アートとの遭遇

CulNarra! Interns
My Night Cruising 2019
8 min readAug 30, 2019

Written by : まりな

私のアートとの出会いは、中学3年生の頃。

親に連れられ、森美術館10周年記念展 の「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」を観に行った時のことだ。

スーパーで見かけるキャンベルスープ缶。

小学生でも書けるであろう鉛筆の落書き。

壊れたテレビに映し出された映像。

人々はこれらをアートと呼ぶのか。

今までの自分の常識を覆すような作品たちを目の前に、衝撃が走ったのを今でも鮮明に覚えている。それまでの私にとっての「アート」とは、モナリザやピカソ、ゴッホなど、美術の教科書で目にするような絵画だけであった。美術館でガラスケースに大切に飾られている作品のみが、芸術作品だと思っていた。

作品の横に小さく添えられた説明書きを読んで、さらに私の心は揺さぶられた。

一見すると、可愛くポップに描かれた女優マリリンモンローの肖像画。

それらに込められた大量消費社会への風刺というメッセージ。

視覚に飛び込んでくる作品そのものと、作品を通して表現されたアーティストの思い、そしてそのメッセージを感じ、受け取る自分自身。この三者がいてこそ成り立つ「アート」という行為を、初めて面白いと感じたのだ。

今振り返ってみると、この時の衝撃が、私のアートに対する考えを大きく変えた。

今では、旅行に行く時は必ず現地の美術館やギャラリーに足を運ぶことがルーティーンになっている。訪れた先で、新たな作品やアーティストに出会い、その表現やメッセージに対して自分の考えを巡らせるのがとても楽しい。

アートは難しい、と思うかもしれない。

私の周りにも「芸術の世界はよく分からない」とやや敬遠する声も少なくない。

確かにそのような人にとって、美術館にわざわざ足を運ぶ機会はあまり多くないだろう。

この記事では、そんな方々にとっておきのイベント「六本木アートナイト」をご紹介したい。六本木アートナイトとは、街全体を美術館に見立てて、夜を徹してアートを楽しむ一夜限りのアートの祭典である。このアートイベントには、通常の展示とはまた異なった魅力がたくさん詰まっている。

今年で三度目の参加となる私が、

六本木アートナイトの魅力と、その楽しみ方をご紹介したい。

読んでくださる方が、7年前の私のように、アートとの豊かな出会いを感じることができたなら幸いである。

21時から始める、六本木アートナイトの魅力

たくさんのアートに一気に触れられる

六本木アートナイトの魅力は、何と言ってもその展示の多さとバリエーションである。六本木という街を舞台に、美術館の展示だけでなく、パフォーマンスや街中のインスタレーション、映像作品など、約80件にものぼるプログラムが行われている。

アート好きじゃなくても、私たちの五感を楽しませてくれる作品たち。

ふらっと立ち寄っても、必ずどこかしらで何かに出会えるのが魅力だ。

今年度は、大学医学部の一般入試で女子受験者の得点を減点していた問題を元にしたアートパフォーマンスや、ポップアートに着想を得たという、ソウル出身のアーティスト、チェ・ジョンファによる風船を用いた作品、普段の街中に突如現れるリンゴや挟まる人のインスタレーションなど、面白い作品が目白押しだった。

このように、六本木アートナイトでは、様々なアート作品をショーケース的に楽しむことができ、通常の美術展とは一味違った体験ができる。

実は今回のインターンシップの一環で、六本木アートナイトを運営する方々にインタビューをさせていただく機会があった。その時に「六本木アートナイトには、アートで東京の街全体をブランディングするというをビジョンがある」というお言葉があった。

その言葉の通り、六本木アートナイトは、誰でも気軽にアートに触れ、街全体で楽しむことができるフェスやイベント的な役割を持っていると感じる。

スプツニ子!+西澤 知美 「東京減点女子医大」 東京ミッドタウン プラザB1F
チェ・ジョンファ「ライフ・ライフ」東京ミッドタウン
街中インスタレーション

普段とは違った街を楽しめる

六本木といえば、夜の街のイメージが強いだろう。

しかし六本木アートナイトでは、いつもとはまた一味違った六本木の街が楽しめる。

深夜2時に始まるパフォーマンスにあつまる人々、作品を鑑賞した後に芝生でのんびり休憩する親子。観客が一体となって歓声をあげ、街の所々で人々がパンフレットを片手に、次のプログラムを求めて歩き回る姿は、なかなかないだろう。夏祭りをも思い出させる活気で、街中で人間観察をしているだけでも面白い。

六本木アートナイトの関係者の方から、インタビューの際に「六本木アートナイトが、美大生の同窓会的な機能を果たしている」というお話を伺った。確かに私自身も、プログラムを巡っている中で、アート好きな友人と一年ぶりの再会を果たしたり、普段六本木では会わないようなクラスメイトにも遭遇したりした。

アートだけでなく人との出会いもあるのが六本木アートナイトである。

六本木アートナイト2019 六本木交差点の様子 / 「フルーツ・ツリー」/ 芝生に寝転ぶ人々

夜通し楽しめる

今年は21時からという、少し遅い時間からの参戦であった。

しかしアート「ナイト」というだけあり、このイベントの魅力は遅い時間からでも(むしろ遅い時間だからこそ)、楽しめるというところにある。

通常美術館は、夕方に閉まってしまうことが多いが、期間中は特別に深夜まで空いてる。

そのため時間を気にせず、人混みを避けてじっくりと鑑賞ができる。なんと一夜にして3個もの展示をはしごすることができた。アート好きの友人を誘って行くもよし、一人でゆったりと観るのもよし、様々な楽しみ方が可能である。

52階から見える美しい朝焼けは、オールナイトの特権だろう。

展示風景:「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」 東京シティビュー(東京)
nendo × Suntory Museum of Art information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美 サントリー美術館
目《景体》2019年 毒山凡太朗《 君之代―斉唱―》 2019年

森美術館での鑑賞を終えた後、出口に貼ってあるポスターに目が止まった。

なんと、私がアートを好きになったきっかけでもある「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」の当時のポスターだった。

なんだか点と点が線に繋がったような感覚である。

アートの面白さは、作品を観たときだけで完結するものではない。

出会ってから、その後も永遠に続く、一つの物語なのかもしれない。

おまけ

さて、これだけ盛りだくさんの六本木アートナイト。

アートを楽しんでいるうちに、気づけばいい運動にもなっており、一石三鳥だ。

普段アートに触れている人も、そうでない人も、

六本木という土地に馴染みがある人も、初めて訪れる人も、

きっと何かしらの体験を持ち帰ることのできるイベントなのではないだろうか。

来年の六本木アートナイトでは、どのような出会いが待っているだろうか。

新しくはじまる物語に、今からワクワクしている。

まりな。兵庫生まれの兵庫育ち。両親・祖父母ともに生粋の兵庫人。ただ兵庫県といっても、神戸と大阪の間にある西宮で育ったため、神戸にはあまり詳しくない。大学進学を機に上京。港区の大学へ通う。文化人類学やコミュニケーションデザインに関心がある。専攻では政治学、副専攻ではメディア学を学び、外交関係における文化の役割を日々模索している。

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「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト、カルチュラル・コミュニケーター・ワークショップのインターンが、地域の文化について語ります。http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact