Machine learning for Alzheimer

Naohiro Kaide
MICIN Developers
Published in
12 min readOct 28, 2021

MICINのデータデータソリューション部の kaide です。データソリューション部は医療データを機械学習などで解析・活用することを主な業務としている部署で、自分は最近社内プロジェクトのPoCやプロトタイプ開発などをしていました。

本投稿では医療 × AIに対して、たくさんの人に興味を持っていただきたく、具体的な事例を紹介しようと考えています。今回は、アルツハイマー病とそれに対する機械学習の取り組みについてご紹介します。

本稿の流れとして、アルツハイマー病についてのドメイン知識をご紹介したあとに、機械学習についての事例や関連するデータセットについてご紹介します。

アルツハイマー病とは

アルツハイマー病とは、不可逆的な進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気です。認知症の一つとして知られています。

高齢化社会の影響から、認知症は年々増え続けており、公益財団法人 生命保険文化センター によると、 2020年時点で日本での認知症患者数は602万人となっています。

認知症の中でもアルツハイマー病は一番割合の多い(日本ではおよそ5~7割)認知症となりますが、他にも「レビー小体型認知症、血管性認知症」などがあり、これら3つで3大認知症と言われています。

ほとんどのアルツハイマー病患者は65歳以上で発病しますが、4,5%ほどの割合で65歳以下でも発症するケースがあり、若年性アルツハイマー病と呼ばれています。

より詳しくは アルツハイマー病と認知症支援 | 日本 に説明がありますので、ご覧ください。

原因

アルツハイマー病の原因はまだ完全には解明されていませんが、長い期間をかけて脳の中で生じる、複雑な一連の事象によって発症することが次第に明らかになってきました。原因としては、遺伝、環境および生活習慣などの複数の因子が絡み合っていると考えられます。遺伝子構成や生活習慣は人によって様々なため、それぞれの因子が、アルツハイマー病の発症の危険性を上昇させたり低下させたりする上でどの程度重要な役割を果たすかは、人によって異なります。

引用: アルツハイマー病の原因 — アルツハイマー病情報サイト

症状

多くのアルツハイマー病患者が、「(1)症状が認められない早期、発症前の段階 (2) 軽度認知障害(MCI) (3)アルツハイマー病による認知症」という3つの病期で進行すると認識されています。現時点では、MCIの人がアルツハイマー病による認知症発症するかしないかを、医師が確信を持って予測することはできません。

アルツハイマー病による認知症の段階に入ると、以下のような症状が見られ、日常生活に支障がきたすようになります。

  • もの忘れ(記憶障害)
  • 時間・場所がわからなくなる
  • 理解力・判断力が低下する
  • 仕事や家事・趣味、身の回りのことができなくなる

引用: 認知症|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省

軽度認知障害(MCI)

軽度認知障害(MCI)とは、記憶または他の思考に関する問題が、年齢や教育水準を考慮した正常の人より多くみられる状態のことですが、その症状はアルツハイマー型認知症の人ほど重くはありません。MCIの高齢者は、MCIではない高齢者と比較して、より頻繁にアルツハイマー型認知症を発症します。なぜMCIの患者のなかで、アルツハイマー型認知症に進行する人とそうでない人がいるのかについて、現在研究が進められています。

引用: 軽度認知障害 — アルツハイマー病情報サイト

脳の変化

“A healthy brain compared to a brain suffering from Alzheimer’s Disease” by National Institutes of Health — https://www.nlm.nih.gov/medlineplus/magazine/issues/fall10/articles/fall10pg20-21.html, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=16969598

アルツハイマー病がどのように始まるのかは、まだわかっていませんが、脳の障害は、症状が出現する10年以上も前に始まっているとみられます。症状のない、発症前の段階においても、脳の中では害のある変化が起こっています。蛋白の異常な沈着により、脳のいたるところにアミロイド斑タウ蛋白からなる神経原線維変化が生じ、もともとは健康であったニューロンが、効率よく機能しなくなってきます。時間の経過とともに、ニューロンは、相互に機能して連絡し合う能力を失い、最終的には死滅します。

