会社にいながら起業して、SXSW2021に出展してみた

Nanako Abe
MILLENNIALSTIMES
Published in
Apr 23, 2021

こんにちは。McCANN MILLENNIALSの阿部です。

広告の仕事をしていると、なかなかやりたい案件に辿りつけなかったり、手がけられる仕事やクライアントが運任せになってしまうことって多いですよね。

わたしは大学院生時代に視覚障害者の友人と出会って以来、障害に関するプロジェクトを手がけてみたいと思っていました。そこで、会社に所属しながら、やってみなはれ精神で新たに会社を立ち上げることに。

つくったプロダクトを、アメリカで開催される世界最大規模のテクノロジー&カルチャーの祭典「SXSW」に出展してみました。

障害があるからこその強みを活かす

会社は障害があるメンバー・ないメンバーで構成されます。名前はveernca。学生時代の仲間と最初は5人ではじめました。

veerncaは障害者の悩みを解決するものではなく、ちがいをポジティブな価値として捉えて、障害があるからこその強みを活かしたソリューションをつくるチームです。

「スタートアップの登竜門」ともいわれるSXSW。今回は世界中のスタートアップが店を構えるCreative Industries Exhibitionに出展します。

出展コンセプトは「Blind Power - 視覚障害があるからこそ、できることがある」です。

SXSWで発表したふたつのプロダクト

ひとつ目は、音と位置で情報を管理する、 “moom<ムーム>”。仮想の「メモ空間」をつくり、まるで部屋にモノを配置する感覚で情報を管理できるツールです。

普段わたしたちは膨大な情報をメモなどで保存していますが、そのメモを見返す機会がなく、結局忘れてしまうことはありませんか?

視覚障害者は、すべての情報をメモして残すことができません。ではどうやって記憶しているかというと、頭のなかに擬似的な部屋をつくり、モノを配置するように記憶しているといいます。彼の記憶法から、さまざまな情報を仮想の部屋のような空間で感覚的に管理することができるツールをつくりました。

moomの使用イメージ動画

ふたつ目は、景色や日常を音から想像するSNS、 “heart<ハート>”。想像を楽しむための日常音の投稿・共有SNSです。

現代では写真を用いたさまざまなコミュニケーションツールによって相手の日常や興味を知ることができますが、そこに想像力は生まれず、ただ相手が見せたい姿を見るだけです。

heartは、いわば「音の写真」。たった5秒や10秒の音によって、相手の見ている景色や気持ちを想像することができます。視覚障害のあるメンバーのSNSの使い方を参考に開発しました。投稿にはフォロワーからの「いいね音」がついて、さらにすてきな音を奏でます。

heartの使用イメージ動画

潜在的価値を活かすデザインメソッド

今回のプロダクトのつくり方は、「Valuable Designプロセス」というデザインメソッドとしてまとめました。

これは障害のある人々が自らの潜在的な価値を発揮し、活躍するための考え方です。チームメンバーに研究者がいることもあり、論文として学会で報告できるよう準備を進めています。

うれしいコメントも厳しいフィードバックも

SXSW2021はオンライン開催でした。メッセージでのやりとりや1対1のミーティングを行ない、うれしいコメントもいくつかいただきました。

たとえばmoomについて、「同僚の視覚障害者との情報共有に悩んでいて、これは障害がある人もない人も同じように使用できるから、会社に導入させてほしい」といった熱いメッセージをいただいたり、アンケートでは90%以上の人が「新規性があるサービスだ」と回答してくれました。

一方、「誰のための、どんな場面で使うサービスなのかがわかりにくい」といった意見もあり、まだまだ改善が必要だということもわかりました。

ホワイトボードツールのmiroを使い、バーチャルブースも開設。

障害は社会にある

そもそも、障害とはなんなのでしょうか。

たとえば車いすを利用する人にとっての障害は、立って歩けないことではなく、「階段しかない施設」や「高いところにモノをおいた陳列」が障害になります。

手足が動かないことや、目が見えないことは、障害ではなく「ちがい」。障害のない人を前提に作られた社会や、環境のあり方・仕組みが障害を作り出している。この考え方は「障害の社会モデル」といわれています。

そう考えると、障害はアイデアで取りのぞくことが可能です。

SXSWでは障害に関するセッションや展示も多く、片麻痺の障害がある日本人がアバターダンスコンテストで優勝し会場を熱狂させたり、車いすの女子高生が主人公のVR映画も話題になりました。

テクノロジーによって障害をなくしたり、エンターテイメントの力によって、押しつけることなく楽しく、障害者に対する偏見や思いこみをなくすことできるのです。

アバターダンスコンテストで優勝した片麻痺の日本人「yoikami」
車いすの少女の目線でストーリーが進むVR映画「4 feet high」

出展したことによって自分の役割が見えてきた

まだまだプロトタイプ段階ですが、今回出展できたことで世界中の人々にわたしたちのアイデアと哲学を伝えることができ、おなじ志を持つ仲間も増えてきました。

わたしたち広告屋は、人の心を動かすプロ。人々の生活は変えられなくても、人々の意識は変えることができます。

でももし広告が、クライアントの受注ありきで成り立つものだとしたら、わたしたちの存在意義やMeaningful role(意味のある役割)もクライアント次第になってしまいます。

必要なのは、「自分が社会のためにすべきだと思うこと」をひとりひとりが心に持つこと。

その想いをもとに、企業やメディアなどさまざまな人たちと協力しながら、主体となってゼロからソリューションをつくっていくことも、広告会社の新しい姿だと思います。

自分で会社をつくってSXSWに出展してみた結果、自分が社会のためにすべきだと思うことを、より確信を持って信じられるようになりました。

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