未来のマッチングアプリは、色とりどりの恋愛観が咲き誇る花束になる。

Hajime Sakaguchi
MILLENNIALSTIMES
Published in
10 min readJan 17, 2018

アンチ・スペック主義

「マッチングアプリなんて、結局はスペックでしか人を見ない、無機質なツールなんじゃないの?」

この取材に赴く前、僕はそうした冷ややかな感情を抱いていた。

マッチングアプリ。ともすれば「出会い系アプリ」とも揶揄される、恋愛の相手を探すためのデジタルツール。アプリによってその項目は異なるものの、容姿や年齢、年収、職業、学歴、身長など、さまざまな「スペック」によって異性をセグメントでき、自分の好みの相手にアプローチすることができる。

僕は昔から、スペックなるものが嫌いだった。それは、高校生の頃、「イケメンであること」や「トークが面白いこと」といった「すぐにわかる、外面的なキャッチーさ」を自分が持ち合わせていないことに絶望し、「自分は人の内面だけを見て生きていこう」と決意したからだ(参照:僕が「スクールカースト」から解放された日)。

MILLENNIALS TIMESという媒体に図らずも書き手として名を連ねることになり、「ミレニアル世代の恋愛」について書くことになったわけだが、それは、個人的には冷めた視点で眺めているマッチングアプリが、どうしてこんなに世に溢れているのか純粋に疑問に思い、取材したいと思ったためだった。

そして、やっぱり人生はおもしろい。なぜなら、マッチングアプリがこんなに素敵なものだなんて、取材に行く前には思いもしなかったのだから。

マッチングアプリの核にあった、それぞれの思想

今回取材させていただいたのは、マッチングアプリ『Torte』を運営する(株)トルテ代表取締役の飯島さんと、同じくマッチングアプリ『タップル誕生』を運営する(株)マッチングエージェントのプロデューサー・永友さんである。

既にMcCANN MILLENNIALSの入江から先発の記事(効率的で現実的で情熱的?ミレニアルズの恋愛とマッチングサービス)が出ており、そちらも参照してもらいたいのだが、ざっくり言うと『Torte』は「女性ファーストの視点」を取り入れたマッチングアプリ、『タップル誕生』は趣味で繋がるマッチングアプリである。

僕が最初に「これは思っていたのとは違う取材になるかもしれない」と感じたのは、『Torte』開発のエピソードについて、飯島さんがこう語った時だった。

飯島さん「昨年、実は色々な思想のマッチングサービスを一旦作ってみるという取り組みが2ヶ月くらいありまして、当時動画を使ったマッチングアプリとか、実際の共通の友人が表示されるとか、リアルに近いマッチングアプリを仮で作りました。その当時思っていたのは、自分でなければ作れないものではないな、ということで、この違和感があるままで走りきれるのかと思ったんです。

じゃあ自分が恋愛に対して考えていることをプロダクトにしようと思ったのが丁度年末くらいですね。

『Torte』ならではの大変さとしては、思想の強さが特徴のアプリなので、果たしてこれが世の中に受け入れてもらえるのかという葛藤があり、メンタル的にもチーム的にも辛かった。」

『Torte』の飯島さん

マッチングアプリの開発エピソードに「思想」という予想外のワードが立ち現れてくるのを、僕は極めておもしろく感じた。

さらに、永友さんも『タップル誕生』の提供するサービスについてこう語った。

永友さん「実際にユーザーさんとお会いしたことがあるんですが、『早く結婚したい!』という強い思いがある方って意外と少なくて、ただ恋人が欲しいとか、一緒にデートしたいとか、観覧車乗りたいとか、すごく純粋な人が多くて。

とある女性のユーザーさんは『タップルでいい感じの人がいて、今度一緒に富士急行くんですけど、そこで告白されるかもしれないです』って話していて、そうしたら本当に観覧車のてっぺんで告白されたらしくて、メールを送ってくれたんです。

そういう一歩前に進めない、本当に純粋に恋がしたいというような人を応援したいなという思想が、『タップル誕生』には強いかもしれないですね」

マッチングアプリを、ただ「条件の良い人」「スペック的に優れている人」を選ぶためのカタログだと捉えていた僕には、お二人の言葉は新鮮で、心の内側にとても深く突き刺さった。

『タップル誕生』の永友さん

「その人のことを世界の誰よりもわかっている」という幻想

人は、恋愛の相手をどう選ぶのが正解なのだろうか?

