7月14日、いつものようにぼくは夜遅く着くユナイテッドの便でファン・サンタマリア空港に到着してタクシーでサンホセの町に向かっていました。4ヶ月ほど留守にしていたので、こうしたときはいつでもほっとするような懐かしいような独特の感情に囚われるのですが、それでもつい二年ほど前までは、来たのか帰ったのかよくわからない中途半端な気持ちで同じようにタクシーに乗っていたのを思い出します。

この夜、日本からの長い旅を終えてタクシーからエスカスの方角の山にポツポツと灯りが見えるのを眺めていてまず思ったのは、「ああ、ぼくは今自立法のある国にいるんだ」ということでした。そうやって、6月30日に法案が正式に法律になって以来ずっと感じつづけてる満足感をさらに現地に来て確認しているようでした。

さて、ではこの「自立法」(1)というのはいったい何なんでしょう?

かんたんに言えば、これで日本で障害者の人たちがあたりまえのようにやっている介助者を使った生活がコスタリカでもできるようになります。なんだそんなことかって思った人はいませんか?でもこれは、じつはすごいことなんですね。メインストリーム協会は、アジアや中南米でたくさん国の支援をしていますが、こうした制度があるのは韓国や台湾などを除くと他にはありません。世界的に見ても欧米などいわゆる先進国と言われている国でしか普及していませんし、もちろんラテンアメリカでは初めてです。

ぼくらが初めてコスタリカに来たのは2008年の6月のことでした。じつは、もうこのときからこの「自立法」は動き出していました。この法案の原案を考えたロドリゴ・ヒメネスという障害を持った弁護士の方がいて、その時に彼の自宅で法案についてインタビューもしました。振り返ってみると、国連で障害者権利条約(2)が採択されたのが、2006年の12月でした。コスタリカは2008年の10月には批准していますから、おそらくこの訪問時には批准の最終段階にかかっていたのではないかと思います。権利条約の第19条「自立した生活及び地域生活への包容」にはこういう風に書いてあります。

この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。

どうですか?これは、そのままぼくたち自立生活センターがやっている活動そのままなんですが、それがちゃんと国連の条約で決められたんですね。コスタリカが批准するということは、もちろんコスタリカもここにある「締約国」になるわけなので、「効果的かつ適当な措置をと」らないといけないことになるわけです。ということなので、有志の弁護士さんが、じゃあ法案を考えましょうとなったのは、今から考えるとごく自然なことでした。

でも、ぼくらの受け取り方はどこか「ほんとかな〜?」というのが心の中にあってまともに受け取れないところがありました。それは、日本で介助者制度ができるまでどれだけ多くの人が長い時間と労力をかけて達成したのかを知っているからだったと思います。この訪問はこの年の秋に始まるJICAの研修「中米障害者自立生活」の事前調査というのが目的だったのですが、その当時のコスタリカには、このロドリゴさんのように何人かのエリートの障害者の人がいて障害者関連の法律を作ったりしていただけで、実際にそれを活用して町に出て行く障害者はほとんどいなかったのです。もちろん障害者運動というものそのものが存在していなくて、そんな国にこんな法律ができるわけはないじゃないって思っていたんですね。

翌2009年この研修で、今ぼくが働いているモルフォ自立生活センターで事務局長をしているウェンディが来日することになります。帰国して精力的に活動することになるんですが、その一つに「コスタリカ自立生活運動」の組織というのがありました。これは、日本でウェンディが実際に見てきた自立生活運動というものを共有するためのもので、全国的な緩やかなネットワークです。集まりというのがあるわけではなく現実にはFacebookでの情報交換が主で、今でも国を越えて多くの人が参加しています。今後ウェンディは、この組織を背景に自立法の法案作成グループに参加していくようになります。

この同じ年の10月15日「自立法」の最初の法案が国会に提出されました。4人の議員が共同で提出しており、その中のひとりは現在副大統領であるアナ・エレナ・チャコンでした。今でもこの最初のバージョンはかんたんにインターネットで検索すると出てきますが最終的に法律になったものとはまったく別物です。ウェンディが日本で研修しているときにしきりに自立法のことを口にしていたのを今でもよく覚えています。日本ではほとんど相手にされていませんでしたが、ここからすべてが始まったのですね。

(1)自立法 正式には、Ley de promoción de autonomía de las personas con discapaciad「障害者の自立を促進する法律」拙訳がここにあります。

(2)国連障害者の権利条約 日本政府公定訳

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