS(Domain Name Service)のようなものが作られています。ENSでは、「0x4cbe58c50480…」という形式のアドレスの代わりに、「aardvark.eth」といった形式の文字列を使って、アドレスの指定を行うことができるようにする仕組みです。人間が記憶できる長さの文字列でアドレスを指定できるため、暗号通貨/トークン送信先のアドレスを指定する際などに、指定しやすくなります。

暗号通貨/トークンの誤送信リスク

前述のENSは、暗号通貨/トークン送信先の指定を容易にすることで、打ち間違えなどによる誤送信リスクを回避する対策になりえます。また、QRコードの読み取りにより、暗号通貨/トークン送信先を指定する方法も対策と言えます。

2回目以降の相手であれば、ウォレットに連絡先機能が導入されていれば、誤送信リスクを排除することができます。一部のウォレットでは、連絡先機能が導入されており、今後導入するウォレットは増えていく可能性があります。

暗号通貨/トークン送信時の承認待ち時間(タイムラグ)

少額の暗号通貨/トークンの送信であれば、二重支払いなどの不正が起こった場合でも金銭的被害が少ないため、暗号通貨/トークンの受取手側のリスクが少なく、未承認状態のトランザクションを許容して、取引を完了させるといった方法を取っているケースもあります。

しかし、巨額の暗号通貨/トークンを送信する場合、前述のリスクは許容できません。そのため、この課題に対する完全な対策はまだ見出されておらず、今後も検討が必要であると考えられます。

ここまで、BlockchainのUXについて「アプリケーション」と「ウォレット」における課題と対策を見てきました。次稿以降で「トークン」「周辺プロダクト」「オフチェーン」「サイドチェーン」における各課題とそれぞれの対策を見て行きたいと思います。

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