“過去”をディグれば、“今”のヒントに。ミレニアルズのレトロコンテンツ消費論

Kishu Irie
MILLENNIALSTIMES
Published in
13 min readMar 19, 2018

バブリーダンスや平野ノラが注目され、レトロブーム到来が騒がれる今。どうしてミレニアルズはレトロに心惹かれるのか?

90年代生まれながら、80年代歌謡ユニットSatellite Young の主宰をつとめる草野絵美さんと、McCANN MILLENNIALSきってのレトロおたく 安永が、レトロカルチャーについてアツい談義を交わします。

◆『モーニング娘。』をディグれば、ディスコチューンのルーツが分かる気がする。

安永 「Sateliite Young は80年代アイドル歌謡ユニットとして歌ってると思うんですけど、小さい頃どういう曲を聴いてました?」

草野 「最初に買ってもらったCDは宇多田ヒカルの『First Love』。LOVE PSYCHEDELICOやモーニング娘。も好きだったな。小学生のころから、元ネタ ディグり(探る)のが好きだったんだけど、モーニング娘。の『LOVEマシーン』が、バナナラマの『ヴィーナス』を思わせたり、モーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』はイントロがドナ・サマーの『ホット・スタッフ』に似てたり…。つんくさんがダンスミュージックが好きだったのか、結構モー娘。は、70年代・80年代のディスコチューンに似てるんです。

音楽好きな人はきっと、自分の好きなものの祖先が何なのか?を調べるのが好きだと思う。自分はどういうものに影響されたのかな~とか、じゃあJ-POPが無かった時代はどんな歌謡が流行っていたのかな~とか。そうして80年代歌謡を知るようになって、小学校低学年くらいのときはピンク・レディーとマドンナにハマってた。自分が体験していない時代の音楽だけど、エモさを感じる。不思議だけど。」

安永 「僕もそれ、めちゃめちゃ不思議に思ってます。90年代生まれなのに、どうして80年代ものにノスタルジーを感じるのか不思議でたまらない。

確かに90年代の初めの音楽って80年代の残香みたいなのがあると思うんですけど、その影響なのかな~とか。ただ今の音楽のルーツを探れば探るほど、いかに昔の音楽を引きずっていて、昔の音楽があるから今の音楽があるんだなって分かりますよね。」

草野 「今って絶対、過去をディグるの好きな人多いよね。“そんな古いの、よく知ってるね~”と言われるけど、そんなのYouTubeのサジェストで出てくるし。」

安永 「僕もPCのデスクトップはジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウの3人トリオだけど、それを見て、“よく知ってるね~!”と言われる。けど普通にTSUTAYAにあるやろが!って思う(笑)」

草野 「みんな同じもの見てるわけじゃないんだよって言いたいよね。上の(世代の)人は、遡ってディグる手段が少なかったから、驚くのかもね~。」

◆ミレニアルズは今、“マスメディア最強時代”をコンテンツとして消費している

草野 「音楽だけじゃなくて、ファッションも繰り返すよね。ただ、ソーシャルメディアが出現して以降、変わったのは、マスメディアの強さだよね。昔は、TV番組で芸能人が着ていた服が街中で流行るみたいな、熱狂的な何かがあったよね。そういうマスメディアの力、魔力があるコンテンツが沢山あったと思うんだけど、今って熱狂的に国民的に流行るものって無いし、インターネットのおかげでそれぞれ違うものに影響されているし。

昔は“流行遅れ”ってあったけど、別に今だったら80年代の服を着てても、それは一つの“80’s”(エイティーズ)っていうジャンルになっているし。マスメディアの力が存在した時代って、何となく憧れがあるけど、もう二度と戻れない過去って感じがする。」

安永 「僕らで言うと、『学校へ行こう!』を観ていないと、翌日の学校で話題についていけない、みたいな感じかな」

草野 「ギリギリ私たちも(マスメディアの力がある時代の経験が)あるんだよね。中学生か高校生くらいからは、そういうのが無くなっちゃったね。」

安永 「(ソーシャルメディアがでる前は)今みたいに嗜好が細分化されていなくて、“かっこいいもの”、“イケてるもの”って皆同じで、国民総ミーハー時代みたいな感じかなと思う。皆それぞれが各々の好きなものがあるって良いことなんだけど、昔のマスカルチャーみたいなのも憧れますよね。」

