英国の規制サンドボックスとP2P電力取引
英国では、2020年11月末時点で100万件以上の太陽光発電設備が設置されており、設置容量は13,4GW(2020年11月末時点)となっています。その多くは小規模なもので、全体の92.6%が4kW未満のシステムです。これらのシステムは、英国の太陽光発電の総設置容量の約20%を占めています[1]。
こうした小規模太陽光発電システムの多くは、2010 年 4 月に固定価格買取制度(FIT)が導入された後のブーム期に設置されたものです。しかし、9年後の2019年4月には新規設置分の固定価格買取制度が廃止されたため、多くの潜在的なプロシューマーは、太陽光発電システムから安定した予測可能な収入を得ることができなくなってしまいました。
そのため、これからも人々がエネルギー転換に参加し、取り組みを進めるためには、プロシューマーへの新たなインセンティブと支援が必要となります。同時に、系統の安定性を維持しつつ、増加する変動型の小規模太陽光発電システムを既存の電力市場に統合することは、現在進行中の課題です。
エネルギー分野のデジタル化は、この2つの課題に対して有望な解決策を提供する可能性があります。この進展を可能にするためには、新しいビジネスモデルや革新的なアイデアを持つスタートアップが活動しやすい政策環境を整えることが重要です。
そのため、エネルギー規制当局のOfgem(ガス・電力市場庁)は、斬新なアプローチを試したり、先駆的なビジネスモデルを立ち上げたりしたいイノベーターを支援するために、いわゆる「規制サンドボックス」を導入しています。規制サンドボックスで活動することが承認された企業は、Ofgem からガイダンスを受け、新たな取り組みの導入を妨げる既存の規制要件の緩和が認められる場合があります[2]。
規制サンドボックスの認可を受けたスタートアップの Verv は、2018年4月に英国で初めてブロックチェーン技術を使った電力のピアツーピア(P2P)取引を実現しました。ハックニー(ロンドン)にあるソーシャルハウジングのコミュニティで実証プロジェクトが実施され、平屋の街区14ブロックに太陽光パネルが設置されました。参加した40軒にはスマートハブが設置され、電力のローカル取引や世帯のエネルギー消費量分析が可能になりました。
Vervは、「規制のサンドボックス」を利用して、P2P 自然エネルギー電力取引プラットフォームを導入し、太陽光パネルを設置した世帯は、通常の規制では認められていない余剰電力を直接隣人に売ることができるようになりました。このような隣人間の直接取引により、消費者は平均以下の価格でグリーンな電力を購入でき、プロシューマーは当時の FIT よりも高い価格で余剰電力を売ることができるという、消費者とプロシューマーの Win-Win の状況が生まれました。この実証プロジェクトの結果から、電気料金と二酸化炭素排出量を20%削減できる可能性が示されています[3]。
このような P2P 電力取引は、小規模な太陽光発電システムを持つプロシューマーに魅力的なビジネスモデルを提供することができるため、FIT 制度終了後、その重要性がさらに高まりました。さらに、地域の配電網のなかで電力の生産と消費の距離が縮まるので、上位系統への負担が軽減され、送電ロスも減少させることができます[4]。
これまでのところ、英国では P2P 電力取引を実装しているプロジェクトはわずかです。一方で、「規制サンドボックス」のもとで P2P モデルを用いたマイクログリッドプロジェクトを実施しようとするスタートアップが増えています。
さらに、P2P モデル普及の壁となっている既存の規制を変更しようとする動きも出てきています。例えば、P2P モデルの前提条件である複数の事業者との間での電力の売買を可能にする規制の変更は、現在、評価手続き中となっています[5]。
多くの国が同様の課題に直面しているため、規制が改正され、英国での P2P プロジェクトが増えていくことに期待したいところです。
参考
[1] https://www.gov.uk/government/statistics/solar-photovoltaics-deployment
[2] https://www.ofgem.gov.uk/publications-and-updates/energy-regulation-sandbox-guidance-innovators
[3] https://verv.energy/research
[5] https://www.elexon.co.uk/mod-proposal/p379/
—
Text by Christian Doedt
Translation by Shota Furuya