大企業の“イキのいいの”はスタートアップ的発想ができるか?ーStartup Boot Camp雑感

Tomoya Yoshida
MILLENNIALSTIMES
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16 min readApr 11, 2018
見事なマインドマップ的板書を書いてくれたのは、富士通 鈴木さん

富士通と野村総研の若手有志が中心となり、One JAPANに参加する各社に勤務する若手に声をかけて25名を集めたイベント、”Startup Boot Camp”が開催された。

金曜日から日曜にかけての54時間の間に、集まった人たちと即興でチームを作り、共同で事業アイデアを練り、初期プロトタイプの構想と検証までを行うという壮絶な趣旨を掲げるものだ。

最近では、大手企業も新規事業に力を入れ、若手が配属されることも珍しくなくなっているようだが、全くのゼロから、しかも契約関係もない、出会って数時間で結成されるチームはどのようなものをつくることができるのだろう。

McCANN MILLENNIALSからは、私吉田と永田優太朗が参加したので、いち参加者として自分のチームにおこっていたこと、全体としてどんな化学反応がおこっていたかについて、感じたことを徒然なるままにレポートしたい。

Startup Boot Campとは?

主催の富士通+野村総研の若手グループによると、昨年メンバーが参加した、週末を使ったスタートアップにかかわるイベントを模擬して今回初開催された。

大企業の「何かおもしろいことをしたい」「会社を使って大きなことを成し遂げたい」という起業家精神溢れる若者を後押しするイベントをしよう!と酒の席で盛り上がって開催にこぎつけたそうだ(実際の開催までの道のりは大変だったに違いない)。

さて、富士通や野村総研は主催者だから当然参加者も多いのだが、そのほかにもNTT東日本、日本郵便、NTTドコモ、アフラック、東芝など錚々たる大企業の“イキのいいの”が週末のプライベートの時間に集まったということになる。

さっそくDAY-1で起こったこと

3月10日(金)19時にアークヒルズに設置されている富士通の共創施設 “HAB-YU”に集結した勇士たちは、早速、持ち寄った事業プランをひとり1分の持ち時間でプレゼンを行った。

限られた時間のなかではゼロからアイデアをつくっている余裕はないので、参加者たちにはあらかじめお題が与えられており、新規事業を1枚のコンセプトボードにまとめてきていた。

プレゼン、そしてチームビルド

ひとりひとりのプレゼンが終わると、全員がひとり3票をもってサイレントで投票を行い、おのおのが魅力的だと思うアイデアのところに集まってチームを組成する。

5テーマが選出され、翌日以降深掘りしていくこととなった。

面白いところでは、「そこどいて。」というアイデアで、電車の席を譲ってもらうしくみが出され投票では最高得票を記録していたが、実際にはメンバーが集まらず定数以下となっていた。面白いアイデアと、自分が参加したいと思うかは別、だということか。

ちなみに、私自身は「中途採用のマッチングを長期的に向上させるプログラム」を提案したのだが、つかみで「転職経験ある方〜?」と声をかけたところ3人しか手が上がらず、まったくつかめず、、、あえなく選外であったのだが(さすが大企業っ)。

大企業の“イキのいいの”はスタートアップ的発想ができるか?

さてチーム分けは少々もめながらも、概ねあっさり終了。

私が参加したNTT藤森さん率いるチームは、「ビジネスパースンを会社の単一事業からプロジェクト単位での仕事に解放する」というコンセプトを掲げた。

仕事がプロジェクト単位になっていたとしたら、「人事異動は会社に指示されてやるもの」「仕事イコール会社」のような感覚ではなく、自ら進んでプロフェッショナルとして仕事に取り組めるようになるだろうということだ。

大企業ではプロマネのような仕事が多く、「それではプロフェッショナルになりきれてない」「中途半端」のような声もあった。

いまはそのための過渡期にあるのでは、という仮説を設定した。実際には労働組合が長年にわたって組み上げてきた論理を破壊する行為でもあるかもしれないので、会社という枠組みを一旦外して、純粋にスタートアップ的に考えようということなった。

初日は軽めに、各グループはコンセプトを確認し解散

私のグループは“チームビルディング”を旗印に、早速飲みに出た。「起業に取り組みたいんだけど、社宅とか給料とか、結構もらってるからやめられない」「起業といっても、テック系だけでなくてストーリーで社会課題を解決している企業もあるよね」「新入社員でも貢献できるスキルってほんとにないのか」など・・・、ぶっちゃけたトークが夜遅くまで繰り広げられた。

