高齢社会を生きていくため、ミレニアルズができること
埼玉県の住宅地、ごく普通の一軒家に、大きな看板がかかっている。
『BABAlabさいたま工房』―ここでは30代から80代まで幅広い年代の女性が集まり、育児グッズなどの企画・制作や、ワークショップを行っている。
『BABAlabさいたま工房』で作る製品は、おばあちゃん・おじいちゃんも安心して使える“孫育てグッズ”。
腕力が落ちても安心して赤ちゃんを抱っこできる『抱っこふとん』や、老眼でもメモリが見やすく持ちやすい『ほほほ ほ乳瓶』など、おばあちゃん・おじいちゃんも子(孫)育てに参加できるように、ユニバーサルな視点で考えられたグッズを企画・制作している。
近年日本で問題視されている『少子高齢社会』。医療・介護・社会保障など、様々な領域で課題があがっているが、若者の負担増加の懸念もあり、ミレニアルズにとっても決して他人事ではない。
そんな中『BABAlab』は、幅広い年齢の女性たちがこれまでの経験や技術を活かしながら収入を得られるという点で、注目を集めている。
子どもからおばあちゃんまで、幅広い世代が集まるこの場所に、ミレニアルズがどうやって高齢社会と向き合うべきなのか、そのヒントがあると感じ、今回そのドアをたたいてみることにした。
中をのぞくと、カタカタと心地よいミシンの音と、子どもの笑い声。一番奥は子どもの遊び部屋だろうか、幼稚園くらいのちびっこが走ったり転げたりしているのが見える。
その手前の、広々としたフローリングと畳部屋が作業場のようだ。
多世代がいるといっても、おばあちゃんが多いのだろうか…と思っていたが、意外にも30代くらいの女性がたくさんいた。
■自分と子どもを“受け入れてくれる”場所がある安心
ミレニアル世代の鈴木さん・横矢さんも、『BABAlabさいたま工房』で働くスタッフの一人だ。
鈴木さんは6歳と2歳の2人の男の子のお母さんだ。『BABAlabさいたま工房』に通い始めたのは、長男が1歳半になったときだという。
鈴木さん「長男が1歳になったときに、家で子どもと2人きりでいるのが辛くなった時期があったんです。2人きりで家にいると、子どもに散らかされちゃうし、変なところが目についたり、ずっと何か話しかけられたり。一人になりたい、喋りたくない、声とかも聞こえたくない、そう思うこともあって。
とはいえ、保育園に預けてまで仕事したいとは思っていなくて、子供は見ていたい。そう考えていたとき、ちょうど子連れでできるワークショップを『BABAlabさいたま工房』でやっていたので、参加してみることにしたんです。」
6歳と3歳のお子さんを持つ横矢さんも、鈴木さんの話に深く共感しながら、体験を話してくれた。
横矢さん「あいちゃん(鈴木さん)の話、すごく分かる。今で言うとワンオペというやつかな。“子育て支援センター”みたないなのに行ったりしたけど、時間はつぶせても自分の心は満たされなかったです。相談に行くたびに自分の子どものことや家のことを最初から説明しないといけないし。
他のお母さんがきれいな格好で来たりしているから、私も見られることを意識して、ちょっと疲れちゃったり。なんだか、いっぱいいっぱいでした。」
2人ともお子さんが小さい頃は、子育てにわずかながら疲れのようなものを感じていたそうだ。2人きりだと何だかしんどい、自分の時間も欲しい。自分も家にいるだけでなく何かやりたい、でも子どものことは見ていたいというジレンマがあった。
徒歩圏内にあり、自分のペースで仕事ができ、しかも子どもと一緒にいられる『BABAlabさいたま工房』はちょうどよかったという。
鈴木さん「“行く場所”がある、というのもいい。“来てもいいよ”と自分と子どもたちを受け入れてくれる場所があると、夏休みも困らないし(笑)
ここに来ると、おばあちゃんたちが子どもをすごく可愛がってくれるし、私も仕事ができるし、いい距離で子どもと離れられて、年上のスタッフの方とおしゃべりできて、気晴らしになりますね。」
■互いに影響しあう、おばあちゃん、お母さん、子どもたち
横矢さん「子どもが来ると、おばあちゃんもより元気になる感じ。子どもたちも、“お皿もって行って”とか“商品をこの袋に入れて”とか、おばあちゃんたちに頼まれてお手伝いしてます。」
鈴木さん「私は団地住まいなんですが、そこのおばあちゃん、おじいちゃんも子どものことをよく見てくれてる。
おばあちゃん・おじいちゃんも、子どもがいると話しかけやすそうです。私が独身のときは、こちらもおばあちゃん・おじいちゃんに話しかけないし、向こうも話してこなかった。子どもを介して、大人同士も気軽にコミュニケーションが取れる感じがします。」
横矢さん「おばあちゃんでも新しいことに目を向けている人が多くて、色々挑戦しているから、私もそれに刺激を受けますね。“自分もやらないと、頑張るぞ”という気になります。」