やがて病変は、脳内で記憶を形成するのに必要不可欠な、海馬と呼ばれる構造体に広がります。ニューロンがさらに死滅するにつれて、影響を受けた脳領域は萎縮し始めます。アルツハイマー病の後期までに障害は広範囲に及び、脳組織は著しく萎縮します。

引用: アルツハイマー病の基礎知識 — アルツハイマー病情報サイト

診断

  1. 問診により、現在の症状を把握します。一緒に暮らしている家族の方からも詳しい情報を聞きます。次に神経の障害がないか診察を行います。また神経心理検査といってミニメンタル試験(MMSE)などの検査で認知機能の障害をテスト形式で診ます。
  2. 次が画像検査です。まずMRI(MRIができない人はCT)で脳の形態を診ます。アルツハイマー病の場合は海馬かいばとその周囲が強く萎縮してきます。若年発症のアルツハイマー病の場合は海馬の萎縮は少なく、頭頂葉とうちょうようの萎縮が強いです。
  3. 次に脳血流SPECTスペクト、または脳FDG-PETエフディージーペットによって脳の機能を診ます。脳FDG-PETの方が脳血流SPECTより鋭敏に機能異常をとらえることができますが、現在、まだ健康保険適用になっていないので自由診療で脳FDG-PETを行うか、健康保険診療で脳血流SPECTを行います。脳血流SPECTやFDG-PETを行うと、アルツハイマー病では脳の中の頭頂連合野とうちょうれんごうや、側頭連合野、後部帯状回こうぶたいじょうかい・楔前部という部位で血流や糖代謝が低下しているのが分かります。進行すると前頭連合野の血流・代謝も低下してきます。このような所見を見いだすことによってアルツハイマー病を早期に見つけたり、ほかの認知症を起こす疾患と鑑別します。

引用: アルツハイマー病・認知症の診断・治療│近畿大学病院

2021年の7月に、富士レビオ株式会社がアミロイドβを測定する体外診断用医薬品についてPMDAから製品販売承認を得ており、今後の診断にも関わってきそうです。

早期診断の利点

早期に的確な診断を受けることは、いくつかの理由から利点があります。たとえアルツハイマー病の病態の進行そのものは変えられないとしても、早期に治療を開始することによって、しばらくの間、機能を維持する助けとなる可能性があります。

早期診断は、アルツハイマー病の患者と家族にとって、以下の点で役立ちます。

  • 将来の計画を立てる
  • 生活環境を整える
  • お金や法律に関わる事柄に対処する
  • 支援の輪を作る

さらに、早期診断により、アルツハイマー病の患者が臨床試験に参加する機会が増える可能性があります。臨床試験とは、ある医薬品または他の介入方法の安全性、副作用または有効性を、科学者が検証する調査研究のことです。

引用: アルツハイマー病の診断ADEARサイト

治療

アルツハイマー病は複雑な病気で、なにかひとつの介入によって進行を遅らせ、予防し、治癒できるという可能性は低いです。このため、現在の治療や研究においては、患者の精神機能の維持を助けること、行動・心理症状に対処すること、症状の進行を遅らせることなど、いくつかの様々な側面に焦点が当てられています。

引用: アルツハイマー病の治療 — アルツハイマー病情報サイト

※ 最近、以下のような医薬品も出てきているので、治療の可能性についても今後変わるかもしれません。

アルツハイマー病に関連した機械学習を用いた取り組み

機械学習タスク

機械学習タスクとしては、以下が研究されています。

  • アルツハイマー病の○年後の発症予測
  • アルツハイマー病の早期発見
  • アルツハイマー病の診断
  • 新たな認知症のスクリーニング法の開発

例えば、アルツハイマーの診断に必要な脳画像の読影については、高度な専門知識が必要なだけでなく、多くの時間が必要となるため、機械学習によるアプローチは医師の診断支援システムとして期待されています。