「働き方改革」の改革をコンセプトに、新入社員2名と中堅3名の5名でチームを組んだ。

DAY-2 課題とソリューションを明確化

翌日は朝から主催グループによるプレゼン。チームビルディングの重要さと、ビジネスプランを作る際のフレームワークが複数示された。

ユーザーヒアリング、共感マップ、How might we Question、バリュープロポジションキャンパス、プロトタイピング、リーンキャンパスなど。

どれも、どこかで聞いたり教科書で読んだりしたことはあるが実際に使ったことはほぼ、ない。自分も含め、これが企業ビジネスパースンの実態であろう(笑)。

私は、バリュープロポジションキャンパスができれば、サービスの価値が明確になり、自動的にリーンキャンパスが埋まる、などと理論でたかをくくっていたのだが、それがどっこい、大揉めタイムに突入。

なかなか課題仮説が見つからない

ソリューションのアイデアが場当たり的で皆の賛同が得られない、「そのアイデアいいね!」といったのに検討しているうちに疑問が出てくるなど、、、いつまでたってもうまくまとまっていかなかった。

この議論が進まない原因とは、ものすごくシンプルにいうと、課題が明確に設定できていない(もしくは顕在化していない)から、ではなかろうか。

このシンプルにして最大の問題にチームのみんなが「ふと」気づいたのは、DAY-2も終わりに近づいた、、、午後10時を回るころ、なのであった・・・。

いや、議論自体は非常に活発で、さまざまなアイデアはたくさん出た。

なのに、アイデアを掘り下げて、ベンチャー的にできそうな、地に足のついた、というか、スモールスタートでもできそうなアイデアを育てていくということが難しく、

逆からいうと、話がまとまる方向に誘導しようと(いわゆる“建設的”に)してみるとすごく自分がいま言っていることがチープに思えてきたり、、、話の収束方向が見つからない・迷走状態が続いたのである。

午後には、企業経験が豊富なアドバイザーによるメンタリングの機会もあったのだが、課題仮説とソリューションをプレゼンしたところ、「他のサービスもあるよね。それとの違いは?」「誰がお金を払いたいと思うの?」などといった、質問が矢継ぎ早に繰り出された。

それに明確に答えられなかったということは、半日をかけても課題の深堀が未熟だったということだろう。

懇親会で他のチームの人に話を聞いてみても、どこも状況はあまり違いはなかったとのこと。まだ見えていない課題を深堀し、ユーザーのメリットと支払い意思が生じるポイントを見つけ出していく、ということがこんなにも難しいのだとは。。。

企業ビジネスパースンの強み=弱点

これらの議論を通じて、企業ビジネスパースンの“くせ”、というか強みでもある反面のスタートアップ的発想における弱点も露見したのではないかと思う。

「そのサービスは100億円まで成長しないのでは?」「なんかこう大きくやったらいいんじゃない?」などの声で議論が止まりがちだった。

抽象的なアイデアや大きな解決の方向を出すことは得意だが、なかなか具体的なソリューションを発想することには慣れていない、という特徴もあるように私は感じた。

DAY-3 発表時間までカウントダウン

そうこうしている間にも時間は容赦無く過ぎていった。最終発表時間が迫ってくる。

よくある企業の研修の場合は、この時点で「だいたいこんな感じのアイデアで適当にソリューションを書いて・・・ちょちょいのちょい」とまとめ上げるのがせいぜいといったところだが、今回集まった人たちはそんなんじゃ納得がいかない“イキのいいの”である。

課題の特定に最後まで取り組む

最終日の午前中を使って、「自分たちが解決するべき課題」を再度確認し、「この5人のメンバーでスタートするとしたらどんなことが適切で、できそうか?」ということについて議論を開始。

正直、最終発表時間まで5時間を切った時点でこれを考え直しているので、どうなることかと思ったが、ところが、最後の最後に「課題を見直す」ことを通じて、急激に議論しつくした感が出てきた、と私は感じた。

私のチームは、コンセプトはすでに明確「プロジェクト型ワークを根付かせること」であるので、解決すべき課題は「プロジェクト型ワークを実現するプラットフォームとはどのようなものか?」ということになった。

