Reva "A heaven in a wild flower" 展示評

はじめに

WaxOgawa
NEORT.JP
12 min readSep 1, 2022

--

先月の展示評に続き、今月はReva氏(以下、Reva)による展示「A heaven in a wild flower」の概要と、その評をお送りいたします。

(先月の記事はこちらから👇)

展示評

今回の展示では、中国在住のクリプトアーティスト、Reva氏(以下Reva)による個展、「A heaven in a wild flower」を開催している。コードによってリアルタイムで生成される中国文様からインスパイアされた画像が壁面に投影される。本展のタイトルである「A heaven in a wild flower」は、Revaによればイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの引用であり、同時に華厳経の一節である「一花一世界」の引用でもあるという。

To see a World in a Grain of Sand And a Heaven in a Wild Flower,
Hold Infinity in the palm of your hand And Eternity in an hour.

一粒の砂の中に世界を見、一輪の花の中に天国を見る。
手のひらの中に無限を抱き、そして、ひとときで永遠を手に入れる。
(筆者訳)

この展示に合わせて、Revaは次のように語ってくれた。

私の理解では、それは平和でオープンな心の状態です。この世は欠点があっても、生命力に溢れている。花は小さくても、蜜蜂や蝶の楽園です。誰もが花なのです。ただ、私たちはそれを無視したり、観察することを忘れたりすることがあるだけなのです。本作品では、中国の磁器からインスピレーションを得て、青磁や七宝、中国画の色彩を活かして制作しました。また、磁器はchinaとも呼ばれ、中国文化を代表するものです。そこに表現された、花や絡み合う枝。こうした中国の伝統的な美的印象を基調としながら、アルゴリズムによってあらゆる種類の ユニークな「一花一世界」をこの場で生成しています。リアルタイムで会場に咲く、コードによって生成された中国文化の紋様をお楽しみください。

展示の様子.

そこで投影される作品は全て正方形のアスペクト比になっており、多種多様な色・文様パターンの組み合わせによって構成される模様が映し出される。花弁を中心としながら、そこから枝・花弁が生み出されていく。それらはやはり、コードによって指定されていて、会場内ではそのコードもリアルタイムに鑑賞することができる。

正方形、ということ

こうした正方形アスペクトは、今日では私たちにとって近しい視覚情報の形式である。インスタグラムやアイコン、サムネイル、などなどのウィンドウによって区切られたイメージ。正方形アスペクトといえば、モントリオール出身の映画監督・俳優のグザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan)による『Mommy』(2014)が思い出される。ADHDを持つスティーブの心的状況がそのアスペクト比に反映され、ストーリーの起伏に合わせて、正方形アスペクトと長方形アスペクトが変化する。このことについて、ドラン自身は次のように述べている。

「私にとって、正方形は、より謙虚で個人的な形式で、私たちが飛び込んでいく人生に、いますこしふさわしいと思ったのです」

“I know a lot of people are saying, ‘Oh, 1:1, how pretentious,” admits Dolan. “But for me, it seems a more humble and private format, a little more fitting to these lives we’re diving into. Cinemascope [2.35:1] would have been extremely pretentious and incompatible for Mommy. To try to get in that apartment and film these people in that aspect ratio would have been unseemly.”

作家・アーティストは、自身の作品を発表するそのメディウムに、最大限の配慮を払う。「なぜこの形でなければならないか?」

Revaの作品では、正方形に用意されたメディウム(NEORT++という空間に用意された投影面)で、多種多様の花や文様をコードによって生成する。このように、伝統的な中国文様をシノワズリ的にデジタル表現に落とし込むとき、これまでの伝統文化や美術史に対するアーティストの態度、という問題が浮かび上がってきそうだ。

シノワズリ、中国という場所から

本展はRevaが中国在住ということもあり、そして何より、デジタル表現はオンライン上でのコミュニケーションや展示設計とも相性がいいことが合わさり、 NEORT++初の、完全オンラインでの展示企画・インストールとなった。展示のインストールや全体コンセプトの再確認に際してミーティングを行ったとき、Revaは中国の伝統文化やその文様について、自身の将来像を交えながら語ってくれた。これによれば、

・デジタル技術やNFTと伝統的な文化を組み合わせることで、新しい表現領域を開拓していきたい。

・中国の政治状況などや、文化政策に関係することについては言及していないし、それが私の制作に何か影響を及ぼしているわけでもない。

とのことだった。Revaが純粋な視覚表現や、コードによるデジタル表現の探究として(もちろん彼女自身の活動の探究としても)、中国文様を扱う、という姿勢は私にとって新鮮でもあり、興味深いものだった。

彼女は「確かにロックダウンはあったわね」とにこやかに話してくれたが、現状の中国では想像以上に厳しい規制が敷かれているようである。NFTという表現媒体もまた、例外ではない。

中国という場が、NFTをはじめとした表現を規制し、内側に囲い込んでいこうとするなかで、Revaはこの規制を乗り越えながら積極的に国外でも作品を発表しようとしている(もちろん、この展示もその一端である)