草野 「憧れなのか、過去を一つのコンテンツとして楽しんでいる感じはするかなあ。広告でバブルっぽい音楽とか映像が使われたり、MARVELの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のサントラがカセットテープで出て、カセットテープの売上げが上がったり。そういうのってリアルに“なつかしい~!”って人だけが買っているわけじゃなくて、全然リアルタイムで知らない人も買ってる。

今の人って、過去・今・未来関係なく、YouTubeとかでディグってるから、(その時代を)体験していなくても、80年代はこんなカルチャー、70年代はこんなカルチャーって認識があって、それをジャンルと捉えて、コンテンツとして消費しているんじゃないかなと思う。

◆レトロブームの理由は、グッときてパッと調べられる、そういう時代だから。

入江 「ところで、最近平野ノラさんやバブリーダンスなど、レトロブームが起こっていますよね。それってどうしてだと思いますか。」

草野 「まず今は、あまり知識が多いことがステータスじゃなくなってきていると思う。昔は、コレクターならコレを持っていないと語れない、と言うものがあって、好き度が比べられたと思うんだよね。

でも今はインターネットによって膨大な情報へのアクセスが可能になったから、まんべんなく情報が得られる。まさにここで80年代トークしているのを読んで、80’sに興味を持った人がいたとしたら、すぐにYouTubeで調べられちゃう。

もしインターネットがない80年代に、60年代ってこんなものが流行ってたんだよ!って教えたとしても、すぐに調べようがないし知りようがないし、“ふうん、そうなんだ”で終わっちゃう人も多かったんじゃないかな。情報が散らばってる今だからこそ、レトロにぐっときた誰もが、レトロ好きになれるんじゃないかな。」

草野 「あとコンテンツを作るアプローチとして、皆にウケるものは何かと考えたときに80’sって幅広い世代にアタリやすいんだと思う。

現行のものだと、皆にウケルものって意外と難しくて、じゃあビルボードのトップチャートに入ってるエド・シーランで何か作ったら?と言っても、別に皆がエド・シーランの歌を歌える訳じゃないし。

でも80年代のものとかだと、マスメディアの力が強くて、大衆でこれが流行ってる、皆これが好きっていう時代だったから、その時代のものって認知度が高くなるよね。80年代世代の人だけじゃなくて、ワカモノもYouTubeで見て知っているものが出てきたら楽しいし。レトロをコンテンツ化するのは、今世界中で流行ってるような気がしている。」

安永 「Satellite Young も、そういった視点はありますか。」

草野 「狙ってるとは違うかな。確かにいま『バブル文化』のリバイバルは流行ってるかもしれないけど。私たちは流行りをを意識したことはなくて、どちらかというと80年代アイドル歌謡の素晴らしさに感銘を受けて、それを一つのジャンルとして発信していきたい。で、発信するなら、現行のスタイルで現代人をハッとさせたい。」

安永 「ちょっと話は変わりますが、もともと僕がSatellite Young を知ったのは『せんぱいクラブ』でした。海外での反応ってどうなんでしょうか。」

『せんぱいクラブ』はスウェーデン在住の男女ユニット makebabi.es(メイクベイビーズ) が制作・公開しているWEBアニメ。日本のアニメーションの“伝統的様式”が詰め込まれたオマージュ作品となっている。
草野さんが率いるSatellite Young の『卒業しないで先輩!』は、『せんぱいクラブ』のテーマソングとして海外でも話題に。

草野 「海外でも、再放送とか日本の昔のアニメは結構見られていて、『らんま1/2』が人気だったり、『バブルガムクライシス』だぜ!とか、『マクロス』が好き!とか、海外にもファンは多いと思う。

クラウドファンディングで7,500万円もあつめた『KUNG FURY』っていう映画があるんだけど、マイアミのカンフーを使いこなす警官がヒトラーと戦うとか、ストーリーはめちゃくちゃ。だけど80年代B級映画の型がつまってて、昔っぽいエフェクトを使ってたりするんだよね。

あれだけのお金が集まったってことは、過去のものを見て、再現したいって思った人が多かったんじゃないかな。」

◆レファレンスはレトロフューチャー。昔の人が描く“未来”に色んなヒントがある

安永 「あと僕は、今のものに通ずるところがあるから(レトロが)面白いというのはある気がします。昔のテレビや映画の演出とか盛り上げ方をみていると、今に通ずるところがあって、そういった発見の面白さはある。完全に違うものだったら、“へ~”と思うしかないと思うけど。今の映画やテレビや音楽にも昔の要素が残っている部分があるからこそ、気になるし面白い。」