短時間でまとめる必要性から、あるサービスから骨格を借りてビジネスアイデアの骨格を構想。そこからは類推で、課題仮説としてのサービスの骨格の絵を書いていった。

私たち企業ビジネスパースンたちは、もうここからの推進力は半端なく素早かった。サービスモデルの構想、収支試算、モックアップ、ペルソナづくりなど、「分業してがっちゃんこ」で1時間そこそこで発表資料は出来上がった。

発表直前の様子。前の方はうなだれているのではなく未だ作業中なのです。

全チームの発表内容Overview

各グループの発表したサービスをざっと概観してみよう(事業アイデアを深めているチームもあるかもしれないのでスライドなし・概観にとどめる)。

w@eat

農業生産者の思いを食べる人にまで届けられるサービス。レストランで素材がいいねと思う瞬間にはシェフを呼んでうんちくを聞いたりすることもあるが、それ以前に作り手の思いを情報機器を使ってテーブルに届けようという発想。発想自体はたくさんあるように思うが、このチームの代表者が実際に自分のビジネスとしてやろうという心意気に、審査員賞と投票での賞を総なめで受賞した。

One Piece

私のチーム。さまざまな人がプロジェクト単位で仕事をお願いできるプラットフォーム。自分の力試しをしたいと思っているビジネスパースンが、副業として仕事を受けることができる。ランサーズと違うところは、ビジネスを作りたいと思っている依頼者が「これやりたい人、集まれ〜」といって集める人たちは、企業のビジネスパースンなので必ずしも金銭的な報酬を目的としていないところ。

WAST

「そこどいて」のチームが、他のチームと合併とアイデアの相克を乗り越えて作り出したアイデア。電車で疲れている時に席を金銭的で譲ってもらうプラットフォーム。審査員は鉄道会社との連携を指摘していたが、私はこれはオーバーブッキングで苦しむ航空会社などに提案するとオーバーブッキングのコストがまるまる浮くことになるので、案外いけるアイデアなのではないかと思った。

OOO125

休日にこれといってやることがない人をマッチングするためのサービスで、サービス利用者同士(友人のみ)をマッチング。私自身は週末が忙しいのでサービス利用対象者では完全にないのであるが、大企業のビジネスパースンは休日はそれほどまでに暇なのか?というのは冗談だが、新しいことをやって見たいが友人がいない、突然スケジュールが空いた休日に相手をしてくれる人が見つかる、というのはあったらいいな、と思う。

Sandwich Concierge

集合住宅での外国人居住者とのトラブルが増えている背景をうけ、不動産管理会社に代わり居住者間の課題解決を行うサービス。「LINEでサービスを行う」とあったので実現性にはハードルはありそうだが、確実にそのようなニーズはありそう。

雑感、まとめ

以上のように、3日間でも意外にできるもんだなあというのが率直な感想。

ひとつひとつの事業アイデアとしては、大小さまざまな粒度のものがあったように思うが、切り口を変えたら周辺に隙間がありそうだな、などと上記のように直感することも少なくないと思ったのは事実。

その幅広い情報ソースの中から適切なものを見つけてこられる、企業のゼネラリスト的感覚というか。先に言及した「プロフェッショナルになりきれてない」「中途半端」のような感覚、を段階的にでも前向きに生かせるところがあるんじゃないか、とも思う。

そういった抽象的思考がベンチャー的発想とマッチしたところに何か新しいものが生まれるのではないか、そんな風に直感した瞬間を私は感じた。

ビジネスパースンが今回のようなスタートアップ的思考を学ぶ意義とは、高度にシステム化された労働のあり方から抜け出したうえで「アイデアのくっつけ役」ができるようになる、、、そのあたりにありそうだ。

