否定の道・引き算的知識

kaneyama genta
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6 min readOct 11, 2020
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タレブの反脆弱性という本を読んでて面白いな〜と思ったアイデアです。この本における定義は下のようなもの。

否定の道とは

神学や哲学において、「何ではないか」、つまり間接的な定義に着目すること。肯定の道より誤謬に陥りにくいとされる。行動においては、何を避けるべきか、何をすべきでないかのヒントになる。増殖的で予想不能な副作用の存在する領域では、足し算よりも引き算のほうがうまくいく。たとえば、医療においては、患者に喫煙をやめさせるほうが、薬や治療を提供する(干渉する・足し算する)よりも副作用は少ない。

引き算的な知識とは

「〜は間違いである」というタイプの知識は、ほかの知識よりも信頼性が高い。否定の道の応用のひとつ。

例としては以下のようなことを説明するときに使っていた。

『○○ための10のステップ』というタイトルの本が山ほどある。だが、現実には、進化の過程で淘汰されたプロたちが使うのは、否定的な方法だ。チェスのグランドマスターはふつう、負けないことで勝ちを得る。人々は破綻しないことで金持ちになる(特にほかの人が破綻しているとき)。宗教はほとんど禁止事項で成り立っている。何を避けるべきかを学ぶのが人生だ。私たちは、小さな予防策の積み重ねで、個人的な事故のリスクの大半を緩和している。

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スティーブ・ジョブズはこんな言葉を遺している。「誰しも、何かに集中するというのは、集中すべきものにイエスと言うことだと思っている。だが、そうじゃない。残りの100の名案にノーを突きつけることなんだ。慎重に選ばなきゃならない。本当のところ、私は自分のしてきたことと同じくらい、しなかったことにも誇りを持っている。イノベーションとは、1000のアイデアにノーと言うことなのだ」 これも「否定の道」の応用だ。

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(喫煙を単に禁止することがもたらす効果が「治療を加える」よりも効果が大きいという説について)

(医療の)支出を(選択的に)減らして寿命を延ばすというのは、ひとつの引き算戦略だ。説明してきたように、干渉バイアス、「肯定の道」、何かをしたいという欲求が、医原病を引き起こし、今まで話してきたありとあらゆる問題の元凶になる。だが、ここに「否定の道」を取り入れてみよう。何かを取り除くのは、とても強力な(そして経験的により厳密な)行動になりうるのだ。

※()内は引用者が補足した

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(著者のfacebookより)

The entire idea of *via negativa* is that *omission* [avoidance of harm, removal of drugs, corn syrup, cigarettes, gluten, carbs (by fasting), gym instructors, tail risks, etc.] does not have side effects and branching chains of unintended consequences -hence robust. But big corporations [evil pharma, pepsi] and consultants cannot make money from removing; they only benefit from adding.

💬

日本語名はいけてない。ただ日常生活でも「引き算的知識」の堅牢さや「否定の道」の良さを実感することはある。やめるだけで改善の試みよりも大きな達成を得てしまったとか。例えば投資においてエクスポージャーを大きくしすぎないとかもそういう例で単にその状況を避けるだけで破綻が避けられる。

似たことを仕事で上司にアドバイスされたこともあった。

「完全に理解していることしかやるな。やらないほうがマシっていうこともある。」

この時は、コンテンツ評価やマッチングアルゴリズムに対して(半知半解の状態で)あるコンセプトを入れてみたいなあというナイーブな考えを伝えたところ、こう言ってもらった。何かをしたいという欲求(干渉や介入)に基づくことが悪いわけではないのだが、新しい問題を生むときはあって、それがより大きな道のりの始まりになってしまったりする。

上の話とは別の話なのだが、例えばマーケットプレイスの多様性を実現したいとして、最善の多様性とは○○であって〜と言ってあれこれ考えるのもいいが、単純に「同じセラーやブランドで画面が埋まらない」ことこそが多様性だという引き算的知識で表現することもできる。もちろんいつでもそうであるようにもっとシンプルな方法もあるけれども…(参考:Diversity in Search

これまでを思い返して思うのは、(私見では)よくあるのは足し算的な行動計画はポジティブに捉えられやすいということ。わざわざ「干渉主義」とかいうフレームで見ないと疑義を呈しづらい。逆に「否定の道」的な行動計画は「生き残ってきたプロの人」が持っていがちで、そういうコンテキストがあれば説得的だが、ピヨピヨ新人のときは、何かをしたいという欲求が100%になって足し算を提案しがち。結果はともかく引き算的な行動計画は、消極的にみなされる恐れがあるし、全体(完成)を理解していないと引き算はできないからかなと思う。

話を受ける側もジョブスの引用にあるようにノーって1000回言うのはそうしたいと思ってやっていたとしても結構こたえる。そういうわけで否定の道は険しい道になることもある。

実際にアイデアに触れるには「Think clearly」にも否定の道が載ってるのでこっちもしれない。「反脆弱性」はめっちゃ面白い本なのだが、この話は下巻だけ(!)だし、著者のクセが強いので人を選ぶかもしれない。

Think clearlyの方には、他にもバークシャー・ハサウェイのチャーリー・マンガーの「アップサイドに目を向ける前にダウンサイドを避ける事を考える」っていうのは別の言葉でも説明されていて似てると思った。反対から考えるあるいは、additive vs subtractiveっていう風に表現されていて似てる。↓

via https://twitter.com/uiu______/status/1316250751685910528

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