■育児と仕事、両立のひけつは“ゆるさ”かもしれない
鈴木さん「ここは“来れるときに来て”って言ってくれる。時間も自由だし、気が乗らなかったら行かなくてもいい。子育てをしながら、幼稚園の行事があったりしながら、自分のペースで仕事が出来る。そういう、ちょっとゆるい感じがいいかな。」
横矢さん「会社で仕事するとなると“もうちょっとやれば、もっと良いものできるかも”と頑張るうちに自分が疲れるまで仕事をしてしまう感じがあって。
ここでは“大体この部分だけやっておいて”とか、“何日くらいまでに出来れてばいい”のように、曖昧さがあって自由にやらせてくれるんです。
子どもたちが熱を出したときも、仕事の材料だけ用意してくれて、あとは家で自分でできるときにバーっと作業したりとか。」
■『BABAlab』代表が考える、少子高齢社会の“働き方”
『BABAlabさいたま工房』を運営する、『シゴトラボ合同会社』の代表をつとめる桑原静さんにもお話を聞くことができた。
年代の異なる人々が集まり仕事をすることを、どのように考えているのだろうか。
「同じような趣味・年代の人が集まると、同じような意見しか出てこないのですが、『BABAlabさいたま工房』では年代も経験も趣味もばらばらだし、製品の企画をするにしても多様な意見が飛び交います。
若い人たちの話題や流行も、おばあちゃんたちには刺激になって、それをアレンジして製品のアイディアがでることもあります。
それに子どもが病気でお母さんが働けないときなどは、おばあちゃんがその分を補えるし、逆におばあちゃんたちには難しい作業は、若いお母さんたちが助けられる。お互いにカバーし合えるんですね。
だいたい会社って、まず先に仕事があってそこに人を当て込んでいきますが、高齢者とかお母さんとか働きづらい人には“この人には、この仕事が向いているかも”という感じで、仕事を合わせていくほうが働きやすいですよね。
なので火・水・金の来れる時間に来ればいいとか、だいたいこの辺までの期日にやればいいとか、あえて“ゆるく”しています。管理は大変ですけどね。」
これから高齢社会になるにつれて、育児だけでなく介護によって、仕事ができる時間が限られるということもあるだろう。高齢者だけでなく、若い人にこそ“仕事を人に合わせる”という働き方が必要になってくるのかもしれない。
■ミレニアルズが高齢社会を生きていくには
「個人的には、若い人が活躍できるように高齢者が助けてあげるべきだなあと思います。若い人からしたら、上の人に色々あーだこーだ言われたくないかもしれない。そりゃそうなんですけど、絶対助けてもらった方が楽に決まってる。もっと甘えて、じゃんじゃんシニアを使ったらいいんじゃないですかね。
あとは、おばあちゃん・おじいちゃんともっと関わるといいと思います。歳をとると耳も遠くなるし、出来ないこともでてくるし。それに対して“どうして出来ないの?”と感じることもあるかもしれない。だけど、絶対自分もそうなるわけです。いずれ歳をとります。
そういうのを間近で見ておくと、戸惑うこともなく、おばあちゃん・おじいちゃんに対して思いやりがもてると思いますよ。『BABAlabさいたま工房』の子どもも、普段からおばあちゃんを見てるので、お年寄りに優しいですよ。」
「隣の『のら』というコミュニティカフェでは、昼間に子連れのお母さんたちが集まったりしてて、年に2度そこと『BABAlabさいたま工房』の合同でおまつりをやったりするんです。
そうやって、自分が住んでいる地域で、色々な人と知り合ったり、一緒に働いたりする場を作っていきたいですね。
結果、お母さんが忙しいときに代わりに保育園のお迎えに行ってもらうとか、引越しのときに「手伝うよ」と手伝ってもらえるとか、地域ならではのつながりを生かせるのが理想ですね。」
高齢社会を生きていくには、どうすればいいのだろうか。
その解決の糸口は、実はお金でも制度でもないのかもしれない。
若い人が高齢者を支えていくという考えはもう古い。若い人に足りない部分、高齢者に足りない部分をおたがいに補い合い、パズルのピースを組み合わせるようにして、一枚岩の社会をつくっていく。
そのためには、お互いを知ることが必要不可欠だ。
ミレニアルズが高齢社会を生きていくために。まずは隣に暮らすおばあちゃん・おじいちゃんと挨拶を交わしてみることが、第一歩なのかもしれない。
BABAlab
100歳になっても自分らしく働き、いきいきと暮らし続けられる場として『BABAlabさいたま工房』や『BABAlabぎふいけだ工房(岐阜県)』を展開。シニア世代の本音から見つけ出した課題から商品・サービスを企画、世代を超え地域の人同士のコミュニティの場の提供を行う。