草野 「私、ネットフリックスの『ストレンジャー・シングス』にめっちゃハマッたんですけど、あれって80年代、ジュブナイルの様式美が詰まってる。超能力を使った後に鼻血が出るとか、S・キングの『炎の少女チャーリー』だし。『スタンド・バイ・ミー』、『E・T』、『グーニーズ』ぽいシーンがあったり、色んなオマージュが入っててワクワクするよね。

映画や音楽やファッションって、アートやデザインと違って、大衆のニーズに合うようにマーケティングの上でつくられているから、その時代の鏡になっているんだよね。この時代は、めちゃくちゃお金使ってたんだなとか、この時代は景気が悪くて皆落ち込んでいたから皆で頑張ろうって雰囲気だったんだなとか、その時代の空気感が一番反映されていて面白い。」

草野 「あと、『ひみつのアッコちゃん』も時代によって設定が違くて、69年に始まった初代アニメは、アッコちゃんは超金持ちで可愛くて、パパは船乗り、ママは主婦で、皆の憧れだったの。その反面、脇役のモコちゃんは脇役は貧困層で不幸なエピソードが盛り込まれていたり。

88年の2作目では、アッコちゃんもモコちゃんも同じ位の可愛さになって、2人とも一般家庭になっていて、両親も共働きになってた。その頃からアッコちゃんもドジで明るい性格になってた。

3代目も同じく2作目の性格を引き継ぎつつも、見た目が大幅に変わってスタイルバツグンな等身になってたな…。それぞれが時代を反映しているよね。きっと60年代はあまり裕福な家庭が多くなくて、女の子が憧れるヒロインが人気だったんだけど、80年代以降はもう皆が裕福になっていて、主人公の女の子もすごく共感できるキャラクターになったんだと思う。」

安永 「ちなみに、その時代のカルチャーが特に反映されてていいなと思う映画はありますか。」

草野 「私は結構SF作品の、未来とか宇宙の描き方に時代を感じるかな。例えば『スターウォーズ』と『インターステラ―』って映画に出てくるインターフェースも全然違う。『スターウォーズ』は70年代後半で、インターフェースがボタン多すぎだし、『インターステラー』はタッチパネルで、デザインも洗練していて、『2001年宇宙の旅』等の60年代の作品は流線型のデザインが多いとか。その時代によって、どんな風に未来を想像していたのかが分かって好き。『スターウォーズ』は今になってまた映画が公開されてるけど、あえて初期作品のままジオラマっぽい作りにしていたりして、“ああ、それが様式美!”って思う。」

安永 「昔のSFってメッセージ性ありますよね。藤子・F・不二雄さんがSF短編集みたいなの出してて、それを読むとなぜタイムマシンができないのか?とか、当時の目線で書かれた未来の話なんですけど、結構今僕が読んでもハッとするようなことが書かれていたりする。」

草野 「2010年代のVRやAI等の先端テクノロジーや、そこで議論される社会問題が、かなり80‘sのサイバーパンク作品とリンクする。だからこそ、80年代SFブームがきてるのかも。今年は、攻殻機動隊のハリウッド化とか、『ブレードランナー』も公開されたし。

昔の人が描いている未来に色んなヒントがある。ってことだね。」

Photo by Kisshomaru Shimamura

・・・

EMI KUSANO / 草野 絵美

1990年生まれ。2013年から歌謡エレクトロユニット『Satellite Young』として活動を開始。スウェーデン発のアニメ『Senpai Club』の主題歌提供、米国インディーレーベル『New Retro Wave』からのリリースにより、欧米を中心にファンを増やし2017年には『South by South West』に出演。アーティスト、ライター、MC、歌手活動を中心に活躍する一方で、5歳児の母親でもある。

Satellite Young / サテライトヤング

草野 絵美率いる、80’sアイドル歌謡エレクトロユニット。日本の80’sアイドル歌謡を、『只のリヴァイバルではなく、ずっと途切れる事無く継承され、進化してきたジャズやロックのように、一つのジャンルとして普遍化・進化させる』ことをコンセプトに、再構築された80’sサウンドに、ポストインターネット世代の違和感をのせて現代社会を歌う。

今月公開された、360°VR映像を使ったMVも話題を呼び、さらに注目が集まっている。

--

--

Kishu Irie
MILLENNIALSTIMES

1992年生まれ。営業でもあり、ライターでもあり、広報担当でもあり、色々やります。女子大在学中には126回の合コンを経験。祖父の介護をきっかけにジェロントロジー(加齢学)を学び「高齢社会エキスパート」の認定取得。