「課題」につきまとわれた、3日間。

3日間僕らにつきまとったのは、「解決すべき課題とは何か」ということ。適切な課題がなんなのか、をいつも問い続けることがいかに大切であるか、ということだ。

「課題が不明確だと解決策が見つからない」という、当たり前のことを身を以て気づかされたことが大きな学びだったように思う。

チームの絆は「話し方」から

課題をグループで取り組むにあたって大事なのは、なんだかんだいってチームの絆。

真剣にやればやるほど、また他者の発言を尊重しようとすればするほど当たり障りない話になってきたりして、結構ぎすぎすしちゃうのが実態。

だが、これはある程度のところまで「話し方」で解決できそうだ。チームのみんなから、これを解決するアイデアが出ているのでご紹介したい。

  • 仮説ベースで話す。語尾を「〜だ」ではなく、「OOOなのではないか?」と疑問形にしておけばアイデアをつぶさずに、他の意見も取れる。
  • はじめから大きなビジネスを育てようと発想するのではなく、課題を解決するため、既存業界に針の穴をあけられそうな切り口は何か?を考えること。
  • 概念的な話になってしまったときでも、シンプルに言うとどういうことなのか?と伝わる短い言葉にして、ポストイットに書き留める。
  • メンターや第3者から「それ、もうOOOがやってるよね」とか言われても、方便でも「いやここがちゃうんです」と半ば強引に主張する(あとで盛り込んじゃえばいい)。
  • 「なぜやるべきなの?」「なぜ今じゃだめ?」など、話すときは「なぜ」ではなく、「どうしたらそれができるか?」という質問に変えれば、アイデアをつぶさない。

議論のマッピングを全員が意識すること

それから以下は、「話し方」から一歩進んだ「議論の仕方」を、富士通矢野さんからいただいたご提案。なるほどと思ったので転載。

「いま、なんの話をしていたんだっけ?」となったこともしばしばあったように思うので、「発散と収束を全員が意識すること」も大事では?

課題を出す時も、解決策を出す時も、一旦それぞれが思い思いに意見を好きに言って、他人のアイデアにもどんどんのっかって、いっぱいアイデアを集めていい気分になって、これも大切なこと◎

そこから今度は、自分たちの目的に合ったものを抽出する(今回の場合は、スモールスタートで始めるときに解決できそうな課題、はじめれそうな解決策を選んだ)、

議論の中でも、自分たちは今どこのフェーズにいて、どんなことを話すべきかがチームで共有できてたら、それぞれの話し方も少しは変わってくるのかなと思いました。(その意識合わせが難しいけど😂)

議論のマップを持ち、共有する=「アジェンダをリアルタイムでアップデートする」という考え方は、会社の会議などでも非常に使えるアイデアではないだろうか。

そして、これに関してチームのまとめ役NTT藤森さんからの意見もいただいた。

ビジョンは共有・共感できていたものの、その課題や解決策のレベル感が大きく異なっていた事が難しいところだと思った。

課題感として同じような大企業で働くメンバであったのにも関わらず、働き方に対するインセンティブや業務の進め方、時間の使い方等が個々人で異なり、大小ある課題の中から全体として設定すべき課題を明確にできていなかったため、共通した解決策のイメージももてなかった。

レベル感を水面下で統一できずに、議論が白熱してしまったためなかなか纏まらなかったのではないか。

抽象・具体の発散と収束のため、そのメンバでの意識(レベル感)を常に合わせながら議論を進めていくべきであると感じた(っとはいうものの、そうやって発散したことでレベル感の違いがわかってくるのだが。。。。笑)。

いやぁ、深い。同じことを話していても、伝えたいことの理解度や想像力はそれぞれ違う、ということは当然のことであるが、日常的にはとかくそのことを忘れがちである。

解決策はなかなか難しいが、発言者は必ず冒頭で「これから、議論マップのなかのOOを話します」と宣言するようなことで、アライメントが保るのではないだろうか。

本稿は私がイベントを振り返った勝手な一雑感・自分を含めた企業ビジネスパースンの起業アイデアづくりにあたっての壁について書いた一方的な原稿だ。もし原稿中に不適切な表現があればご連絡いただきたい。表現を変更しおわび申し上げる。

3日間の貴重な経験をさせていただいた主催者・参加者の皆さんに感謝したい。いまのところ我がチームは実際に動き出すといったところまでにはなっていないが、この同期の中から(企業内外に関わらず)起業家がでることが非常に楽しみでならない。

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Tomoya Yoshida
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Editor, MRM//McCAANN, デジタルマーケティングに関する取材、編集、PRを主な業務としています。宇宙開発、霞ヶ関の役所を経て書籍編集者、今に至っており、サイエンスとテクノロジーからデザインとスタートアップに興味がうつっています。