具体的な研究事例紹介

認知症のスクリーニングやスコアリングの手法の一つに、Clock Drawing Test(CDT)と呼ばれる手法があります。本論文のCDTでは、事前に丸が書かれた紙を患者に渡し、「(1)時計に1~12までの文字盤を書く (2) 指定の時刻を表す針を描画する」ことを依頼し、その描画結果をもとに評価しています。本論文では機械学習による自動スコアリングを提案しています。

データの収集では、患者ごとに1枚のCDTを行い、1315枚収集している。年齢は 18~98歳まで含まれ、平均年齢は69.8±14.7歳であり、男女比は58.1%が女性という内訳となっています。

データのラベリングは、Shulman変法によるスコアリングを採用しており、Score1~2(Pass), Score3~6(Fail)としています。詳しくは、論文中の図解 を参照ください。また、ラベリングのオペレーションは、専門的に訓練された看護師が実際に行い、専門家治療担当医がラベル検証を行っており、タスクとしては、Pass/Fail の二値分類の他にScore(1~6)の回帰予測も行っています。

5-fold validationを用いて、モデルを検証した結果、DenseNet-121 を用いて Pass/Failの二値分類では AUC 97%を達成していました。

参考: アルツハイマー型認知症の 新たな診断

本論文では、AD(Alzheimers Disease)、MCI(Mild Cognitive Impairment )、NC(Normal Controll)の分類タスクについて、sMRI および DTI を用いた手法を提案しています。Taeho jo, et al. (2019)らの survey によると、2018年時点のアルツハイマー病に関する研究では、医療画像を分類タスクは3dCNNを用いた手法が精度が高いことが示されています。

データについては、ADNI を用い、そのうち 214人のデータを研究に利用しています。train データは「(1)AD: 48人、(2)MCI: 108人 (3)NC: 58人」、test データは「(1)AD: 12人、(2)MCI: 12人 (3)NC: 12人」の内訳としています。実際にはデータが少ないため、本研究ではdata augmentationを使っています。

モデルは本論文独自のものですが、sMRI と DTI の画像データから抽出した海馬のROI (region of interest)のvoxel を input として利用し、3dCNNで抽出した特徴量を連結した特徴量を fusion するような multi-modal なモデルから3パターンそれぞれ(AD-NC, AD-MCI and MCI-NC)の二値分類タスクを検証しています。

accuracy(top-mean accuracy) はそれぞれ「AD-NC: 0.967, AD-MCI: 0.8 and MCI-NC: 0.658」となっており、単一の modality をinputとしたモデルや左脳と右脳の海馬の区別無視したモデルと比べても精度が高かったことが示されています。

国内での取り組み

国内でも様々な企業がアルツハイマー病についての課題に機械学習を用いて取り組んでいます。

  • 富士フィルム株式会社が、アルツハイマー病が進行する患者の症状を最大85%の精度で予測する技術を開発しており、2024年の実用化を目指されています。
  • 株式会社FRONTEOが、患者と医師との間の5〜10分程度の日常会話から認知機能障害をスクリーニングできるシステムを開発されています。

データセット

アルツハイマーに関連する公開データとしては、以下があります。

  • OASIS Brains — Open Access Series of Imaging Studies :
    The Open Access Series of Imaging Studies (OASIS) は神経画像のデータセットを科学コミュニティにfreeで利用できるようにしているプロジェクトです。cross-sectional なデータと longitudinal なデータがあります。
  • ADNI | ACCESS DATA :
    アルツハイマー患者や健常人のMRIのデータベースがあり、その他にも臨床データや遺伝情報、バイオマーカーなどの情報もあります。商用利用は認められていません。

最後に

今回は、アルツハイマー病と関連した機械学習の取り組みについて紹介しました。MICINではこのような医療の様々な課題を、医療機関と協力して解決する業務もございます。ご興味がある方は、カジュアル面談からでもお待ちしておりますので、下記のリンクからどしどしご応募ください!

フルタイム https://hrmos.co/pages/micin/jobs/15

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