150枚の欠落
うそ……だろ……
僕は『野生の風』の改稿をしていた。
旧第六章が終わったところだ。
やっと次は第七章か、と思って冒頭をさらっと見ることにした。
そして、リアルに「は?」と声が出た。
ストーリーが飛んでるぞ。
まって、話がつながってない。
このシーンに入る前に、一番大きなひと悶着があったはずだ。
抜け落ちている……?
『野生の風』はすでに一部に欠落部分がある。
ワープロからPCにデータを変換したとき、移行が失敗したらしい穴だ。
それはワンシーンだったので、どうにか埋めた。
でも、作中の一番大きな事件が、まるっと抜けている。
笑いが引き攣ってきた。
まじで?
さすがに再現の加筆は無理だぞ。
血の気が引いていく。
ここまで引っ張っておいて、お蔵入りの予感にめまいがする。
まじでか……
この事件を作中から抜いてしまったら、この作品の意義そのものがなくなる。
一番訴えたいことをぶちこんだ事件だ。
あかん。泣きたくなってきた。
もう半分泣いてたかもしれん。
もちろん、元原稿が入ってたフロッピーはもう存在しない。
存在しても、PCでワープロのデータは開けない。
まじか。
まじかまじかまじか。
半泣きになりながらフォルダをあさった。
旧名義時代に作った『野生の風』のデータが見つかった。
たぶん、PDFにしてBOOTHで配布してたやつか?
これも欠落状態で配布してたなら、もう終わりだ。
そう思ってデータを開き、スクロールスクロール。
あ……
あああああああああああ
欠落部分が収録されている!
うああああああああ!!!
よかったああああああああああ!!!!!
泣いていい?
泣いておけ?
──この欠落、落ち着いて原稿用紙換算すると、150枚近い部分であった。
150枚を、今の感覚で復活させるのは、確実に無理だったと思う。
このデータがなければ詰んでいた。
よかった……よかったね。
本当によかった。
で、改稿作業に150枚がプラスされました。
作業量が増えて、着地点がまた霞んできたけど……
いいよね!もういいではないか!
欠落部分が本気で消失してたら、もうこの作品を世には出せなかった。
それに較べたら、出版時期がさらに遅れることなんて何でもなくない?
というわけで、『野生の風』、お届けできる日はまだ気長に待ってやってください。