NEORTのNIINOMIです。
先日、NEORTから初めてのNFTプロジェクト「NEORT Vessel」を発表しました。
NFTに対していろんな賛否の意見が飛び交っている中、2019年からデジタルアートのプラットフォームを運営してきたNEORTがなぜ今NFTを始めるのか、ちゃんと言葉にしておこうと思ったので本記事を書いています。
NEORTについて
初めに、NEORTについて改めて簡単に書きます。
NEORTは2019年2月にリリースされたデジタルアートのプラットフォームで、映像・画像・コードなど使用技術の垣根を超えた、アートの表現を共有するサービスです。
オタクと呼ぶには芸術的すぎて、芸術家と呼ぶにはオタクすぎる※1人種だった当時の僕にとって、いろんなツールを用いて自分の創作意欲を自由に表現できる場所は見つけることは大変でした。
VimeoやInstagramのような動画や画像のプラットフォームではないし、特定のプログラミング言語に特化した場所でもない、アートの表現で繋がれる世界を実現する場所としてつくったのがNEORTです。
極めて個人的なモチベーションでスタートしています。
そこから会社として運営していく中で、デジタルアートが抱える課題や事業としての難しさを知り、一方でその大きな可能性も感じながら育ててきました。
作品数約7000, ユーザー数約3000という決して大きなサービスではないですが、毎日アクティブに利用してくれるユーザーもいる、僕にとって非常に愛着があり、今もなお情熱をかけてやっているサービスです。
NEORT Vesselについて
先日発表した、NEORTとして初めてのNFTプロジェクトです。
販売するNFT作品の収益を元にNEORTが考えるデジタルアートの課題解決や、理想の世界の構築をコミュニティのメンバーと一緒に実現していきたいと考えています。
このプロジェクトを通じて実現したいと思っている内容は次の3つです。
- NEORTのNFT対応
- デジタルフレームの制作
- リアル・バーチャルギャラリーのオープン
詳細は後程説明しますが、すべては「作品の体験」をより良くする環境をつくることに繋がっていきます。
なぜやるのか?
本プロジェクトを始める一番の理由は、デジタルアートには「作品の体験」が不足しており、その機会を構築する必要があると考えているからです。
NFTによってデジタルアートの認知は高まり、制作活動で収益をあげられるアーティストも増えました。
作品やプロジェクトを通して構築されるコミュニティや、ブロックチェーンに保存する情報を工夫したユニークな作品の見せ方など、自分がこれまで想像していなかったデジタルアートの楽しみ方を発見できたことはNFTに出会って知ることのできた素晴らしいことの一つです。
しかし、肝心の作品の楽しみ方については未だ課題が多く、NFTの登場後も解決されていない点だと感じています。
本プロジェクトを通して、たくさんの人とデジタルアートの体験について考え、一緒に実現していきたいと考えています。
NFTに対する考え
基本的にはポジティブに捉えており、NFTは今後もデジタルアートに必要な技術になると考えています。
大きくは次の3つの点においてです。
これまでのアートの価値観に縛られない可能性がある
いわゆるアートワールドにおけるアート作品の価値は、作品を扱うギャラリーや財力のあるコレクターによって決まるところが大きいと思います。
ごく少数のいわゆる中央集権的な人々によって価値づけがされる世界ですが、NFTを絡めたデジタルアートはそうした価値観とは異なる基準でやりとりがなされているように見えます。
例えば、アートワールドのプレイヤーとしては少なかったイラストレーターや映像クリエイター、プログラマー、小学生に至るまで、インターネットを通じて世界中の人々にリーチして活躍できる可能性が生まれています。
「あんなものはアートではない」という声も聞きますが、アートとは本来そういうものだと思いますし、アートかどうかを決めるのはアーティスト自身ではないかと思います。
2021年の初頭ごろから目に見えて活発になったこうした賛否が今もなお続いていることを考えると、NFTが未来のアートの新しい価値観をつくる可能性を改めて感じますね。
また、TwitterやDiscordなどのコミュニティやDAOに見られるオープンな風潮もとても良いなと感じています。
8月に立ち上がったGenerativemasksでは、プロジェクトの始動後に徐々にコミュニティが形成され、Discord内での活発なやり取りを経て今もなお新たな試みがなされているという興味深い物語を観測させてもらっています。
こういったボトムアップのムーブメントも非常に素敵ですね。
見た目以外の部分で価値をつくりやすい
NFTの価値について、納得できるようになったのはこの辺りの感覚がなんとなくわかるようになってからです。
NFTを介してアクセスできる情報はブロックチェーン上に保存されており、ブロックチェーンが存続する限りはこの先の未来にずっと残るものです(僕は「歴史に刻む」という表現が好きです)。
NFTを発行するプログラムであるスマートコントラクトの実装次第で、このブロックチェーンに刻む情報を工夫することができ※2、作品に反映することができます。
例えば、作品をブロックチェーン上に刻んだ日時をそのまま作品のビジュアルに反映させたり、所有者のウォレットアドレスに応じてビジュアルを生成することも可能です。
1つ例を紹介します。
僕の好きなNFTのデジタルアートにAlexis Andréさんの「720 Minutes」という作品があります。
