連載 《 ワカモノたちのダイアローグ》 第2回
世界をワクワクさせるための秘伝のレシピがここにある。《 スーパーマーケットカカム 》
ワカモノたちのモノづくりにフューチャーしたシリーズ、第2回は食材をテーマにアート作品を発信する、その名も《スーパーマーケットカカム》の店長、カカムマサナリさんにインタビューしました。
▼スーパーマーケットカカムとは
「食材」をテーマに展開するアートプロジェクト。「あなたのワクワクのスーパーマーケット」をモットーに、世界中に沢山のワクワクをお届けすることが目標。現在品揃え100種類を目指して年中無休で営業中。
スーパーマーケットカカムとは、《記憶アートの実験場》である。
顧: 《 スーパーマーケットカカム 》という食材をモチーフにした活動の着想源について、教えてください。
カカム:「食材をテーマにしていることには理由があるんです。アイデアを考えるにあたって、実は同じ方法を用いながら食材のテーマを変えてやっている。だから、すべての作品には同じスーパーマーケットのカカムのアイデアのレシピがあって、それを食材を変えながら試しているんです。」
「そのレシピに欠かせないものが記憶なんです。記憶を使ったアートをつくろうとすると、みんなの記憶がいっぱいつまっているものを採用しないとうまくいかない。みんなが知っているものって何かな?って考えたときに『あ、食材だ。』と思ったんです。リンゴだったら赤とか、ブドウは紫とか、食材って実は人類共通の記憶がたまっている器なんですよね。だから食材は僕の記憶アートの実験のテーマとしてぴったりなんです。」
プリンのもつ”楽しさ”を非言語な方法で伝える『ぷりん合唱団』
カカム:「たとえば、プリンを題材に『ぷりん合唱団』っていう作品をつくりました。プリンって『ユラユラとゆれる』とか、茶色いカラメルと黄色い本体との比率とか、プリンにまつわる共通の記憶がありますよね。それを、合唱団と掛け合わせたのがこの作品。プリンの持っている楽しそうな感じや幸せな感じって歌との相性もいいかなと思ったんです。「ユラユラ揺れるプリン」と、「ユラユラ体を揺らして歌う合唱団」その両者の似た記憶を繋いであげることでアートにしています。こうやって、異なるもの同士の共通の記憶を繋いであげると、言葉にしなくても『あのプリンの感じね』というのが表現できるんです。」
顧: アートって、分かる人だけが分かればいい、というような不親切な場合の方が多いな、と思います。その一方でカカムさんの作品の場合、みんなが一緒に見て、一緒に楽しめること、それがポイントだと感じました。
カカム: 「そうですね。そこは意図しています。僕の目標として『世界の人みんなをワクワクさせたい。』ということがあります。ただ、たまたま閃いたアイデアでワクワクさせたいわけじゃないんです。次上手くいくか分からないワクワクを待つんじゃなくて、もっとスーパーマーケットカカム式のワクワクの秘伝のレシピの精度をあげたい。その秘伝のレシピがはっきり分かればもっといろんな人をワクワクさせられるって思っています。」
「レシピのブラッシュアップをする際に大切にしていることは、ブラッシュアップの方向が非言語であるかどうか、という点です。国によって、地域によってみんな言語は別々ですよね。だから、言葉を頼りにしたコミュニケーションだと伝えたいことが100%伝わりきらない。でも記憶っていうすでにみんなの中にあるものだったら言葉を使わなくても繋がれるし、伝えられる。みんなにワクワクしてもらうためには、みんなが持っている共通の記憶という要素が不可欠なんです。」
ワクワクを生むかは”距離”次第。
カカム: 「ただ、難しいのがみんなが知っているからと言っておもしろいとは限らないところだと思っています。たとえば、リンゴのボールの作品をつくっても、リンゴが丸いことと、ボールが丸いっていう共通の記憶の距離が近すぎてワクワクしないですよね。ワクワクが生まれるかどうかは両者の距離。もともとは全く別のものなのに、同じ共通点をもつんだっていう発見がワクワクにつながるんです。」
「こういったワクワクの距離なんかは作る側として設計しておきたいんですが、見た人はあくまでビジュアルを見ただけで二つの異なる要素が瞬間的に”ピチョ”ってくっつけばいいと思っています。」