既存のシステムを乗り越え、脱中心的に花を描いていく。それはやはり、Revaが当初掲げてくれたテーマにも強く響き合う——「私の理解では、それは平和でオープンな心の状態です」。

さて、西洋美術史から

西洋美術史を参照するならば、Revaの作品は、シノワズリという文脈から観察することもできるだろう。

このシノワズリは、「中国趣味」と訳されることが多いが、「ジャポニズム」も広義では含むことができる概念である。

ゴッホ、「花をつけたアーモンドの枝」1890年
同じくゴッホによる「子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人」1889年

ゴッホの「ルーラン夫人」では特に、その背景に中国的な文様、パターンの繰り返しを認めることができるだろう。

一方で、シノワズリ(ないし、伝統的な文化を扱うこと一般)は、国同士の政治関係や文化の受容、表象の問題と深く絡み合っている。例えば「西洋・非西洋」の強い線引きや、その両者の優劣関係などである。現代では、カルチュラル・アプロプリエーション(文化盗用)という言葉が耳に新しいだろうか。Valentinoのランウェイでは着物の帯がカーペットとして扱われ、物議を醸した。

もちろん、シノワズリ発生当時のアーティスト(クールべやマネ、ゴッホも含む)がどこまで政治状況を勘案していたかは窺い知れないし、むしろ政治状況に影響されずに「美しいものを美しいまま捉える」能力として、アーティストという職業を行使したかもしれない。

文化とNFT

こうした問題を軽く振り返りつつ、Revaの作品やアーティストステートメントを考えると、デジタル表現やNFTにおける伝統文化やその扱い方について、何か新しい光があるようにも思える。伝統的な文化を、デジタルテクノロジーを用いて発展させていく、というRevaの姿勢は、NEORT++の目指すデジタル・アートの立場とも重なるところだ。

Revaが運営するDAOやクリプトアーティストコミュニティでは、脱中心的なコミュニティが指向されている。それは同時に「脱政治」的なものの指向でもあるし、「国家」という枠組みを超越しながら、美学的姿勢を追求することでもある。

今後、VRやNFT、DAOといったさまざまのニューメディアにより、既存のフレームワークはより再構築的になっていくだろう。文化の枠組みも同様である。SNS上では、中国の様子も日本の様子も、第三者により混同されながら拡散されていくこともしばしばだ。こうした混淆な状況の中で、改めて伝統文化を見直すこと。そして、それを脱中心的に扱うために、NFTという表現手法を用いること。こうした新しい光として、Revaの作品を捉えることも可能だろうか。

そして、ミーティングで彼女は過去の作品についても軽く教えてくれた。

彼女の過去作品。

彼女によれば、こうした過去の3DCGアニメーション的な表現を踏まえた上で、今はやはり中国文化と平面的な表現、そしてNFTという新たなメディアの組み合わせ方に、興味が引かれるのだという。そう語る彼女の作品の、一つのターニングポイントとして、「A heaven in a wild flower」を捉えることも可能だろう。

あらゆるところから湧き上がるデジタル表現、それは光の錯綜でもある。全ての位置から発される個々のざわめきや声や色、そうしたものから、次なる光を投影する場所として、NEROT++が機能していけばと思う。

アーティストについて

Reva

アルゴリズム・アーティスト、クリプト・アーティスト、コンピュータ・グラフィックス・エンジニア。中国科学院計算機技術研究所で修士号を取得。映画製作、VR、AR業界でアルゴリズムエンジニアとして6年間勤務。2018年に独学でジェネラティブアートを学び、以降、フリーランスとして、ニューメディア・アートを制作し続ける。

2020年の初めにクリプト・アートの世界に足を踏み入れ、以来、Web3.0の制作と構築に専念している。彼女は、クリプト/・アート互助会コミュニティと、独立したクリプト・アーティストのための分散型組織「WeirDAO」を設立。彼女のジェネラティブ・プロジェクト、「Through the Window」は、2021年にArt Blocksでリリース。

彼女はArt Blocksで作品を発行した最初の中国本土のクリプトアーティストである。彼女の作品はPolyとYongleでオークションにかけられ、Art Basel HK 2022でも展示された。

著者について

waxogawa/小川楽生

キュレーター、アーティスト。2001年、石川県生まれ。慶應義塾大学SFC在学中。東京大学AMSEA:社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業第三期生。茨城県ひたちなか市那珂湊地区芸術祭「みなとメディアミュージアム」代表。展示に「語りうる可能性のすべて(2021)」、「cubed of conjunction(2022)」など。

展示について・NEORT++について

Reva "A heaven in a wild flower"

会期:2022年8月13日~9月4日
会場:NEORT++
住所:東京都中央区日本橋馬喰町2–2–14 まるか3F
開館時間:14:00~19:00
休館日:月、火、祝
観覧料:無料

--

--