木曜日のミレニアルズ イベントレポート

超没入型VRドラマで体感するのは現実か?超・現実か?

Nodoka Tominaga
MILLENNIALSTIMES
Published in
8 min readNov 6, 2018

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McCANN MILLENNIALS が隔週で開催している主催イベント「木曜日のミレニアルズ」にて、6月21日「超没入型VRドラマ体験会」が開催されました。この会では映像プロダクション トボガン inc.さんの協力のもと、VRドラマ「DINNER PARTY」の視聴体験のほかに、トボガンinc.代表 カズ シナガワさんに登壇頂き、VRの現状や展望を伺いました。

VRを通して、私たちが見ることができるのは夢でしょうか?現実でしょうか?

イベント参加者のみなさんには、同時にヘッドマウントディスプレイを装着してVRドラマを体験いただきました。
トボガンinc. 代表 カズ シナガワさん

◆カズ シナガワさん

Creative Producer / Executive Producer

ロサンゼルスにてKaz Coordination Inc.を設立し、プロデューサーとして活躍。自身がニューヨークの代理店で働かれた経験も持たれている。韓国からヨーロッパまで世界各地における制作経験で得た人脈と知見を活かし、不可能を可能にする。(https://tobogganz.com/

“VR”とは?

VR ( Virtual Reality : 仮想現実 ) は、専用機器を用いることで360度の仮想現実を体感できる体験そのものを言います。コンピュータでつくられた3次元空間を、視覚やその他の感覚を通して疑似体験できる技術や方法を指し、現在はゴーグル型のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して体験するのが一般的です。音声情報の流れるスピーカー部分と映像の流れるゴーグル部分に分かれていますが、この機器の精度で没入感は変化するそうです。トボガンinc. オフィスではこの超没入VR機器を実際に体験できるそうです!

VRドラマ体験中の様子①

なぜ、VRなの?それはVRでしか創出できない演出があるから。

「 360°に視界が広がることによって “見る” という呪縛から逃れることができる 」と、シナガワさん。はっと後ろを振り返ったときにちゃんと視界が開けていること。現実世界においてこれは当然の体験ですが元来の180°の映像視聴では体感できなかったことです。私たちは現実世界において、この背後に広がる視界を気配として感じています。VR体験中、この気配を私も全身で感じることが出来ました。このような “見る” ことを超越した “体験”こそVRの醍醐味ではないでしょうか。

また、「視聴者の見方によってはストーリーの結末が変わりうる」という話も出ました。そんな演出も実現可能な場、それがVR体験だとか。360°といったこれまでの映像にはなかった視界の広がりは、視聴者の視線導線をこれまでにはなかった形にデザインする、そんな新しい体験が生まれうる場とのことでした。

シナガワさんは、同じ脚本の舞台芸術も映画とVRで異なる演出が生まれるのではないかと予見していました。

日本で流行するVRコンテンツに見られるジャポニズム

現行のトレンドはどんなものなのでしょうか?
シナガワさん曰く、日本と海外でトレンドの違いが見られるそうです。
日本では、例えば「One Room」というVRコンテンツが人気で、シリーズ第2弾が今夏放送されています。このコンテンツは、ある部屋でキャラクターとの共同生活を楽しむものですが、日本的なカルチャー特性を見ることができるそうです。ここに“無いものを在ると仮定して、仮想現実の世界に持ち込む性質。シナガワさんは、初音ミクや歌舞伎、能、落語にも通じる、ハイコンテクスト文化ではないか、と分析します。

一方海外 ( 特にアメリカ ) のVR事情はというと、リアリティを追求する現実のコピーとしての側面が色濃いようです。鑑賞したVRドラマ「DINNER PARTY」も映像そのものはリアリティが追求されていました。

このように、夢を見る日本的な超・現実に対比されるのはリアリティを追求する現実、とシナガワさんがおっしゃっていたのが印象的でした。

360°広がる視界で「誤魔化せないこと」を逆手に取るのか否か

コンテンツの方向性が多岐にわたるVRですが、中にはVR映像化が一筋縄にいかないコンテンツもあります。そのひとつに、現在のTV番組が挙がりました。

バラエティ番組のカンペや、スタジオのセットなど。番組制作者にとって「見せたくないもの」が製作過程で発生する番組は、360°のVR化は難しいかもしれないとシナガワさんは話されてました。

一方で、こうした「見せたくないもの」が「見える」ことを逆手にとった楽しみ方もあるかもしれず、これもまた、VRでしか創出できない演出のひとつになるかも知れない、と。

VRドラマ「DINNER PARTY」 鑑賞体験

では、今回体験したVRドラマ「DINNER PARTY」について。
ひとたびHMDを装着すれば視覚と聴覚は仮想現実世界に引き込まれました。特に新鮮な体験だったのが、物語の冒頭部分。私たちの視線は自ずと足元へ導かれる設計のなか、自然に下を向いていました。普段映像を見るときに下を向くということはないので、新鮮でした。
※詳細は見てのお楽しみです。

現在、日本で「DINNER PARTY」を提供することができるのはトボガンinc.のみ

視覚・聴覚以外の感覚も世界観に浸っていく感覚がありました。「DINNER PARTY」は1961年に実際に起きた誘拐事件を元に制作されています。被害者の催眠時の録音音声を用い、彼らの経験を追体験する構成です。例えば、登場人物の切迫した視線。あたりを漂う緊張感。シナガワさんのおっしゃるとおり、VRを通した「見ること」を超越した「全身の感覚」体験がそこにありました。

VRは今後どこへ向かうのか?

今後、非現実を創出するエンターテイメントから、リアリティを突き詰めるオリンピックのライブ中継まで、VRコンテンツは使用シーンが多岐に広がっていくことでしょう。現在までにも導入例としては、災害状況の疑似体験や避難シミュレーション、不動産で竣工前のマンションのモデルルーム見学、海外旅行の下見、従業員の人材教育、パリコレのランウェイを最前列で体感、医師によるVRでの手術のシミュレーションなどがあります。

VRコンテンツ最大の特徴は、映像を全身で体感できるという点でしょう。「見ること」「聴くこと」に留まらない体験です。今後、VRでしか実現し得ない演出を活かしたコンテンツが創出されていくと思います。視聴者の視線の動かし方に拠って結末が変化する演出から、上述のライブ中継やシミュレーション事例のような現実の再現性が大切なコンテンツまで、多様なものになると予想されます。

対して、VRコンテンツの利用サイドはどうでしょうか?

イベント参加者とトボガンInc.のシナガワカズさん(最前列左から3番目)、McCANN MILLENNIALSのメンバー。 著者である私は、右から二番目。

私自身はVRのHMDを装着してコンテンツを視聴するのは初めてでした。自分自身の頭を動かす方向でゴーグルの中の視界の領域が変化していく感覚は、全く未体験のそれでした。能動的に視界の領域を動かす(つまり頭を動かすこと)ことを意識していなければ視界が固定されてしまいがち。こうした、私たちの「慣れ」という意味においても可能性に満ちていると実感しました。「慣れ」ていないからこそ感じる興奮や希少性があると思うのです。視聴者の視界によってはストーリーが変化するようなエンターテイメントコンテンツの「慣れ」という意味での定着には、これから時間を要する一方、体験する人たちは今後多彩な感覚をこれからも楽しむことが出来るのではないでしょうか。

トボガンinc.

https://tobogganz.com/

2010年に設立。映像制作が主な中、広告/プロモーションの企画立案/広報と海外にまつわるもの は多岐にわたる。代表のシナガワさんを中心に、世界各地との人脈や知見を活かしたワークを提供している。

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