こちらは時計の機能を持ったインタラクティブ作品なのですが、720個のエディションのそれぞれに1分間 / 12時間の時刻が割り振られており、その時間になると作品の見た目が少し変化するのです(12時間 × 60分 = 720エディション)。
例えば、7:10という時間が割り振られたエディションの所有者にとって、その時間(7:10 ~ 7:11)は少しだけ特別なものとなり、苦手な朝でもちょっとだけ早起きしてみようかななんて思うかもしれません。
見た目だけを見れば時を可視化した作品ですが、各エディションに特定の時間帯を割り振ることで、所有者の1日の中に「特別な1分間」を与える素敵な作品だと思います。
このように、ブロックチェーンに刻む情報に意味を持たせ、作品の表現にうまく組み込むことで、作品に見た目以外の「深み」を持たせることができます。
もちろん先ほどの例に挙げたような表現はNFTじゃなくても技術的に実現可能ですが、デジタルデータに所有という意味を与えられるNFTであるからこそより魅力的に感じるのだと思います。
現代アートで重要とされてきたコンセプトやアート史との接続など、作品の裏側にあるナラティブをより表現しやすくする技術がNFTだと僕は考えます。
表現の自由度が高いデジタルアートだけに、世の中に出回っているデジタルアートの多くは美しさ・カッコよさが前面に出たものですが、今後はコンセプチュアルな作品もたくさん出てくるでしょう。※3
プロトコルになる
httpプロトコルを介してWebサイトにアクセスできるように、NFTの規格が整備されて真のプロトコル(共通規格)になると作品の体験は上がると思います。
自分のウォレットにさえ接続すれば、所有している作品をどこでも見れる・飾れることになります。
リアルの世界のように、どのギャラリーで購入した作品も自分の部屋に飾ったりできるようになると思います。
今はまだメタデータの規格が異なっていたり、2次流通時の還元金の支払い方法も統一されていない状態ですが、この辺りは今後整備されていくでしょう。
以上が僕のNFTに対する意見であり、NEORTでNFTを扱おうと考えている理由です。
NEORT Vesselでやること
NFTプロジェクトとして始めるので、作品をNFTで販売します。
シード値によって作品が生成されるジェネラティブアート作品であり、価格はおそらく1つ0.1ETHになると思います。
初回は1人もしくは数名のアーティストで販売開始し、徐々に参加アーティストを発表。最終的には10,000個まで販売予定です。
ロードマップを通してやること
このプロジェクトを通してやる3つの事柄について説明します。
- NEORTのNFT対応
neort.ioでは、これまでもアーティストは映像、画像、コードで作品を投稿可能でしたが、これらをNFTで販売できるようになり、コレクターは作品をETHで購入できるようになります。
また、NFT購入者がアクセスする作品のストレージはIPFSにし、極力プラットフォームの管理外におくようにします。
もちろん、これまでのようにNFTなしで作品も投稿できます。
「デジタルアートを楽しむ」という点はNEORTが変わらず大事にしていく考えです。
既に開発は進んでおり、遠くない将来に公開できると思います。 - デジタルフレームの制作
デジタルアートの鑑賞体験における課題を解決する製品になります。
ユーザーが所有している作品を飾るだけではなく、新しい作品・アーティストのレコメンドなど、新たな出会いや発見ができる場所になればと思っています。
現在は10インチ程度の小型のデバイスを想定していますが、この辺りはコミュニティの意見も聞きたいと思っています。 - リアル・バーチャルギャラリーのオープン
デジタルアートの高い表現力をフルに体感できるスペースは必要だと思っています。
現時点ではまだ完全バーチャルの空間は不十分だと考えているので、物理空間で作品を展示・販売するギャラリーを検討しています。
単に作品が流れるモニターを壁にかけるだけでなく、アーティストや展示ごとに最適な鑑賞体験ができるよう、見せ方を工夫する予定です。
具体的には、空間の4壁面へのプロジェクションやハードウェアを絡めた見せ方などが考えられますが、こちらもアーティストやコミュニティと意見を出し合いながら作っていけたらと思います。
最後に
繰り返しになりますが、NEORTはNFTがデジタルアートにとって今後も必要な技術として残り、進化していくと考えているので本プロジェクトを始めました。
やるべきことは大きいですが、まだまだ小さなチームなので皆さんの力が必要です。
もしNEORTが考えるビジョンに共感し、デジタルアートをもっと楽しめる世界を一緒に作っていきたいと考える方は是非本プロジェクトに参加していただけると嬉しいです。
Discord: https://discord.gg/qBdrqFuDxu
Twitter: https://twitter.com/neort_io
Website: https://vessel.neort.io/
※1 「デモシーン」についての紹介ブログの中で引用されている表現。
アーティストとエンジニアの中間のような立ち位置と自覚していた自分にとってとても刺さる表現でした。
https://6octaves.blogspot.com/p/demoscene.html
※2 実際にブロックチェーン上に保存されるのはトークンで、そのメタデータが参照する作品URLの指定方法を変えたり、ファイルの中身に情報を埋め込むことで実現します。
※3 もちろん、ストレートに美しい・カッコイイ作品も大好きです。