スペックでなければ、内面だ。

大学時代の僕はそんな風に考えていたし、実際に、自分の思想を書き散らかしたブログを通して出会った女性と、付き合ったこともあった。

だが、その結果として思ったことは、どれだけ価値観が合ったとしても、それが幸せな恋愛に繋がるわけではないということだ。

そんな自分のエピソードを話すと、飯島さんがこんなことを話してくれた。

飯島さん「結局誰と会うかがすごく重要なので、(マッチングアプリは)それを見つける一つの手段だと思っていて。価値観の話でいうと、どちらかというと特別視していないというのが私の見解で、ブログで出会ったからこうとか、マッチングアプリで出会ったからこうとかではなくて、ベースは人なので、手段でしかないのかなと。

ただ、マッチングアプリは出会うために作っているので、出会う手段としての精度は高いのかなと思っています。Twitterやブログだと、その人の内面が垣間見えて、異性としてみる以前に人として見ている。でも、それが異性としていいかどうかは別の話じゃないですか。マッチングアプリだと、異性として見る前提でマッチングするので、そういう意味ではステップを飛ばせているのかなという感じはします」

そう。「その人のことを世界の誰よりもわかっていること」が、幸せな恋愛に繋がるわけではない。もとより、「その人のことを世界の誰よりもわかっていること」は自分勝手な幻想でしかない。

僕は、長い時間をかけて、少しずつそのことを理解してきたように思う。

マッチングアプリと、幸せな恋愛

スペックでもなければ、価値観でもない。いったい、人にとって幸せな恋愛とはどのようなものなのだろうか。そうした問いかけに、お二人はこう答えてくれた。

永友さん「私はリアルな恋愛を追及したいなと思っています。ステータスで惹かれたわけではないし、顔もタイプじゃないし、優しくもないし、理想とは違うんだけど、でも好き、みたいな。本来、恋愛ってそういうものだと思うんですよね。自分の周りで付き合っている人とか見ても。そういう恋愛が自然とネットから生まれる、みたいなことをやっていきたい」

飯島さん「マッチングアプリにしても、等身大の自分を見せるというところなのかなと思いますね。それもリアルな恋愛と変わらないかなと。作り手の想いとしてはあくまで手段を作っているだけです」

そんな「ネットから自然な恋愛が生まれる」未来において、マッチングアプリはどんな役割を果たすのだろうか。最後に、お二人にそうした質問を投げかけてみると、こんな答えが返ってきた。

飯島さん「マッチングアプリもコミュニティのような感じで、どういうマッチングアプリにどんな人がいるのかということが、どんどん最適化されていくんじゃないかと思うんですよ。『Torte』の特徴で言うと、女性がとにかくアクティブ。仕様上、女性から動かないといけなくて、結構まどろっこしいはずなのですが、ほとんどの人がマッチングしたら連絡するという流れになっていて、それは『Torte』に来る女性だからこそありえる。別のサービスを見ても、女性からメッセージを送ることって1%以下とかなんですよ。どのサービスにどんな人が来るのかというのが、これからは最適化されていくのかなと思います」

永友さん「『タップル誕生』を『この人で決めよう!』と思って使う人はあまりいない気がしています。カップルにはならなかったけど良い出会いだったとか、趣味の話で楽しかったとか、映画見れて楽しかったとか、いい友達できたわ~みたいに男女ともに割り切れるという感じ。上手くいかなかった、恋人できなかったとかじゃなくて、会っていく度にいろんな人と良い友達になれて、それプラス何となく気になる人もできて、というのが今らしいかなと思います」

今回の取材で思ったことは、スペックだけが重要なわけでも、価値観だけが重要なわけでもなく、「その人らしさ」がそのまま現れてくれることが、幸せな恋愛に繋がるということだ。

人は各々、その人固有の性格や考え方を持っている。それは恋愛観についても同様だ。自分が恋愛するということを考えた時に、『Torte』なら「自分から行動を起こしたいアクティブな人たち」の背中を押してくれるだろうし、『タップル誕生』なら「好きなことで楽しくカジュアルに異性と出会いたい人たち」を応援してくれるだろう。

そうしたマッチングアプリがいくつもローンチされ、人々が自身の共鳴するサービスに集まって、それぞれの恋愛観によってコミュニティが形成された未来において、マッチングアプリは、恋愛シーンにあたたかく咲き誇る、色とりどりの花束のような存在になるのかもしれない。

Torte(トルテ)

“女性からはじまる”がコンセプトのマッチングアプリ。恋人探しに向けて踏み出すための一つの手段として、まだマッチングアプリを利用したことのない女性でも安心してサービスを利用できるよう、コミュニケーションは全て女性からのメッセージで恋がはじまる仕組みになっているのが特徴。また、女性から安心して男性に対して一歩踏みだせるよう、「どんな男性か?」を他の女性視点でのぞける“クチコミ” や、相手の人柄が分かるアルバム機能も特徴的。

タップル誕生

“趣味でつながる”がコンセプトのカジュアルなマッチングサービス。 映画・音楽・お料理など、自分の好きなことから、新しい出会いを探すことができる。 「いいかも」「イマイチ」の二択で直感的に異性を選択出来る気軽さも人気。 20代前半中心に約250万人の方が利用し、累計マッチング数は約5,500万組を突破。国内最大規模の恋活サービス。

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Hajime Sakaguchi
MILLENNIALSTIMES

1989年生まれ。キャッチーが正義の広告業界で、僕は生き残れるか。