バングラデシュの群電化

バングラデシュは、気候変動に対する脆弱性で知られ、長期的な気候リスクインデックスのトップ10にランクインしています[1]。しかし、バングラデシュの革新的な開発アプローチや、世界最大のオフグリッド太陽光発電プログラムを持つ国であるという事実は、それほど知られていません[2]。

オフグリッドソーラー電化は、2003年に5万世帯のパイロットプログラムとしてはじまり、現在ではバングラデシュの2,000万人にクリーンで安価な電力を供給するまでに拡大しました。このプログラムは、健康状態や生活環境を改善し、子どもたちの勉強時間を増やすことで、農村部の家庭に多大な影響を与えました[2]。

バングラデシュのソーラーホームシステム (Photo: Greenpage)

それでも、まだ何百万人もの人々が電気のない生活を送っています。バングラデシュでは、そのような人々が直接電気を利用できず、不利な状況に置かれています。照明の平均レンタル料金は3.50米ドル/kWh、携帯電話の充電は10.50米ドル/kWhと、ほとんどの人にとって手の届かない金額になっています[3]。

その一方で、ソーラーホームシステム(SHS)をもつ人々は、バッテリーが満充電になると、余剰電力を使うことなく、膨大な量の電気を無駄にしています。バングラデシュでは、SHSで発電した電力の30%が無駄になっています。言い換えれば、毎年約10億円分の電力が失われていると推定されています[4]。

当時博士課程に在籍していたセバスチャン・グロー氏は、このミスマッチに気づき、2014年にSOLshareを設立しました。彼のアイデアは、SHSの利用者と非利用者が直接電気をやり取りできるプラットフォームをつくることでした。すでに500万台のSHSが設置され、モバイルマネー市場も確立され、法的枠組みも整備され、人口密度が高く家屋間の距離が短いという、スタートアップにとって素晴らしい初期状況でした。

そこでSOLshareは、バングラデシュにすでにあるインフラを活用し、世界初のピアツーピア型マイクログリッドを開発しました。SOLshareのマイクログリッドは、下記の3点で構成されています。[5]

  • SOLbox:P2P電力取引、スマートグリッド管理、遠隔監視、モバイルマネー決済、データ分析が可能な双方向スマートメーター
  • SOLapp:顧客ポートフォリオ(ユーザー情報、決済)を管理し、ユーザーの行動や電力使用量に応じて更新する
  • SOLweb:SOLboxとSOLappの情報を収集・分析し、システムパラダイムや異常事態を把握する

すべてのSOLboxは、同じSOLboxを持つ他の3つの家(SHSの有無にかかわらず)と接続することができます。接続する家が増え、SOLshareユーザーのメッシュが大きくなればなるほど、システムはより強固なものになります。これは、「群電化(swarm electrification)」とも呼ばれています。

群電化とSOLboxの仕組み (Photo: Groh)

SHSの利用者は、余剰電力を売って収入を得ることも、冷蔵庫やパソコンなどの電化製品を動かすために電気を確保することも、柔軟に選択することができます。また、発電電力量が足りない場合は、他のユーザーから電気を購入することも可能です。

SHSを購入できない、あるいは購入しないことを選択したユーザーも、SOLboxを自宅に設置することで、SHSの数分の一のコストでネットワークに参加することができます。ユーザーは、モバイル決済でSOLboxにクレジットを入れるだけで、必要なときに安価な電気を購入することができます。SOLshareの顧客の40%は、はじめて電気を使う人であり、社会的インパクトはきわめて大きいと言えます[6]。

SOLshareは急速に規模を拡大し、2021年末には100基目の送電網を稼働させ、何千人もの人々が電気にアクセスし、取引できるようになりました。このスタートアップは、5D(Decentralization, Decarbonization, Digitalization, Democratization, Disruption)の原則にもとづいて、さらなる成長を目指しています。

Text by Christian Doedt

Translation by Shota Furuya

参考

[1] Germanwatch (2021), Global Climate Risk Index 2021, Online: https://www.germanwatch.org/sites/default/files/Global%20Climate%20Risk%20Index%202021_2.pdf

[2] World Bank (2021), Bangladesh Solar Home Systems Provide Clean Energy for 20 million People, Online: https://www.worldbank.org/en/news/press-release/2021/04/07/bangladesh-solar-home-systems-provide-clean-energy-for-20-million-people

[3] Groh, Sebastian (2018), Solar Peer-to-Peer Grids: From an Energy Access Model to the Future for Utilities Globally, Online: https://www.asiacleanenergyforum.org/wp-content/uploads/2018/06/Sebastian-Groh-Solar-peer-to-peer-Grids.pdf

[4] Reuters (2020), Bangladeshi solar-sharing start-up aims to cut power waste, Online: https://www.reuters.com/article/us-bangladesh-climatechange-technology-t/bangladeshi-solar-sharing-start-up-aims-to-cut-power-waste-idUSKBN24332L

[5] SOLshare (2022), SOLshare — What we do, Online: https://me-solshare.com/what-we-do/

[6] Ashden (2020), SOLshare / Giving villagers in Bangladesh the power to trade electricity, Online: https://ashden.org/winners/solshare/

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Shota FURUYA
ISEP Next Energy Transformation Micro Research

環境エネルギー政策研究所, 研究員/Institute for Sustainable Energy Policies, Researcher