「たとえばこのえだまめのメガネの作品。作品のビジュアルをみただけで『枝豆のさやを模したケースのなかに、枝豆の豆みたいなメガネが入っている』って説明できますよね。こちらは説明していないのに、見ている人がすぐに作品を理解して隣にいる人に説明できる。そういったものを沢山作りたいんです。」
スーパーとは、いろんな種類のワクワクをつくるための箱である
カカム:「スーパーマーケットをコンセプトのコアに置いている以上、スーパーマーケットとしての使命は持っているんです。それはスーパーマーケットとして、『豊富な品揃え』である、ということ。スーパーマーケットの価値って、昔は魚は魚屋さんで、野菜は八百屋さんで、肉は肉屋さんでしか買えなかったものを一つに集めたことですよね。スーパーマーケットカカムもそうありたいと思っています。」
「スーパーマーケットを名乗るからには、作品はいろいろなカテゴリーがないといけない、つまり『品揃え』という点はクリアしないといけないと思っています。すべてがポスターでもいけないし、すべてが歌でもいけない。食材というくくりとアイデアのレシピは固定だけど、違うカテゴリーのものがスーパーマーケットカカムで見られるか、ということを意識して作っています。」
顧: 「なるほど。究極的なことを言うならば、まったく違う種類の作品が100個あるのが理想あなんですね。」
カカム: 「まさにそうですね。いろんな種類のワクワクを作りたいと思っています。」
解像度の高いビジョンで《スーパーマーケットカカム》を満たしたい。
話はどんどんすすみ、切っても切り離せないお金と作品作りの話へ突入していきます。
カカム: 「アーティストとして活動をすると、お金の話はタブーと見られたりするかもしれないんですが、どうしてもお金の話とモノづくりの話って切っても切り離せないな、と思っています。アイデアがあってもお金がないと作れない。逆に、お金があってもビジョンやアイデアがないとモノが作れない。割と、どっちもどっちなんですよね。ただ、若者である僕が今できることは、ビジョンをつくることだと思っています。」
「解像度の高いビジョンを《スーパーマーケットカカム》という箱に格納していくこと。それが今の自分には何よりも大切だと思っています。もちろん、お金は重要だけれど、お金のことはビジョンを格納した後のことかな、と。だから、資金繰りのために必死になることは元も子もないというか。」
顧: 「なるほど、解像度の高いビジョンを、スーパーマーケットカカムというアートプロジェクトを通じて発信すること。それが今のカカムさんのミッションなんですね。」
カカム:「まさにそうですね。その解像度の高いビジョンはスーパーマーケットカカムの秘伝のレシピで出来ているんです。そして、そのビジョンを実現させるためには、やはり記憶という要素が不可欠ですし、食材という記憶の器が重要なんです。」
「やっぱりモノがあることが一番伝わりやすいんとは思うんですけど、ビジョンの解像度が高ければ、モノは無い状態でも世に出せたりしますよね。今はまず、ビジョンを沢山作りたいと思っています。」
編集後記~ライター顧の思うところ~
はじめてスーパーマーケットカカムさんの作品を見たときに、作品のお茶目さと可愛らしさに思わず目を奪われたことを思い出します。ただ、実際にお話を聞いてみると、『なんとなく』の産物としての茶目っ気や可愛らしさではなく、緻密に考えられた絶妙なバランスの上で作品が成り立っていると感じました。
すべてのアーティストがこうして自分自身とアイデアとの距離をうまく保ちながら作品をつくっているとは思いません。ただ、すべてのアーティストは何かしらの使命をもって作品作りをしているのだとも思います。スーパーマーケットカカムの場合、その使命を果たすために、アイデアをレシピという形にして自分とはすこし離れたところに配置する。『世界の人みんなをワクワクさせる。』その目標を本気で果たそうとするからこそこうした姿勢になったのでしょう。
スーパーマーケットカカムが100の鮮やかなビジョンで満ちた日を見てみたい、と思った顧なのでした。
▼スーパーマーケットカカム
・公式 サイト https://www.supermarketkakamu.jp/
・公式Instagram https://www.instagram.com/supermarketkakamu/
Writer: Fumiyu Ko / Editor: Emiko Sawaguchi / Photographer: Shuichi Ikeda